イベントのレガシーとしてのインフラ整備
1970年、大阪府北部の千里丘陵を切り開き開発された会場で、日本で初めての世界的な博覧会が開催された。
半年にわたり開催されたこの国際イベントは、延べ6,000万人超の入場者を数えた。日本国民の半分が入場した計算だ。大阪ではこの一大イベントに向けて、膨大な入場者の輸送を目的に道路や鉄道などのインフラ整備が、一気に進んだ。新御堂筋や中央環状線、地下鉄の延伸といったアクセスの整備で実現したスムーズなトラフィックは、イベント後も良質な住宅開発、商業施設開発を呼び込み、大阪の北摂地域は地価の高騰による資産価値も高め、イベントの遺産はその後の関西経済成長の原動力となった。
今回、政府の国際博覧会推進本部は、2025年に開催される国際イベントに関連するインフラ整備計画を決定した。大阪府や地元経済界の要望を受けて、会場となる人工島の夢洲(ゆめしま:大阪市此花区)への大阪メトロ中央線延伸や関西空港の機能強化などが盛り込まれている。
政府によるインフラ整備計画には、以下のように3つのコンセプトがある。
インフラ整備計画のコンセプト
〇大阪・関西万博の円滑な開催を支える
〇大阪・関西万博の開催の効果を高める
〇地域の社会経済活動を支える成長基盤
2025年のイベント開催を後押しし、イベントの円滑な開催を支援すると同時に、関西経済の成長を公共投資で支える狙いがあるのだ。
早速、中身を見てみよう。
陸・海・空からイベント会場へのアクセスを整備
具体的な整備計画は5つの柱からなる。
◇会場周辺のインフラ整備
イベントの円滑な開催を支えるために、旅客輸送力の増強や交通円滑化を図る。港湾における道路、鉄道などの基盤整備、稼働中の夢洲コンテナターミナルなど物流機能の強化をめざす。
その内容としては
1.大阪メトロ中央線延伸(鉄道南ルート)
2.阪神港におけるコンテナ物流の効率化(AIターミナル)
3.水上交通ネットワークの整備
などが挙げられている。
大阪メトロ中央線は、現在の終点「コスモスクエア」駅から3km延伸し、海底トンネル(夢咲トンネル)で会場の夢洲に至るルートとなる。もともと2008年の国際的スポーツイベントの招致に際して、コスモスクエア駅から夢洲駅、舞洲駅(仮称)を経て、新桜島駅(仮称)に至る7.5kmの第1種鉄道事業の許可をOTS(株式会社大阪港トランスポートシステム)が取得していたものの、招致失敗で凍結されていた。今回、その工事を一部再開する形だ。
阪神港では、「新・港湾情報システム(CONPAS)」の導入により、コンテナターミナルのゲート前混雑の解消や、コンテナトレーラーのターミナル滞在時間の短縮を図る。
水上交通ネットワークの整備では、夢洲に係留施設を整備し、関西国際空港や神戸空港をはじめとする他エリアから会場への海上アクセスを確保する。
◇会場へのアクセス向上
会場へのアクセス向上のため、鉄道・道路・空路・海路の交通インフラを機能強化する。主要ルートとなる高速道路などに接続するアクセス道路や、隣接府県から大阪府域へのアクセス道路の機能強化が図られる。
主なものとしては、
1.関西へのゲートウェイとして国際線機能を強化するため、関西国際空港をリノベーション
2.阪神高速道路の淀川左岸線(2期)の整備を前倒し、新大阪駅・大阪駅からイベント会場までのシャトルバスルートとして暫定利用
など。
2018年度に国際線で年間約2,300万人の利用実績のあった関西国際空港は、第1ターミナルのリノベーションにより、年間4,000万人のターミナルキャパシティを創出する。
海老江JCTから新御堂筋と接続する豊崎出入口(仮称)を結ぶ阪神高速道路の淀川左岸線(2期)は、もともと2026年度末に完成予定であったが、工事を前倒しし、イベント会場へのシャトルバスルートとして活用する。現在、新大阪から35分を要する会場へのアクセスが19分となり、約46%の短縮を見込む。
淀川舟運の活性化などで、インバウンドの回復へも寄与
◇安全性の向上
アクセスルートの安全性の確保や施設の耐震化、災害時の活動拠点の整備などにより、安全・安心なイベントの開催を確保する。
主に、
1.南海トラフ地震を想定し大阪市内の河川・海岸等の耐震対策により、大規模災害に備える
2.大阪駅前地下空間の防災・減災対策(大阪駅前地下道東広場)
3.大阪メトロ御堂筋、中央線全駅ほか、JR西日本、民鉄主要駅でホームドアを整備
など。
大阪駅前地下道東広場は、建設後80年以上が経過しており、イベント開催を機に更新する。その他、緊急交通路の無電柱化で、災害時の電柱等の倒壊による道路寸断などを防止する。
◇にぎわい・魅力の向上
都心部や来場者の宿泊地域で、街のにぎわいを醸成し交流促進を図る。
1.うめきた2期開発(新駅、東海道線支線地下化、公園)
2.淀川舟運活性化(淀川大堰閘門等)
3.道頓堀川・東横堀川の水辺魅力空間づくり
4.難波宮跡公園の整備
5.天保山クルーズ客船受入機能強化
6.なんば駅周辺における空間再編
うめきた2期開発は、大阪駅北側の梅田貨物駅跡地を再開発。「みどり」と「イノベーション」の融合拠点として、広大な空間を誰もが容易にアクセスできる緑豊かなオープンスペースとする。また、これまで関西空港方面と京都方面を結ぶ特急列車は大阪駅を経由できない構造であったが、この開発によって新駅を設置。大阪駅への停車が実現する。
他には、淀川大堰閘門を整備し、イベント開催時には「淀川舟運」を復活。大阪~淀川上流をつなぐ広域的な交通ネットワークを形成する。道頓堀川など市内中心部の河川でも、新たな水辺空間の整備と安全性の高い水処理技術の導入に取組み、水の回廊の連続性を高めることで、にぎわい・魅力の向上を図り、コロナ禍で大きなダメージを受けたインバウンドの回復へ寄与する。
◇広域的な交通インフラの整備
大阪・関西の成長基盤となる広域的な交通インフラの強化を目指し、道路ネットワーク、鉄道・軌道の整備を推進する。
1.梅田から関西国際空港へのアクセスを改善するなにわ筋線整備
2.大阪モノレール延伸
3.新名神高速道路など広域幹線道路の整備等
会場アクセスを除く鉄道では、なにわ筋線を整備。梅田から関西国際空港へのアクセスが、現状の60分程度から40分程度に短縮する。さらに、大阪都心の外縁を結ぶ大阪モノレールを、現在の終点門真市駅からさらに南の瓜生堂駅(仮称)へ延伸することで、大阪東部における都心を経由しない移動を実現する。
道路の面では、新名神高速道路などの整備により、大阪・関西地域の社会経済活動の活性化、大規模災害等に備えた強靭な国土づくりにも寄与する。
コロナ禍からの復興期に、地元経済からも期待されるインフラ整備
今回の国際イベントのコンセプトは「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」とされている。デジタル技術や次世代モビリティなど、最先端の技術や社会システムを会場の運営・展示等に活用し、未来社会を具体的に提示するのも事業の一つだ。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などの技術で、会場を訪れることのできない人でも会場外からイベントを体験できる予定だ。
2025年といえばコロナ禍からの復興途上かもしれない。リモートワークなどの新生活様式が、イベントの提示する未来社会とどのような親和性をもつのか、興味は尽きない。
先日示されたインフラ整備計画は、紹介したように多岐にわたる。道路や鉄道といった会場周辺へのトラフィック向上を目指すもの。災害大国日本の社会資本にとって、欠くことのできない防災・減災を目指し、より公共施設の安全性向上に関するもの。にぎわいを創出し地元経済の発展に寄与する街づくりまで。
一見すると、イベント本体が垣間見せてくれる未来社会とはかけ離れた従来型の社会資本整備に見える。が、しかし冒頭に書いたように、大阪にはかつてのイベントレガシーが、その後の経済に大きなメリットをもたらした経験がある。果たして2025年以降はどうなるのか。少なくとも地元にとってインフラ整備という投資をきっかけに、関西経済の盛り上がりを期待する声は極めて大きい。
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