大和市が目指す健康は身体のみの健康にあらず
神奈川県のほぼ中央に位置する大和市は南北に細長い、面積27.09km2のコンパクトな街。2020年9月現在も人口は増え続けており、高齢化率は23.87%。2018年時点の全国平均が28.1%であることを考えると、比較的若い人たちが多い、元気なまちなのだが、2016年度から「葬儀生前契約支援事業」を開始、さらに2018年からは名称を「おひとり様などの終活支援事業」に変えて事業を継続。相談件数、事業登録者数も伸びているという。高齢化で悩む自治体ですら行っていない事業をなぜ、大和市が?
その疑問の答えは「健康都市 やまと」という言葉にあった。大和市では現在4期目の市政を担う大木哲市長が2007年の就任以来、健康をテーマとして掲げてきた。2009年の市制50周年記念式典では「健康都市 やまと」宣言を行っており、2016年にはWHO(世界保健機関)が中国・上海で開催した第9回ヘルス・プロモーション国際会議に日本から唯一の首長として参加するなど、国際的にも関心が寄せられている自治体でもある。ここで市長が掲げる健康とは身体の健康に限定したものではない。目指すものは人、まち、社会が健康であることとされており、そう考えると高齢者の将来への不安を取り除き、毎日を楽しく過ごせるようにすることは人の、心の健康に寄与する事業といえる。
実際、市では早い時期から広義のおひとりさま支援策に取り組んできたと健康福祉部健康福祉総務課おひとりさま支援係の増山博丈氏。
「2009年には市民の健康不安を解消するために『やまと24時間健康相談』を開設、今では年間2万件以上の利用がありますし、2010年から一人暮らしの高齢者に配布している『救急医療情報キット』は急病発生時、駆け付けた救急隊などが冷蔵庫の中に備えられたキットを見れば救急医療活動に必要な緊急連絡先、かかりつけ医、持病、アレルギーその他が分かるようになっている品。2016年に完成した文化創造拠点内シリウスの市立図書館にはおひとりさまでも利用しやすいカウンター席を多く用意、健康度測定機器を置くなどしています。シリウスの中には健康都市大学を設置、高齢者を含め、どなたでも講師になれる講座開設も。外出促進のため、コミュニティバスを走らせてもいます」
経済状況にかかわらず、ひとり暮らし以外も相談できる制度
そこからさらに進んで、もっと具体的に支援することになったのは市長の指示から。身寄りのないひとり暮らしで墓所が分からない場合には市の納骨堂に納められることになるが、生前に意思表示があれば本人の望む場所に入れるのではないかという発想である。そのために2016年度から始まったのが前述の「葬儀生前契約支援事業」。
この時点では月収16万円以下、預貯金は100万円以下、不動産を所有しておらず、一人暮らしであることを要件としていたが、相談者からは「身寄りがいないわけではない」「経済的に困っているわけではない」という意見が多く寄せられた。そのためか、開始から23ヶ月で相談は168件に上ったが、事業登録者はわずか1人。
そこで2018年からは対象を拡大し、「おひとり様などの終活支援事業」に変更した。別居の親族の有無、経済的な状況は問わないこととし、さらに一人暮らしとも限定せず、高齢者のみの夫婦、高齢者兄弟姉妹のみの世帯も対象というから、現在親族と住んでいる以外の高齢者はほぼすべて対象となる。そのため、制度リニューアルからの27ヶ月で相談件数は453件、月に平均で16.7件にも及び、実際に葬儀会社との生前契約を結んだ後に市の事業に登録した人も41人に。この数字はかなり大きなものと認識していると増山氏。
増加の理由は対象の拡大のみならず、事業内容の幅も広がったせいだろうと思う。当初の制度は主に葬儀が対象になっていたが、現在の事業はそれ以外も含め、終活に関わる気になる部分をほぼすべてカバーできるようになっているのである。
葬儀だけでなく、部屋の片づけ、遺品整理その他も支援
具体的な内容としては
・葬儀などを任せられる身寄りがいない、あるいはいても遠方、疎遠であるなどで身寄りを頼れないなどの人がいざという時のために生前に葬儀などの契約を締結するための支援
・部屋の片づけ、死後の遺品整理、相続財産の処分などの段取りができるように葬祭事業者や県司法書士会などの法律専門家と連携しての支援
・生前契約支援事業以外で、希望者には市内の清掃事業者を紹介したり、法律専門家との間を取り持ち、相談できるようにするなどのサポート
・希望者には定期的な安否確認、緊急時の親族友人への連絡、本人死亡時の親族友人などへの情報提供、お墓の場所の情報提供
などとなっており、ここまでお願いできていれば安心。利用者が増えるのも当然だろう。
しかも、これらの支援が機能するように関係団体などとの連携体制も整備されている。たとえば、法律のサポートについては相談内容を聞いた上でその問題に詳しい人を選任、ご近所の先生が良い、女性になどといった要望も加味した上で相談にのってもらうようにしているそうで、初回は無料。
遺品整理に関しては事業者の組合に依頼、生前に見積もりを取り、一度額を取り決めたら以降で事情が変わってもその額で作業をしてもらうこととしており、それを遺族に市から情報として流すようにしている。
「遠方に居住していると部屋の片づけも大変。目安となる金額が分かっていれば安心できるでしょう」
エンディングノートを2部という気配り
市役所内の体制もよく考えられており、気配りがある。他市でもエンディングノートを配布している例はあるが、大和市の場合、希望する人には2部作成してもらい、1部を市役所で保管するというやり方を取っている。これは暗証番号などを記載、それが流出することを懸念してのことで、市が保管していることを被相続人など本人が知らせたい人に文書で通知、亡くなった段階でも再度通知する仕組みになっている。延命措置希望の有無などが書かれていれば、それも伝わるはずである。
事業に登録している人には自宅掲示用、携帯用の2種類の登録カードが発行され、どこにいても意思が伝わるようになっている。登録者の情報管理、安否確認などは市役所のおひとりさま支援係が一貫して行う。
また、事業への参加を呼びかけ、認知してもらうための活動も行っている。「終活なんて冗談ではない」という人にも楽しく関心を持ってもらう入り口としてかるたを作ったり、去年は映画、落語会などのイベント開催も。その際には400人定員のホールが満員になったほどとか。職員手作りのおひとりさま支援ニュースをこれまでに5回発行。福祉や保健関係全般に詳しい市役所OBがコンシェルジュとして相談に乗るコーナーには役に立ちそうな書籍、雑誌なども揃えてある。
こうした活動を通じ、支援策は新たな展開を見せてもいる。たとえば、ひとり暮らしのみならず、家族が認知症を発症、施設に入所などでひとり暮らしに近い生活を送る人が少なくないことから、その人たちの不安にも寄り添うものをと2019年2月には「これ一冊あればひとり暮らしもひと安心!」と題した生活のガイドブックを発行。この冊子は発行からわずか1ヶ月で1万冊を配布、増刷して約1年半で2万2,000部を超える配布数となっているというから、実際にこれで救われた人も多いのだろうと推察する。
孤独死を防ぐ、2つの意味
また、死後の遺族の疑問や不安には市民課にあるご遺族支援コーナーが支援することになった。
「死後の手続きは膨大にあり、一般の方が知らないままにやろうとすると1日がかりになってしまうことも。そこで大和市では事前にご連絡いただければ来庁日にコンシェルジュが書類を用意、段取りをしておき、2時間くらいで済むようにして喜ばれています。同種のサービスは三重県松阪市、大分県別府市などが始めており、大和市は松阪市の例を参考にしました」
こうした事業を通じ、防ぎたいのは孤独死だと増山氏。2つの意味がある。ひとつは2025年くらいに到来するといわれる多死時代がイコール孤独死時代になることを防ぐこと。身寄りがないままに亡くなり、財産もないとなれば葬儀、埋葬などは自治体の負担で行うことになるが、その数が何千人、何万人となるとしたら大変なことである。孤独死を防ぐことは自治体の財政に寄与することでもあるのだ。
だが、それ以上に大きいのは市民に幸せな人生を送ってもらうこと。「将来に対して不安を持っていると日々、鬱鬱として楽しめません。ところが、その不安が取り除かれると表情から違ってきます。『登録して安心したからダンスを始めたのよ』などとおっしゃる方もあり、これまでより健康に、楽しそうな顔になる。このまちに住んで幸せだったと思ってもらう、そのための事業を全方位的に用意できるのが自治体だろうと思っています」
孤立しての死をなくすため、将来的には登録者同士が助け合える仕組みを作りたいとも増山氏。市長の強力なリーダーシップの下に進められてきた健康都市という構想は無味乾燥な終活支援という言葉を超えて、温かみのあるものに育っているようである。
健康都市やまと(大和市)
http://www.city.yamato.lg.jp/web/soukei/healthycity01.html
おひとり様などの終活支援事業(大和市)
http://www.city.yamato.lg.jp/web/f-soumu/f-soumu01211702.html
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