関東大震災発生時、東京市・横浜市では火災が被害を増大させた

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の廣井悠教授。専門は都市防災、都市計画東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の廣井悠教授。専門は都市防災、都市計画

関東大震災では建物の倒壊のほか、地盤沈下、崖崩れ、津波など多種の被害が発生した。ここでは市街地火災の専門家である東京大学都市工学専攻・廣井悠教授の麹町アカデミアでのセミナー「関東大震災99年 教訓はいかされたか」をご紹介しよう。ほかの被害が軽微だったというつもりはないが、関東大震災では3日間に及ぶ火災の被害が非常に大きかったのである。

では、具体的にどのような被害が、どこで起きたか。内閣府の資料によると当時の東京市では世帯数のうち73.4%が被害を受けており、うち火災によるものが84.9%、横浜市では同様に95.9%の世帯に被害が及んでおり、そのうち火災によるものは66.0%。結果として東京市、横浜市では特に火災による被害が顕著で約6割が全焼、死者の9割が焼死だった。

「データで見ると東京市でも人口が多く、出火件数の多いところで大きな火災被害が出ており、地域による差が大きいのが特徴です。たとえば日本橋区は100%燃えていますが、麻布区では0.04%とそれほど燃えていないなど、ばらつきがあります」

セミナーで廣井教授が示した統計で見ると日本橋区以外でも神田区、浅草区、本所区など東京の中心部から東側エリアの被害が大きく、逆に西側の火災被害発生率は低めである。当時の人口や繁華街が東側に集まっていたことなどが原因であろう。

また、初期消火率は42.5%と意外に高いが、たとえば浅草区では19件の延焼火災が発生している。他方で、それに対処する消防署の部隊は7隊であり、消防力を超えた火災が発生していることが分かる。

首都直下の地震が起きたらどのくらいの火災が起きるか

発災の季節、時間、その当時の風向きその他で火災被害は様相を変えるが、過去の地震でどのくらい火災が発生したかを知ることは参考になるだろう。廣井教授によると関東大震災では134件(東京市)、阪神・淡路大震災では285件、東日本大震災では398件となっており、今後もし首都直下地震が起きるとしたら、多い場合は数百件の火災が想定されているという。

過去の出火件数より、想定数が多いのは人口、規模が増えているためと推察される。関東大震災時の東京市の人口は250万人だが、現在の東京都はそれよりも市街地が途切れずにつながっており、人口も2021年時点で1396万人と5.5倍以上である。

続いては延焼の状況だが、当時の住宅はほとんどが木造であった。また、橋についても多くが木造であり、鉄橋であっても敷板に木材を使ったものも含めて延焼し、それが避難行動の大きな阻害要因になった。また、関東大震災当時は家財道具を持って避難した人も多く、それが延焼を助長した。

「当時は多くの人が借家に住んでいて、命と家財さえ守られれば次の日に新しい家を確保して同じ生活を送ることができました。震災の記録からは大八車に荷物を積んで、家財と一緒に逃げた様子が残っています。避難時は何も持たずに逃げるという教訓はこれが原因と考えられます」

避難場所の安全性が重要

避難については、地震発生直後は逃げ遅れにより亡くなった人が多く、その後は火災に挟まれて逃げられなくなり、多くの人が亡くなったという状況だったと考えられる。特に問題なのは避難した場所で亡くなった人が多いという事実。よく知られているのは本所区本所横網町(現在の墨田区横網)の陸軍本所被服廠跡(現在の横網町公園他、現在の墨田区立両国中学校や日本大学第一中学校・高等学校など)での3万8,000人にも及ぶ被害。

「被服廠跡では火災旋風が起きたと言われています。ただ、同じ現象は横浜でも、東日本大震災でもあったと言われています。メディア等は火災旋風というメカニズムの恐ろしさを取り上げることが多いのですが、問題は火災旋風発生の有無よりもむしろ、避難する場所が安全かどうかではないでしょうか。つまり、被服廠跡のような多くの人が集まった場所で、火災旋風が起きてしまったということが問題なのではないかと考えられます」

また、被服廠跡だけでなく、公園や小学校、駅などで火災に囲まれて多数の人が亡くなった事例もある。どこに避難したら安全なのか、避難場所とされている場所が安全なのかは大事な点だ。

関東大震災の火災被害を説明した上で廣井教授は視聴者に質問をした。関東大震災からおおよそ100年。現在、東京で地震が起きたら、その被害はどの程度だろうか。選択肢は以下の5択である。1、関東大震災より被害は大きい、2、関東大震災と同じくらい、3、関東大震災と阪神・淡路大震災の中間くらい、4、阪神・淡路大震災と同じくらい、そして最後は5、阪神・淡路大震災より、被害は小さい。

さて、あなたはどのくらいの被害が出ると考えるだろうか。

1923年9月1日に発災、190万人が被災、10万5000人余が死亡あるいは行方不明になったと推定される関東大震災からまもなく100年。この時の被害では火災が広範囲に発生し、それが明治以降では最大規模の被害をもたらした。それ以降、日本では燃えない街づくりが進行しているが、今後、同規模の震災が起きたとしたら都市は大丈夫なのだろうか。視聴者に投げかけられた選択肢はこちら。さて、あなたはどれを選ぶだろうか。以下、資料はセミナー時に投影されたもの

今の都市の安全度を出火、延焼、消防、避難の観点から考える

問いかけに続いて、「現在の都市がどの程度安全になっているか」を地震火災の被害量を説明すると考えられる出火、延焼、消防、避難という4点から検証する。まず、出火についてであるが、出火率自体はやや減ってきていると廣井教授。

かまど、七輪からの出火が多かった当時と電気中心と考えられる現在では出火原因が全く異なるものの、関東大震災の東京市(震度6地域)で2.0という出火率(1万世帯あたりの出火件数)は阪神・淡路大震災時の神戸市(震度7地域)で3.0、中越地震(震度6強地域)で1.2などとなっており、東日本大震災では震度6強地域で0.4件ほどになっている。しかしながら出火件数は地震発生の季節や時刻などによっても大きく異なるため、この統計データのみで出火率が大きく減っていると断定することはできない。また、現在の首都圏などは、関東大震災当時をはるかに超える人口・建物が密集しており、曝露量(曝露とはむきだしになる、さらけ出されること。この場合は火災の危険にさらされるという意)は極めて大きい。

さらに、いくつかの懸念事項もある。

「東日本大震災では「ろうそく火災」が火災全体の10分の1ほどを占めています。これは停電時に照明としてろうそくを使ったことによるものと考えられますが、事前に非常用LEDランプを用意することなどで防げます。ツナ缶の油を照明として使うというやり方を推奨している人もいますが、地震時に限っては火災を考えると危ないのではないかと思います」

また、非常用電源設備が自動的に通電することでそこから出火するケースや、中高層建築物のビル内からの出火ケースなど、これまであまり想定がされてこなかった出火も東日本大震災や熊本地震では発生している。特に怖いと思ったのは地震の揺れで消火設備、防火設備が壊れたところに出火というシナリオである。

「東日本大震災時、仙台駅を中心とする概ね3キロ圏の耐火建築物49施設の被害状況を調べたところ、半数でスプリンクラーが、29%で防火戸が機能しなかったことが分かりました。阪神・淡路大震災では高層階のスプリンクラーの約8割が使えなくなっていたという報告もあります。飛躍的に増加する曝露量などに、こうした新たなタイプの出火危険性などを加味すると、出火については関東大震災当時よりも悪くなっているといえるかもしれません」

消防体制の整備が大火発生を防止している

糸魚川での大火の記憶を伝承する展示スペースと防火水槽を設けた復興まちづくりの拠点「糸魚川市駅北広場キターレ」。展示には火災の詳細が記されている糸魚川での大火の記憶を伝承する展示スペースと防火水槽を設けた復興まちづくりの拠点「糸魚川市駅北広場キターレ」。展示には火災の詳細が記されている

次に延焼についてである。ここで廣井教授が例として挙げたのが、2016年に新潟県糸魚川市で発生した火災。焼損棟数は147棟(全焼120棟、半焼5棟、部分焼22棟)、焼損床面積は3万m2余に及ぶ、大規模火災(地震を原因とするものを除く)である。そこには火元建物の風下、5軒ほどの距離にありながら延焼を免れた建物などもあり、壁材のおかげで燃えにくくなっている傾向が見てとれた。

延焼については東京消防庁が延焼速度式「東消式2001」を作っており、時代ごとの市街地パラメータを入力して延焼速度を試算してみたところ、江戸時代や関東大震災当時の市街地に比べると、現代の密集市街地は燃える速度が3分の2から半分ほどになっているとか。つまり、延焼はしにくくなっているが、燃えなくなったわけではないと評価すべきであろう。

続いては消防について。これについては格段に良くなっていると廣井教授。

「都市大火は1980年以降に激減しています。この理由を都市の耐火性能が上がったからと思っている人もいますが、実際には消防の力によるところが大きいと考えています。日本での消防体制はおおむね1965~1975年に劇的な整備を遂げており、それによって迅速な消防体制が確立し、これが被害抑制に寄与しています」

だが、平常時の火災は消防が消してくれるとしても地震時はどうか。そこには大きな不安がある。複数個所で火が上がった場合は消防車が足りなくなる可能性もあり、また道路閉塞で消防車が通れない、消火栓が使えなくなるなどの事態も十分考えられる。

「ポンプ車が不足しないようにするためには初期消火が大事ですが、震度が大きくなると初期消火は難しくなります。揺れが小さければなんとか消せるものの、大きくなると難しくなってしまいます」

消防が持つ能力や技術は飛躍的に進化しているが、大規模災害時に十分に機能しない可能性も考えられる。

避難には場所、知識など他方面で懸念が

最後は避難に関して。廣井教授はここに大きな懸念があると感じているようだ。

「風水害には避難経験がある人もいらっしゃるでしょうが、地震、火災については避難経験、避難に関する伝承が薄れてしまっており、現状は非常にリテラシーが低い状況ではないかと思っています。しかも、都市火災からの避難は判断が難しいものです。水害と違い、単独の火災であれば火に追いつかれるようなことはめったにないものといえるでしょう、しかしながら同時多発火災の場合は、どのタイミングでどこに逃げるべきか、今がどの程度に危険なのかが分かりにくいのです。

糸魚川大規模火災後に当日避難勧告エリアにいた97人に当日の行動を聞き取りしたところ、4時間経っても遠巻きに火災を見つめていたり、動かなかったりという人もいました。もちろん糸魚川大規模火災は1点からの出火でしたが、飛び火による延焼着火も多い状況でした。大規模地震発生後の同時多発火災でも同様の避難行動が行われるとしたら、逃げ遅れるなどの危険性も考えられます」

また、都市の場合にはどこに逃げるかも問題。道路や避難所に人が殺到することで移動速度が極端に遅くなることも想定できるし、そもそも今の東京で、通常オフィスや住宅内などにいる人が全員外に出たら極度に過密する場所が出てしまう可能性もある。人が密集することの怖さは最近のニュースにもあった通りである。

そうすると市街地整備の観点からは橋も燃えにくくなり、避難場所などが充実していても、実際に円滑な避難行動が行われないことで、犠牲者が出てしまうかもしれない。そうしたことを加味した場合、前述の廣井教授の問いの答えはどうなるだろう。

「国や都の被害想定では条件が悪い場合、死者1万人前後が想定されていますが、やはりそのくらいの被害は十分にあり得るのではないか。先の問いへの答えとして考えると『関東大震災と阪神・淡路大震災の中間くらい』ということになると思いますが、研究者によってはもっと被害が大きいと考える人もいるようです」

自分が助かるためにはどうするかを考える

まとめると出火については悪くなっている、延焼については少し良くなっている、消防については進展目覚ましいものの地震時については限定的、避難については計画上安全になってきたが実際には不安も多いということになるだろう。そう考えると、この100年近く、都市は地震火災に対して抜本的に安全になったというわけでは必ずしもないということが分かる。

関東大震災から100年近く経って都市はそれほどには火災に強くなっているわけではないことが分かる。用心しよう関東大震災から100年近く経って都市はそれほどには火災に強くなっているわけではないことが分かる。用心しよう
細い路地、古い木造住宅が密集するいわゆる木密地域の解消は少しずつ進んではいるが、現在では空き家化という問題も進展しており、軽々に良くなったとは言い難い細い路地、古い木造住宅が密集するいわゆる木密地域の解消は少しずつ進んではいるが、現在では空き家化という問題も進展しており、軽々に良くなったとは言い難い

都市の燃えないための施策としては木密地域解消が挙げられるが、これに関する質問に対し、廣井教授は「難しい」と一言。

「居住者がいるなかで行政が強制的に建替えられるわけではなく、支援、啓発などが重要となっている状況下で、所有者が費用の捻出が難しい高齢者である、土地・建物の所有者が異なる、接道していないなどの理由で街の耐火性能がなかなか上がらない地域もあります。着実に進んでいるとは思うものの、これが一朝一夕に進むということにはなりにくいのではないかと考えます。

そこで、ハード対策だけではなく、ソフト面も対策するべきだろうと考えています。たとえば岐阜県高山市の三町では江戸後期から続く町屋が多く見られ、風情はあるが火災には弱く、江戸時代以降何度か大火災が発生しています。

そこで市は防火水槽、消火栓の整備のほか、延焼防止に役立つよう土蔵の改修、補強を行うと同時に地域の消防活動を支援。古くからの活動に加え、防災リーダーの育成、女性の自衛消防隊の結成など新しい動きもあり、ハード、ソフト両面からの火災に強い街づくりが行われています。こうした連携が今後はもっと必要でしょう」

セミナー終了後、会場からはいくつかの質問が出たが、そのうちでひとつだけご紹介しておこう。それは避難に関して他の災害同様に警報が出ることが大事ではないかというもの。これに対して廣井教授は警報を出してもらおうと考えるよりも、自分の問題として切実に考えるようにすることのほうが大事だと答えた。

「技術的にどの程度地震火災に関する災害情報を出せるかどうかが不透明な中、災害リスクを他人任せにするのは現在の技術では危うさもあるため、みずから自分のリスクを客観視しておくことが大事です」

この100年で飛躍的に良くなった消防体制ですら地震時には限定的である可能性を考えると、助けてもらうことより、自分が助かる、地域で助け合うためにどうすればよいかを考えるほうが大事というわけである。

取材協力/株式会社セイエンタプライズ(会場)
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