維持管理費がかさむ廃校をいかに活用するかが各自治体の課題
1990年代初頭に起きたバブル崩壊。その後の経済低迷を「失われた30年」などと呼ぶのはご存じだろう。将来への不安もあり、子どもの数は年々減少。総務省が2022年5月に発表した、2022年4月1日現在の子どもの数(15歳未満人口)の推計では、過去最少の1,465万人となり、41年連続の減少に。前年に比べても25万人少なくなっている。
子どもの数が減ると必然的に増えるのが廃校だ。文部科学省の「平成30年度 廃校施設等活用状況実態調査」によると、平成14年度(2002年度)~29年度(2017年度)の累計で、延べ7,583校が廃校になっている。近いところだと、平成28年度(2016年度)には406校、平成29年度(2017年度)には358校が廃校になっている。
施設が現存している廃校が6,580校あり、そのうちの74.5%にあたる4,905校が、社会体育施設、社会教育施設・文化施設、福祉施設・医療施設、企業や法人等の施設、体験交流施設などとして活用されている。
その一方で、廃校施設のうち約20%(1,295校)については活用の用途が決まらず放置されており、その維持管理費等が、各自治体に負担となってのしかかっている状況だ。
そのような中、廃校を有効活用して注目を集めているのが「廃校キャンプ場」。そこで千葉県にある「キャンピース横芝光」のスタッフ、株式会社運動会屋の飯田さんと大木さんにキャンプ場開設のいきさつや特徴などをお聞きした。
廃校を活用して地域に貢献できるものは何かを考え、キャンプ場を開設
活用しているのは、2020年3月に廃校になった横芝光町立旧南条小学校。横芝光ICから車で約5分とアクセスも良好だ。
キャンプ場を運営するのは、株式会社運動会屋。企業や自治体の運動会の企画や運営、備品の貸し出しなどをメインに行っている企業だ。
どのようないきさつで廃校キャンプ場を運営するようになったのだろうか?
「運動会開催のお話を多数いただく中で、開催場所の確保が喫緊の課題となっていました。運動会を開催していただくには学校はロケーションがいいし、利便性も高いのではないかということで廃校活用に着目していた時に、コロナ禍になってしまったんです。少し時間的な余裕ができたことで事業の見直しを行っていたところ、千葉県さんが廃校の見学会を開催してくださり、そこに参加させていただいたのが廃校見学の最初になります。
社内でも廃校を活用できればいいねという話があがる中で、運動会だけで収益が出せるのか、また、運動会が地域の方が求める形なのかなど検討していたところ、何か地域の方と一緒に楽しめる、地域貢献に役立つものはないかと思い付いたのがキャンプ場運営でした。アウトドアブームもあり、調べてみたところ参入できる業界として可能性がありそうだと考えて、この事業の開始に至りました」と、キャンピース横芝光の校長先生で、同社地域共創事業部の飯田さん。
同社では現在、キャンピース横芝光のほかにキャンピース南足柄(神奈川県)、キャンピース君津(千葉県)、キャンピースかすみがうら(茨城県)の計4つの廃校キャンプ場を運営している。
廃校キャンプ場選びに活用しているのが、全国の廃校や活用できる有休施設などが一覧で掲載されている文科省の「みんなの廃校プロジェクト」というウェブサイト。
「数ある廃校などの施設の中から、音が出せるとか、照明が付けられるとか、民家との距離が保たれているかなどを地図で確認しながら『ここならキャンプ場にできそう』と思える場所に問合せをしています」(飯田さん)
「みんなで楽しむ」をコンセプトに、キャンパーやスタッフ、さらに地域の方も一緒に交流を深める
今回取材に訪れたキャンピース横芝光。まず感じたのが、校門や校庭にはじまり、昇降口や廊下、教室、壁に貼られた新聞など、どこか懐かしい不思議な感覚。子ども連れのパパやママは、きっと同じような感覚を覚えるのではないだろうか。
キャンプ場としての特徴をおうかがいした。
「キャンプ場としてはすごくワイルドな環境ではなく、ファミリーで楽しめるような安全な環境を目指しています。『みんなで楽しむ』をコンセプトに、お客様やスタッフ、さらに地域の方も一緒に携われる空間をつくれればいいなと考えています。
お子様が楽しく過ごしていただけるように、キャンピース横芝光にはキッズスペースのほかに、楽器のある音楽室や卓球台もあります。大人の方々は懐かしいなという感じで校内を歩いていただけますし、お子様はあいにくの天気で外で遊べない時に、校舎の中で遊んでいただけます。急な雷雨の時などは校舎への一時避難も可能で、その場合も校舎が広いため、密にならずに過ごせます。
また学校ですので、お客様同士の顔が見渡せるような平坦なグラウンドがあるのも特徴です。ここは旧小学校のため遊具が付いていますから、自然とお子様が遊具に集まり交流が生まれます。僕らは運動会屋なので、運動会用の道具は日本で一番持っていると自負していますので、それらのものを使って時々『綱引きをやろう!』などと声をかけて一緒に遊んだりすることもありますね。お客様同士が仲良くなってくれたらうれしいですし、スタッフの顔を覚えていただき、また遊びに来てくれた時はとてもありがたく思います」(飯田さん)
休日はファミリー層、平日はソロキャンやワーケーションで利用するキャンパーが多く、また敷地がフラットなため、テントの初張りを試すキャンパーも多数いるという。
トイレや炊事場の清掃は特に念入りに。日焼け止めの用意や小物の販売など、女性目線の配慮も
キャンプを楽しめる要素のひとつに、施設の清潔さがあるだろう。トイレや炊事場がきれいでないと、特に女性やお子さんに「あのキャンプ場にはもう行きたくない」などと言われかねない。
「トイレと炊事場の掃除はみんなですごく頑張っています。ほかにもお子様用の日焼け止めや、肌が弱い方向けの日焼け止めを用意するなど、女性目線での『これあるといいね』というものをそろえているのが、ほかのキャンプ場と少し違うところだと思います。キャンプに慣れていない方もいらっしゃるかもしれないので、あって困らなそうなものは置いておきたいと思いまして。
売店の小物や近隣の作家さんたちによるハンドメイドの雑貨なども、キャンプにはそれほど興味がないという方にも、少しでも楽しんでいただき、お土産を買う場所があったらいいなと販売しています。キャンプ場を利用されなくても、買い物だけでも可能です。キャンプだけというくくりではなく、好きな方もあまり興味のない方も遊びに来やすいキャンプ場にできればと思っています」(スタッフの大木さん)
防災キャンプやプールの開放、各種イベントを開催して地域に溶け込む
スタッフと利用客、また地域住民との交流があるのもキャンピース横芝光の特徴のひとつ。個人的には、キャンプに行ってキャンプ場のスタッフと会話をした記憶はほとんどなく、一人でゆっくりしたり仲間と楽しく過ごしたりする場所というイメージだ。
その点キャンピース横芝光(そのほかの拠点も同様)では、手の空いているスタッフがお子さんと遊んだり、一緒に校舎の中で遊んだりすることもあるそう。
「ご家族の写真を撮ったりテントの設営をお手伝いしたり、お子様と一緒に遊んだり。お客様と話す機会が結構多いので、直接お礼を言っていただけた時などはとても嬉しいですね」と大木さん。
地元の方も楽しめるイベントも週末を中心に随時開催。キャンプ場利用者も参加でき、地域住民やスタッフとの交流を生み出している。
「夏には自治体の方と一緒に火起こし体験などを行う防災キャンプを行い、地元の方が40人ぐらい参加してくださいました。プールも2週間ほど開放し、地元の小学生を中心に楽しく遊んでいただけてよかったです。
ほかにも、週末は農家さんに野菜などを直接売りに来ていただいています。横芝光はネギが有名でネギ農家さんがたくさんいるので、皆さんで食べてくださいと結構な量を持って来てくださることもあるんですよ。試食会みたいな感じでネギ農家さんが実食販売みたいなことをしてくれたこともありましたね。特に冬は柔らかくて太いネギがとれて、水にさらさなくてもまったく辛くなくてとてもおいしいんです。ぜひ一度食べていただきたいですね」と大木さん。
空いている教室は、地元の方にイベントやワークショップの開催場所として貸し出しを行っている。
「イベントとかやってみたかったけど、どこでやったらいいかわからなかったという方からは『場所を貸していただけるのはすごくうれしい』と好評です。土日の開催も多いので、地域の方も遊びに来られるし、キャンプで宿泊されていたお客様もイベントに参加できるという感じで、それこそキャンプ場の利用者と地域の方とみんなで楽しめるようなイベントが最近できています。イベントに合わせてキッチンカーを呼んだりとか。そういうところも、ほかのキャンプ場と違うと思います」(大木さん)
自治体からは生涯学習として高齢者用のイベントができないかを打診されているとのことで、ヨガや太極拳、ネイチャーゲームなどを考えているという。
また、キャンプ場がロケやミュージックビデオの撮影などに使われることもあり、地元の店にお弁当を発注したり、地元の方にエキストラを募るなど、地域の方をうまく「巻き込み」ながら運営しているのも特徴だ。
コロナ禍でできなかった卒業式を開催。SDGsな取組みも
2020年3月に廃校になった旧南条小学校。残念なことにコロナ禍のため、卒業式や閉校式ができなかったという。そこで閉校時の在校生の皆さんに「卒業式をやりませんか」と声をかけて開催したところ、当時の先生方もたくさん参加してくださり、生徒にも先生にも家族にも想い出に残るイベントになった。
「少し大きくなった生徒さんと先生方が再会して、『こういう企画があってよかった』と、とても喜んでいただきました」(飯田さん)
「保護者の方も含め、大勢の方が来てくださいました。玉入れなどもしたのですが、大人の方が盛り上がっていました。旧南条小学校は横芝光学区の中でも児童数が少ない学校だったのですが、その分団結力があるように感じますね」(大木さん)
このような地元の方も大切にする取組みは、よりキャンピース横芝光のファンを増やすだろう。
また、SDGsを意識した取組みも行い、ヘチマのたわしや環境に配慮した洗剤の使用、ゴミの分別もしっかり行っている。
「ここにあるオモチャは当社で用意したもののほか、大半は地元の方が置き場に困って連絡をくださり、『こういうものがあるのだけど使わない?』と言ってくださったものを置いています。お互いウィンウィンな感じですね」と大木さん。
お話をお聞きした、株式会社運動会屋 地域共創事業部 部長でキャンピース横芝光の校長の飯田健史さんと、キャンピース横芝光スタッフの大木美穂さん。「リピーターで来てくださったお客様がお嬢さんをほかのキャンプ場に連れて行ったら『このキャンプ場の校長先生は誰なの?』と不思議がっていたそうです。そのお嬢さんはキャンプ場に校長先生がいると思っているということですよね。そういう話をお聞きすると、お嬢さんの心に何かが刻まれた証だと思ってうれしいですね」と飯田さん。「学校という立地からか安心感があり、ファミリーでのご利用が多いですね。親御さんが安心してお子様を遊ばせられるキャンプ場だと思います。スタッフがフォローしますので、初めてキャンプをする方にもぜひ遊びに来ていただきたいですね」と大木さんコロナ禍になり、人とのつながりが希薄になったと感じる昨今。人との出会いも楽しみに、キャンプ初心者にもやさしいキャンピース横芝光に遊びに行ってみてはいかがだろう。学校という懐かしい場所でノスタルジーに浸りながら、スタッフや近隣の住民の方と新たなつながりが生まれるかもしれない。
■キャンピース
https://campiece.com/
■取材協力/株式会社運動会屋
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