不動産価格高騰で注目度が高まる中古住宅のこれまでとこれから
不動産価格の上昇が止まらない。国土交通省によると、不動産価格指数(住宅総合)は2024年12月で141.3となっており、基準となる2010年平均の約1.4倍にのぼっている。価格の上昇は2013年頃から始まり、その上昇率はコロナ禍に突入した2020年以降にさらに大きくなった。とりわけ近年は、円安やサプライチェーンの逼迫(ひっぱく)による資材価格の高騰、少子高齢化や“建設業の2024年問題”に起因する人手不足などを背景に工事費が上昇しており、その影響を直接的に受ける新築物件では、販売価格の値上げや一戸当たり面積の縮小、採算を取りやすいエリアに供給が絞られるといった傾向が表れている。
こうした状況を受け、住宅購入にあたり「中古住宅」を選択肢のひとつとして検討している人も少なくないだろう。実際2022年には中古住宅の流通比率が過去最高を記録*1しているが、そもそも中古住宅へのシフトは、昨今の市況を受けた刹那的な結果ではなく、本来「フローからストックへ」「市場重視・ストック重視」といったスローガンを掲げた2006年の住生活基本法施行以降に国が推し進めるはずだった構造転換である。しかし実際のところは、「フローからストックへ」の転換を宣言した後も、国は新築供給を中心に考える住宅政策を維持し続けた。近年の「住生活基本計画」の見直しは、ストック市場倍増の目標がなし崩し的に後退していく歴史であったといえる。
本稿では、2024年9月にLIFULL HOME'S総研より発表された調査研究レポート『STOCK & RENOVATION 2024』のうち、LIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が執筆した『社会背景の整理:住宅政策と住宅市場のこの10 年』の再掲(全4回)によって、中古住宅を取り巻く住宅政策や住宅市場がどう変化してきたかを振り返る。不動産価格の急激な上昇で中古住宅への関心が高まるなか、改めて住宅政策・住宅市場における中古住宅の位置づけを俯瞰的に見ることで、いま購入を検討している中古住宅が、今後の市場においてどのように位置づけられていくのか、大きな流れを掴んでいただき、住宅購入の参考にしていただこうとするものである。
*1 不動産流通経営協会「既存住宅流通量の地域別推計について」より
■LIFULL HOME'S 総研「STOCK&RENOVATION 2024」ダウンロードはこちらから
https://www.homes.co.jp/souken/report/202409/
量的充足が求められた戦後の住宅政策
第二次世界大戦中、空襲や建物疎開によって住宅の数を減らした日本では、終戦後、復員や引き揚げ、疎開からの帰郷により住宅需要が急激に増加し、深刻な住宅不足へと陥った。不足する数は約420万戸と試算され、第一に住宅の「量的充足」が求められた。戦後すぐに応急処置的な住宅政策が実施された後、1950年に住宅金融公庫設立、1951年に公営住宅法制定、1955年には日本住宅公団が設立され、「三本柱」ともいえる政策手法が制度的に確立する。そして「住宅建設十箇年計画」(1955年)が策定され、「一世帯一住宅」「一人一室」などを目標に掲げた量的充足をめざした住宅政策が推し進められることとなる。
その後、1966年には住宅建設計画法が制定される。これは、昭和30年代後半に人口の都市への集中と核家族化がかつてないほど激しく進んだ結果、大都市地域の世帯数が5年間で約27%増加するなどして、「一世帯一住宅」の達成が困難な見通しとなったことを踏まえて制定された法律だ。同年、この法律に基づき5箇年間における住宅の建設目標を明示した「第1期住宅建設五箇年計画」が策定され、住宅難の解消をめざした取り組みが行われていく。住宅建設五箇年計画はその後第8期(2001~2005年度)まで策定されることになるが、1973年時点ですべての都道府県で総住宅数が総世帯数を上回ったことから、1976年度策定の第3期計画から、健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な「最低居住水準*2」と、平均的な世帯が確保することが望ましい「平均居住水準*3」を定めるなど、住宅建設計画法の枠組みを維持しつつも、その役割を、量の確保から質の向上へと移行させていくことになる。
1981年度からの第4期計画では「半数の世帯が平均居住水準を確保する」という目標を掲げるも、1983年の住宅統計調査で達成。1986年度からの第5期計画では「平均居住水準」に替えて「誘導居住水準*4」を設定し、さらにゆとりある住生活の実現をめざしたが、これも2003年に半数の世帯が達成するなど床面積を中心に居住水準は大きく改善した。
当初は住宅の計画的供給による量的充足を目的として始まった住宅建設五箇年計画であったが、社会経済情勢や居住ニーズの変化によって、求められる住宅の質が多様化・高度化していく。そこで1996年には公営住宅の整備に民間住宅の借上げ・買取り方式を導入したり(後述の公庫融資の拡大によって政府の住宅対策費が削られ、財政的に公営住宅を建設できなくなったためという指摘もある[1])、2000年(新築のみ。既存住宅は2002年)には住宅性能表示制度の創設によって住宅供給者に性能競争のインセンティブを働かせたり、徐々に市場機能の活用に向けた制度の充実へとシフトしていくことになる。また、2001年度からの第8期住宅建設五箇年計画では、従来の総住宅建設戸数の見通しと公的資金住宅の建設戸数目標のほかに、増改築件数が加えられるなど、既存ストックの有効活用に向けた方策も取られるようになった。さらに「住宅市場整備行動計画(アクションプログラム)」を策定し、市場が適切に機能するための条件整備を推進することとした。
*2 4人世帯の場合50m2
*3 4人世帯の場合86m2
*4 4人世帯の場合:都市型91m2・一般型123m2
住宅政策から住宅市場へ。フローからストックへ
戦後の資本主義諸国の多くは、ケインズ主義の市場介入政策を展開すると同時に、福祉国家の建設と社会政策の拡大をめざし、その枠組みのなかで住宅政策を発展させたが、1970年代のドルショックやオイルショック以降は経済成長率の低下を受けて、米国や英国をはじめとした多くの国で住宅政策が新自由主義の方向へと転換する。日本でも、住宅金融公庫ならびに日本住宅公団が、設立以来国民の住宅取得に大きな役割を果たしてきたが、経済刺激策として住宅金融公庫による住宅ローン供給を拡大したことで住まいの金融化・商品化が進展。次第に民間セクターがそれらの業務を代替するようになっていく。2001年には住宅金融公庫の廃止が閣議決定されて2007年に独立行政法人住宅金融支援機構が業務を継承。直接融資業務を縮小し、証券化支援を主な業務とした。また、1999年には日本住宅公団の後継である住宅・都市整備公団も都市基盤整備公団に改組された後、2004年からは独立行政法人都市再生機構(UR)となり、従来の自らすべてを行う「フルセット型」から、民間投資を誘発する「バックアップ型」へ転換した。こうして住宅政策三本柱のうち2つが抜本的に見直され、いずれも民間セクターの支援的な立ち位置を担うこととなったのだが、この状況を受け、社会資本整備審議会は8期にわたった住宅建設計画法の下での住宅政策の枠組みを見直す必要性を提示した。
そして2006年、住生活基本法が制定され、40年続いた住宅建設五箇年計画体制から住生活基本計画体制へ転換する。公的資金による新規供給支援を中心とした住宅政策から、国民の多様な居住ニーズに対応できる健全な市場環境の整備と、良質な住宅ストックが将来にわたって有効に活用されるよう誘導していく「市場重視・ストック重視」型の施策への移行をめざしたものだ。住生活基本計画は、計画期間を10年間として策定し、おおむね5年後に見直し、変更を行うこととなっている。2006年度の計画では、「これまでの『住宅を作っては壊す』社会から、『いいものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う』社会へと移行することが重要」として、中古住宅・リフォームに関して、滅失住宅の平均築後年数や、既存住宅の流通シェア、リフォーム実施戸数の住宅ストック戸数に対する割合などが数値目標として設定された。
新築住宅については2009年に長期優良住宅認定制度、2012年に低炭素住宅認定制度が創設されるなど、「将来にわたるストック」の質を上げるためとする施策が講じられたが、既存住宅についても2006年に耐震改修促進税制、2007年にバリアフリー改修促進税制、2008年に省エネ改修促進税制、2010年には既存住宅売買瑕疵保険といった制度が創設されたほか、公営住宅でも2009年に公営住宅等長寿命化計画策定指針が定められるなど、毎年のように新たな制度が生まれ、ストック重視の方針を鮮明化させていくことになる。
中古流通・リフォーム市場規模の倍増に向けて
ストック重視に向けて舵を切っていた2010年、政府は「強い経済」の実現を図るべく「新成長戦略」を発表する。優先的に取り組む21の政策を「国家戦略プロジェクト」と位置付け、2020年までに中古流通市場規模を8兆円に、リフォーム市場規模を12兆円に、それぞれ倍増させるという意欲的な目標を提示したのだ。
この頃、国は日本の全住宅流通量に占める既存住宅の割合を約13.5%(2008年、住宅・土地統計調査および住宅着工統計に基づく国土交通省の資料より)、住宅投資に占めるリフォームの割合を27.9%(2011年)と示し、それぞれ欧米諸国と比較して小さいとしていた(図1)。このような状況を踏まえ、2011年度の住生活基本計画からは、指標に「リフォーム市場の整備」が加えられ、瑕疵担保責任に加入した住宅の全リフォーム実施戸数・棟数に占める割合が数値目標として設定された。また、取引時やリフォーム時における建物検査(インスペクション)と一体となった瑕疵担保責任保険の活用や住宅履歴情報の蓄積を促進するなど、消費者の既存住宅に対する不安解消を図ることで、循環型市場の形成に向けて環境整備を行うことも示された。
翌2012年には住宅金融支援機構が「【フラット35】リフォームパック」を開始する。従来、既存住宅を購入してリフォームを行うときにはそれぞれローンを組む必要があったところを、住宅購入とリフォーム工事をまとめて1つのローンとしたものだ。特にリフォーム部分はそれまでのリフォームローンと比べて返済期間が延び、より無理のない返済計画が可能となった。
2013年からは、既存住宅流通に携わる民間事業者(実物サイド)と金融機関などの金融サイドが、既存住宅市場の活性化や拡大に向け意見交換をする「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」も開催(2015年まで4回にわたって開催)された。ここでは、建物評価の改善や新しい価格査定マニュアルの定着、インスペクションの普及やポータルサイトの検索項目改定、リバースモーゲージの普及や先取特権登記を活用したリフォーム推進、貸主負担によるDIY賃貸などが提言された。
建物評価については、「築後20年から25年程度で一律に市場価値がゼロになる」とされる取引慣行や、「建物部分へのリフォーム投資が評価されることは少ない」という状況を改善し、住宅の性能やリフォームに伴う価値の回復・向上等を的確に反映した評価がなされるよう、2014年に国交省が「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を策定。その指針を反映する形で不動産流通推進センターが「戸建て住宅価格査定マニュアル」を改訂したほか、不動産鑑定評価基準も改正されるなど、既存住宅の評価適正化が図られた。また、同年には、既存住宅の耐震性、省エネルギー性などを一定の基準以上に向上させるリフォーム工事費用に対して国が補助金を交付する長期優良住宅化リフォーム推進事業も始まった。
このように、2011年頃から2014年にかけては、急ピッチで既存住宅流通・リフォーム市場の拡大に向けた政策が実行されていったのである。
■ 参考文献
[1]本間義人、2006「どこへ行く住宅政策:進む市場化、なくなる居住のセーフティネット」東信堂
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次記事では、2014年以降の住宅政策を振り返る。
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