資料請求したまま? 口座開設したまま? 掛金拠出しっぱなし?
iDeCoシリーズのコラムも最終回。「iDeCo Vol.1~Vol.3」では、資料請求、金融機関選び、リスク許容度に見合った運用選択というiDeCoのステップを見てきた。「iDeCo Vol.4」は、iDeCoとの付き合い方と受け取り方がテーマだ。
iDeCoの相談を受けていると、運用開始までには3つのハードルがあり、意に反して挫折しているケースも多いことがわかる。3つのハードルの1つ目は、資料請求したもののあまりの面倒さに打ちのめされる、初期挫折だ。2つ目は、iDeCo口座を開設したが拠出に至らずそのまんま、という拠出前挫折。そして3つ目が、掛金を拠出しているものの自ら運用商品を選んでいない、ほったらかし挫折となる。
3つ目のほったらかしは、結果的に希望にかなった運用商品がデフォルトで選ばれていたり、希望どおりではないがたまたま運用成績が良かったり、というラッキーなケースもあり、挫折とまでは言えないかもしれない。だが、運営管理機関(運管)によっては運用の機会損失となっている可能性もある。運用商品を選択しなかった場合はどうなるかなど、仕組みについてあらかじめ知っておきたい。
iDeCoを始めたばかりの20代、30代やそろそろ出口を意識しはじめた50代、そして、転職等で確定拠出年金を持ち運ぶ可能性がある40代も、当コラムの要点を活用くださるとうれしい。まずは、ほったらかし挫折からみていこう。
「ほったらかし」は「指定運用方法」へ。「自分で選び自分で育てる」が鉄則
iDeCoの規約には「加入者等は(中略)自己の責任において運用の指図を行う」とある。「運用の指図」は資産形成において重要で醍醐味のあるオペレーションだ。だが残念ながら、運用商品の選択をしないまま「ほったらかし」となるケースがあり、問題となっていた。2018年に確定拠出年金法等の一部が改正され、運管は、規約の定めるところにより、指定運用方法を選定・提示することができるようになった。
【指定運用方法とは】
仕組みは、こうだ。加入者が、初回掛金の入金後、特定期間(3ヶ月間など)を経過しても運用指図を行わない場合、運管から「特定期間経過のお知らせ」が加入者へ通知され、さらに猶予期間(2週間など)に運用指図を行わなければ、あらかじめ運管が指定した方法で商品が自動購入され、運用が開始する。もちろん、運管が好き勝手に指定できるのではなく、年金連合会への届け出や加入者へ必要情報の提示などの手続きが必要であることは、言うまでもない。
【指定運用方法がある場合】
指定運用方法がある運管では、運用指図がない間にプールされた掛金で、指定運用商品が購入される。また、これから拠出される掛金においても、本人が配分割合等を変更しない限り指定運用商品が購入される。なお、待機期間ともいえる特定期間中の掛金は、未指図個人別管理資産(現金相当の資産)として管理されるため、商品が購入されたり資産運用されたりするということはない。
【指定運用方法がない場合】
指定運用方法がない運管では、加入者が掛金の配分割合を設定するまで、拠出済の掛金は「待機資金」として現金での仮保管状態となり、運用はなされない。時間をかけて将来の資産を育てるというiDeCo本来の目的からは逸脱してしまう。指定運用方法の有無や指定運用商品については、運管のホームページやコールセンターなどで確認しよう。
【指定運用方法はさまざま。自分で選び、資産を育てよう】
指定運用商品は、運管によってさまざまだ。定期預金もあれば、投資信託もある。運管は、指定運用方法を選定・提示する場合、利益の見込みと損失の可能性、選択理由などの情報を加入者へ提供しなければならない。iDeCoの公式サイトには、33の運管の指定運用方法が選定理由とともに掲載されている。2021年4月1日版では、定期預金等の元本確保型のみの指定運用が18、投資信託が選定されているものが15となっている。
積極的に運用しようと考えている場合も、元本確保型での運用を希望する場合も、意に反した運用方法が指定されているならば、いずれも不幸だ。万が一、ほったらかしている場合は、希望に沿った運用商品が選択されているかを確認しよう。もちろん、変更は可能だ。
(参照)指定運用方法及び当該指定運用方法を選定した理由の公表(令和3年4月1日版)
https://www.ideco-koushiki.jp/library/pdf/reason_selection_R030401.pdf
iDeCo(イデコ)運用中の確認と見直し
次に、運用中の見直し方法について見ていこう。
「iDeCoは毎月の積立てだから」とほったらかしの人も多いのではないだろうか。なるほど一理ある。「iDeCo Vol.2」の運用商品で言及したターゲット・イヤー・ファンドなどは、運用期間に応じた投資のメンテナンス等をプロに任せるもので、加入者はほったらかしも可能となる。運用スタイルに適した商品選択が重要なのだ。
だが、複数のファンドを選んでいる場合は、個々の運用商品が自分の意図どおりの成績となっているか、資産全体が目標のバランスになっているかなどについて確認し、必要に応じた見直しが求められる。また、家族構成やライフスタイルの変化、加齢によるリスク許容度の低下などの場合は、安定運用を目指すファンドや元本確保型商品への預け替えも必要となるだろう。
iDeCoの資産状況を確認して「思っていた結果になっていない」「資産バランスが目標とずれている」とわかれば、戦略の見直しが必要だ。iDeCoの見直しは、2つの視点で考えたい。
1つ目は、拠出する掛金で購入する商品の見直し。これは、未来に向けての見直し作戦だといえる。2つ目は、これまでに購入し、運用してきた資産の見直し。こちらは現状を変える預け替え作戦だ。合わせ技も可能であり、一部の商品だけ見直す、という方法もできる。みていこう。
(1)購入商品、購入配分の変更(リバランス・スイッチング)
拠出する掛金で購入する商品を変更したり、購入配分を変更したりできる。例えば、これまでは掛金100%でAファンドを購入していたが、A・B・C・Dの4ファンドに25%ずつ配分する、などの変更だ。
【リバランス】
資産全体のバランスの調整は、「リバランス」などと言われる。例えば、資産全体での目標バランスを先進国ファンド60%、新興国ファンド40%とし、掛金の配分割合も先進国60:新興国40としていたとしよう。新興国ファンドの成績がよくて資産バランスが逆転した場合、当初の目標バランスに戻す必要が生ずる。リバランスの手段の一つは、掛金の配分割合の見直し。新興国ファンドの割合を下げてバランスが調整されるのを待つ方法だ。そしてもう一つは、預け替え。現在保有する新興国ファンドを売却し、先進国ファンドを購入して調整する。
【スイッチング】
預け替え(スイッチング)は、現在保有している運用商品を売却し、その代金で他の運用商品を購入する取引だが、その目的はリバランスに限らない。先に述べたリスク許容度に応じた預け替えもあれば、好成績のファンドを売却して利益を確定させるという目的もあるだろう。売却の際、運用商品が値上がりしていれば、売却代金は拠出額よりも多くなる。
(2)拠出額の変更・停止
iDeCoでは、事前に手続きを行うことで掛金の減額や拠出の停止が可能だ。転職等によって一時的に収入が減り、掛金拠出をいったん減額、停止するようなケースが想定される。家計に余裕ができた後に掛金の拠出を再開することもできる。ただし、下記の点に注意しよう。
【掛金額の変更】
掛金額の変更は、1年に1度。運管へ「加入者掛金額変更届」を提出して行う。
【掛金拠出の停止】
拠出の一時停止という扱いはない。停止の手続きをとると、加入者ではなくなり運用指図者となる。拠出はしないが、これまでの資産の運用指示は可能であり、商品の預け替えもできる。その間、口座管理手数料等のコストが発生することは留意したい。運管へ「加入者資格喪失届」を提出して行う。
資格喪失後に掛金の拠出を再開する場合は、「個人型年金加入申出書」を運管に提出して手続し、加入者に戻ることができる。再開時に国民年金の第2号被保険者(厚生年金加入者)であれば、申出書に加え、「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」という勤め先の証明が必要だ。
(3)iDeCoの見直しポイント/市場動向と自分の事情で考えよう
iDeCoの運用スタイル、運用商品、掛金などの見直しは、市場動向や運用商品の成績を中長期視点で考えて行う。将来を完璧に予測することはできないが、「ファンドの基準価格が下がったから怖くなった」という理由だけで配分を減らすのは、少し短絡的だ。
基準価額が下がれば、同じ拠出額で多くの口数を購入できるというメリットは、積立運用の基本。当該ファンドに成長期待があるならば、基準価格が下がったタイミングは絶好の買い時かもしれない。長期運用であることを忘れずに判断しよう。
そのためにも、定期的にファンドの成績を確認したい。例えば、毎月の給料日にiDeCoのマイページにログインし、商品の成長具合を確認するなどはどうだろう。「毎月〇日」と決めておくとカレンダー等に登録しやすく、習慣化も期待できる。
見直しにあたっては、自分の事情も欠かせない。働き方やライフスタイルの変化によって家計支出が増え、拠出が厳しくなるならば、拠出額の減額や停止を検討しよう。将来の安心のための資産形成とはいえ、目の前の生活が苦しくなるのはいただけない。無理は禁物だ。
60歳になったら? iDeCo(イデコ)の出口戦略
受給開始年齢
運管選び、掛金拠出、運用と時間をかけて育ててきたiDeCoもいよいよ出口が近づいてきた。受け取り時期や方法、税制について、みていこう。
【受給開始は、原則60歳】
iDeCoの運用資産は、老齢給付金として原則60歳から受け取れる。確定拠出年金制度では、加入者の60歳到達時の「通算加入者等期間※」に応じて給付開始年齢が決まるが、60歳時点で確定拠出年金への加入者期間が10年に満たない場合、支給開始年齢が段階的に先延ばしになる(下表参照)。
※「通算加入者等期間」
掛金を拠出した期間と掛金を掛けず運用のみ行う運用指図者の期間との合算期間を指す。
受給資格を取得すると運管から「お知らせ」が届く。70歳までの希望のタイミングで受給申請手続きを行えばよい。受給年齢の上限は、「iDeCo Vol.1」で紹介したとおり、2022年4月から75歳に延長される。延長後は、通算加入者等期間を満たせば、老齢給付金の受給開始時期を60歳から75歳までの間で選択できるようになる。
【「原則60歳」の例外給付】
「脱退一時金」
※個人型記録関連運営管理機関又は国民年金基金連合会に請求するケース。
以下のすべての要件に該当すると、60歳未満でも「脱退一時金」として資産を受け取ることができる。
①国民年金保険料免除者であること。
②障害給付金の受給権者でないこと。
③掛金の通算拠出期間が3年以下であること(退職金等から確定拠出年金へ資産の移換があった場合には、その期間も含む)又は資産額が25万円以下であること。
④最後に企業型年金加入者又は個人型年金加入者の資格を喪失した日から起算して2年を経過していないこと。
⑤企業型確定拠出年金の資格喪失時に脱退一時金を受給していないこと。
「障害給付金」
70歳に到達する前に傷病によって一定以上の障害状態になった加入者等は、傷病が続いた状態で一定期間(1年6ヶ月)を経過すると、障害給付金を受給できる。
「死亡一時金」
「自分が死亡したら、iDeCoはどうなるのか」という質問も受けるが、iDeCoの加入者や運用指図者が死亡した場合は、請求手続きにより、遺族が資産残高を死亡一時金として受給することができる。死亡一時金はみなし相続財産として、相続税の課税対象となる。
(2)受け取り方法は3種類
iDeCoの老齢給付金としての受け取り方法は、①一時金、②年金、③一時金と年金の併用、と3種類。60歳以降の働き方や暮らし方、退職金や公的年金など、他の収入も考慮し、総合的に考えることが望ましい。
【一時金・受け取り】
受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達後、70歳になるまでの間に一時金として一括で受け取る。
【年金・受け取り】
年金で受け取る場合は、5年以上20年以下の有期年金として受け取る。受給権が発生する年齢(原則60歳)に到達すると、運管が定める方法で支給される。年間の支給回数や支給月などの選択は運管によって異なる。「一時金でもらうと一度に使ってしまいそう」や「生活費の補てんが目的」などのケースに向いている。
【一時金と年金の併給受け取り】
一時金と年金との併給ができる運管もある。例えば、60~65歳の間に年金で一部を受け取り、65歳に残額を一時金で受け取るなど、受給時期をずらすことも可能となる。
受け取り方によって、税務の扱いや手数料等のコストが異なる。次項で確認していこう。
iDeCo(イデコ)の受け取り方法による税金等のコストの違いに要注意
iDeCoの税制メリットは、掛金の全額所得控除、運用益の全額非課税、そして、給付時の所得控除だが(「iDeCo Vol.1」参照)、最後のステップである給付時は、受け取り方によって節税額に差が出る。「税金は一切かからない」という誤解にも注意したい。節税効果を最大化するには、基礎知識と試算がポイントだ。
所得税の対象となる所得は10種類に分類される。iDeCoの老齢給付は、一時金で受け取ると「退職所得」、年金で受け取ると「雑所得」に区分される。ちなみに、厚生年金や国民年金も「雑所得」だ。税額の計算式は、「課税所得×税率=税額」といたってシンプル。ただ、「課税所得」を求める計算式が所得ごとに異なり少々ややこしい。退職所得と雑所得についてみていこう。
(1)「一時金」受け取り⇒「退職所得」
税金は、一時金収入の全額に課税されるわけではない。課税対象となる「退職所得」は、収入金額から「退職所得控除額」を引き算した金額をさらに2分の1にして算出する。「退職所得控除額」は、勤続年数で異なり、20年までは1年あたり40万円。21年以降は同70万円だ。
※最低控除額は80万円
退職所得=(収入金額(源泉徴収前)- 退職所得控除額)×1/2
iDeCo資産を一時金で受け取る場合は、上記公式の収入金額が一時金の金額となる。退職所得控除額を求める際の勤続年数は、加入者合算期間(掛金拠出期間)※1だ。勤務期間のない専業主婦(主夫)なども同様に計算する。また、会社員などで勤務先から退職金を同年に受け取る場合は、勤続年数と加入者期間を比べ長いほうが採用される。
※1「加入者合算期間」
確定拠出年金における勤続年数は、企業型DCとiDeCoの加入者期間を合算した期間(他制度からの資産移換に伴い算入した期間を含む)とされている。企業型DCとiDeCoに同時加入している場合は、両者の加入者期間が重複していない期間のみを合算する。
下記【例1】の場合、60歳時に一時金で給付を受けると、iDeCoの加入者期間は25年。退職所得控除額は、1,150万円=800万円+70万円×(25年-20年)。職所得控除額1,150万円が、収入金額1,000万円を上回るため、【例1】のケースでは税金は発生しない。
【例1】35歳~60歳までiDeCoで運用。60歳時のiDeCo資産が1,000万円
なお、【例1】の場合で、勤続年数が35年(25歳~60歳)あり、同年に勤務先から退職手当等が支払われるケースでは、確定拠出年⾦の加入者期間よりも長い勤続年数35年を基にその年の退職所得控除額が算出される。退職所得控除額は、1,850万円=800万円+70万円×(35年―20年)と増えるが、退職手当とiDeCoの一時金の両者で、退職所得控除額を共有する。退職金が1,800万円、iDeCoの一時金が1,000万円であれば、退職所得は(1,800万円+1,000万円-1,850万円)×1/2=475万円。このケースでは、退職所得475万円が課税対象となるわけだ。
ほかに、課税所得が発生する例として、勤続年数やiDeCoの加入者期間が短い場合が考えられる。これらは計算上、退職所得控除額が少なくなるため注意が必要。例えば、iDeCoの加入者期間が10年だと控除額は400万円(=40万円×10年)。自営業者などで、加入者期間は短いが、毎月の掛金を多く拠出している場合などは、受給時を想定しておきたい。
【ポイント】iDeCoの一時金に課税されるケース
・退職金とiDeCo一時金の合計が、退職所得控除額を上回る場合
・勤続年数や加入者期間が短く、退職所得控除額が退職所得よりも少ない場合
(2)「年金」受け取り⇒「雑所得」
iDeCo資産を年金で受け取ると、雑所得に区分される。雑所得は、総収入金額から公的年金等控除額を引き算して求める。公的年金等控除額は、65歳未満と65歳以上で異なり、さらに、公的年金等以外の合計所得金額によって異なる。
公的年金等収入が130万円未満で、公的年収入以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合、控除額は60万円。公的年金等収入が250万円で、公的年金等以外の合計所得金額が1,000万円以下だと控除額は90万円だ。この公的年金等控除額を公的年金と共有することになる。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、令和元年度の受給権者平均年金月額は、厚生年金で14万4,268円(基礎年金含む)。国民年金で5万6,049円。公的年金だけで控除枠を使ってしまうだろうことは想像に難くない。
雑所得=総収入金額-公的年金等控除額
(3)受け取り方法による手数料の違い
iDeCo資産について、老齢給付での受け取りを申請すると、裁定の後、運用商品が売却されて給付がなされる。一時金で受け取ってしまえば、iDeCo口座はクローズ。一時金を送金する際の給付手数料440円を支払って手続きが完了する。
一方、年金給付の場合、年金受給中は口座が存在するため、口座管理料の支払いが継続する。さらに、年金給付の送金の都度、給付手数料が発生する。給付については、年に1回、2回、4回、6回、12回など、回数や月の指定ができる運管もあるが、コストを抑えるならば、給付回数を減らすことが肝心だ。
年に1回と12回の給付手数料の20年間総額は、前者が8,800円、後者が10万5,600円と大きな差になる。年金給付中も運用指図者として運用は可能だが、資産残高は給付の都度減少し、リスク許容度も年齢とともに低下する。積極的な運用はハードルが高そうだ。毎月の口座管理料66円すら負担となる可能性もあるだろう。
(4)注意したい社会保険料
退職し、収入がなくなれば、所得税の支払いはなくなる。一方で、国民健康保険料や介護保険料は継続する。保険料は被保険者の年収によって確定するため、iDeCo資産を年金で受給すると国民健康保険料や介護保険料が上昇する場合がある。
(5)「一時金vs年金」、軍配は「一時金」
所得控除と手数料を考慮すれば、コスト的には「一時金」給付に軍配が上がるだろう。既受給者の選択が気になるところだが、運営管理機関連絡協議会の確定拠出年金統計資料(2020年3月末)によれば、確定拠出年金の老齢給付金件数のうち、企業型で74.02%、個人型で60.97%が「一時金」となっている。選択理由はさまざまだろうが、コスト面も理由の一つに違いない。
働き方の選択肢が多い現代は、転職も起業も普通のことだ。退職手当を受け取りる機会も生涯に一度とは限らない。退職所得控除は何度も利用できるが、ルールがある。iDeCoの老齢給付は、他の所得と控除枠を共有すると述べたが、受け取り方によって節税額が変化する。受け取り方を検証していこう。
押さえておきたい! 受け取り方のルールとポイント
(1)他の退職所得との調整ルール
iDeCoの老齢給付に関しては、所得控除額の枠を他の退職手当や年金収入と共有し、退職所得控除額の計算元となる勤続年数は、加入者期間と比較して長いほうが採用される。すでにお伝えしたとおりだ。さらに、押さえておきたいのは、iDeCo資産を一時金で受給する場合、過去に受け取った退職所得と勤続年数が調整されるというルールだ。
【調整ルール】
課税退職所得を計算するにあたって、確定拠出年金の一時金の課税年の前年以前14年内に他の退職所得を受け取っている場合、勤続年数が調整される(その他の一時金は、前年以前4年間)。
次の例で比べてみよう。
前提
・iDeCo:資産1,000万円、加入者期間25年(35歳~60歳)
・退職手当:1,800万円、勤続年数35年(25歳~60歳)
(例a)60歳でiDeCoと退職手当を一時金で受給
退職所得控除:1,850万円=800万円+70万円×(35年-20年)
退職所得:(1,800万円+1,000万円-1,850万円)×1/2=475万円
(例b)60歳でiDeCo、65歳(勤続年数40年)で退職手当をそれぞれ一時金で受給
iDeCo:退職所得控除額1,150万円=800万円+70万円(25年-20年)
退職所得控除が一時金の額を上回るため、課税はなし
退職手当:退職所得控除2,200万円=800万円+70万円(40年-20年)
退職所得控除が退職手当の金額を上回るため、課税はなし
(例a)は、iDeCoの加入者期間より長い勤続年数を基に退職所得控除額が計算され、共有される。(例b)は、それぞれに退職所得控除額が利用でき、税金はゼロ。だが、iDeCoの一時金と退職手当の受給時期が逆転すると、調整ルールが適用され、勤続年数と加入者期間の重複分が調整される。(例b)のように退職手当の受給が後であれば、「その他の一時金」となり調整されない。知らないとうっかりしそうなケースだ。
なお、受給時期を分散すると1回あたりの受給額を減額できる。所得税は累進税率のため、所得額が減ることで税率区分が下がる場合がある。iDeCoの受給時期は現在、70歳まで延長できる。節税効果は、退職手当やiDeCoの資産額、勤続年数調整にもよるが、受給時期の選択も心に留めておこう。
(2)「一時金+年金」併給プランで時期をずらす
iDeCo資産の中で受給時期を分散することも可能だ。現在、公的年金の受給開始年齢は、男性:昭和36年4月2日生まれ以降、女性:41年4月2日生まれ以降は、65歳から。このことを踏まえ、iDeCoの老齢給付「一時金+年金」の合わせ技を考えてみよう。
例えば、iDeCo資産の一部を60歳から65歳の間に受け取って公的年金等控除を利用し、65歳で残金を一時金で受給する。公的年金の受給開始は65歳からのため、公的年金等控除額の共有を避けられる。あわせて、iDeCo資産を分散できるため、一時金の受給額も減額できる。
(3)iDeCoの受け取り方は、千差万別
数例見ただけだが、iDeCoの老齢給付の受け取り方は、資産額、加入者期間、その他所得、受給時期、順序など、多種の組み合わせがあることを理解いただけたのではないだろうか。60歳になったから、退職するから、と単純に給付申請をするのは、どうやらもったいないようだ。
公的年金は、原則、66歳に達した日以後に支給の繰下げの申出ができる。増額率は、「繰下げ月数×0.7%(最大42%)」だ。iDeCoを60歳から10年かけて年金控除を利用しつつ受け取り、70歳で公的年金をスタートすれば、公的年金は本来の年金額の142%となる。70歳までの継続雇用制度が掲げられるなか、自分らしい働き方や暮らし方を意識して選択肢を広げたい。心身の健康も大切だ。
他人事じゃない!?「DC難民」
確定拠出年金の特長の一つは、ポータビリティ。転職・退職した際、移換の手続きをとることで、資産の持ち運び(ポータビリティ)ができ、運用を継続できる。例えば、企業型DCに加入していたが、転職先にDC制度がない場合や退職して自営業者や専業主婦等になる場合は、iDeCoへ資産を移管できる。逆に、就職先に制度があれば、iDeCoから企業型DCへの移管も可能だ。
移換する場合、それまでの加入者資格を喪失し、資産の移管手続きを行う。企業型DCの加入者が、転職・退職等により加入者の資格を喪失した後、6ヶ月以内に個人別管理資産をiDeCoや他の企業型DCに移換、もしくは要件を満たしたうえで脱退一時金の請求手続きを行わなければ、その資産は売却、現金化されて国民年金基金連合会に自動移換される。
問題となるのは、自動移換に伴う下記のデメリットだ。諸々の事情でほったらかしになっている人たちは、DC難民と言われる。自分の資産は自分で管理し、大きくたくましく育てていきたい。移管手続きについては、移管元、または移管先の運管や担当窓口へ問合せをしよう。
・移管時、相場や本人の意思に関係なく売却、現金化される。
・移管された資産は、運用されない(運用機会の損失)。
・自動移管時に手数料が発生(移管されるだけで4,348円が必要)。
・自動移管中は、月次管理手数料の負担有り(資産残高は目減りするのみ)。
・自動移換中は、通算加入者等期間に不算入(受給開始年齢が遅れる可能性有り)。
準備は、60歳になる前に
iDeCoの受け取り額は運用次第。運用結果は自己責任だ。長期運用のため、成績の良いときもそうでないときもあるだろう。出口が近づけば、元本確保型の商品に預け替えて、値動きのリスクを小さくするなどのオペレーションも考えておきたい。最後の最後に評価額がズドンと落ちる可能性もある。もちろん、急上昇ということもあり得るが、凹んだときにゴールを迎えないようにしたい。相場変動やライフイベントの変化にも慌てず対応できるようしておこう。事前準備が大切だ。










