延伸によって高まる箕面市東部の利便性
大阪府北部の箕面市は、市西部にある阪急箕面線箕面駅を中心に発展してきた。市役所や商業施設が徒歩圏にまとまり、その周辺に住宅地が広がる生活に便利な環境だ。駅からすぐの箕面公園は箕面大滝と紅葉で知られ、周辺は「明治の森箕面国定公園」の一角に位置する。京阪神の各地からすぐに行ける観光スポットとして古くから有名で、箕面駅からはハイキングコースも整備され、紅葉シーズンなどは大いににぎわっている。
一方、箕面市東部地域は山手を中心に閑静な住宅地が広がるも鉄道アクセスがなく、これまでバス便が中心で、大阪方面へは北大阪急行千里中央駅(豊中市)や阪急千里線北千里駅(吹田市)が利用されていた。
箕面市では、西部地域に比べて遅れている東部地域の鉄道アクセスを改善し市域全体の発展につなげるため、早くから都市計画の一環として北大阪急行の路線延伸による新駅開業を鉄道事業者や大阪府、国に要望してきた。
そして2023年度末、北大阪急行が延伸して箕面市の船場地区と萱野地区に新駅が誕生する。この延伸は、バランスの取れた市域全体の発展のため箕面市にとっては悲願ともいえた。北大阪急行の延伸で箕面市はどう変わるのか。新駅周辺の計画とともに紹介する。
Osaka Metro御堂筋線と相互乗り入れする北大阪急行とは
御堂筋は大阪市内の中心を南北に走る道路で、その地下にはOsaka Metro御堂筋線が通る。難波駅、心斎橋駅、本町駅、淀屋橋駅、梅田駅、そして新大阪駅へとつながる御堂筋線は、大阪のキタとミナミの2大繁華街とその間のオフィス街を貫き、全国でもトップクラスの乗降客数を誇る大阪の大動脈である。大阪市営だった地下鉄は2018年に民営化され、現在は大阪市高速電気軌道株式会社がOsaka Metroとして運営している。
なお、御堂筋線の最北駅は大阪市域を出た江坂駅で、それより北側は北⼤阪急⾏が運営する。北大阪急行の現在の終点は千里中央駅。相互乗り入れをしているため、江坂駅で乗り換えることなく大阪市中心部から千里中央駅まで行くことができる。
北大阪急行は吹田市で1970年に開催された国際的な博覧会のために設立された会社だ。博覧会の観客を会場へ運ぶメインの輸送手段として、地下鉄御堂筋線から延伸する形で江坂駅以北が造られた。博覧会開催中は会場線と呼ばれる路線に万国博中央口駅が設けられ、半年間の開業期間中だけで、約2,700万人もの乗客を運んだとされる。建設費を博覧会期間で償還したため、以後日本一運賃が安い私鉄といわれた時期があった。役目を終えた会場線は博覧会閉幕の翌日に廃止され、同日から千里中央駅がその始発・終着駅となった。それ以降長きにわたり、Osaka Metro御堂筋線・北大阪急行の上り電車は、先頭に終着駅を示す「千里中央」の文字を表示させて走ってきた。それは、優良な郊外住宅地、千里・北摂地域のアピールにもなっていた。
繊維の船場の復活へ。「箕面船場阪大前」駅が新設
2023年度末に延伸されるのは千里中央駅から箕面萱野駅までの約2.5kmで、新たに「箕面船場阪大前」駅と「箕面萱野」駅の2駅が誕生する。千里中央駅から北に向かい最初に停まる駅は、「箕面船場阪大前」駅になる。延伸決定により、箕面市はこの周辺を市の新しい中心とするべくまちづくりを進めてきた。新駅東側に広がる箕面市立船場広場には、2021年4月に大阪大学箕面キャンパスが移転したほか、箕面市立文化芸能劇場、箕面市立船場図書館、箕面市立生涯学習センターなどの施設がメインデッキでつながる。文化芸能劇場の大ホールは箕面大滝をイメージしてデザインされており、色鮮やかな座席は、まるで紅葉を見るようだ。箕面市の木はイロハモミジだし、観光名所・箕面大滝ではもみじの天ぷらも有名で、もみじは箕面市民になじみが深い。船場図書館は大阪大学が指定管理者となり運営し、約71万冊を蔵書する。
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ところで船場といえば船場センタービルなど大阪市内を思い浮かべる人が多いと思うが、実は箕面市にも船場があるのだ。繊維の町として発展した大阪市中心部の船場は、高度経済成長期には道路渋滞や倉庫の不足などが起きるほどになり、その緩和のために繊維卸商を地名ごと集団移転させたのが箕面市の船場だ。
1969年、国際博覧会の開催を前に御堂筋から続く新御堂筋が開通し、アクセスの良さからマンションなどの住宅開発も進んだ。今回新設される駅は、この大阪船場繊維卸商団地の至近にできる。周辺の住宅とともに、かつてのようなにぎわいがなくなっていた繊維街も、活気を取り戻すきっかけになるのではと期待されている。
箕面市の東西交通の中心にもなる「箕面萱野」駅
今回の延伸事業により、新たな始発・終着駅となるのが「箕面萱野」駅だ。周辺は商業施設の多い地域でもあり、新駅も「みのおキューズモール」の南側に誕生する。イオンスタイル箕面をはじめ、ファッションや雑貨、映画館や飲食店などが入るこの複合商業施設は、週末だけでなく平日の買い物にも便利に利用されている。
新駅には駅前広場が整備されバスターミナルができる。箕面市東部に広がる住宅地の住民はバス利用者が多く、バスで北大阪急行千里中央駅、もしくは阪急千里線北千里駅へ向かい、そこから大阪市内へ出かけていくのがこれまでの主流だった。商業施設至近の箕面萱野駅前にバスターミナルができることで、一部のニーズを取り込むことも期待できる。
新駅とバスターミナルが利用できるようになると、これまでと比べて大阪市内まで大幅な時間短縮となる人も増え、市東部の住民の交通利便性は大きく向上する。また周辺の交通渋滞の緩和も期待できるとされる。
併せて、バス路線の見直しも進められている。箕面市内はその東西を行き来する交通網が弱かったが、新駅を中心に市内東西方向の往来を活性化させたいとしている。大阪・北摂地域は居住地として人気が高いエリアで、なかでも箕面市は子育て政策にも力を入れており、子育てしやすい街として人気だ。しかし交通の便がネックになるケースもあった。
北大阪急行の延伸により、大阪市内へのアクセス向上や交通渋滞の緩和が期待されるとなると、住宅地としての魅力が改めて注目されることだろう。
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悲願の延伸で、箕面市が見積もる経済効果は3,227億円
箕面市の発展を支える交通インフラとなる北大阪急行の延伸と新駅開業は、1968年に策定された箕面市総合計画(第一次総合計画)に掲げられてから半世紀にわたる箕面市の念願であった。しかし、都市計画に盛り込み行政がその未来を描いたとしても、実現には市民の機運の醸成が不可欠だ。箕面市では、北大阪急行線延伸推進会議を設け、市民・関係団体等と連携した取組みを行ってきた。また、開業へ向けて市民の開業祝賀イベントの内容などを盛り込んだうえで、2023年4月に「北大阪急行延伸線開業に向けた機運醸成アクションプラン」を制定している。アクションプランの中身は、ポスターや横断幕の掲示、統一PRロゴによる周知、北大阪急行と連携した見学会やイベントの実施など。いずれも市民を巻き込んでの盛り上がりを狙っている。
箕面市では、延伸開業当初の経済効果として、総額3,227億円を見込む。ここには1日約4万5,000人の乗降のほか、人口流入、事業所の増加、買い物客の流入による商業施設の売り上げ増加や、周辺住宅地の地価上昇効果903.2億円も含まれる。
高齢化に伴い、鉄道アクセスの利便性が、住宅地の資産価値の大きなウエイトを占めることになるだろう。箕面市が弾く経済効果は数字にすぎない。しかし、北摂地域の発展と大阪市内で「千里中央」の行先を掲げた電車の疾走はリンクしていた。これに代わる「箕面」の2文字は、かつての千里中央に並ぶ輝きを得ることになるのだろうか。
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