アジア初の「星空保護区(コミュニティ部門)」認定 岡山県井原市美星町
岡山県南西部に位置する井原市美星町は、古くから「美しい星が見えるまち」として知られている。“晴れの国”岡山らしく、晴天率の高さ、大気の安定、夜空の暗さなどが優れており、天文ファンや天文学者の間で星空観測の好適地として親しまれてきた。
1980年代からは星空を観光資源として生かすようになり、1988年には国から「星空の街・あおぞらの街」に選定され、2021年には、世界の天文学者・環境学者らが中心となった世界最大のNPO団体「ダークスカイ・インターナショナル」により「星空保護区®(コミュニティ部門)」の認定を受けた。星空保護区としては日本では3例目、コミュニティ部門ではアジア初の認定となった。認定証書授与式の様子や関連イベントなどは60を超えるメディアで取り上げられたため、「美星町」の名前を目にした覚えのある人も多いだろう。
星空保護区の認定を受けてから約2年。同認定は地元住民の暮らしや町の活性化にどのような影響を与えているのか。認定取得への歩みに長らく携わってきた井原市観光交流課の藤岡健二さんにお話を伺った。
光害(ひかりがい)とは? 美星町では34年前に光害防止条例を制定
美星町が認定を取得した「星空保護区」は、光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度である。認定を受けるには、屋外照明に関する厳格な基準をクリアすることや、光害に関する地域での教育啓発活動などが必要となる。
そもそもあまり聞きなれない「光害」とは、人工的な光により夜空が過剰に明るくなり、天体観測に弊害が起きたり、生態系への悪影響やエネルギーの浪費など、さまざまな問題が生じることを指す。イタリア光害科学技術研究所によれば、世界人口の3分の1以上、日本では人口の7割の人が、天の川を見ることができないという。特に経済活動が活発な世界の都市部では、新たな環境問題としてその認知が広がっている。
藤岡さん「もともと美星町には、日本初となる光害防止条例がありました。昔から美星町は美しい星空が見える場所として知られていたので、天文関係者からの提案もあって『星空を守ること』を目的とした条例です。美しい星空は、祖先が残してくれた貴重な財産、次の世代に受け継いでいこうというSDGsの考えを、当時から美星町は持ち合わせていたと言えると思います」
条例の制定後は、光害対策型のモデル照明の設置をはじめ、イベントやシンポジウムを通した星空保護の啓発活動などが継続的に行われた。適切な照明で空を暗くしようという動きは、経済発展が著しい当時の社会状況にあって珍しい取り組みであっただろう。
このように星空の保護に力を入れてきた美星町は、国際的な基準である星空保護区の認定にも十分な素地があったと思われるが、日本では沖縄県の西表石垣国立公園、東京都の神津島に続いて3番目の認定となった。2021年の認定に至るまで、その道のりは長かったという。
藤岡さん「2016年頃に認定を目指して動き始めてから、実現に至るまで約5年かかりました。なかなか大変でしたね。というのも、光害防止条例が制定されたのは1989年、34年前のことです。それだけ時間が経つと、徐々に条例そのものが形骸化してきた部分はありました。また、2010年代に町内の防犯灯としてLED灯が普及しました。省エネ観点では望ましいことですが、白色LED、かつ上方への光漏れが生じる防犯灯は、必要な照明器具の基準を満たしていなかったのです。町内で計389基の防犯灯の交換が必要でした」
星空を守るため、町内だけでなく市内外からの支援が後押しに
星空保護区認定に向けて活動する中で、美星町ならではと感じたのは、同時期に地元住民からも「照明のLED化によって町全体が明るくなり、星が見えにくくなっている」という危機感にも似た声が出ていたという点だ。星空を守ろうという保護意識が、町に根づいていることがうかがえる。その意識は、照明器具交換に係る費用の捻出にも大きな原動力となった。
藤岡さん「財源の確保は課題でしたが、美星町観光協会が呼びかけてクラウドファンディングを実施したところ、目標金額2,000千円に対し、約3倍の5,922千円の資金が集まりました。これには私たちも驚きましたね。出資者の内訳は、美星町内が4割、井原市内が2割、市外からが4割です。美星町民以外からの出資が半分以上あったというのは、美星町が昔から『星の郷』というブランド認知を獲得できていたからこそだと思います」
また、民間企業からの協力もあったそうだ。認定を受けるには、前述した屋外照明の基準をクリアする必要がある。具体的には上部への光漏れがないこと(上方光束ゼロ)、色温度を電球色にすること(3000K以下)が挙げられるが、美星町の取り組みに賛同したパナソニック株式会社が、この条件に合致しながら必要な明るさと住民の安全性も確保できる照明器具を開発したという。井原市とパナソニック社とが共同でプレス発表を行うなど、メディアでも広く取り上げられ、新たな環境問題への対策として公民連携での取り組みとなった。
星空保護区の認定は美星町民にとって「地域の誇り」
こうした一連の取り組みが評価され、美星町は2021年にアジア初となる星空保護区(コミュニティ部門)の認定を取得した。コミュニティ部門の対象は自治体単位で、屋外照明の使用に関する条例の施行、光害についての活発な教育啓発活動、地域住民の夜空保護への支援など、周辺地域の模範となる優れた取り組みが評価対象となる。まさに美星町の取り組み全体が評価された形である。
星空保護区の認定を受けたことで、町にどのような変化があったのか。
藤岡さん「認定を受けた翌春に町民へのアンケートを行いましたが、『星空保護区認定を町民として誇らしく感じますか?』という設問に、約8割の人が『誇りに感じる』と回答していました。認定を通して、町民が地元への愛着を感じたり、町の品格が上がったと感じていただけたのであれば喜ばしいことです。また、すべての防犯灯が温かみのある優しい光に代わったことで『雰囲気がよくなった』という回答も4割近くありました。県外から来た方からもそのような声をいただくことが増えましたね」
地域の知名度が上がったことで観光にも大きな影響があったという。鉄道会社や旅行会社などと連携し「星空観光」としてパッケージ商品を生み出したり、市有ペンションを活用したワーケーション事業にも力を入れている。日本航空株式会社との共創による地元食材をふんだんに使った「星降るレストラン」なども、美星町ならではのコンテンツとして人気が出そうだ。地縁のなかった大勢の人が美星町に足を運び、関係人口が生まれているといい、認定後に移住した人がお店を開いた事例もあるそうだ。
地方の共通課題となるが、美星町も地域全体の人口減少が止まらない現状はある。認定の取得により好意的な認知が広がる中で、関係人口からいかに移住検討層・定住層を増やしていくか、観光から一歩進んだ軸として模索していきたいという。
認定地域間の連携を強化し、光害対策・星空保護の意識を広げていく
夜間でも煌々と明るい都市部の街明かりが、かつては経済発展の象徴とされた時代もあった。もちろん美しい夜景の一つではあるのだが、潮目は変わりつつあるかもしれない。2023年10月時点で、日本では美星町を含めて4ヶ所、世界では211ヶ所もの地域が星空保護区に認定されている。単に星空が美しいだけでなく、自然の夜空を人の手で守るため、光害という新たな環境問題に地域をあげて取り組む人々が増えているのだ。
日本の各地でも認定取得に向けた動きが広がっているという。
藤岡さん「最近は全国の4つの認定地と連携した取り組みに挑戦しています。沖縄県の西表石垣国立公園、東京都の神津島、福井県大野市の南六呂師と、美星町ですね。共同パネル展を実施したり、共同パンフレットやノベルティを制作したりと、スケールメリットを生かした取り組みを地域横断でいろいろ進めています。これからさらに認定を検討する地域は増えそうですから、それらの地域とも連携してきたいですね」
SDGsの観点からも、日本でも光害自体や必要な光害対策の認知が少しずつ広がっていくだろう。美星町の取り組みや、国内の星空保護区認定の動向に今後も注目したい。
参考:一般社団法人 星空保護推進機構 https://hoshizorahogoku.org/
※「星空保護区®」は一般社団法人星空保護推進機構(DPA)の登録商標
取材協力:岡山県井原市 観光交流課
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