京都の花街を支えてきた、100年以上の歴史を持つ宮川町歌舞練場の解体
京都といえば、舞妓さん。修学旅行生や観光客が、憧れの心を抱いて訪れるお茶屋街。京都市内を悠々と流れる鴨川の東側、四条通から五条通にある宮川町は、江戸時代に栄えた花街と呼ばれるエリアのひとつだ。宮川の町名は、八坂神社の祇園祭の際に、神輿洗いが行われる鴨川の四条大橋下流を「宮川」と呼んでいたことに由来するそう。
改めて説明すると、花街とは、歌舞、音曲を専門とする芸妓・舞妓がお茶屋の座敷で、芸を提供する場所だ。同地域にある「宮川町歌舞練場」は、芸妓・舞妓が歌や舞踊、楽器を練習する場でもあり、劇場として代々活用されてきた場所として100年以上の長い歴史がある。毎年4月には「京おどり」、10月には「みずゑ會」などで宮川町歌舞会の舞妓、芸妓による舞踊公演がおこなわれてきた。この時しか見ることのできない、宮川町の芸舞妓が総出演する華やかな踊りは、伝統を感じられる催しだとして海外旅行客にも人気がある。
年々老朽化が著しくなってきた「宮川町歌舞練場」。2021年9月に解体することが決定した。ちょうどその裏手にあるのが「元新道小学校跡地」。美術系アーティストが制作スタジオとして、また地域の集会所としても使われていた場所だ。この宮川町歌舞練場と元新道小学校跡地を合わせて解体し、“街の記憶の継承”と“新たな共存価値”の創造を事業コンセプトとするプロジェクトがスタートすることとなった。
「元新道小学校跡地活用計画」で求められる、伝統的な街並みと新たな賑わい
「元新道小学校跡地活用計画」と呼ばれるプロジェクトは、NTT都市開発株式会社を事業者として実施し、京都市・新道自治連合会および宮川町お茶屋組合と協議しながら進める。具体的には、宮川町歌舞練場を建て替えるとともに、元新道小学校跡地にホテルを新築し、小学校の面影を一部継承した地域施設を新築するというものだ。完成予定は、2025年夏。目指すのは、花街文化の発展と地域の新たな賑わいづくり。地域の歴史と文化を継承しながら、新たな人の流れを生む回遊性のある、一体的な街づくりを実現していく。
これまでにも、NTT都市開発は京都におけるホテル開発に多く携わってきた。例えば、大正15年に建てられた電話局をリノベーションした「新風館」を再改修して、アジア初上陸となる「エースホテル京都」を誘致し、店舗・映画館からなる複合施設を2020年に開業させたことも記憶に新しい。
今回設計監修に携わるのは、隈研吾建築都市設計事務所。歌舞練場、ホテル、地域施設の3施設を新道通に沿って整備し、宮川町の伝統的な街並みに溶け込む新たな賑わいとなる拠点を生み出していく。
ホテル・歌舞練場・地域を回遊しやすくする新たな小路
宮川町歌舞練場と元新道小学校跡地は、どのように改修されるのだろうか?2021年9月14日に開催された「元新道小学校跡地活用計画 事業発表会」で、隈研吾氏が登壇した。
宮川町歌舞練場の地域のシンボルでもある大屋根は再利用され、伝統の街並みになじむ外観が維持される。またエントランスでは、大正時代の唐破風(からはふ)を復元し、宮川町の元来の魅力を再現。現在まで、宮川町歌舞練場の舞台で使用していた照明・幕をつるす装置である竹すのこを、新しい歌舞練場のホワイエ天井に移設し、歴史を継承する。
さらに、宮川町歌舞練場の出入り口を移動させ、ホテルとなる元新道小学校跡地と道路対面にさせる。大和大路通、新道通、宮川町通の南北の通りに対して、東西に人の流れを生むような建物の配置を行い、さらに宮川筋・新道通りをつなぐ新たな小路も作られることで、地域の回遊性を向上させる。
元新道小学校跡地は、全89部屋のホテルに変わる。元新道小学校跡地に現存するシダレザクラを移植し、地域の記憶をつないでいく。外装にも宮川町歌舞練場の装飾を継承し、入り口では、木組みの大庇と竹のアプローチがゲストを迎えてくれる。
また今回、新たな賑わいと地域活性化の拠点を作るという意味で、特徴的なのが、地域施設ではないだろうか。その小路の向かい側に作られる地域施設には、自治会スペースや児童館、多目的室が併設される。今後は、地域の防災拠点としても活用されるため、防災倉庫なども配置される予定だ。
宮川町の茶屋様式の町家と周辺の景観との調和を図るために、既存建物の特徴を生かしたデザインや、既存施設で使われていた素材を新施設に組み込む再活用など、 随所に街の記憶が感じられる施設になりそうだ。
ICTの活用も視野に。花街文化を発展させ観光需要を復活させたい
また今後、これらの施設において、NTTグループの強みである ICTも最大限活用されるそうだ。さまざまなサービスや付加価値を提供することにより、花街文化の継承・発展や新たな賑わいづくり、防災力強化にも貢献していく。すでに、宮川町歌舞練場で開催された「京おどり」がバーチャル映像技術によって保存され、花街文化の体験を発信していく実験も行われている。今後はホテルと連携して、地域の花街文化と融合しやすい仕組みづくりにも力を入れる予定だ。
地域施設においても、子どもも大人も共に楽しめるデジタルコンテンツを導入し、世代を超えた新しい地域コミュニティの醸成も計画中だという。
前述の「元新道小学校跡地活用計画事業発表会」に登壇した、宮川町お茶屋組合・組合長の駒井文恵さんも、本計画に期待を寄せている。
「昨年は新型コロナウイルスの感染拡大防止により、京おどりは中止となりました。私たちが担う伝統産業にも少なからずの影響が出ています。私たちにとっても試練の年が続いていますが、進化の時だと前向きに捉えています。花街文化は、2014年に京都をつなぐ無形文化遺産として評価され、2020年には日本遺産である『候補地域』の候補になりました。2025年夏の完成に向けて、より一層花街文化の発展に努力していきたい。このプロジェクトにより、花街文化や残された景観を価値と感じていただき、観光需要を呼び戻すきっかけになってもらえたらと期待しています」
今後、宮川町お茶屋組合とホテルが連携する、新しい仕組みづくりに取り組んでいく。コミュニケーションロボット「OriHime」等を活用した、遠隔からお茶屋体験ができるサービスの検討も始まっている。「OriHime」を通して、海外観光客に対しての通訳も可能だという。その他具体的な連携内容は、2025年までに詳細を詰めていく予定だ。花街文化の価値を高め、新しい京都観光の呼び水となることを期待したい。






