高齢者は町の病院に行くついでに買い物を済ませる生活
『高齢化率No1 秋田県が挑む“買物困難者”対策「お互いさまスーパー」が地域に与える恩恵』の記事でも紹介した秋田の「お互いさまスーパー」の取り組み。現在3つある店舗のうち、一番長く店舗が継続しているのが「仙道てんぽ」だ。前身となる店舗からの実績を含めれば今年で15年。それだけに様々な工夫も行われている。
秋田県羽後町仙道地区は秋田県の南に位置し、東京から公共交通機関で行く場合は新幹線と奥羽本線を乗り継ぎ最寄り駅「湯沢」までざっと4時間。さらにそこからはタクシーで30分という場所にある。かなり交通の便は悪い。
「公共交通がないため生活の足は車。仙道地区は町の中心部からは約10キロ離れ、一番近い町のスーパーまでは車で15分以上かかります」と話すのは、「仙道てんぽ」代表取締役社長の土田房美氏だ。
しかも、仙道地区は山々に囲まれた標高300メートル地域、積雪量が3メートルを越える特別豪雪地帯だ。さらに、羽後町役場 企画商工課の佐藤隆昭氏によれば、「高齢者のみの世帯数も増えている」という。
「仙道地区の人口は、昭和30年で約3000人いましたが、昨年はとうとう1000人を切りました。この羽後町の中では一番人口が少なく、366世帯中、高齢者のみの世帯が83世帯と全体の約1/4を占めています。路線バスは平成20年に廃止され、現在、マイカーを持たない人の足は乗合いタクシーか町立病院への送迎バスのみといった状況。今はまだ高齢者の方も病院にいくついでに買い物を済ませたり、ご近所で声をかけあってと工夫されていますが、何も対策をしていなければ5年後10年後にはコミュニティとして機能しなくなる危険性がありました」(佐藤氏)
農協購買部が閉鎖、住民で引き継ぎ運営
そんな仙道地区に貴重なスーパーとして存在しているのが「仙道てんぽ」だ。
「ここはもともと農協の購買部だったのですが平成15年に閉鎖が決定。15年以上前の話ですが、店が無くなることへの危機感は当時から強くありました。町の中心部から離れたこの地域になんとか店舗を残さなければと、住民有志が運営委員会を設立し、地域から出資を募って店舗を引き継ぐ形で仙道てんぽの運営を始めました」(土田氏)
運営委員会の努力により、出資金もほどなく返還。平成19年には運営委員会を発展させる形で株式会社化にも漕ぎ着けた。だが、平成26年になると設備の老朽化が目立ち、人口の減少から売上も年々減少している状態だった。株式会社仙道てんぽの経営者や全20集落の代表、老人クラブや社会福祉協議会、民生委員などから組織される仙道地区振興会では、「仙道てんぽ」の存続を最優先すべき地域課題だとし協議を重ねたという。
土田さんによれば「店舗は雨漏りが深刻な状況で、冷蔵庫の設備なども古く、いつ壊れてしまうかと不安な状況だった」という。そこで振興会ではまず町に相談を持ち掛けた。
「もちろん町としても何とかしたかったのですが、すぐに補助金を提供できるわけではありません。その前にできることをと考えていたちょうどその時に、県が打ち出していたのが『お互いさまスーパー創設事業』でした」(佐藤氏)
すぐさま申請を行った「仙道てんぽ」では、これまでの実績や活動内容が認められ、事業対象になる。平成27年度に施設の改修を行い、新たに「お互いさまスーパー仙道てんぽ」として再スタートを切ることになった。
まずは、既存店舗をつぶさない努力
生まれかわった「お互いさまスーパー仙道てんぽ」では、これまでの買物機能のほか「直売所機能」と「交流スペース機能」が新たに設けられる。直売所機能では、店内にスペースを設け、地元の人たちが畑で採れた野菜や山菜、加工品などを持ち寄り店員と相談しながら値段を決めるしくみだ。売上そのものが目的というよりも地域の高齢者の生きがいづくりの意味合いが強い。
交流スペースとしては、地域住民の交流の場として開放する。社会福祉協議会主催で週に2日ほどお茶のみ会が開催され、取材当日は、健康促進イベントが開催され10名程度の参加者が集っていた。広い交流スペースには、プロジェクターとスクリーンも用意されており、演歌に載せたストレッチ体操が放映されると、みなさん熱心に体を動かす。参加者の一人は「家にいてもつまらないし、ここに来てみんなとおしゃべりできるのは楽しい」と笑顔で話してくれた。
もちろん、こうしたイベント開催後には、参加者はスーパーで買い物をしていく。交流の場づくりとスーパーへの集客を同時に行っているわけだ。
「仙道てんぽ」の強みの一つに豊富な品揃えがある。拡張された店内には、調味料も何種類も並び、酒類もバリエーションが多い。大型の冷凍ケースも置かれ、そこにはコンビニ並みの種類のアイスクリームが並んでいる。アイスクリームは町の大型店舗で購入したくても帰ってくるまでに溶けてしまう。溶けない距離で購入できるとあって、地域に店舗があるありがたみを感じさせてくれる象徴のような商品だという。もちろん人気商品だ。
「仙道てんぽ」がこうした豊富な品ぞろえを実現できるのは、かつて農協購買部が撤退する際にいったん店を閉めることなく、引き継いだその判断力にある。それまでお付き合いのあった問屋さんとの関係を維持できたことが大きい。
「店舗運営で一番の問題となるのが仕入れ先です。一から店舗をつくって問屋さんとお付き合いをといっても、普通は契約してもらえないものです。もしも、今ある店舗が継続できるかどうかの岐路に立っている場合は、細かいことは後から考えるとしても、とにかくまずは潰さない努力をする。つないでいく努力をすることが一番大切」と土田氏は力を込める。
羽後町地域おこし協力隊として、地域の活性化に取り組む崎山健治氏も「既存資産がなくなる前に、店舗運営に取り組んでいたというのが、仙道てんぽ成功要因の一つ」と分析する。
そのほか、「仙道てんぽ」には、利用者が欲しがる生鮮食品も数多く並ぶ。これには、町の中心部にある商店の協力によるものだ。
「精肉店と鮮魚店さんは、地域の介護施設やこども園への給食食材の配達に合わせて納品してくれます。卵は町内の養鶏場の取り計らいで安く置いていただけますし、豆腐も毎朝納品し、売れ残った分は回収までしてくれます。みなさん地域のためにがんばるこの店舗を応援してくれていることと、自身の店舗以外でも販売できるというWin-Winの関係が構築できているからです」(佐藤氏)
アンケートなどを利用して、地域課題の把握と解決策を
「お互いさまスーパー創設事業」では、住民による合意形成も大きなステップだ。もともと振興会の活動も勢力的に行われていた仙道地区だったが、住民へのアンケート調査などの実地により新たな課題も見えてきた。
「例えば、“小学校の統廃合となり子どもの声が聞こえなくなり寂しい”“雪下ろしが大変で、今後の生活に不安がある”そんなアンケートの声をもとに、仙道地区振興会では平成29年度の総務省『過疎地域等ネットワーク圏形成支援事業』に手を上げ、仙道てんぽを拠点とした4つの取り組みを実施することにしました」(土田氏)
具体的な4つの取り組みは次のものだ。①地域の特産品開発と加工所の改修②交流スペースの改修とサロン運営の活性化③雪下ろし支援体制構築とそれに伴う備品整備④仙道地区活性化プランの策定、となる。
加工所改修は仙道てんぽの裏手を改築し、立派な調理施設と機材が並ぶ。もちろんこれは県が進めるGBビジネスにも関連する。県外に向けた特産品の提供を視野に入れつつも、意外にも直売所コーナーでも、山菜の水煮などは地元の人にも需要がある。「地域内でも、山菜を採るとなると経験が必要。いつどこで採れるのかは長年山に入ってきた人にしかわかりません。また面倒な下ごしらえが不要な状態で加工されていることで購入者は多い」と土田氏は説明する。
実は先ほど紹介した広い交流スペースは、「過疎地域等ネットワーク圏形成支援事業」で拡張されたもの。「どうしても、子育て世代などは、日々の生活に追われて地域の活性化などの活動に身をおく機会が少なくなりがちです。こうした世代間の交流を深めるイベントなども企画しながら、交流スペースの活用を広げていきたい」と崎山氏もこの先の展開を語った。
高齢化が進む仙道地域での雪下ろしの問題は深刻で、高齢者世帯へのサポート体制構築を進め、そのために必要な機材をこの仙道てんぽの倉庫に設置した。仙道地区では、地域通貨を発行しており、雪下ろしを担った人には地域通貨で支払われる仕組みも構築し、地域経済の循環を促す取り組みだ。地域通貨はもちろん仙道てんぽで利用できるものだ。
買物だけではなく、地域の拠点となる店舗
このように、仙道地区では、仙道てんぽを中核とした地域活性化の取り組みが次々と行われている。それも、まず農協購買部が撤退する際に、この店舗を地域住民が守り抜こうとした努力から始まっている。そこに国や県の事業を活用することで、大きな歯車を回そうとしているのだ。
もちろん、問題がないわけではない。そこには新たな発想で解決策を地域が主体となって発している。例えば、仙道てんぽでは、現在スタッフの人手不足の課題もある。日々の売上や仕入れなどの入力作業が負荷となっているそうだ。その点も単に「株式会社仙道てんぽ」だけでの解決を課さずに、仙道地区活性化プランに店舗の安定化事業を組み込み、入力作業だけが可能な人材を投与するなどワークシェアリング的な仕組みづくりも検討されているという。
仙道地域においては、買物困難者の課題だけをみてみれば、今はまだ高齢者の町のスーパーへの買い出しも、病院への通院時を利用したり近所との協力でなんとかなっている状況だ。しかし佐藤氏は「本当にもうダメだ、となってからでは遅い」と警告する。
「そして店舗があるのは、単に商売をするだけではありません。コミュニティとしての機能を持ち合わせているからには、小学校の統廃合などで消えてしまった子どもたちとの交流をここでまたつぐ意味合いもあります。まさに、地域の拠点としての意味合いを担っているのです」(土田氏)
今回の取材では買物困難者への対策として「仙道てんぽ」に焦点を充てたが、取材に集っていただいた方々をみるだけでも、県や町の職員、店舗経営者と協議会の側面を持つ土田氏、そして地域協力隊の崎山さんと様々な立場の方が来てくれた。それだけこの店舗の持つ意味合いは大きく、そして、地域の活性化は縦割り1つの側面では成せないということがうかがえる。
これから、仙道てんぽを起点とした取り組みがどのように花開くのか。単なるスーパーではなく地域拠点としてモデルケースの1つとなることを願う。
公開日:






