北浜のビル群を眺めながら、水辺で楽しむ蚤の市
焼き菓子とコーヒーを手にしてアンティーク雑貨や古道具を探す、緩やかな時間。その背景には、中之島公会堂などの近代建築やビルなど、堂島川沿いの水辺の風景が広がっている。
今年で10回目となる「北浜蚤の市」が、2022年10月22日・23日に開催された。真鍮アクセサリー、植物や輸入古着などジャンルもさまざまな出店者数は61店。個性豊かなアイテムに出会えることから、開催を重ねるごとに来場者数が増えているフリーマーケットイベントだ。
北浜というと、2025年に大阪で開催される国際的なイベントに向けて、急ピッチで開発が進んでいる大阪・中之島エリアに位置する場所だ。東洋陶磁美術館や建築家・安藤忠雄氏の寄贈によるこども本の森 中之島などの文化施設だけでなく、中之島公園の芝生広場やバラ園などもあり、大阪市内に暮らす人たちの憩いの場としても充実している。
イベントを主催するのは、もともとつながりのあった有志メンバーの3名。インテリアデザイナーの三宅右記さん(MIGIRI Design Office)、店舗や商品の企画を行う河崎杏奈さん(TUKUROI.WORK)、ホテル・カフェ運営者の間宮菜々子さん(SAKAINOMA)だ。それぞれの職能を生かして、現場の設営設計、広報、デザインや出店者情報の取りまとめなどを役割分担しながら、本職の合間を縫って企画運営している。
ビルの一室から始まった。出店者と共に作り上げる2日間
企画の発端は、三宅さんと間宮さんが当時北浜にあったシェアオフィスで働いていたときに、「フリーマーケットやってみない?」という雑談から始まったのだそう。「仕事で買い付けた海外雑貨や私物がたくさんあったんです。また、大阪でスタイリングや物流関係の仕事を長くされている知り合いに、“大阪の人は、ものをなかなか買わないよ”と言われまして(笑)。それならば、売れる場を作ってみたいと思ったのもひとつのきっかけです」と間宮さんは話す。
初回は2018年3月。北浜にあるビルの地下1室での開催だった。出店者にはメンバー3人の知人・友人が揃い、照明デザイナー・庭師・セレクト家具店などインテリア関係の出店者が集まった。告知はFacebookイベントと知り合いへの口コミのみで、「どれだけの人が来てくれるか想像できなかった」と3人は当時を振り返る。蓋を開けてみると、ビルの狭い地下の一室は大混雑。デザイナーやクリエイターの視点が生かされたセンスのある私物やサンプル品が買えると口コミで広がり、2日間でトータル約600人が来場した。「1回で終わるつもりでしたが、来場者から“次はいつ開催するんですか?”、“次は出店したい”などと言ってもらえました。それ以降、年3回程度開催しています」と河崎さん。
出店者と来場者、満足の循環を生みたい
現在は出店者の公募はなし。「出店者を決める際に大切にしているのは、人との縁やつながり。直接の知り合いや信頼している方からの紹介等が多くセレクトに関しては、3人で決定。開催を重ねるごとに、客層が求める雰囲気を各々が感じ取っているように思います」と三宅さん。
出店者ブースの配置にも心を配っている。来場者にとって買いまわりしやすく、出店者同士の交流が生まれやすい環境を心がけていると三宅さんは話す。「商品が売れるということは、認められるということ。特に作家さんにとっては嬉しいことだと思うんです。互いの売り上げを意識してしまったり、魅力を消し合ったりしないように、同業者は隣同士に並べないようにしています。出店者同士の交流もイベントの醍醐味。交流が生まれやすいように僕たちも声がけをしています。交流が深まるとイベントの温度も上がり、出店者同士の一体感も出てくるように思います」
運営メンバーが3人しかいないということもあり、出店者の人が設営や準備などを積極的に手伝ってくれることも多い。出店者と運営者の近さも魅力の一つだ。
「イベント後の出店者だけの交流会が楽しみでやっていたところもあります。文化祭の打ち上げの感覚に近い。北浜蚤の市が続いている動機のひとつかもしれません(笑)。皆さん一緒に商品が売れているようで交流会はとても盛り上がります。交流会を通して、出店者同士が仲良くなってくれることも嬉しいです。だからこそ売り上げを出してもらえる環境を作りたいと思うんです」と三宅さん。
コロナ禍での初・屋外開催。地域に広がり始めた「文化祭」
2019年からのコロナ禍を受けて、北浜蚤の市も1年半の間、開催を控えることになった。「この状況下では、地下の狭いスペースで開催するのは不可能でした。この時期イベントが軒並みなくなり、イベントが大きな収入源となる出店者にとっては厳しい状況だと感じていました。出店者の方から、蚤の市の開催を求める声も多くて、メンバーで検討することに。屋外ならできるかもしれないと、いちから場所を探し、最終的に中之島LOVE CENTRALに交渉したところ、やりましょうと言ってくださり、屋外テラスでの開催が可能になりました」
こうして、初の屋外開催となった第8回・2020年10月24日・25日は、スペースも広がり、2日間で過去最大の約8,000人が来場。コロナ禍での思い切った開催で、出店者との関係性も深まったと3人は話す。
屋外で開催するようになったことで、近所で何かやってるぞと、北浜や中之島近郊の住人が犬の散歩の合間に立ち寄る風景も見られるようになった。地域に認知されていく、という体験を経て、主催者メンバーのイベントへの意識も変わってきたそう。地域を盛り上げようと堂島川沿いに並ぶ店舗や企業も協賛として、1口5,000円で参画。期間限定クルーズや周辺MAPも制作した。お菓子やフードのブースがほしいという要望にも応え、北浜周辺の飲食店が中心に出店に加わり、地域との関係も強まってきた。
電鉄会社や近隣企業からイベント連携の相談も来ている。イベントの世界観は変えずに、手の届く範囲で認知度を広げていけたらと3人は話す。「近年は、街のために楽しい空間を提供できるイベントになればいいなと感じるようになりました。出店者の人にも、来場者にも、そして地域にもプラスになったらいいなと常に考えています。フリーマーケットイベントの多くは公園でやっていますが、都心のど真ん中でやっている部分も面白いポイントかもしれません。水辺の楽しみ方のひとつの提案になっていればうれしいです」
仲間たちでスタートした“文化祭”が街に広がり、年々進化しながら、いつしか街のイベントへと育っていく。地域とのコラボがどう生まれていくのか、来年の開催も楽しみにしたい。
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