身体に良いもの=環境に良いもの=NE-ST
このところ住宅業界で推進されている、住宅の脱炭素化。これは地球温暖化対策の一つとして、世界中で大きな課題になっていることでもある。住宅を新築し、壊し、処分をするというサイクルの中で発生する多くの炭素が、地球環境を汚染していることがその理由だ。それに伴って、ZEH住宅(※)やスマートハウスなど省エネ住宅の普及も広がっている。
そんな中、省エネ先進県として注目を集めているのが鳥取県だ。2020年に誕生した「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」では、省エネ・脱炭素化を実現しつつ、同時に健康的で快適な暮らしの拡大を目指している。
※ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。消費エネルギーを減らし、つくるエネルギーを増やすことによって、つくるエネルギーが消費エネルギーを上回ることを目指した住宅
鳥取県が独自に定めた、高断熱・高気密住宅の基準が、「とっとり健康省エネ住宅 NE-ST(ネスト)」だ。高断熱・高気密の住宅は省エネであるほか、夏は涼しく冬はあたたかく快適で、健康にも効果がある。鳥取県ではNE-STを満たす家づくりを推奨し、助成制度を設けている。特徴的なのは、国の定める省エネ基準よりも高い「HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)」の基準を参考に定められていることだろう。
「断熱性能、気密性能でT-G1、G2、G3と3段階のレベルを設けています。値が小さいほど良いとされる断熱性能(UA値)で見ると、国の基準の0.87に対し、T-G1でも0.48、T-G3だと0.23と、かなり差があることがわかります。ちなみに、欧米で義務化されているレベルは0.43(米国)。日本の基準がどれだけ低いかかが一目瞭然です」と鳥取県庁生活環境部くらしの安心局 住宅政策課 槇原章二氏は話す。
鳥取県独自基準で目指す、暖かく健康な省エネ住宅
NE-STが誕生した背景には、県内で省エネ住宅の普及に取り組んできた建材流通事業者などが中心となって発足した民間団体の存在がある。この「とっとり健康・省エネ住宅推進協議会」に鳥取県も参加。2019年に実施した勉強会では、住まいと健康の関係を研究している慶應義塾大学の伊香賀俊治教授の講義が行われた。伊香賀教授によると、鳥取県は冬季の死亡増加率割合が全国の都道府県でワースト16位(※2014年時点)。その死因のすべてが、冬のヒートショックによる心疾患や脳血管疾患等とは限らないが、少なくとも家の断熱・気密性能を高めればこのような疾患を防ぎやすくなるという内容だった。
これを受けて、協議会の協力を得て鳥取県は補正予算で本格的に基準検討を進め、2020年1月に基準を策定し、同年7月から基準を満たす住宅の認定と助成をスタートした。
ちなみに、WHO(世界保健機構)は、冬の室温を18℃以上にするよう強く勧告している。また、暖かい家と寒い家では、介護が必要になる人の割合が変わり、健康寿命が4歳延びるという研究結果も出ている(慶應義塾大学理工学部 伊香賀研究室のデータによる)。もちろんNE-ST住宅は高断熱・高気密なので、冷暖房費のランニングコストを低く抑えることができる。
「これまで省エネ住宅といえば、環境の側面のみを伝えるものばかり。NE-STは、健康省エネ住宅とすることで、施主に向けても自分ごととして捉えてもらいやすく、訴求しやすいものになったと思います」と槇原氏は続ける。
地場の工務店が自主的に進めたくなる! NE-STの補助制度
NE-STには技術研修があり、県に登録された事業者が設計・施工を行うことが要件となっている。県は、NE-STの実施に伴い基準説明会を実施。反対意見を覚悟する中、アンケートでは歓迎意見が9割と予想以上に良い結果が出たという。「かなりホッとしましたね(笑)。技術研修についてもほぼ全員が受講に前向きで、かなり後押しとなりました」と槇原氏。今や、事業者登録は県内の住宅供給事業者の8割にのぼる(※2023年12月現在)。
NE-STの補助制度では、最大100万円が施主に支給される。要件を満たせば必ず支給されるので、申請手続きも進みやすい。申請期限が設けられていたり、予算の上限があったりといった補助制度も多い中、NE-STでは十分な予算を設け、年中いつでも申請できるような使いやすい制度となっている。
「工務店が施主へ自主的に提案・PRしてくださるので、普及しやすい。良い流れが生まれています」
2020年7月〜2023年12月の期間で、累計512棟がこの制度を利用。県産木材を利用することが要件となっており、大手ハウスメーカーに押されがちな地域の工務店にとって、NE-STのような高い基準に細やかに対応できることは自社のPRとしても活用しやすい。
「T-HAS」により、NE-ST住宅の不動産価値が図れる仕組みを
鳥取県は、今後の展開も考えている。新築に加えて進めているのが、「改修(Re NE-ST)」だ。これは家全体を断熱する「全面改修」、生活空間に限定した「ゾーン改修」、窓などパーツ的に改修する「国省エネ基準改修」の3つのパターンに助成する制度だ。補助金は最大50〜150万円。NE-STは新築以外にも広がりを見せようとしている。
さらに今後、鳥取県が力を入れて進めていこうとしているのが、とっとり住宅評価システム「T-HAS(ティーハス)」だ。これは立地などを加味せず、建物単体の評価を行う一つの基準だ。従来の一戸建て住宅の不動産査定では、主に原価法が用いられており、法人税務上の耐用年数を参考に、住宅の状態や性能に関わらず築年数と床面積で評価する慣行がある。これを不動産関係者とともに見直し、不動産流通市場の中でNE-ST住宅が資産価値として評価される仕組みを築いていこうとしている。
「T-HASがあれば、所有者や不動産事業者が、住宅の性能を加味した評価額を共有することができるようになります。不動産流通市場の中でNE-ST住宅が資産価値として評価されるようになれば、NE-STの必要性に対する理解がさらに進み、戸建住宅のみならず賃貸住宅にも広がっていくと期待しています」
県営住宅を新築する場合は、2022年からNE-STにする方針だ。また2024年1月には、初のNE-ST賃貸集合住宅も県内に誕生した。「マンションは工事費をオーナーが負担し、光熱費を入居者が負担することから、オーナーとしてはイニシャルコストを抑えたいものです。その中で集合住宅に、どうNE-STを導入していくかは今後の課題ですね」と槇原氏。マクロとミクロの視点から進められている、「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」の勢いはまだまだ止まりそうにない。
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