主演はキラキラの石原裕次郎、恋人役は後の妻、北原三枝

作家で元・東京都知事の石原慎太郎が亡くなった。
享年89歳。このニュースの中で、20代前半の石原慎太郎と弟の石原裕次郎(1934~1987年、享年53歳)が並ぶ写真を見て、裕次郎のあまりのキラキラぶりにこの映画を思い出し、見てみたくなった。1958年に公開された「風速40米(メートル)」だ。

建築や住宅、それを設計する「建築家」は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋(BUNGA NET編集長)が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづる。今回取り上げる「風速40米」は、主演の裕次郎が建築科の大学生を演じている。建築家ではなく、建築家の卵だ。

石原慎太郎原作の映画「太陽の季節」(1956年)でデビューした2年後の作品。恋人(義理の妹)役は、後の妻となる北原三枝だ。原作は慎太郎ではなく、松浦健郎が雑誌「平凡」に連載したもの。そういう映画があることは知っていたが、今回初めて見た。見たことのない人がほとんどだと思うので、まずはあらすじをざっと紹介する。

石原裕次郎は現場所長の父(宇野重吉)を尊敬する建築学生役

裕次郎が演じるのは北海道大学建築科に在籍する滝颯夫。正義感が強くて、けんかがめっぽう強く、同性にも異性にも「さっちゃん」と慕われている。

父(宇野重吉)は中堅建設会社、羽根田工務店の社員で、定年を間近に控えた技師長。「技師長」というのは聞き慣れない言葉だが、どうやら現場所長ということのようだ。颯夫は父を尊敬しており、羽根田工務店への就職を希望している。だが、なぜか父は大会社である和泉建設を強く勧める。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

「オレはどうしても大会社ってやつは苦手なんだよ。お父さんの会社はだめかな」(颯夫)
 
「お父さんの言う通り、和泉建設を受けなさい」(父)

夏休みに和泉建設の就職試験のために帰京した颯夫は、誰もいないと思った実家で見知らぬ若い女性と出くわす。父は最近再婚しており、その相手の連れ子、今日子(北原三枝)だった。今日子はかつて、暴漢にからまれたところを颯夫に助けられたことがあり、颯夫に恋心を募らす。

大会社にだまされた父がわざと工事を遅らせていた

父が現場を仕切る「新東都ビル」で、職員の墜落死事故が起こる。
現場の仮設足場の一部が脱落し、足を踏み外して落下したのだ。それ以降、ビルの建設工事はずるずると遅れる。羽根田工務店にとっては目玉のビッグプロジェクトだ。完成に間に合わず、信用を失って倒産するのでは、と社内では危惧されている。その一方で、何者かにより羽根田工務店の株の買い占めが進む。

実は、父は重役の椅子と引きかえに、新東都ビルの工事を遅らせ、会社乗っ取りに協力することを和泉建設の社長と約束していたのだ。職員の落下事故は、父が直接指示したものではないが、工事を遅らせるように部下の1人に言ったことが原因だった。

颯夫は、父が和泉建設の社長にだまされていることを暴く。父もそれを知り、せめてこの現場を工期に間に合わせようと突貫工事を始める。颯夫もそれを手伝う。工事の終盤、風速40mを超える台風が襲来。そんななかでも突貫工事を続ける颯夫たちを、現場の妨害を指示された暴徒集団が襲う。颯夫ら現場のスタッフは暴徒たちをばたばたと倒し、ビルを守り切る。

新東都ビルは工期通りに完成。落下事件の真相も明るみに出て、和泉建設社長は逮捕される。父は背任行為の責任を取って、羽根田工務店に辞表を出すが、颯夫は羽根田工務店への就職が決まる。

建築的ポイントのひとつは「未来のコルビュジエ」

と、そんな話だ。
「風速40米」というタイトルから、台風に襲われた建設現場を描く「五重塔」(幸田露伴が1892年に書いた小説)のような話かと思っていたのだが、全く違っていた。台風はクライマックスの大立ち回りを盛り上げるための演出で、特にビルの建設とは関係ない。そこは肩透かしな感じなのだが、それでもこの映画の“建築的ポイント”は大きく2つある。

ひとつは物語の序盤で、今日子が颯夫のことを、近代建築の巨匠、ル・コルビュジエ(1887 - 1965年)に例えること。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

この映画が公開されたのは、1958年(昭和33年)である。
コルビュジエの設計である東京・上野の「国立西洋美術館」が完成するのは、翌年の1959年だ。映画公開時に、一般の人はコルビュジエなんて誰も知らなかったと思われる。

それでも人気絶頂だった裕次郎の映画で、北原三枝が「未来のコルビュジエ」と口にすれば、インターネットがない時代であっても「コルビュジエって何?」と疑問に思い、いろいろ調べて建築に興味を持った人もいたに違いない。

現場の安全管理の緩さにあ然

そして、もうひとつのポイントは、北大で建築を学んだエリート学生が羽根田工務店へ就職して、建設業界を改革していくという未来を示して終わることだ。

この映画を見ると、建設現場の安全管理の緩さにあ然とする。
実態はどうだったのかは分からないが、足場が現在のような金属パイプではなく、丸太を針金で止めたものであったり、そんな現場にノーヘル(ヘルメットをかぶっていない状態)の颯夫が入っていったり……。一番「あぶな!」と思ったシーンは、現場の最上階付近で颯夫の父が煙草を吸うシーン。安全を司る現場所長でありながら……。今なら、即営業停止だろう。

全編を通して終始キラキラと輝いている石原裕次郎が、設計事務所ではなく建設会社に入社し、そんな緩すぎる安全意識や企業モラルを改革していくとなれば、当時、それに影響された人もいただろう。

ちなみに、映画が公開された1958年は東京タワーが完成した年でもある。
あくまで想像だが、舞台となる羽根田工務店は、東京タワーの工事を担当した竹中工務店がモデルなのではないか。
竹中工務店が現在、建設会社の中でもトップクラスの設計力や技術力を持っているのは、この映画の影響も少なからずあるのではないか、と思ったりするのである。

(イラスト:宮沢洋)(イラスト:宮沢洋)

■■映画「風速40米」
劇場公開:1958年8月
監督:藏原惟繕
原作:松浦健郎(雑誌「平凡」連載)
脚本:松浦健郎
音楽:佐藤勝
出演:石原裕次郎(滝颯夫)、北原三枝(滝今日子)、宇野重吉(滝敬次郎)、川地民夫(親友の根津四郎)、渡辺美佐子(根津の姉の踏絵)、金子信雄(和泉建設の社長)ほか
製作・配給:日活
97分/カラー/日本

公開日: