1989年開業の葛西臨海水族園
東京都が葛西臨海水族園整備事業を公表している。簡単にいうと、葛西臨海水族園の建て替え事業ということになる。工事を行う事業者もすでに決定しており、建て替えに向けて着々と準備が進められている状況だ。葛西臨海水族園は、大きな観覧車が見えるJR京葉線「葛西臨海公園」駅近くの都営の水族館である。
お隣には大型アミューズメントパークがあるJR京葉線「舞浜」駅があり、行ったことはなくても葛西臨海水族園の近くまで訪れている人は多いと思われる。葛西臨海水族園は、東京都や千葉県、埼玉県の子育て世帯には人気のある施設だ。葛西臨海水族園を訪れると、小学生以下の子どもを連れた親子連れで賑わっている。
シャチやイルカのショーといった派手なパフォーマンスこそないが、一つ一つの展示が本格的で知的好奇心を満たすようになっており、来訪した後の満足度は高いという。
葛西臨海水族園は1989年に上野動物園の一部が移転されて開設された施設である。施設はガラスドームが象徴的な水族館だけでなく、周辺に広がる池や広場も含まれるため、水族「館」ではなく水族「園」という名称となっている。
葛西臨海水族園の課題
水族館の建物は2022年時点においては築33年であり、施設の外観はそこまで老朽化しているとは感じない。しかしながら、海水を循環させる大規模な水槽設備を擁しており、また海にも近接することから塩害被害を受けやすくバックヤード部分は相当に老朽化が進んでいるようだ。
具体的には、天井下地や鉄筋の腐食、アクリル板の白濁、ろ過装置の老朽化等が進行しており、改修して使い続けるのは難しい状況に至っている。また、水族館の場合、設備の改修を行うには魚などの生き物を生かしておくための仮設施設が必要となるいう特殊事情もあり、休園するだけでも莫大なコストがかかってしまう。
そのため、葛西臨海水族園整備事業では、敷地内に新たに別の水族館を建築し、竣工したらそこに一気に生き物を移動するという計画になっている。葛西臨海水族園は幸運にも敷地が広いため、敷地内の余った部分で新たな施設を建築することができる。
現在の葛西臨海水族園では設備の老朽化が進んでいるだけではなく、バリアフリー対策が不十分な点や飼育スペースが狭いといった課題も抱えている。新たな施設では、バリアフリー対策も強化し、飼育ペースを広くすることも狙いだ。また、展示方法も見直される形となっており、多様な形状の水槽によって演出された展示空間に変更されることも見込まれている。
これまでの東京都の動き
東京都は数年間かけて建て替え計画を準備し、葛西臨海水族園整備事業を公表した。最初は2017年12月から5回にわたり専門家を交えた「葛西臨海水族園のあり方検討会」を実施している。その後、「海と人をつなぎ、海を守る水族園をめざして」という報告書がまとめられ、2019年1月に「葛西臨海水族園の更新に向けた基本構想」が策定されている。同時に「葛西臨海水族園事業計画検討会」も設立され、基本構想の実現に向けた準備が行われてきた。2019年12月26日~2020年1月25日の間に一般の方からの意見募集が行われ、これらの意見を反映する形で2020年10月に「葛西臨海水族園の更新に向けた事業計画」が公表された。
2022年8月には一般競争入札によって建て替え工事を行う事業者が決定されており、事業者はNECキャピタルソリューション株式会社を代表企業とするINOCHIグループと公表されている。
葛西臨海水族園の新たなあり方
新しい水族園は、「海と接する機会を創出し、海と人とのつながりを通して海への理解を深める水族園」を理念としている。従来の葛西臨海水族園には、「調査・研究」、「レクリエーション」、「教育」、「種の保存」の4つの機能があるとされていた。新しい水族園では、4つの機能を以下の6つの機能として再構築し、生まれ変わる予定である。
【新しい水族園の6つの機能】
・展示・空間演出
・収集・飼育・繁殖
・調査・研究
・レクリエーション
・学習・体験
・環境保全への貢献
水族園のあり方として、「展示・空間演出」と「環境保全への貢献」が加わった点が新しい点といえる。
新しい事業計画の概要
ここでは新しい水族園の概要について紹介する。
(1)マグロの展示
葛西臨海水族園といえば、マグロの展示を思い浮かべる人も多いと思われる。現在のクロマグロが群泳するドーナツ型の大水槽は、建築当初は国内最大規模となっていた。猛スピードで個体同士が一切ぶつかることなく泳ぎまわるクロマグロの展示は、何度見ても圧巻だ。新たな水族園でも、やはりマグロの展示が目玉のようである。
事業計画の中では、マグロをさまざまな角度から観察できる水槽形状が想定されている。ダイビングをしているときのような上下左右を水に囲まれた空間を体感できる構想が示されており、今以上に迫力のある展示が期待される。
照明や映像等によって見る人が水中にいるような展示方法が検討されており、マグロの展示は今以上に見ごたえのあるものになると思われる。
(2)サンゴの展示
新たな水族園では、サンゴの展示も強化されるようである。現在、サンゴは人間活動による地球温暖化を原因として、海水温の上昇によるサンゴ礁の白化現象が広がり始めている。新たな水族園のあり方では、「環境保全への貢献」が1つの機能として加わっている。展示を通じて来園者に海が置かれている状況の理解や必要な行動を促すことが機能の一つとされており、サンゴの展示は環境保全への貢献を具体化したものだ。
サンゴの展示は自然光や強い光源を確保し、明るい海とサンゴの鮮やかな世界を再現する予定となっている。薄暗い中のマグロの展示とは対比的な構造となっており、サンゴの展示も目玉の一つとなる見込みだ。
現在の葛西臨海水族園のサンゴは、エスカレーターを降りた最初の水槽で見ることができる。少し薄暗い空間にあり、水槽もそれほど大きくないことから、印象に残っていない人も多いかもしれない。
新しい水族園では、明るい空間でさまざまな角度からサンゴを観察できる水槽形状が検討されており、印象に残る展示に生まれ変わるものと期待される。
(3)施設規模
新しい水族園では、施設規模が拡張される予定だ。来園者共有スペースは約2,000平米から約2,600平米、飲食販売スペースは約1,300平米から約1,500平米、飼育スペースは約2,200平米から約2,700平米等、さまざまなスペースが拡張される。
来園したことのある人であれば、飲食販売スペースの拡張はうれしい改善に感じるに違いない。現在、1ヶ所のレストランは2ヶ所となり、スペースも約200平米増える。
現在の施設は食事スペースが十分ではなく、混雑時はなかなか食事をとることができないことも多い。飲食スペースが改善されれば、さらに快適な施設になると思われる。また、新たなレストランや売店は屋外景観を眺められる位置に配置されることが計画されている。現在のレストランは外を広く見渡せるといった位置にはないため、新しいレストランがどのような場所に配置されるかは気になるところである。
(4)その他
事業計画は大まかな方向性が示されているだけであり、個別の生き物の細かい展示方法までは記載されていない。例えば、新たな施設でペンギンがどのような展示になるか等の詳細は明らかにはなっていない。
ただ、フンボルトペンギン等の温帯のペンギンについては、「陸域と水中の動きの対比ができる水槽を確保する」と書かれており、現在の横から泳ぐ姿を見える水槽は引き続き確保されると見込まれる。事業計画を見る限り、新たな施設では現状の葛西臨海水族園の良さは維持され、さらに魅力的で利用しやすい施設になるようだ。
今後の予定
今後の予定は、2022年度から施設の設計および工事、開園準備が進められていく予定となっている。落札者となったINOCHIグループは2022年9月中旬に基本協定を締結し、2022年12月に第四回都議会定例会にて議決後に事業契約が締結されることが公表されている。
新たな水族館は、6年後の2028年3月に開園される予定だ。葛西臨海水族園のファンにとっては、新たな施設への期待が膨らむところだろう。
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