60件以上を自腹で回って見つけた“聖地”
ついこの間まであんなに暑かったのに、今は、指先から肩までどっぷりお湯に漬かって温まりたい季節だ。そんな気持ちに応えるべく、筆者は『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』という本をこのほど上梓した(青幻舎刊)。建築家が設計した温泉・銭湯・スパ・サウナなどの温浴施設を“湯けむり建築”と名付け、53件を厳選。イラストと写真、文章でリポートしている。
本当にお薦めしたいものだけを載せたかったので、すべてアポなしの自腹入浴だ(記事を書いた後に各施設に許可を得た)。60件以上、実際には70件近く回った中から選んだ。いつも本サイトで「愛の名住宅図鑑」を読んでくださっている皆さんへのお礼として、湯けむり建築の“聖地”をお教えしようと思う。
『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』で紹介した53件はなるべく地域がばらけるように配慮した。それでも、どうしても落とせなくて、複数の湯けむり建築を載せることになったエリアがいくつかある。同率1位は「長湯温泉」(大分県)と「加賀温泉郷」(石川県)で、3件ずつ。2位は「熱海」(静岡県)の2件だ。これらのエリアで取り上げた施設は、いずれも日帰り入浴ができる。
今回は、行ったことのある人が少ない気がする「長湯温泉」(大分県竹田市)を紹介したい。JR豊後竹田駅よりタクシーで25分ほどの山間の温泉地。車の運転ができる人は、大分駅からレンタカーで約1時間。博多駅からは約2時間の距離だ。
長湯温泉に行ったら絶対に入るべき日帰り温泉が3つある。つくられた順に紹介しよう。
①童話のような川岸の洋館温泉──温泉療養文化館 御前湯
■温泉療養文化館 御前湯(ごぜんゆ)
[所在地]大分県竹田市直入町長湯7962-1
[交通]豊後竹田駅より車で25分
[日帰り入浴]可
[公式サイト]https://www.gozenyu.com/
[完成時期]昭和初期開業、現施設は1998年完成
[設計]象設計集団
[施工]利根建設
[構造・階数]鉄骨鉄筋コンクリート造、3階
[延べ面積]1138.81m2
炭酸濃度と湧出量の豊富さなどから「世界屈指の炭酸泉」といわれる大分県の長湯温泉。「御前湯」は、直入町(2005年に竹田市と合併)が長湯温泉の新たなシンボルとして1998年に建設した共同浴場だ。設計は「名護市庁舎」などで知られる象設計集団で、富田玲子氏が中心になった。
長湯温泉には江戸時代に岡藩の普請による湯屋がつくられ、昭和初期にはバルコニーのある洋館風の「御前湯」が建てられた。長湯温泉が温泉治療学の先進地であったドイツと交流していたこともあり、平成の御前湯は童話のようなドイツ風3階建てとなった。
大浴場は川面に近い1階と最上階の3階にあり、異なる温度の3つの源泉を楽しめる(1階は47.2℃と29.9℃、3階は48.1℃)。広間の休憩室や喫茶室、マッサージ室、テラスなど、入浴後のリラックススペースも充実。
②プチプチ泡を楽しむ茶室的入浴──ラムネ温泉館
■ラムネ温泉館
[所在地]大分県竹田市直入町大字長湯7676 -2
[交通]豊後竹田駅より車で25分
[日帰り入浴]可
[公式サイト] https://lamune-onsen.co.jp
[完成時期]2005年開業
[設計]藤森照信+入江雅昭(IGA建築計画)
[施工]佐伯建設
[構造・階数]木造+鉄筋コンクリート造、地上2 階
[延べ面積]426.28m2
「ラムネ温泉」の名前の由来は、時代小説「鞍馬天狗」で有名な作家・大佛(おさらぎ)次郎(1897~1973年)だ。大佛が長湯温泉の炭酸泉を体験し、紀行文の中で「手でこすり落としても気泡はあとからあとからくっつく。まるでラムネの湯だね」と表現した。
芹川のほとりで新たに発見された炭酸泉は、湯量は少ないものの、プチプチとラムネのような気泡がつく湯だった。これを活用する施設を2005年に「ラムネ温泉館」として整備すると、建築のユニークさもあり、全国から人を呼ぶ人気施設に。設計を担当したのは建築史家で建築家でもある藤森照信氏だ。
藤森氏は湯量の少なさを逆手にとり、茶室のような浴室を設計した。狭い脱衣所で衣服を脱ぎ、低い入り口をくぐって浴室に入る。浴槽で体を温めた後は、露天風呂で体中が泡になるまでゆったり。ここだけの体験だ。
③光差す天井に浮かぶヒノキ丸太──クアパーク長湯
■クアパーク長湯
[所在地]大分県竹田市直入町長湯3041-1
[交通]JR豊後竹田駅からタクシーで約20分
[日帰り入浴]可
[公式サイト]https://kur-nagayu.co.jp
[完成時期]2019年開業
[設計]坂茂建築設計
[施工]森田建設※(※はクアハウス、以下同)
[構造・階数]鉄骨造・一部木造※、地上2階※
[延べ面積]668.6m2※
湯けむり建築の“激戦区”ともいえる長湯温泉に、2019年に開業した温泉療養複合施設だ。温泉棟、レストラン、宿泊棟で構成される。いずれも建築家の坂茂氏が設計した。
温泉棟は1階が水着で入るバーデゾーンで、2階が男女別の内湯。施設の目玉は、1階屋外に伸びる歩行湯。往復100mの細長い歩行湯は、浅い・深いゾーン、足ツボゾーン、寝湯ゾーンなど変化に富んでおり、途中2カ所の露天風呂からは芹川がよく見える。
坂茂氏らしいのは内湯、丸太のレシプロカル構造にびっくり
建築好きはむしろ内湯だろう。ドーム状の膜屋根を支える木造架構は、ヒノキの丸太を井桁状に組んだレシプロカル構造(もたれ合いの構造)。支えているというより、光の中に浮いているよう。基本の4本ユニットを時計回りに組んだり、反時計回りに組んだりすることで、緩やかな屋根面の起伏をつくり出している。
九州以外から長湯温泉に行く人は、きっとこの辺りで1泊はするだろう。ならば、もう1日はぜひ由布院の温泉街へ。長湯温泉からは車で1時間ほど。由布院駅前にある「由布市ツーリストインフォメーションセンター」(2018年竣工)は坂茂氏の設計だ。他にも著名建築家による施設が多いので、建築好きは絶対に楽しい。
次回は、『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』の中から、加賀温泉郷(石川県)にある3件の施設を紹介する。
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