「ファスト風土化」を食い止め「愛される街」へ

左から札幌マチヅクリ大学のガクチョー池ノ上 真一 氏・ガクブチョー柴田 寿治 氏(提供:札幌マチヅクリ大学)左から札幌マチヅクリ大学のガクチョー池ノ上 真一 氏・ガクブチョー柴田 寿治 氏(提供:札幌マチヅクリ大学)

札幌に「まちづくり」をテーマにした新しい学びの場が誕生した。その名も「札幌マチヅクリ大学」。この“大学”では、札幌市内の複数の大学や民間企業が一体となり、まちづくりに必要な人材を育成するユニークなプロジェクトが展開されている。

設立は2023年。まちの個性を守りながら、次世代のリーダーを育てることを目的に、札幌市の支援「大学と民間企業等との連携による公益的事業の推進補助金交付」を受けて始動した。少子高齢化やグローバル化など社会的な課題に直面する札幌市は、地域の魅力を生かしつつ、再開発による画一的な都市化、いわゆる「ファスト風土化」を防ぎ、愛され続ける街づくりを目指している。

このプロジェクトのユニークな点は、まちの⼈を“キョージュ(教授)”に迎え、大学のゼミ⾵の探究型活動をしていることだ。多様な地域を学び、次世代を支えるというコンセプトは、札幌マチヅクリ大学の学びの核となっている。

そんな札幌マチヅクリ大学の、他者とつながり共に学びあう仕組みはどうつくられ、どう学生の共感を集めたのか? 札幌マチヅクリ大学の”コーホー課長”を務める千葉里美さんに話を聞いた。

札幌の歴史と未来をつなぐ、札幌マチヅクリ大学設立の背景とは?

札幌マチヅクリ大学は、札幌市・創成東エリアの大規模開発による地域の変化を背景に設立された。このエリアは東大通りに隣接し、歴史的にも古い産業やビール醸造の起源などが息づく地域だが、札幌駅周辺の開発が進むにつれ、地域の歴史や愛されるスポットが失われる危機感が高まっていた。

そんな中、地域の文化や人々が大切にしているものを守りつつも持続的なまちづくりを進めることを目的に、北海商科大学を代表校とし、北海学園大学、北海道科学大学、札幌大谷大学、札幌国際大学、北海道教育大学の6つの大学が協力し、札幌マチヅクリ大学が立ち上がった。

千葉さんは「大学は『大人の大学ごっこを本気でやる』というユニークなコンセプトで、学生を巻き込み、地域の未来を形作るプロジェクトを展開しています。また、少子高齢化が進む中、事業継承や地域の活性化にも取り組んでおり、まちづくりの新しい形を模索しています」と“大学”の活動を説明する。


前列の右から2番目の方がコーホー課長の千葉 里美さん(提供:札幌マチヅクリ大学)前列の右から2番目の方がコーホー課長の千葉 里美さん(提供:札幌マチヅクリ大学)

失われる地域の歴史や愛されるスポットとは具体的にどのようなものか。例えば、サッポロビールの赤レンガ建物やその周辺のビール園、ショッピングモールは人々の関心を集めているが、その周辺には、地域の演劇スポットや昔ながらのお茶屋さんなど、小さく温かみのある場所が多く存在する。こうした場所は注目されず、再開発によって失われる危機に直面しているというのだ。

「学生たちがゼミ活動を通じ地域の価値に気づき、『この場所を残すべきだ』という視点を持つことで、地元の人々もその場所の意義を再確認できるかもしれません。そして、こうした活動を通じて地域の文化や地域のお気に入りスポットを守るために協力し、持続的な発展を目指す取り組みが進められています」(千葉さん)

新幹線札幌駅の開業を前に、周辺で大規模開発が進む中で、このように大学や民間企業が一体となって、過去の資源や文化を守りながら未来のまちを創り出していこうとする取り組みは、とても意義深いものではないだろうか。観光名所としては注目されにくいような場所も、地域住民にとっては大切な歴史や文化の一部といえる。学生の参加が、地域の文化を守る新しい動きの原動力となることに期待したい。

学生と大人が共に成長する場、札幌マチヅクリ大学の魅力とは?

札幌マチヅクリ大学での授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)札幌マチヅクリ大学での授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)

では、実際に札幌マチヅクリ大学に参加する学生からはどのような声が挙がっているのだろうか。
「活動に参加することで『楽しい』と感じる学生が多く、大学・アルバイト・家といった普通の大学生活でのコミュニティでは会えないような大人と交流できることが魅力的だと言っています。特に、地域イベントのお手伝いや札幌マチヅクリ大学関係者みんなでのバーベキュー交流会などは、リアルな大学でのサークル活動以上に実りのある体験となっているようです」と千葉さんは明かす。

そして、一度活動に参加すると学生たちは何度も参加したくなる傾向があるという。また、楽しんでいるのは学生だけでなく、大人側も学生との交流を楽しんでいるそうだ。そして、札幌マチヅクリ大学での活動は、楽しさだけでなく、自己効力感の醸成やキャリア形成といった学生自身の成長にもつながっている。
「活動を通じて、学生は”自分が必要とされている”と感じる場面が多く、単なるアルバイトとは違う価値を感じてもらえていると思います。こうした活動は将来の仕事につながる可能性にもなり、まちづくりに関わる人材が育成されることが期待できます。」(千葉さん)

なお、実際に学生がまちづくりに携わる企業へ就職している実績もあるという。通常、地域に根差したまちづくりに関わる会社は就職活動では見つかりにくい。そうした企業の多くは新卒を受け入れていないことが多く、一般的な就職サイトに出てくるのはデベロッパーや大規模企業がほとんどだからだ。

しかし、札幌マチヅクリ大学での活動を通じて、通常の就職活動では出合えないようなまちづくりに携わる企業と出合うことができる。企業側もこうした学生に出会うことで、優れた人材を発掘できる場となっているのだ。

札幌マチヅクリ大学での授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)
札幌マチヅクリ大学での授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)北海寺で親睦をかねたBBQを開催したときの様子(提供:札幌マチヅクリ大学)

学生と地域の未来を共に創る、札幌マチヅクリ大学の挑戦

人流データを使った授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)人流データを使った授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)

札幌マチヅクリ大学では、地域の課題解決と学生の実践的な学びを融合させた活動を目指しているという。具体的には、地域で一生懸命に取り組む個人や団体を“キョージュ”と見立て、その活動を学生が“ゼミ生”としてサポートする形を取り、地域との密接な協力関係を築いている。

「ゼミ活動の枠を超えて学生同士が自由にアイデアを出し合い、予算を確保しながら自主的にプロジェクトを運営する“サークル活動”も行っています。さらには、“交換留学制度”も導入し、他プログラムや他コミュニティの知見を取り入れながら、学生がまちづくりにおいて主体的な役割を果たすことを目指しています」と千葉さん。

加えて札幌マチヅクリ大学では、人の感覚だけに頼らず、スマートフォンから取得される“人流データ”といった科学的根拠に基づくアプローチを重視しているのも特徴的だ。データに基づいた現状分析を通じて、プロジェクトを設計・運営していくことも大学の魅力の一つであり、地域と学生が共に成長する場となっている。

札幌マチヅクリ大学の取り組みは、学生にとって実践的な学びの場であるだけでなく、地域社会の持続的な発展にも寄与している。学生たちは地域の人々との協働を通じて、自らのアイデアを形にし、現実の課題に挑むことで成長していく。

今後、札幌マチヅクリ大学は地域社会と学生の双方が未来を切り開く拠点として、ますます注目を集める存在となるだろう。

人流データを使った授業の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)学生による発表の様子(提供:札幌マチヅクリ大学)