人口3,000人のまちから新たな情報発信
愛知県の東北部に位置する東栄町。まちの東側は静岡県との県境になり、豊かな自然に包まれた山あいのまちだ。人口は約3,000人。
この東栄町で観光情報の発信やまちづくりに取り組む、東栄町観光まちづくり協会が、2020年8月28日から2021年2月28日までの予定で、オンライン配信番組をスタートさせた。大きなきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大により、人々がまちを訪れることができなくなったことだ。
今回は、東栄町観光まちづくり協会の伊藤拓真さんに新たな取り組みや今後の展望などについて伺った。
行政と連携して取り組む、観光とまちづくり
東栄町の高齢化率は約50%。日本の多くの市町村と同様、人口減少が進んでいる。子どもたちは高校や大学への進学でまちを出ることが多いそうだ。伊藤さんもその一人だが、いったん町外に出たことでまちを見つめ直し、学生だった5年前からまちづくりに関連する取り組みに関わり、その後、縁あって3年前に東栄町観光まちづくり協会の一員となった。
東栄町観光まちづくり協会は、2017年4月に設立。1年かけて町民と話し合いを重ねたうえで誕生した経緯があり、町民一人一人が関わりながらまちを盛り上げていくことを目指している。
設立当初は、町職員だった20代の女性が中心となっており、若い力を発揮。同協会が展開する東栄町の観光情報サイトは、視覚的に若い世代がなじみやすいデザインになっており、コラムで町内のカフェ情報なども発信している。自然豊かな土地柄から例年、夏休みとなる8月がもっともホームページへのアクセスが多く、10万PV(ページビュー)にのぼる。取材直近の2020年9月も3万PVを達成している。
同協会の活動について、伊藤さんに聞いた。「人口減少が続いている東栄町で、さまざまな課題を解決するために観光の視点からまちづくりを行っています。そのなかで大切にしていることは地域内経済の循環です。イベント一つとっても、単発の来場者数ではなく、イベント実施による地域への経済効果を意識しています。また、地域にある素晴らしい資源に目を向け、東栄町らしいまちづくり、住民が主体となって楽しい場を作り上げるための支援を行っています」
さらに「東栄町役場とは常に連絡を密に取っており、行事への参加、問題への対処、情報の伝達をスムーズに行えるようにしています。ただ、行政としての公平性の担保と魅力的なコンテンツの発信のバランスが難しいと感じています。会員制組織であることもあり、一律に公平性を担保しないといけない立場でもあります。また、地域の魅力を発信するうえで、情報をまんべんなく発信するだけでは、観光客に響きにくいというミスマッチが起きたりもします」と語る。
東栄町の魅力をオンラインで配信
そんななか始まったオンライン配信番組「おうちで!東栄町のじかん」。
「新型コロナウイルスの感染が広まり、まちへ訪れることができない“地域のファン”とまちをつなぎとめておける機能がほしいと考えたのが始まりです」と伊藤さん。
新型コロナウイルス感染症により深刻な影響を受けている地域経済を回復するための支援策として、愛知県が実施している「観光誘客地域活動事業」を活用したものとなる。
「地域のイベントが軒並み中止となっているなか、まちを盛り上げる、まちの魅力を再確認することができる企画として、まちに詳しいスペシャリストを招き、地元の魅力を発信するライブ配信をしています」
第1弾では、名古屋から移住し、町内で雑貨とワークショップの店を営む女性の取り組みを紹介。第2弾は、9年前に地元の有志の若者が立ちあげた音楽フェス「星空おんがく祭」をオンライン配信。第3弾は、「専門家と土地の魅力を深掘り!“ジオサイトツアー”じかん」と題し、町内の特徴的な地質や博物館、民芸館の展示などを専門的な観点から紹介した。
筆者は第3弾の配信を見せてもらったが、県の天然記念物にも指定されている名所、煮え渕ポットホールなど、ただ訪れただけでは知ることができないような情報を得ることができて興味深く、実際に訪れてみたいと思った。
反響について「オンラインを介して、ふるさとを思う地元出身者や、都会に住む東栄町ファンの方からコメントや感想をいただく機会が増えています。地元が好きな人が熱量を持って話をするため、離れていてもまちを感じられることで、実際に訪れたい、地元グルメを食べてみたいという要望もいただいています」という。
オンライン配信は不定期となるが、今後もオンラインショップでの商品購入を前提とした限定的な公開のライブ配信企画や、地域の民話を活かした朗読などを予定しているそうだ。
伝統と新しい文化が混ざり合うリアルな暮らし
「東栄町は、700年の歴史がある伝統の舞『花祭(はなまつり)』をはじめとする伝統や文化が残っている一方、多様性を受け入れて変化に柔軟に対応するまちの雰囲気が魅力の一つだと考えています。
3,000人という小さなまちだからこそのフットワークの軽さや、事業者同士の距離感の近さがチャレンジを応援する雰囲気を作っており、移住や起業する若手も増えています。
また、そういった“やってみたい”という人が増えていることで、相乗効果を引き起こしているとも感じています。古き良き文化と新たな文化が混ざり合うリアルな暮らしがあります」と伊藤さん。
子育て世代が移住してきたり、外に出ていた若者が地元に戻ってきたりということも多くなっているとのこと。まちの活気に欠かせない若い力が得られていることは、心強いに違いない。
東栄町へ、より訪れたくなる企画を
「今後は、東栄町の暮らしにフォーカスしながら、普段見ることができない景色やコンテンツを“ヒト目線”で紹介しながら、より東栄町へ訪れたくなるような企画を予定しています。観光情報だけでなく、今も残っている先人の知識や文化などの伝達にも役立つことができたらと思っています」と、伊藤さんは今後の展開を語ってくださった。
これまで観光客誘致のために、個人の店などを応援する取り組みが多かったが、地域全体で盛り上げようという意識改革が進み始めている。そこで誕生したのが「BEAUTY TOURISM」。
日本で唯一、東栄町で発掘されるファンデーション原料セリサイトに着目し、スタートした「手作りコスメ体験naori」は、都会に住む女性など今までまちへ来ることが少なかった層への誘客のきっかけとなった。より多くの人へ東栄町全体の魅力を届けるための地域ブランドを作ろうと動き出している。
「東栄町のよさを知ってもらうときに、人の温かさや、自然の美しさだけでなく、暮らしや文化など内面の美しさも感じてほしい」と伊藤さん。
2020年11月21日~25日には、デビューイベント「BEAUTY TOURISM WEEK」を開催。5日間、美をテーマとした異なる体験プログラムが用意される。
東栄町ならではの地域ブランドで、さらなる魅力を発信していく。
取材協力・写真提供:東栄町観光まちづくり協会 https://www.toeinavi.jp/
公開日:







