改正された「マンション標準管理規約」とは
マンションの維持・管理や住民が快適で安全に暮らしていくための基本ルールを定めたものが管理規約だ。国土交通省は、そのひな形となる「マンション標準管理規約」を作成している。だが、人々の暮らし方は日々変化するものだ。一昔前までは今ほど電気自動車やネット通販は普及していなかった。また、昨今はマンションの老朽化と住民の高齢化という「2つの老い」も問題視されている。そこで2024年6月7日、社会情勢の変化に対応するためマンション標準管理規約が改正された。
今回のおもな新設ポイントは以下の6つだ。
1.組合員名簿・居住者名簿の作成、更新の仕組み
2.所在等が判明しない区分所有者への対応
3.修繕積立金の変更予定等の見える化
4.総会・理事会資料等の管理に関する図書の保管
5.EV(電気自動車)用充電設備の設置の推進
6.宅配ボックスの設置に係る決議要件の明確化等
それぞれを詳しく見ていこう。
高経年マンションの非居住化や所在の分からない区分所有者への対応
多くのマンションは、完成から40年、50年と経つにしたがい段々と空室が目立つようになる。また、区分所有者が亡くなった後の相続の関係で、現在の区分所有者が分からなくなった住戸も少なくない。このような事態に対応するため、標準管理規約では以下のような内容の事項が新設された。
1.組合員名簿・居住者名簿の作成、更新の仕組み
・組合員は住所等に変更があった場合、直ちにその旨を書面にて届け出なければならない(第31条および同条関係コメント)
・専有部分を第三者に貸与する場合は、当該第三者に関する情報を管理組合に届け出なければならない(第19条および同条関係コメント)
・組合員名簿のほか、設備点検等のために専有部分への立ち入り等を行う際の連絡先を把握するために、賃借人を含む実際にマンションに居住している者の氏名や連絡先等を記載した居住者名簿を作成・保管する(64条の2および同条関係コメント)
・名簿等の更新を行っていない場合でも、年に1回以上は名簿の内容に変更すべき箇所がないかを確認する(64条の2および同条関係コメント)
2.所在等が判明しない区分所有者への対応
・区分所有者の所在等が判明せず管理に支障を及ぼす場合、理事長は理事会の決議を経て区分所有者の所在等を探索することができる(第67条の2および同条関係コメント)
・理事長は、探索に要した費用を違約金として弁護士費用等を加算して、当該区分所有者に請求することができる(第67条の2および同条関係コメント)
マンションの管理情報の見える化を推進
マンションの修繕積立金については、デベロッパーが物件を販売しやすくするために毎月の設定額を不当に安価にしているケースが少なくない。その結果、十数年後の大規模修繕工事の際に費用がまったく足りないといった事態が頻発している。国土交通省が2018年度に行った調査によると、長期修繕計画に対して必要な積立金が「不足している」というマンションの割合は34.8%で、5年前の調査の2倍以上となっている。したがって、以下のような「マンションの管理情報の見える化」は急務だ。
3.修繕積立金の変更予定等の見える化
・毎年の総会において、長期修繕計画上の積立予定額と現時点の額の差や積立金の変更予定等を資料等で説明する(第48条関係コメント)
・マンション売買時の購入予定者に提供する管理情報項目に、長期修繕計画上の修繕積立金の変更予定額と変更予定時期を記載する(コメント別添4)
4.総会・理事会資料等の管理に関する図書の保管
・理事長は、議案書および付随する資料を保管し、組合員または利害関係者の理由を付けた書面による請求があったときは、議案書および付随する資料を閲覧させなければならない。この場合、閲覧の日時、場所等を指定できる(第49条の2および同条関係コメント)
・管理規約を変更した場合、閲覧をする際の利便性等を考慮して変更内容を反映した冊子を作成することが望ましい。(第72条関係コメント)
社会情勢やライフスタイルの変化に応じた対応
前述のように人々の暮らし方は日々変化するものだ。たとえば、一般社団法人日本自動車販売協会連合会のデータを確認すると、電気自動車の登録台数(普通車)は、2021年は2万1,139台だったが、2023年には4万3,991台と倍増している。管理規約には、時代の変化に対応するために下記のような事項が必要になるはずだ。
5.EV(電気自動車)用充電設備の設置の推進
・EV用充電設備を設置する際は、使用上のルールや使用料について駐車場使用細則等に定めることが望ましい。また、設置にかかる費用や設備の運用および維持費を誰がどの程度負担するのかについてあらかじめ総会で決議しておくことが望ましい(第15条関係コメント)
・EV用充電設備の設置工事については、建物の躯体部分への加工が小さい場合などは、普通決議により実施可能と考えられる(第47条関係コメント)
・マンション売買時の購入予定者に対する情報提供項目にEV用充電設備の使用料などを記載する(コメント別添4)
6.宅配ボックスの設置に係る決議要件の明確化
・宅配ボックスの設置工事については、壁や床面に固定するなど共用部分の加工が小さい場合は、普通決議により実施可能と考えられる(第47条関係コメント)
宅配物の「置き配」にも対応
改正された標準管理規約では、その他のポイントとして宅配物の「置き配」についても以下のように触れている。
置き配に関して使用細則を策定する際の参考となるポイント
1.置き配サービスを活用して宅配物を配達させることができる時間帯、宅配物および宅配物を収納・保管するものを置くことが可能な場所等について具体的に定められていること。
2.宅配物等を所定の場所に留め置くことができる期間等について具体的に定められていること。
3.置き配サービスを利用できない宅配物が具体的に定められていること。
4.使用細則に定めるルールに違反する場合の対応について具体的に定められていること。
5.置き配サービスの依頼及び宅配物等の管理に関する責任の所在が定められていること。
6.消防法に基づき、廊下、階段、避難口等に避難上の支障となるような状態での宅配物の放置を禁止していること。
「4」の「ルールに違反する場合の対応」とは、たとえば「管理組合は違反する宅配物を確認した場合は、置き配による宅配サービスを依頼した者へ引き取りまたは是正対応を求めることができ、その求めに応じない場合は宅配物を移動することができる」などだ。
マンション標準管理規約はあくまでも「標準モデル」だ。各マンションが必ずそのとおりに管理規約を作成または変更する必要はない。とはいえ、標準管理規約に準拠していれば法的にも問題はなく、トラブルが発生したときは管理組合を守ってくれるはずだ。しばらく管理規約を変更していないマンションであれば、これを機に見直しを検討してはいかがだろうか。
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