期待されるMy City Reportの活用
本サイトでも以前に紹介しているが、日本全国では、老朽化したインフラの整備が課題となっている。特に小さな自治体では、財源や人的資源の制約が大きく、早期または緊急に措置が必要な老朽化インフラが未整備のまま多く存在している。老朽化したインフラを整備するには、まずは定期点検によってインフラをチェックしていかなければならない。しかしながら、インフラのパトロールには多くの時間と人手が必要であり、人的資源が乏しい自治体では対応が難しい。
このような状況を打破する可能性があるICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)として、My City Reportがある。My City Reportとは、スマートフォンのカメラと位置情報を利用して市民が発見した道路や河川、公園等のインフラの損傷や不具合を投稿できるシステムのことである。道路が傷んでいる、公園の遊具が壊れているといった全国のさまざまな地域で発生している街の課題を市民が自治体にレポートすることでこれらの課題を共有し、合理的、効率的に解決することを目指すシステムだ。
市民がインフラの損傷状態を自治体に伝えてくれるため、インフラ損傷の早期発見が可能であり、また、自治体も点検コストを削減できるというメリットがある。一方で、市民もスマートフォンを使って気軽に自治体へ不具合を報告できるメリットもある。例えば、市役所が休みの日曜日でも不具合を発見すればすぐに投稿ができるため、伝達機会も喪失しにくい。
加えてMy City Reportは、単に市民が不具合を投稿できるシステムではない。学習機能を有しており、道路の不具合に関しては自ら検出できる機能を持っているのだ。My City Reportは自治体向けのサービスであり、2019年4月1日よりサービス提供のためのコンソーシアム(共通の目的を持つ複数の組織が協力するために結成する共同体)が立ち上げられている。
前身モデルは「ちばレポ」
My City Reportには、ベースとなっていた前身モデルが存在する。前身モデルとなっていたのは千葉市が2014年から導入していた「ちばレポ」というシステムだ。ちばレポは、市民が公共インフラの不具合を位置情報や写真、動画で報告できるスマートフォンのアプリだ。
当時、千葉市がちばレポを導入した理由としては、緊縮財政等で土木関係職員数を削減しており、老朽化したインフラを限られた人数で維持管理・更新することが課題となっていたためである。また、せっかく市によって改善された公共インフラも、市民の関心度が低いことから成果を認識してもらいにくかったという事情もあったようだ。ちばレポが優れていた点は、単に不具合を市に報告して修繕を依頼できただけでなく、サポーター制度を設けて市民が解決した事実も報告できるシステムにしたことだ。
例えば、落ち葉やごみに関しては、市民が「こんなにごみが散乱している」という状態を一度アップし、「私がこんなに綺麗にしました」と結果を伝えることもできる。SNSのように自分の活動を周囲に伝えることがきたことから、自ら社会の課題を解決する人も増えていった。ちばレポは、市民が能動的に参加できる仕組みがあったことから、歩道の段差や集水桝の詰まり、公園のベンチの破損、カーブミラーの錆、公園の落書き、歩道橋の横断幕の剥がれ等、さまざまな情報が市民から寄せられた。
また、ちばレポは千葉市の業務効率化にも大きく貢献している。ちばレポの導入前の千葉市では、年間約1万3,000件にのぼる市民からの情報がFAXや電話で受け付けられ、Excelや紙によって散逸された状態で管理されていた。ちばレポを導入したことで情報の受付ルートが一本化され、散逸していたデータも一元管理できるようになった。さらに、ちばレポの市民からの報告データが写真情報や位置情報とも結びついているため、作業員が現場に向かいやすくなったというメリットも生じている。
2016年からはじまったMy City Reportへの全国展開
2014年から運用されてきたちばレポは、その後、2016年にはさらに発展したシステムとして全国展開できないかという試みが動き始めた。それが「次世代ちばレポ」として誕生したMy City Reportだ。
My City Reportは、2016年から2019年にかけて東京大学や千葉市、室蘭市、足立区、墨田区、沼津市等が参加して実証実験が推進された。東京大学は、東京大学生産技術研空所の人間都市情報学の研究室が実証実験に参画している。
My City Reportがちばレポと大きく異なる点は、AI(人工知能)機能を搭載して道路の損傷状況を学習し、自動で道路の損傷部分を予測する機能を付けたことだ。ちばレポでは、市民から報告された情報は道路の損傷情報が最も多かった。すべての情報の中で道路の損傷情報が71.7%も占め、提供頻度も1日あたり3.4件という実績があった。道路の損傷情報は、相応の情報量があり、AIに学習させることができるのではないかという期待感があった。
そこで、最初に千葉市に蓄積されていたデータによって、学習が開始された。千葉市の1,514枚の教師データ(機械学習に利用するデータ)を使ってAIが道路の損傷部分を予測した結果は、正解率が78.15%、真陽性率が22.41%となった。正解率とは損傷と判定した画像中に実際に損傷がある割合のことを指し、真陽性率とは実際の損傷を正しく見つけた割合のことを指す。
その後、他の自治体の情報も教師データに加えていき、最終的には正解率が94.31%、真陽性率が89.09%まで大きく向上している。My City ReportはAIによる学習機能を加えたことで、単に市民から情報を得るだけでなく、自ら道路の損傷を探し出すことができるようになったのだ。
My City Reportの自治体への普及が加速
実証実験が成果を上げたことで、2019年4月にはMy City Reportを広く他の自治体へ普及させていくためのコンソーシアムが立ち上げられた。コンソーシアム立ち上げ時の2019年には千葉市や大津市、加賀市がMy City Reportを導入している。
その後、和歌山県や兵庫県尼崎市等が加わり、2021年度には神奈川県、2022年度には東京都も導入している。導入数は増え続けており、2022年度時点では、1都2県5区18市町村まで広がっている状況だ。
東京都は対象範囲を拡大
東京都では2023年6月23日からMy City Reportで都民から報告できる不具合の範囲を道路だけではなく公園と河川にも広げている。不具合を報告できる対象となっているのは、以下の都立公園と墨田川だ。
【対象の都立公園】
上野恩賜公園、東白鬚公園、木場公園、砧公園、駒沢オリンピック公園、代々木公園、善福寺川緑地、和田堀公園、汐入公園、城北中央公園、光が丘公園、舎人公園、水元公園、篠崎公園、葛西臨海公園、井の頭恩賜公園、武蔵野中央公園、府中の森公園、武蔵野の森公園、小金井公園、東村山中央公園、東大和南公園、秋留台公園
【対象の河川】
墨田川
東京都民は人口が多いため、皆が積極的に使っていくと教師データが多く集まるようなる。都民の力によって、今後はMy City Reportが公園や河川の不具合を自動で検知できるようになるかもしれない。対象の都立公園や隅田川沿いにお住まいの人は、ぜひMy City Reportを使っていただきたい。
My City Reportの効果
My City Reportは、インフラ整備の在り方を大きく変える可能性がある。近い将来には、My City Reportが自動でさまざまなインフラの不具合を検知していく時代が来るかもしれない。My City Reportが自動で不具合を検知してくれれば、自治体の人手不足を補うことができ、またインフラの不具合の早期発見も実現しやすくなる。
My City Reportがさまざまなインフラの不具合を自動で検知できるようにするには、豊富で適切な教師データが必要だ。それには、市民一人ひとりの力が必要となる。
ちばレポ時代に市民から集まった情報は、道路が71.7%、公園が17.6%、ゴミが4.0%、その他が6.7%であった。集まる情報には偏りがあるため、例えば今後、My City Reportに公園の不具合を自動検出させる機能を持たせるには公園の情報がもっと必要となる。時間はかかるかもしれないが、全国の人が協力すれば、そう遠くない将来にMy City Reportが道路以外の不具合を自動検出できる日が来るかもしれない。
My City Reportには、これからさまざまな教師データで学習してもらい、将来的にはトンネルや橋といったインフラの損傷も見つけられるような機能も獲得できることを期待したい。
My City Report
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