AAF「Under 35 Architects exhibition」Gold Medalとは異なるもうひとつの賞。偶数年に授与される「伊東賞」

「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」は、2022年10月に第13回目の開催を迎えた。この展覧会は、これからの活躍が期待される若手建築家に発表の機会を与え、これからの建築の可能性を提示し、多くの人に向けた展示・発表を行うことを目的としている。

主催の特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ(以下、AAF)は、「芸術及び建築文化の振興に関する事業を行い、それぞれの地域における芸術、デザイン創作活動の支援、及び建築家や美術作家の人材育成を図り、社会における芸術及び建築文化の発展と普及に寄与することを目的」としている団体だ。

さて、2022年の「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」は、エントリーや推薦から選ばれた以下の7作品が展示された。奥本卓也《ENHANCED architecture》、甲斐貴大《mistletoe》、Aleksandra Kovaleva+佐藤敬《ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修》、佐々木慧《非建築をめざして》、西倉美祝《偶然の船 / 壊れた偶然の船》、森恵吾+Jie Zhang《全体像とその断片、あるいはそれらを行き来すること》、山田健太朗《積層の野性/野性の積層》。

毎年、展覧会より優秀な展示作品を1点審査で選出され、授与される「Under 35 Architects exhibition 2022 Gold Medal」。今年は佐々木慧さんの《非建築をめざして》が選ばれた(※「Under 35 Architects exhibition 2022 Gold Medal」の様子はこちら)。

「U-35」では、「Gold Medal」とは別に偶数年に授与されるもうひとつの賞がある。それが、世界的な建築家である伊東 豊雄氏から贈られる「伊東賞」だ。今回はその伊東豊雄氏を含めたシンポジウムⅡの様子と伊東賞についてレポートする。

日本を代表する建築家・伊東 豊雄氏とAAFの関係

「U-35」のシンポジウムⅡに登場したのは、自らの建築設計だけでなく、若手の育成に熱心に取り組んでいる建築家・伊東豊雄氏。「Under 35 Architects exhibition」については、若手育成の観点でU-30として開始した初年度2010年から2011年、2014年と登壇し、2016年以降は隔年で伊東賞を選出してきた。

シンポジウムⅡでは、世界で活躍する伊東氏自身の建築ワークも紹介された。これも、U-35シンポジウムⅡの注目のプログラム。今回の出展者だけでなく、会場に参加した建築に思いを寄せる人々の熱い注目を集める。資料で紹介されるものは、どれも伊東豊雄氏の建築に対する考え方を具現化した作品であり、それを伊東氏本人から聞けるという贅沢なプログラムであった。
プログラムの最後には、伊東氏から大西麻貴さんによって出版された「青華 伊東豊雄との対話」という本が紹介された。大西麻貴さんは奇しくも「U-30 Under 30 Architects exhibition 2011」(※当時はUnder 30)の出展者。その時のゲスト建築家としてシンポジウムに登場したのも伊東氏であった。AAFと伊東氏との関係性がうかがわれる。

その後、メインとなるU-35の出展者とのディスカッションが行われた。以下、その様子をお伝えする。

U35 2022 シンポジウムⅡ-Under 35 Architects exhibition35歳以下の若手建築家による建築の展覧会-の様子U35 2022 シンポジウムⅡ-Under 35 Architects exhibition35歳以下の若手建築家による建築の展覧会-の様子

U-35出展者と伊東豊雄氏のディスカッション①

藤本壮介氏と平沼孝啓氏の両名がモデレーターとして寄り添い、4度目となる伊東賞の選考。出展者たちの作品のプレゼンテーションの後、それぞれの作品に伊東豊雄氏がコメントをする形ではじまった。以下やり取りの概要を伝える。

まず最初は、奥本卓也氏の《ENHANCED architecture》。広島市の中心市街地をモデルに「建築と都市の境界の拡張」をメインテーマに据えた展示。火を防ぐ都市の“燃えしろ”をキーワードにして検討、ブロック防火区画という考えを提示した作品だ。
伊東氏:作品の発想は大変面白い。展示作品としては、木材の処理がきれいだった。ただ、実現できるのか、その実現性を示すものがあるとよかったと思う。また、今後、耐火が進んだ都市で大火がありうるのかは多少疑問がある。
奥本氏:都市の大火は今後もあり得るのでは、と考えている。実現できるのかについては、まずはこれを実際に作ってみたい、そのうえで評価をしていただけるとありがたい。

次は甲斐貴大氏の《mistletoe》。形態を構造解析して得た応力の違いを樹種の違いで解決した、木で組まれた小さな建築物を展示した。かたちが、ただかたちとして存在することや素材が、素材らしくあることなどによって「それのそれらしさ」について考えたいという。
伊東氏:コンクリートと木造、鉄骨を必要に応じて使い分けている作品を自らも手掛けている。木では大ホールの屋根はつくれないが、素材らしさを表す具体的な例があれば良かったと思う。通常、建築物で木を使う際にはひとつの材で作ることが多く、複数を組み合わせて作ることが実際的なのだろうか、という疑問もある。
甲斐氏:今回の展示作品は2016年の作品で建築とどう向き合うかを明確にするためのものであり、問い直しのためのもの。実例がないというのはその通り。今後示していければと思っている。

《ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修》を手掛けたAleksandra Kovaleva+佐藤敬両氏。ロシア館の改修を経て生まれた問いをつくろうということばで作品を表現した。「つくる事」を「つくろう事」と捉えてみると、世界の循環の花に自分たちを位置付けることができる、とした作品。
伊東氏:ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修は、自身も日本館の改修をやったことがあるので大変だったことはよく分かる。ただ、他の出展者についてもいえることだが、具体的にどういう空間になったのかの説明が足りていないように思う。
Aleksandra Kovaleva+佐藤氏:小さいスペースでの短時間の展示でもあるため、すべてを説明することは難しく、今回は改修の中で学んだことを記録したかった。改修では100年くらいの建物のさまざまな経緯、歴史を調べ、チューニングしていった。

伊東豊雄氏からは、厳しくもあたたかいコメントが若い建築家たちへおくられた(写真:@satshi shigeta)伊東豊雄氏からは、厳しくもあたたかいコメントが若い建築家たちへおくられた(写真:@satshi shigeta)

U-35出展者と伊東豊雄氏のディスカッション②

つづいては、佐々木慧氏の《非建築をめざして》。より自由で寛容な何かを求める「非建築」的な建築とはどのようなものか、試行錯誤を繰り返している状態を展示した。
伊東氏:試行錯誤をしていたのはわかるが、ホテルの例などもっと具体的に知りたかった。
佐々木氏:自身の今回の展示は、Non Architectureという考え方を伝えるために、具体例を並べるほうが理解いただけると思った。

西倉美祝氏の《偶然の船 / 壊れた偶然の船》は渋谷のシェアオフィスの中のデザインをした家具。象徴的な船のような1個のテーブルでありながら、29個の異なる小さな家具の集合体でもあり、時間とともに変化していく様子をいくつかのキーワードから展示した。
伊東氏:船という発想は面白いが、バラバラになっていくところにストーリーがない。「船」ということと出展作品の間がどう繋がっているのか。
西倉氏:強いストーリーは必要なかった、逆にストーリーを無くしていく方向に考え、更新していく面白さ、既製品にもある面白さを求めた。

次の《全体像とその断片、あるいはそれらを行き来すること》は、森恵吾+Jie Zhang氏の作品。上海郊外に建つ展望塔の断片を実寸で再構成し展示した。壁面には大小様々な開口が配置され、見る場所によって見えるものが異なるという作品だ。
伊東氏:内容を含めて興味を持った。開口の作り方が面白い。レンガを積みながらいろんな開口が作られており、上っていく時に面白い体験ができる。
森恵吾+Jie Zhang氏:給水塔の形を残しつつ窓を開ける、螺旋階段を真ん中にどんと据えるのではなく、上がっていくごとに見えるものが異なる空間を作ろうとした。

山田健太朗氏は、《積層の野性/野性の積層》という展示を行った。積層(積み上げる)という構築方法には本来ある種の野生を帯びているとし、その一方で全く異なる別々の文脈同士にストラクチャーを与えやすい形式でもあるとする。
伊東氏:展示のブロックが目についた。ピラミッドやアフリカの土をこねた粘土を使って積み上げた家の積層と今回の展示の積層はずいぶん違うようだ。鉄骨の梁があるものを、積層と呼ぶのだろうか。
山田氏:積層だけでは大きな開口を開けられないなどの弱点もあり、クローズドになりがちなところがあるが、積層の可能性を考えた時にフレームなども織り込み済みで積んでいくと、クローズでありながらオープンであるとか、全体を統合しているようでそれぞれの部分があるとか、相反するものが同居できるような新しい可能性を考えた。梁を使うことでオープンなところもある積層が可能になる。

7組の出展者の作品に対して、伊東豊雄氏から様々な質問やコメントがあった7組の出展者の作品に対して、伊東豊雄氏から様々な質問やコメントがあった

伊東豊雄氏が迷いに迷った「伊東賞」の選考

藤本壮介氏と平沼孝啓氏の両名もモデレーターとして伊東氏とのディスカッションに加わった。
藤本氏からは、都度様々な視点を変えて、言葉も含めて建築を捉えなおしていこうという若者のチャレンジを応援したいとの声があがった。
しかし、伊東氏からは、出展者たちへの厳しい言葉も。それぞれの作品でいい言葉を発見しているものの、そのコンセプトの表現が弱いと指摘した。「もっと追求し、くらいついていくことが必要だ」というメッセージ。伊東氏は、多様性を救い取ろうという若い人たちの姿勢には共感しつつも、それをやるためには、やはり追求しつづける強さが必要だという。

さて、伊東賞の発表はそういった出展者に対する思いから選考は順調には進まず、伊東氏からは何度か「決められないでいる」「一人を選ぶのは痛みを伴う」という言葉が出た。

最終的に選ばれたのはAleksandra Kovaleva+佐藤敬氏による《ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修》。改修の大変さが想像でき、そこに敬意を払った、というのが最終選考の理由となったという。この受賞にAleksandra Kovaleva氏と佐藤敬氏は、「うれしい半面、これだけ選考を迷われてしまうのは、すごく悔しい。次は文句なく素晴らしい、といってもらえる作品を作りたい」と意気込みを語った。
伊東氏は「悔しさや怒り、そういうエネルギーが建築を作っている。一方で楽しまなくてはいけない」と出展者たちにエールをおくった。

2022年の「Under 35 Architects exhibition」は、Gold Medalも伊東賞も「建築」という定義や言葉を考え直す場面が多くあった。
若い建築家たちの挑戦は続く。また、2023年にどういった作品が出てくるのか、楽しみである。

伊東豊雄氏が迷いに迷った「伊東賞」の選考
伊東豊雄氏が迷いに迷った「伊東賞」の選考《ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修》を手掛けたAleksandra Kovaleva+佐藤敬氏に「伊東賞」がおくられた

■Under 35 Architects exhibition 2022 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会
Youtubeはこちら → https://www.youtube.com/watch?v=AnADaU2Xd5Q
U35 2022 シンポジウムⅡ-Under 35 Architects exhibition35歳以下の若手建築家による建築の展覧会-symposium versionⅡ.

■取材協力
特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
http://www.aaf.ac/

公開日: