2050年までに脱炭素社会が実現できれば世界の平均気温上昇は1.5℃程度に抑えられる
近年、世界規模で甚大な被害をもたらす水災害が頻発している。世界気象機関と国連環境計画によって設立された組織IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)は、このような気候変動の要因として温室効果ガス濃度の増加による地球温暖化をあげている。その一例として国土交通省の社会資本整備審議会では、200人以上の犠牲者を出した平成30年(2018年)7月豪雨の陸域の総降水量は、温室効果ガスの増加によって6.5%増えたと試算している。
また、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて、実質的にゼロにすることをカーボンニュートラル(脱炭素社会)という。IPCCでは、世界全体で2050年までにカーボンニュートラルが実現できれば、世界の平均気温上昇は1.5℃程度に抑えられ、極端な高温現象や豪雨の頻度を低くすることができるとしている。
このような背景から国土交通省、経済産業省、環境省は、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表した。その中の住宅に関することを解説しよう。
ストック平均でZEH基準のクリアを目指す
まず、目指すべき住宅の「あり方」は次のように示されている。
2050年に目指すべき姿
ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅では太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること
2030年に目指すべき姿
新築される住宅・建築物についてZEH基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること
ZEHとはNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、断熱性能の大幅な向上、高効率な住宅設備の利用、太陽光発電システムなどの導入による再生可能エネルギーの活用によって、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅だ。
断熱性能はUA値(外皮平均熱貫流率)という指標で表される。UA値は数値が低いほど断熱性能が高いことになり、ZEH基準では0.4~0.6W/m2Kを下回ることが求められる。この基準は地域によって異なり、例えば東京23区の場合は0.6 W/m2Kとなっている。
「ZEH基準の水準の省エネ性能」とは、再生可能エネルギーを除いた省エネ性能のこと。なぜ除くかというと屋根の形状や立地条件などによって太陽光発電システムなど創エネ設備の導入が困難な場合があるからだ。
2025年度には省エネ基準が義務化に
「2030年までに新築住宅は基本的にZEH基準をクリアする」。いくら地球環境のためとはいえ、あと10年足らずでこの目標を達成するのは難しいかもしれない。そこで「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」では、上記の「あり方」を実現するために以下の「進め方」も設定している。
・2025年度に住宅を含めた省エネ基準への適合義務化
・遅くとも2030年までに省エネ基準をZEH基準の水準の省エネ性能に引き上げ、適合義務化
・将来における設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、太陽光発電設備の設置促進の取組を進める
省エネ基準とは、国が定める省エネ住宅性能の目安のこと。具体的には外壁や窓の断熱といった外皮性能と一次エネルギー消費量の2つの基準で評価する。
外皮性能には、前述のUA値が用いられ、東京23区の場合は0.87 W/m2Kとなっている。つまり、「2030年にZEH基準(0.6 W/m2K)をクリアしたいから、その前の2025年には省エネ基準(0.87 W/m2K)をクリアしておきましょう」ということだ。
一次エネルギー消費量に関しては、対象となる住宅の設計一次エネルギー消費量が、一定基準(基準一次エネルギー消費量)以下になることが求められる。
「ZEH=建築費アップ」なのか?
このように段階を踏んで住宅の省エネ化が進めば、地球温暖化を防げるだけでなく、室温が一定で快適な住空間に住まう人を増やすことになる。だが、「高性能になる分、建築費もアップするのでは?」と心配する人も多いはずだ。しかし、現在でもZEHの新築には補助金が出ている。今回「あり方・進め方」が公表されたことで、今後も期待できるだろう。
参考:
令和3年度 戸建住宅ZEH化等支援事業
また、省エネ住宅は光熱費が低く抑えられるので、多少建築費が高くなっても、長い目で見れば取り返せる可能性も高い。したがって、コストアップに関してはそれほど気にする必要はないだろう。
2020年の義務化は見送りに。今度こそ実現を
それよりも心配なのは、本当に省エネ基準やZEH基準が義務化できるかどうかだ。実は2020年にも省エネ基準は義務化されることになっていた。それが「中小工務店を中心に省エネ基準を習熟することができない」などの理由で見送りになった経緯がある。「習熟できなければ勉強すればいい」と思えるかもしれない。しかし、地方の不動産関係者と話をすると「今もメールを使えない工務店(親方)がいる」という声も聞く。確かに、一次エネルギー消費量の計算はパソコンの専用プログラムを使用することになり、簡単とは言い難い。全国の住宅会社に対して省エネ基準住宅の施工方法をマスターしてもらうのは、実は非常にハードルが高いのだ。国もそのことは十分承知しており、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」にも、「地域の実情を踏まえた断熱施工に関する実地訓練を含む技術向上に対して支援する」と書かれている。このような支援を徹底させて、今度こそ地球環境のために義務化を実現してほしい。
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