既存不適格建築物が発生する理由と違法建築物との違い
中古物件の購入検討を進めていくと、「既存不適格建築物」という言葉を目にすることがある。言葉の中に「不適格」という単語が入っていることから、ネガティブな印象を抱いている人も多いのではないだろうか。この記事では既存不適格物件について解説していきたい。
既存不適格物件とは、新築当時の法律の下では合法的に建てられていた建物で、現在の法律に照らし合わせると基準を満たしていない建物のことを指す。不適格という単語は入っているものの、建築当時は合法的に建てられた建物であることから、違法建築物ではなく立派な合法建築物であることに間違いはない。
建物を建築するうえでは、建築基準法や都市計画法、自治体の条例、地区計画等のさまざまな規制を遵守していく必要がある。法律や条令は技術の発展や社会的要請を背景に時代とともに変化していくため、建築に対する規制も変わっていく。
一方で、建物は50年、100年といった期間でも存続するため、ある意味、法律の寿命よりも建物の寿命の方が長い。1つの建物が存続する間に法律や条令が変わってしまうことが、既存不適格建築物が発生する主な理由となっている。たとえば今年新築した建物であっても、その建物が将来既存不適格建築物になる可能性は十分にあり得る。
すべての建築物は将来、既存不適格建築物になり得る可能性があることから、別に既存不適格建築物だから「悪い」とか、「劣っている」というわけではないのだ。既存不適格建築物は、当然に生じてしまうものであることから、既存不適格建築物であっても行政側から法律違反を指摘されることはない。
既存不適格建築物と違法建築物は全く異なるので、保有してもペナルティを課されることはないのだ。
既存不適格建築物のデメリット
既存不適格建築物は違法建築物ではないが、主に以下の2つのデメリットがある。
既存不適格建築物の主なデメリット
・同じ建物を建て替えることができない
・銀行の担保評価が低い傾向がある
既存不適格建築物の最大のデメリットは「同じ建物を建て替えることができない」という点である。既存不適格建築物は合法的な建物ではあるが、今の法律の基準を満たしているわけではない。
そのため、建て替えで新築しようとすると、今の法律に適合させる必要があるため、現在の既存不適格建築物と同じ建物は建てられないことになる。今の法律に適合させるために、建物規模が小さくなってしまったり、形状が変わってしまったりすることもある。
また、昔の仕様のままであれば、建築コストも安くできたのに、今の法律の基準に合わせようとすると建築コストまで高くなることもあるのだ。既存不適格建築物は、建て替えの際に所有者が予想していなかった不利益を受けてしまうという点がデメリットといえる。
2つ目のデメリットとしては、銀行の担保評価が低い傾向があるという点である。
既存不適格建築物に対する評価は銀行によっても異なるが、総じて担保価値が低く評価され、融資を受けにくいといった問題がある。既存不適格建築物は築年数が古い建築物が多いため、元々、担保価値は低い傾向にある。
古い建築物は、近い将来建て替えの可能性もあるが、同様の建物が建て替えられない可能性が高いことから、銀行は融資にあたって一定のリスクがあると判断している。
既存不適格建築物を検討する際は、最後の融資の時点でつまずいてしまう可能性がある。融資を受ける場合には、早めに融資をしてくれる銀行を探すようにしてほしい。
資産価値の下落に直結するのは旧耐震の建物
既存不適格建築物はあくまでも合法的な建物であるため、既存不適格建築物だからといって何かが劣っているわけではない。しかしながら、1つだけ資産価値の下落に直結してしまう既存不適格がある。それは、旧耐震基準の建物だ。建物の耐震性に関する基準は、1981年(昭和56年)の建築基準法の改正によって大きく変わっている。
一般的に、1981年(昭和56年)6月1日より前に建築確認申請を通過した建物は「旧耐震基準」と呼ばれる。それに対して、1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認申請を通過した建物は「新耐震基準」と呼ばれる。
建築確認申請とは、着工前に行う設計図面の審査のことである。これから建てられる建物が各種の法律や条令に適合しているかをチェックする建築の手順のことだ。現代においても、旧耐震基準の建物は多く存在する。これらの多くは新耐震基準を満たしていないことから、既存不適格建築物の一つということになる。
旧耐震基準の建物は違法でないが、大きな地震が発生したときに倒壊の危険性が高いので、建て替えを促進させるため所有者が不利益となるような政策が行われている。その一つが、旧耐震基準の住宅では住宅ローン控除が利用できないという点だ。住宅ローン控除とは、住宅ローンを借りてマイホームを購入した人が、所得税を節税できる制度のことを指す。
住宅ローン控除は給与所得者にとって大きな節税効果を生むため、住宅購入者にとって住宅ローン控除が使えるかどうかは重要なポイントとなる。中古住宅の場合、木造のような非耐火建築物なら築20年以内、鉄筋コンクリート造のような耐火建築物なら築25年以内の物件が、原則として住宅ローン控除が利用できる対象となる。
いわゆる一戸建てなら築20年以内、マンションなら築25年以内の物件が住宅ローン控除を使えるということである。ただし、一戸建ての築20年超やマンションの築25年超の物件であっても、新耐震基準に適合していることが証明された建物であれば例外的に住宅ローン控除が使えるというルールとなっている。
1981年(昭和56年)築の建物は、2021年時点においては築40年であるため、実は築40年以内の物件であれば住宅ローン控除が利用できる物件として売却できる可能性が十分にあるのだ。例えば、築30年の一戸建てであれば、1981年(昭和56年)より後に建築されたものであることから、「耐震診断」を行って新耐震基準に適合していることを証明すれば買主が住宅ローン控除を利用できることになる。
一方で、旧耐震基準の建物となってしまうと、新耐震基準に適合していないことが多いため、耐震診断に加えて、旧耐震基準の建物を新耐震基準に適合させるためには、耐震補強等のリフォームが必要だ。旧耐震基準の建物は、住宅ローン控除が利用できる物件にするために多くのコストがかかることから、資産価値が低くなる。
よって、既存不適格物件の中でも旧耐震基準の物件は、資産価値が低いものと認識したうえで検討すべきだろう。
なかには資産価値が高い既存不適格建築物も
既存不適格建築物の中には、むしろ今の建物よりも価値が高い建物も存在する。代表的なのが、容積率が指定される前に建てられた建物である。容積率とは、延床面積の敷地面積に対する割合のことを指す。容積率が指定される前に建てられた建物の中には、今の容積率では建てられない規模の建物が建っている物件も存在する。
このような床面積の広い既存不適格建築物は、その建物が存続する限りは、新築建物よりも価値が高いといえる。既存不適格建築物といっても、中には今では建てられない物件もあるので、価値の高いものは検討してみるという考え方もあるかもしれない。
建て替えや売却時の注意点
既存不適格建築物は、建て替えでは今と同じ仕様の建物が建てられないということが注意点である。ただし、建築の規制は必ずしも強化の方向性だけでなく緩和の方向性もある。建て替えたほうが改善される部分もあるため、建て替えを行う際はしっかり建築プランを検討してから判断することをおすすめする。
また、売却に関しては既存不適格であることで、価値が下がっている場合や上がっている場合があるということが注意点である。旧耐震のような既存不適格であれば価値は低くなっているし、容積率オーバーのような既存不適格であれば価値は高くなる傾向にある。
売却の際は、査定等で価格をしっかり調べ、価格の理由に納得した上で売却すると良いだろう。
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