“次の主へ家を住みつなぐこと”にまだ慣れていない日本人
多くの人にとって、マイホームは一生に一度の大きな買い物。“清水ジャンプ”の覚悟で手に入れた宝物のような住まいを、最初から「将来手放すときが来る」と考えている日本人はまだまだ少ない。
国土交通省発表のデータによると、日本における中古住宅流通量は約13.5%(※)。しかし、欧米に目を向けてみると、アメリカでは約90.3%、イギリスでは約85.8%、フランスでは64.0%となっており、『新築住宅』よりも『中古住宅』の流通割合のほうが高くなっているのが世界基準なのだが、“新品好き、キレイ好き”という日本人の特性に加え、高温多湿のため欧米に比べると住宅寿命を長期に渡って維持しにくいという気候特性もあってか、日本の住宅業界における『新築至上主義』はなかなか変化の兆しが見られないようだ。
※平成20年時点データ/全住宅取引量に占める中古住宅流通量の割合。
しかし、近年早急な対策が必要とされている『空き家問題』や『中古住宅市場活性化への課題』を受けて、“次の家主へ家を住みつなぐこと”をコンセプトにした新感覚の住宅に注目が集まっている。それが、2014年グッドデザイン賞を受賞したロイヤルハウス株式会社(本社:愛知県名古屋市)の『骨の見える家』だ。
中古市場で住まいの価値を高めるためのキーワードは『可変性』
たどり着いたのは“主がDIYで間取りを変えられる家”
「従来、日本人の考え方としては“個人の好きな家を、個人の好きなように建てること”が、一生に一度の家作りの醍醐味でした。
しかし残念ながら、個人の好みや思い入れがたくさん詰まった家は、いざ中古市場で売却しようとすると主が考えているほどの評価が受けられず、やっと売却できてもオーバーローンで重荷になってしまうケースが多かったのです。
そこで、住まいづくりを“個人の家づくり”として考えるのではなく、“街づくり”として考えることで、中古市場での価値を高めることができるのではないかと考え始めたのがプロジェクトスタートのきっかけでした」。
ロイヤルハウス商品部部長の齋藤陽久さんは、プロジェクトリーダーとして『中古市場での住まいの価値を高めるためには何が必要か?』を模索していたとき、主のニーズの変化に合わせて空間を変えることができる『可変性』の大切さに気付いたという。
「高温多湿の日本では“家が長持ちしない”というのは迷信で、歴史的な木造建築が数百年の時を経てもちゃんと存在しているように、しっかりとメンテナンスをおこなえば『100年住宅・200年住宅』も実現するはずです。なのに、日本の住宅が約30年程度で建て替えられてしまうのは“次の人へ住みつなぐこと”を考えて設計されていないから。その点、簡単に間取りや空間の雰囲気が変えられるような『可変性の高い家』なら、“住みつなぐこと”がスムーズにおこなえるのではないかと思いました。
結果、たどり着いたのは、DIYでも気軽に間取りを変えたり修繕することができる『骨の見える家』の提案でした」(齋藤さん談)。
住まいの“骨を見せる”ことで、何が変わるのか?
『グリット』に沿って、空間を柔軟に変化させるという新発想
▲たしかに、こうして『グリット』を眺めてみると、どこに柱や梁があり、どのように家が支えられているのかがよくわかる。もちろん、壁の追加については設計時にオーダーできるが、DIYが得意な人にとっては“将来、自分の手で間取りを変える”という楽しみも広がりそうだ『骨の見える家』…何ともユニークなネーミングだが、住まいの“骨が見える”とはいったいどういうことなのか?
「ようは“家の下地を見せる”ということです。昔ながらの日本の家屋は、立派な梁や大黒柱がむき出しになっていて、一目で家の構造がわかる設計になっていました。しかし、昭和の高度経済成長期に急速に住宅産業が発展した結果、ユニット化が進み、柱が細くなって筋交いを隠すようになり、いつしか梁や柱などの『骨』ではなく『壁』で家を支えるようになって、建物構造が見えにくくなってしまったんです。
そこで、『骨の見える家』では、あえて梁や柱を5mスパンのグリット(格子状)にデザインし、建物構造を主にしっかりと見せることで、“ここのグリットには壁を追加することができるんだな”とか、“この柱は取り除くことができない大切な柱なんだな”とか、住宅設計に詳しくない方でも空間アレンジをシミュレーションしやすいようになっています」と齋藤さん。
『壁』をひとつ追加するには、素材や大きさにもよるが数十万円程度。DIYが得意な人ならグリットに沿って自分で壁を作ることも可能だという。また、グリット化によって空間が細分化されるため、壁・天井・床などの部分的な補修やリフォームが従来よりも容易になり、丁寧なメンテナンスを繰り返すことで中古市場での価値向上につながることが期待できる。
業界全体で『住みつがれる価値のある家づくり』への意識改革が大切
▲グリットは、基本構造や建築コスト、耐震バランスなどをすべて考慮した結果『スパン5m』で設計されている。あえて梁や柱をむき出しにすることで“骨が見える”だけでなく“木のインテリア性も楽しめる”という点が高く評価されている「現在、福岡県北九州市内でモデルハウスを公開しているのですが、モデルハウスには壁を作らず、グリットが確認しやすいように大空間の状態にしています。
見学者の方は、『リビングは○本目のグリットぐらいまで広さがほしいなぁ』とか、『ここのグリットがひとつ余るから収納スペースにしても良いね』とか、畳数やm2数ではなくグリットに合わせて空間の広さをイメージされるようです。
また、グリットを眺めていると“自分もDIYで部屋づくりにチャレンジしてみたい”と関心を持つ方が多く、お客様の“家づくりへの興味”にもつながっていることを実感しますね」と齋藤さん。
家の骨が見える…つまり“家の構造を知る”ことで、住まいに対する施主の想いがより深まる。『家を簡単に建て替える』のではなく『家を次世代へ長く住みつなぐ』という住まいへの愛着を育むこともロイヤルハウスの狙いのひとつだ。
「次の主へと住みつなぐことができる家というのは、“その街に住み続ける人がいること”を意味します。つまり、街づくりにも大きな影響を与える存在なのです。これからの日本の住宅が、“一代で終わる家”ではなく、80年、100年と世界基準並みに住みつがれるように、わたしたち作り手も意識を変えなくてはならないと思っています」(齋藤さん談)。
現在公開されているモデルハウスは北九州市のみだが、今後は徐々に全国各地で展開していく予定とのこと。“住みつがれること”を考えて設計された『骨の見える家』が、これから日本人の“住まい感”にどのような影響を与えるかが楽しみだ。
■取材協力/株式会社ロイヤルハウス
http://www.royal-house.co.jp/



