根強い、新築一戸建て需要
結婚したら家の建て時、というのは昭和の考え方?いえいえ、それは令和でも継続中だ。リノベーションという言葉の認知も広がるなか、住宅の購入意識は新築にこだわらず、中古住宅へのシフトがみられているとメディアで報じられている昨今。とはいえ、新築一戸建てへの需要は根強く残っている。
データを見れば一目瞭然。2021年10月の新設住宅着工戸数は、前年同月比10.4%増の7万8004戸で、持ち家が12ヶ月連続で増加しており、分譲住宅は2万836戸(同0.6%減)と先月の現象から再びの増加となっている(※国土交通省 建築着工 統計調査報告 2021年11月30日発表)。
そのなかでも、購入者にとっては「分譲住宅」のメリットはとても大きい。土地と建物のセット価格のため、注文住宅よりも資産計画が立てやすく、ローンが組みやすいからだ。
ニュータウンと呼ばれる郊外に建設された新しい市街地では、多くの集合分譲住宅が立ち並んでいる。そこには同世代の家族が集い、コミュニケーションが営まれているケースも多い。地域によっては空き家問題が取り沙汰されたりとさまざまな議論もあるが、今後もある程度需要が見込まれている業界なのだ。
集合分譲住宅だからこそ面白い、建築家が関わる理由
改めてになるが、「分譲住宅」とは、分譲住宅地に同じような形状・仕様で複数建てられ、区分でそれぞれ販売される住宅のことを示す。よく比較される「注文住宅」は購入者の意向によりオーダーメイドで設計されるもので、「分譲住宅」とは区別される。その大きな違いは、設計段階での自由度だ。素材選びや間取りのアレンジなど、こだわりが反映できる自由度が高い分、注文住宅は価格も高くなりがちだ。
「分譲住宅」はコスト重視の建築設計となるため、仕様(仕上げ材など)が極端に制限され、必然的に仕様のバリエーションは限定される。○LDKなどの間取りの構造も絶対的となるため、空間アレンジも画一的になりがちだ。けれどその分、一般の購入者が暮らし方をイメージしやすく、購入しやすい価格だという大きなメリットがある。これは住宅会社にとっても、建物を売り抜くために重要な条件であるのだ。
建築設計の自由度が低いこともあり、建築家がなかなか立ち入らない分譲住宅業界。有限会社ランドサット一級建築士事務所はこの業界に一石を投じている会社のひとつだ。2021年には、地方の住宅会社と共同で開発した分譲住宅の2案件が、「2021年度グッドデザイン賞」を受賞。画一的になりがちな集合分譲住宅が作り出す街の景観に、ひと味異なる工夫と面白みを加えている。
ちなみに、有限会社ランドサット一級建築士事務所は、分譲住宅設計専門の設計事務所ではない。ビルディングタイプのオフィスやマンション、注文住宅にも携わる中で、 代表取締役 安田利宏氏はひとつ気づいたことがあったという。
「分譲住宅には、建築家の好む“自由度”は確かに少ないです。しかし、一歩引いて考えてみると、複数住戸の設計に一度に携われることで、建築設計を通して住戸間の関係性、その延長に街並みのデザインにも関与できる面白みがあると感じたのです」
選び方、組み合わせ方、ずらし方で、建物に特徴をつくる
もちろん分譲住宅の設計において、建築家による設計事務所が関わるからといって、高額なものになってはいけない。価格的にも競争力があり、住宅会社がしっかりと販売できる状態にする必要も伴ってくる。
設計上の制限も多く、限られたコストの中、具体的にどのような点で建築家が活躍するのだろうか?
「仕様(仕上げ材など)は、依頼先の住宅会社が決めたものから選択します。例えば、多くの分譲住宅の外壁に使われるサイディング一つをとっても、種類は豊富にあります。外壁、雨樋、屋根などに、どんな形状、色みの素材を選ぶかという小さな積み重ねが、仕上がったときにトータルデザイン面での大きな差を生み出します」
さまざまな建築に携わる建築事務所だからこそ持ち合わせるセンスと目線。それらを分譲住宅設計にも応用して、設計に落とし込むことが建築家だからこそできることなのではないかと安田氏は話す。コーディネートの仕方で、全体の見え方が変わってくる。シンプルな服をどれだけおしゃれに着こなせるか、といったような感覚に似ている。
実際に、具体的な物件事例を見てみたい。
「バードタウン坂本レイクゲートヒルズⅣ期」は、琵琶湖西部、大津市坂本に建つ北向き4戸の分譲住宅。目を引くのは外壁デザインだ。シンプルな白一色で周囲の景観と比べて際立たせている。使用した建材は一般的な分譲住宅に使われるものだが、建物を凹凸にさせることで特徴的に仕上げている。
また、住宅を一般的に道路と平行に配置するところに、角度を20度振ることで住宅の正面性に変化を与えている。これによって、より多くの採光を確保でき、隣家間のプライバシーの保持も叶った。目線を少し変えるだけで、よりデザイン性の高い住宅が実現している。
土地のデメリットをどう生かすか?
京都府南部・木津川市のニュータウン内の分譲住宅である、「ヨッシーワンズガーデン木津梅美台・リンクプロムナード」。敷地の半分弱が、30度の斜面地という課題がある土地だ。敷地境界線はそのままで、仕切り方を変えることで変化をつけた。居住者が共同利用できる菜園やデッキテラスなどを用意し、高低差のある住民交流の場を設けた。外構空間で使い道のない土地を、横につなげることでデメリットをメリットに変えている。
「ヨッシーワンズガーデン上津台・IRODORI~彩~」は、神戸市北区のニュータウン内にある分譲住宅。北側の傾斜地であり敷地すべてが変形地という、特徴的な土地だ。敷地の勾配が一定でないだけでなく、すぐ隣には自然のままの雑木林が広がっている。
この景観を逆に生かしてはどうか?というアイデアから、テラスを設け自然と触れ合い、住居内から北側に広がる里山的な風景が楽しめるようにした。別荘とはいかないまでも、都心と離れた立地条件を加味した。大人の購入者層を意識して、設計は渋めのデザインに仕上げている。
素材の組み合わせや、必要な間取りは担保しながらもどのように“魅せるか”を重視し、デメリットになる宅地や周辺環境をあえて活用するなど、要所要所に建築家ならではの視点や問題解決能力が生かされている。
地域産業の発展という視点から、建築家ができること
分譲住宅市場は、大手ハウスメーカー、全国規模の住宅ビルダー、地域の住宅会社という3大勢力に大別できよう。ハウスメーカーにはブランド力、全国規模の住宅ビルダーは価格面の強みがある中で地域の住宅会社は不利な状況にある。「地域の住宅会社の業績というのは地域産業にも直結する。地域産業の発展という視点からも、地域の住宅会社の底上げは急務だ」と安田氏は考えている。
それは、工務店の下にいるクロス屋や大工、外構工事業者の存在だけでなく、新築への引越しに伴う経済活動も含めて、住宅産業の裾野は広い。
「弊社が手がける分譲住宅の多くが、地域の住宅会社の案件です。大手の住宅会社に比べ知名度が低い分、どう付加価値を出すかは死活問題です。これまで、グッドデザイン賞を受賞したことで、住宅会社の営業担当が、新しい取り組みをしている住宅だと顧客に向けて自信を持ってアピールできるようになったという声もあります」
また、こういう取り組みが知られることで分譲住宅の質の良さが見直され、全国に広まることも、分譲住宅の底上げにつながるともいえよう。デメリットをメリットに引き上げられる可能性のある土地や建物は、地域にまだまだ眠っていそうだ。
「分譲住宅地には、傾斜地や崖地など難しい宅地も多くあります。住宅会社から見ると諦めたくなるようなマイナス要因でも、デメリットをメリットに変えられるのが専門家。難しいからこそ、建築家の知識が役立てる余地があると考えています。普段からさまざまなジャンルを横断する建築家や建築設計会社こそ、分譲住宅の設計に携わる意義があるのではないでしょうか」
集合分譲住宅に人が住むということは、そこで生活が育まれ、街がそこに誕生するということ。街の景観が魅力的になるということは、家や暮らしに対する住人の視座が高くなるという複利もありそうだ。目線を変え、細部に工夫を施すことで、分譲住宅も目新しく変えられる余地がある。さまざまな知識を持つ建築家の方々、ぜひ分譲住宅業界で力を発揮していただきたい。
公開日:














