建設を容易、短期にする新素材CLT
CLT(Cross Laminated Timber)は1990年代のオーストリアで開発された工場生産の木質建材。丸太から切り出した挽き板を木の繊維の向きが直交するように重ねて接着して作られており、日本農林規格(JAS)では直交集成板と称する。厚みのある、大きなパネルを作ることができ、日本CLT協会によると日本で作れる最大のサイズは3m×12mとか。
この厚くて大きなパネルで建物の柱や壁、床、梁などを作ってしまおうというのがCLTパネル工法である。クリスマスの時期などに売り出されるお菓子の家の組立キットをイメージすれば分かりやすいだろう。壁となる4枚の四角いクッキーを土台の上に立ててアイシング(シュガーパウダーを溶かしたもの)で接着、屋根を乗せればお菓子の家は完成だが、CLTパネル工法も同様。パネルを立てて柱、壁、寝かせて床、梁が完成するわけで、後はそれを金物で繋げばよい。お菓子の家ほどではないが、柱を建てて、梁を渡し、床を貼って……という従来の木造住宅の作り方からすると施工は容易。熟練職人もさほど必要なく、工期も短くて済む。
こうした家の作り方をパネル工法といい、プレキャストコンクリートを使った同様の工法はすでに一般的だが、CLTにはコンクリートよりも軽いというメリットがある。建物が軽いと基礎工事などを簡略化できる。こうしたことに加え、環境負荷の低減などのエコロジー的価値観が求められるようになってきた社会背景などもあり、海外では競うように高層建築物を作る計画が出ており、日本での建設事例も中高層が中心になっている。
あえて低層の意味は?
ところが、そんな中、あえて低層という実験住宅が作られた。一般社団法人木のいえ一番協会による「CLT HUT PROJECT」である。富士山を望む山中湖の北側、小高い丘の上に建てられた同住宅は2階建てで、延べ床面積は約50m2。コンパクトな住宅である。
国がこれまで木では建てにくかった4階建て以上の集合住宅をCLT導入のターゲットにしているのに対し、同協会が実験住宅として低層住宅を建設したのには、いくつかの理由がある。ひとつは住空間として気持ちの良い木の家ならニーズ、ポテンシャルがあると考え、自らマーケットを作りたいと考えたこと。
素材として使われる杉材の柔らかさを担保するという意味もある。ヨーロッパではダグラスファーなど杉よりも硬く、重い樹種がCLTの材料として使われているが、日本では林業振興にも繋げたいとの意図から国が杉を推奨している。国内で生産される木材のうち、半分以上は杉(2013年・農林水産省、木材需給報告書)であり、長年続く林業の不振から山には伐採時期を迎えた杉の大径木が蓄積されてもいる。これを利用したいという意図である。
だが、杉は肌触りが良く、断熱、調湿、耐久性に優れ、ホルムアルデヒド吸着作用がある、軽いなどメリットもあるものの、傷つきやすく、柔らかい。特に曲げる力に対しての強度は低く、欧米でのCLT利用例のような大胆な使い方では不利とされる。だが、低層なら無理なく杉の良さを生かせるという判断なのである。
住んでいる人が自分でメンテナンスできるという点も大きい。設計を担当した建築家の山中祐一郎氏は「世の中はメンテナンスフリーを言いたがりますが、家への愛着は自分で手入れすることで生まれます。低層なら外装にも手が届き、木なら自分でメンテナンスできます」。
内外装ともに現わし、木を満喫できる空間
2月に竣工した実験住宅最大の特徴はドア、階段に至るまでがCLTで作られ、かつ内装のみならず、外装までも木が現わしで使われていること。これは木の持つ魅力を楽しめる住まい、建物を増やしていきたいとする同協会の思いから。せっかく、木で作った家なのに、最終的にそれが見えなくなり、感じられなくなるのは残念ではないかというのである。
「CLTを生んだヨーロッパの人たちは北欧の一部を除き、実は木に対して非常に合理的。展示場のように見せる目的の場所では木を使うとしても、それ以外では一般の建材と同様に扱う。ところが日本人には木に対する思い入れがある。近年は薄れつつあるその愛着を感じさせるような住まいを作ろうと思ったのです」と山中氏。実用面からも木の持つ断熱、蓄熱、調湿機能を壁紙、外壁材などで被覆することで殺してしまいたくなかったという。
そのため、建設の前段階として各種金物の開発が行われた。被覆を前提とした中高層の建物であれば接合に使う金物がどんなものであっても、いずれは隠れてしまう。だが、低層の住空間で現わしとなれば金物はできるだけ見えないほうが良いし、見えたとしても室内空間の雰囲気を壊さないものが良い。実際の空間でも柱と梁を接合する金物がわずかに見えた程度だったことを考えると、非常に良い品が開発されたと思われる。
また、塗装はされているものの、現わしの外装を雨、日射から保護するために庇は1160mmと深く取られてもいる。モダンなのにどこか懐かしい感じがするのは庇の深さが日本の民家を思わせるからかもしれない。
木にはグラスウールの30倍もの蓄熱性能?!
ドア、階段もCLTで作られており、非常に厚い。図面に基づいて工場でCLTを切断、加工などしておけば、現地では組立だけで済む。今回は初めてということで手間がかかったが、慣れてくれば作業は各段に早くなるはずと山中氏は期待するさて、実験住宅である。入って驚いたのは材の厚みだ。たとえばドア本体は厚さ150mmのCLTをそのままに使っており、金物を取り付ける部分のみが一般的なドアの厚さ。窓もCLTに穴を開けた状態で、その厚みたるや。床や階段は210mmもあるそうで、そこに安心を感じてしまうのは木という素材に親しんできた国民性だろう。
一方で気になったのは断熱性能だ。立地する山中湖周辺は寒冷地であり、床下、屋根には断熱材は入っているものの、それ以外は木の壁が構造材であり、断熱材であり、仕上げ材ということになる。それで寒さを防げるのだろうか。
「寒冷地仕様の最低ラインで設計していますが、実際にそれで大丈夫か、今後、実験を重ねていく予定です。ただ、面白いことに壁厚110mmのログハウスは一般的な断熱性の計算上、それほど暖かくないはずですが、実際にはかなり暖かい。木にはグラスウールの30倍の蓄熱性能があるとされており、熱の複合的な相互作用もあるはずなのです」。
今後、その辺りが解明され、断熱性能に優れた木の家が作られるようになるとしたら、木の家自体も見直されるようになるだろう。期待したい。
日本の木の文化、歴史を世界でどう生かしていくか
もうひとつ、気になったのは今後、CLTの普及が進むことで日本の林業衰退を救えるかという点だ。CLTで住宅を作れば在来工法より3倍ほどは木を使うことにはなるものの、それだけで日本の林業を変えることは難しいと木のいえ一番協会技術開発委員長の池田均氏。
「そもそも、日本でCLTを生産する工場は10カ所程度とまだまだ少なく、CLT利用の建造物もわずか100棟ほど。また、日本の木材を使って生産しようとすると非常に高くつく。日本と同じように山が急峻で他国より不利とされるオーストリアに比べても収益性は桁がひとつ違うほど。林業自体の合理化などが進まないと、CLT普及だけでは変えられません」。
とはいえ、日本には木を使ってきた長い歴史、文化がある。「日本のCLT利用はヨーロッパから20年遅れていると言われています。しかし、日本にはそれ以前からの木を利用する知識、ノウハウの積み重ねがあります。それを考えると今後の木の利用では日本が世界を先導すべき。世界を引っ張っていけるようにしたいですね」と山中氏。
かつては木と紙で家を作っていた国である。世界が木に注目し始めたのであれば、その歴史を存分に生かし、木造建造物で世界で変える日を夢みたいところである。
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