不動産IDとは
不動産業界の新たな動きとして、国土交通省によって「不動産ID」の整備が検討され始めている。不動産IDとは、1つの不動産に関するさまざまな情報を紐付けるための固有番号のことである。
1つの不動産には登記情報や設計図、修繕履歴情報、インフラの整備状況、都市計画情報等のさまざまな情報が存在している。これらの情報は、現在、別々のデータベース上に存在しており、紐付けられていない。各情報は分散して存在するため、不動産取引に必要な情報入手に手間や時間がかかっている状況がある。
例えば、「東京都港区○○12-3」という不動産を売却するとする。「東京都港区○○12-3」の売却をするために、A社とB社、C社の3社に査定を依頼したとしよう。現在ではA社とB社、C社は、それぞれ査定に必要な登記情報や過去の取引履歴、インフラの整備状況、都市計画情報といった情報を独自に収集している。各社の基本情報の収集の結果は同じになるが、「東京都港区○○12-3」という物件を売るための情報が紐付けされていないため、各社がそれぞれ情報収集に手間と時間をかけなければいけない状況にある。人間が情報収集するため、場合によっては間違った情報を集めてしまうことすらある。
IT化が進んだ現代社会においても、不動産業界では公開情報すら人海戦術で収集しなければならない状況が残っており、業務の効率化が進んでいない。今後、労働人口が減少していく日本では、1人1人の生産性を上げていくことが急務であり、各社が行っている非効率な作業はテクノロジーの力を借りて効率化することが求められている。
仮に「東京都港区○○12-3」に固有のIDを付与し、そのIDを入力したら登記情報や地図情報、修繕履歴情報、インフラの整備状況、都市計画情報等の不動産取引に必要な情報が一気に表示されたら非常に便利だ。現在、不動産会社が情報収集に大きな労力がかかっている部分が簡略化されれば、労働生産性が向上されることも期待される。
なお、「ID」という言葉が出てくると、国が何か個人の資産を管理するのではないかというイメージを持つ人もいるが、不動産IDは国が不動産を一元管理することを目的としたものではない。不動産IDは、あくまでも散逸しているデータを紐付けすることで、利用者がより便利に情報を活用できることを目的としている。
不動産IDが検討されている背景
2020年7月の閣議決定により、国は成長戦略分野として「データ駆動型社会に向けた情報の整備・連携・オープン化」を進めている。不動産IDも国が行うデータ整備・連携・オープン化事業の一つである。
データ整備・連携・オープン化とは、例えば乗り換え案内を考えるとわかりやすい。1つの駅には「A駅のB社の鉄道時刻表」や「A駅のC社のバス時刻表」といった異なるデータが別々に存在する。
同じ駅に関連する時刻表は、一元的に扱うことができれば鉄道からバスへとスムーズに乗り換えをしやすくなる。
昨今は、乗り換え案内の無料アプリがあるが、これらのサービスは別々に存在していた各社の時刻表データを整備し、連携してオープンにしたことで実現している。データベース上で「A駅のB社の鉄道時刻表」と「A駅のC社のバス時刻表」を紐付けるには、「A駅」の情報であることを識別できるコードが必要であり、それはA駅の「駅ID」といったことになる。同じ駅の異なる会社の時刻表のように、別々に存在していたデータを結びつけると利便性が一気に向上することがある。国が推進しているデータ整備・連携・オープン化事業とは、国民に利便性をもたらすことを目的としており、一元管理が目的ではない。
散逸している不動産情報を結び付けるには結び目に共通の識別コードが必要であり、それが不動産IDなのだ。
これまでの動き
2021年12月現在において、国土交通省は既に不動産IDルール検討会を2回実施している。本検討会は、2020年7月17日に閣議決定された規制改革実施計画のうち、「データ駆動型社会に向けた情報の整備・連携・オープン化」が根拠となっている。
不動産IDルール検討会は、第1回は2021年9月24日、第2回は2021年11月10日に実施された状況だ。今までの検討会では、事業者や業界団体へのヒアリングや、データの連携について関係府省と意見交換を実施している状況である。
検討会の構成メンバーとしては、全国宅地建物取引業協会連合会等の業界団体や、不動産ポータルサイト(物件広告サイトのこと)の運営会社、IT企業、弁護士、大学教授等が参加している。
第1回の不動産 IDルール検討会の議事概要
https://www.mlit.go.jp/common/001428563.pdf
を見ると、「不動産IDに係る方針については基本的に賛成」となっており、方向性としては概ね賛同を得ている状況にある。既にID化された後の前向きな検討事項が議論されており、不動産IDが整備される実現性は高いといえる。
不動産IDが整備化されるメリット
不動産IDの整備にはさまざまなメリットが期待されている。
まず、不動産会社は直接的に恩恵を受けるものと思われる。
不動産IDによって情報が紐付けされれば、各社が仲介等で行っている情報の収集や名寄せにかかる労力を大幅に削減できる。意外に思うかもしれないが、不動産会社は対象物件の場所を特定するだけでも時間を要しているときがある。
不動産には「地番」と「住居表示」という2つの標識が存在し、地番と住居表示は必ずしも一致しないことが多いことから、場所の特定までに時間がかかることがある。場所を特定した後は、水道やガス、下水といったインフラの整備状況の調査にも時間がかかっている。上水道は都道府県が管轄している広域事務所、下水道は市区町村、ガスは民間会社がデータを有しており、それぞれ別々に調べなければならない。
都市計画情報もホームページで公開している自治体もあれば、公開していない自治体もあり、物件に応じて個別の対応をすることが必要だ。基礎的な情報収集はどの会社がやっても結果は同じなのであるが、実は各社ともかなり手間がかかっており、この基礎調査の労働生産性は確かに低い。不動産IDによって不動産の基本情報が一発でわかるようになれば、不動産会社にとってかなり喜ばしいことである。
また、不動産IDは消費者も利便性が向上すると考えられている。
不動産がID化されることで、不動産ポータルサイトに重複して掲載されている物件が同じ物件であることが判別しやすくなると期待されているのだ。不動産ポータルサイトは複数のサイトが乱立しているため、1つの不動産会社が同じ物件を複数のポータルサイトに掲載することはよくある。利用者は、別のポータルサイトで似た条件で物件検索を行うため、同じ物件がヒットすることは多い。
別のポータルサイトでヒットすれば、利用者にとっては別の物件と思ってしまうこともあり、同じ物件であることを認識するまでに時間を要してしまう。一方で、同じポータルサイトでも複数の不動産会社が同一物件を掲載していることもあり、同一物件であることが認識しにくくなっているケースもある。
現状では消費者が不動産ポータルサイト上で同じ物件であるかどうか認識しにくい状況があるが、不動産IDが付与されれば同一物件であることがすぐに判別できるようになる。
取引が終わった物件広告がすぐに排除される仕組みも整えば、消費者の誤認を未然に防げることも期待される。
不動産IDの整備化に向けた課題
不動産IDに関しては、直近ではどのような番号を付けるかが課題となっている。
現状では、既に各不動産の登記簿に13桁の不動産番号が付されており、この不動産番号を利用することが考えられている。
ただし、不動産番号は1つの不動産に対して1つの番号しか付されていないことから、例えばアパートの各部屋に固有の不動産番号は存在しない。また、オフィスビル等も各フロアや各貸室に不動産番号は存在しない状況となっている。
逆に区分マンションでは区分ごとの不動産番号は存在するが、マンション全体の不動産番号は存在しない。不動産をユニークに特定できる番号は今のところ存在せず、番号は新たにルールを作る必要性が出てきている。
ユニークな番号ができたら、その次はIDを誰がどのように管理し、どこまで情報をオープンしていくかが今後の課題となっていくだろう。
今後の予定
今後の予定は、1~3ヶ月に1回のペースで検討会が実施される予定である。2021年度末には不動産IDのルールがまとめられ、2022年度以降に順次運用が開始されていく見込みである。
運用の開始にあたっては、恐らく国から運用ルール等のガイドラインが示されるものと予想される。前向きな取組みであるため、便利で利用しやすい運用となることを期待したい。
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