直面している危機を乗り越えるため、施策を総動員

社会的課題へ対応する、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する公共交通が求められている社会的課題へ対応する、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する公共交通が求められている

交通政策基本計画とは、交通政策の基本的な方向性を示し、関連する施策を総合的・計画的に定めるもので、交通政策基本法に基づいて作成されることになっている。2015年に初めての計画となる第1次計画が策定され、その期間が2020年度末までとなっていたことから、2021年5月に第2次交通政策基本計画が閣議決定された。

人口減少や超高齢社会、防災や国土強靱化、デジタル化、カーボンニュートラルといった社会的な課題に、新型コロナウイルス感染症の拡大が重なったこともあって、第2次計画は、交通が直面している危機への対応に力点を置いたものになっている。基本的な方針には、「危機を乗り越えるため、多様な主体の連携・協働の下、あらゆる施策を総動員して取り組み、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する“次世代型の交通システム”へ転換」を掲げ、次の3点を柱としている。

A:誰もがより快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保

B:我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化

C:災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現

5年前に策定された第1次計画には、「旅客交通・物流のサービスレベルをさらなる高みに引き上げる」「訪日外客2000万人に向け、観光施策と連携した取り組みを強める」といった目標が掲げられていて、今さらながら、交通をめぐる状況の変化を実感させられる。

社会的課題へ対応する、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する公共交通が求められている

事業者の連携や、ダイナミックプライシングを促進

広島市では、1997年に複数のバス事業者と市が協議し、路線網の見直しやサービス連携を模索したが、公正取引委員会より独占禁止法に抵触するおそれがあるとされ頓挫した広島市では、1997年に複数のバス事業者と市が協議し、路線網の見直しやサービス連携を模索したが、公正取引委員会より独占禁止法に抵触するおそれがあるとされ頓挫した

第2次計画で新たに取組むとしている政策や施策には、新型コロナウイルス感染症対策への支援をはじめ、具体的に動き出しているものも少なくない。そうした事例のひとつが、独占禁止法の特例法の制定。3つの柱の「A」の中で触れられている「事業者の連携の促進等による地域輸送サービスの維持確保」に沿ったものだ。

国土交通省のデータ(※1)によると、全国の路線バス事業は70%以上が赤字で、しかも、複数のバス事業者が競合するケースも多い。バス事業者としては、経営効率の改善のために、事業者間で路線網やサービスの見直しなどについて協議したいところだが、これまでは独占禁止法の「カルテル規制」に抵触するとして認められなかった。しかし、バス事業の経営状況が好転するきざしはなく、他の事業者が代替することも難しい。そのため、乗り合いバス等の共同経営や合併などには、独占禁止法を適用しないという特例法が制定され、2020年11月に施行された。その適用第1号として、熊本県のバス会社5社が、2021年4月から共同経営をスタートさせている。

同じく「A」の中にある「大都市鉄道等の混雑緩和策の検討」では、JR東日本などが、運賃に関するダイナミックプライシング(変動運賃制)の導入を検討すると表明している。ダイナミックプライシングとは、需要に応じて価格を変動させる仕組みで、ホテルや飛行機、高速バスの料金などでは、すでに当たり前のものになっている。通勤や通学で利用の多い時間帯の料金を高く設定し、利用の少ない時間帯は安くすることで、利用が分散し、混雑緩和や新型コロナウイルス感染症の拡大防止につながることが期待できる。しかし、具体的な運賃の設定や国の審査、改札システムの改変などに時間を必要とすることから、本格的な導入は数年先になるとの見方が一般的だ。ただ、JR東日本では、通勤定期券で時差通勤するとポイントが還元されるサービスを、首都圏の主要路線を対象に、3月から1年間の期間限定で実施している。

※1 国土交通省「令和元年度乗合バス事業の収支状況について」(https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000326.html

電動式キックボードも空飛ぶクルマも実証実験へ

デンマークのコペンハーゲンでは、街中で電動式キックボードが借りられ、乗り捨ても自由だ。専用のアプリと連動しているデンマークのコペンハーゲンでは、街中で電動式キックボードが借りられ、乗り捨ても自由だ。専用のアプリと連動している

また、「多様なモビリティの普及」では、小型電動モビリティ、電動車いすなどの普及が期待される。その中のひとつ、電動式キックボードについては、産業競争力強化法の新事業特例制度を利用した公道での実証実験が、東京都の渋谷区や港区、世田谷区、新宿区など6区で行われている。期間は2021年4月から10月まで。本来道路交通法などでは原動機付自転車と同じ扱いになるので、ヘルメット着用が義務で、車道を通行することになっているが、実証実験ではヘルメットの着用が任意となり、自転車専用通行帯や自転車道の走行も認められる。しかし現状ではルール違反による事故やトラブルが発生していて、実証実験は、安全な走行や適切なルールのあり方を改めて考える機会になるだろう。
なお、実証実験は大阪市や千葉市の一部、兵庫県姫路市、福島県南相馬市などでも実施されている。

新しい移動手段という点では、2023年を目標としている「空飛ぶクルマ」の事業開始に向けて、試験飛行の関連条文の一覧や許可事例を、国土交通省がまとめて2021年3月公表している。また、試験飛行のガイドラインも2021年度中に公表されることになっている。空飛ぶクルマは、明確に定義されていないが、国土交通省によると「電動」「自動操縦」「垂直離着陸」がポイントで、大きなドローンをイメージするとわかりやすいだろう。通勤や通学の手段、離島や山間部の移動、災害時の救急搬送など、多様な使い方が期待されていて、第2次計画では「B」の中で、自動運転車や自動運航船などと並んで、実証・検討することがうたわれている。日本が世界に先駆けて実現を目指している新しいモビリティを、もうすぐ目撃できるかもしれない。

災害時でも運輸事業を継続できる対応力の向上を

3つの柱のひとつ「C」は、防災や感染症対策、脱炭素化などへの取組みが中心となっている。当然のことながら、新型コロナウイルス感染症対策への支援が積極的に進められているのだが、交通・運輸の防災に対する地道な取組みも始まっている。

そのひとつが、2020年7月に策定された運輸防災マネジメント指針の普及に向けたセミナーの開催や講師派遣事業だ。運輸防災マネジメント指針とは、従来の運輸安全マネジメントを、自然災害にも活用するためのもので、自然災害の頻発化や激甚化が、交通・輸送の安全の脅威となっているという危機意識から生まれている。指針が目的にしているのは、運輸事業者の防災意識と、災害時でも事業を継続できる対応力の向上だ。

今回の第2次計画では、それぞれの施策に対して数値目標(KPI)が設定されている。人口減少や労働力不足、災害や感染症などの課題は厳しいものばかりで、対応する新しいモビリティや交通システムは、私たちの暮らしに大きくかかわってくる。それだけに、計画の進捗や施策の成果についても、期待を持って見守りたいと思う。

東京都交通局が導入する燃料電池バス。輸送事業者の省エネ改善率などのKPIが設定され、それぞれの達成に向けさまざまな技術の実用化が急がれる東京都交通局が導入する燃料電池バス。輸送事業者の省エネ改善率などのKPIが設定され、それぞれの達成に向けさまざまな技術の実用化が急がれる