デジタルの力でどこでも誰もが快適に暮らせる社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」
皆さんは『デジ田』という言葉をご存じだろうか?
正式名称は「デジタル田園都市国家構想」。岸田内閣肝いりの地方創生政策のひとつで、2021年11月から取組みがスタートした。「デジタルの力で地方の個性を活かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図り、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す」ことを命題に掲げている。
このデジ田への取組みが採択された自治体には、単年度ごとに国からの交付金が支払われることになるが、令和5年度予算の本件概算要求は1200億円。自治体が取り組む内容によってタイプが分類され、ひとつの取組みに対し1億円(補助率2分の1)~6億円(補助率3分の2)が交付される。なお、3つのタイプは取組難易度の低い順から以下の通りとなっている。
■デジタル田園都市国家構想3つのタイプ
【TYPE1】
他の地域等で既に確立されている優良なモデル・サービスを活用して迅速に横展開する取組み
【TYPE2】
オープンなデータ連携基盤を活用し、複数のサービス実装を伴う、モデルケースとなり得る取組み
【TYPE3】
新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓に資する取組み(TYPE2の要件を満たすこと)
TYPE2・3については27都道府県の取組が採択された。中でもいま注目を集めているのが、三重県多気町(たきちょう)を幹事自治体として5町合同で取組む『三重広域連携モデル』だ。
※参考
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/10acd848-153a-4225-b4dd-d91c45e20912/0eb066b3/20221005_policies_digital_garden_city_nation_outline_01.pdf
大型商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」の誘致をきっかけにデジタル化へ舵をきった三重県の5町
「私ども多気町と、近接する大台町、明和町、度会町、紀北町の5町は、デジタル田園都市国家構想推進交付金のTYPE2で、三重広域連携モデルとして採択されました。
きっかけとなったのは、地方創生プロジェクトの一環として大型商業リゾート施設の『VISON』が多気町に誘致されたこと。もともと多気町はシティというよりビレッジという表現が相応しい人口1万4000人の小さな田舎町でしたが、VISONさん側から“この機会に内閣府のスーパーシティ構想に参画してみては?”との提案を頂いたのです」(以下、「」内は三井さん談)
スーパーシティ構想というのは、国家戦略特区制度を活用し様々な規制を緩和しながら未来社会を先⾏実現する取り組みだ。デジ田と重複する点も多いが、内閣府では「スーパーシティ構想=幅広い分野でDXを進める未来社会志向の取組」「デジタル田園都市構想=人口減少など地方の課題に焦点を当て課題解決を図ることを重視する取組」と両者を定義づけている。
「当初はVISONのエリア内だけをスーパーシティにしようと考えていましたが、内閣府側から“せっかく大型集客施設ができたのだから、もっと地域を広げてデジタル田園都市構想に取り組んでみては?”とのアドバイスがあり、多気町だけでなく近隣町とも連携することになりました」
人口減少や一次産業衰退など多くの課題を抱える三重県南部地域
実は、5町連携の背景には三重県特有の南北問題があった。三重県域は南北に細長く広がっているが、中京圏に近い北部地域は四日市や桑名などの産業拠点が集まり、名古屋のベッドタウン的な役割を担っているため人口も多い。
しかし、松阪以南の南部地域では、人口減少や一次産業の衰退など多くの課題を抱えており、同じ県内でありながら南北の地域格差が存在するという。
「南の若者たちは北を目指して流出してしまうので、高齢者しか残りません。多気町はちょうど三重県のど真ん中にあり、三重県中南勢地域に位置していますが、町長としては“多気町を中心に南勢地域をもっと活性化したい”という想いがありました。そこで、松阪以南にある16の自治体すべてに町長自ら訪問し、当初はスーパーシティ構想への参画を呼び掛けていったのです。
各自治体ごとの事情があるためすべての自治体の参画は叶いませんでしたが、最終的に合意した5町の連携が決定。途中スーパーシティからデジ田への路線変更もあり、採択までの調整には約3年を費やしました」
システム構築に約1年を費やし、遂に地域通貨・地域&観光ポータルがサービスイン
デジ田採択初年度となった2022年は「共通地域ポータル・デジタル地域通貨・観光メタバースポータル」のシステム構築に注力し、遂に2023年1月からデジタル地域通貨『美村PAY(びそんペイ)』の運用を開始。
2023年2月には共通地域ポータルサイト『美村』、広域観光ポータルサイト『美村Travel』がサービスインする運びとなった。しかし連携が故の課題もある。
「やはり5町それぞれに想いが違っている点もありますので、各町の合意をとりながら調整していく作業はなかなか大変でしたね(笑)。
また、南勢地域では住民の方や商店主の方の高齢化が進んでいるため、そもそもポータルサイトや地域通貨が“どんなものか?”をイメージしていただくことが難しい…クレジットカードすら導入していない店舗も多い中で、地域通貨に対する理解を求めることは想像以上に困難でした。
この“説明不足”については幹事自治体としての反省点であり、今後デジ田構想を推進していく上で、最も丁寧に取り組まなくてはいけない課題だと考えています」
なお、『美村PAY』に関しては5町のうち4町が導入。多気町のVISONのほか、大型スーパーや飲食店を中心に64店舗が加盟しており、スマホがあれば誰でも使用できる。加盟店で現金をチャージすると1ポイント1円として買い物に利用でき、地域内の経済循環を促す。
「美村PAYの運用開始から約2週間が経過しましたが(※取材時点)、利用店舗をもっと増やしてほしいとか、チャージ方式をクレジットカードに紐づけてほしいなどのご要望を頂いてはいるものの、加盟店・カスタマー共に反響は概ね良好です。また、2月上旬にリリースすることができた広域観光ポータルに関しては、地域ポータルや各店舗のSNSと連携し、常に最新情報を更新していくほか、加盟店のマーケティングにも運用できるような仕組みを想定しています。
それぞれのサービスは連動しなくては意味がありません。まだ段階的な立ち上がりではありますが、随時データを集積し、次のステップに生かしていきたいと考えています」
デジタル実装は手段のひとつ、地域の自然を壊すわけではない
のどかな田園都市をデジタル実装する──ともすれば、地域本来の風情が失われてしまうのでは?と思いがちだが「デジタルはあくまでも手段のひとつ」と三井さんは語る。
「デジタル化によって自然が破壊されるわけではなく、デジタルはむしろ地域の豊かさを保つための手段となるはずです。我々が最終的に目指したいのは、人口減少を食い止め、関係人口・交流人口を増やしていくこと。5町内で起業をする方が増えたり、新しい産業が増えたり、“美村地域全体で何かおもしろいことをやってるな”と周知していくことが重要なのです。
一気に始めるのは難しいので、スモールスタートで少しずつ取組みを拡大しながら、10年後に大きな成果を実感できるように機運の醸成を図っていきたいと考えています」
5町が連携する『美村』の取組みはスタート地点に立ったばかり。10年後の未来に「デジタル」と「田園」がどのように融和し、地域に豊かさをもたらしているのか?今後の展開を楽しみにしたい。
■取材協力/多気町
https://www.town.taki.mie.jp/
■地域通貨『美村PAY』
https://portal.mie-vison.org/visonpay_mie/
■地域ポータルサイト『美村』
https://portal.mie-vison.org/
■広域観光ポータルサイト『美村Travel』
https://vison.mie-vison.org/
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