「大改造!!劇的ビフォーアフター」の建築家に聞く、建築家とつくる住まい

「小林真人建築アトリエ」建築家 小林真人さん「小林真人建築アトリエ」建築家 小林真人さん

新築戸建てを買うにはいくつかの選択肢がある。人生の長い時間をすごす場所なので、将来にわたって愛せる場所になるように最適な選択が必要だ。

「建売」は住宅が建築済あるいは着工中のもの。「建築条件付き住宅」は購入時点では土地のみで、土地購入後、一定期間(※)に決められた建築会社と家を建てる。ある程度プランニングの自由度があるが、建築会社を選べないこと、プランニングする期間が短いというデメリットがある。
※土地購入後、建築工事請負契約までの期間に決まりは無い。ただ2003年の公正取引委員会の見解変更前までは3ヶ月という期間が設けられていたため、現在でも3ヶ月とする場合が多い。

「注文住宅」は家づくりのパートナー選びが重要。数種の標準仕様があり、オプション等で理想に近づけていくハウスメーカー、地元密着で数が多く施工レベルも価格も千差万別な工務店、いわゆる建築家がオーダーメイドで設計をする設計事務所、とパートナーの選択肢は多い。
中でも難易度が高く見られるのが建築家とつくる住宅。価格も敷居も高い・こだわりが強い・時間がかかる…こんな建築家のイメージは本当か――。

今回は、「黒川雅之建築設計事務所」で16年間設計を経験した後に独立し「小林真人建築アトリエ」を設立、朝日放送「大改造!!劇的ビフォーアフター SEASON II」の出演経験もある建築家 小林真人(こばやしまひと)さんのインタビューから、建築家とつくる住まいを考察する。

「こだわりが強い建築家」の本当のこと

小林真人さんの商業建築。レストラン・動物病院等が入った複合施設「花陰」(山口県山口市)小林真人さんの商業建築。レストラン・動物病院等が入った複合施設「花陰」(山口県山口市)

実は日本で「建築士」として登録されている人数は355,921名にのぼる(※日本建築士会連合会、2013年下半期調べ)。ただ、学校卒業後に建築関連の企業に入る人も多く、建築家・設計士として名を成す人はわずかだ。建築家としてのスタートも、意匠で有名な建築事務所で国内外のプロジェクトを手がけたり、ゼネコンや工務店の中にある設計室で住宅をつくる…など、学ぶ場所でカラーが分かれる。

「たとえば、不特定多数の人が出入りしし、時期によって価値観の違う担当者がつく商業施設は、一貫したコンセプト・ものの考え方・キャラクターとしてのデザインをする必要があります。一方で住宅は住む家族が決まっていて、その家族のものの考え方、したい生活、そこで叶えたい夢などを実現していくものです。住宅は小さいけれど“生活とこだわり”が詰まった濃密な空間を求められる建築の基本。僕は建築家は、住宅と非住宅の建築の両方をやるべきだと思っています」と小林さん。

――建築家として自分のカラーを出す商業施設と、それを出さない住宅という線引きがあるのか。
「商業施設は、僕のカラーを出したほうが将来にわたって高い価値を保てると判断したら出します。一般的な住宅を考える人には、それらを全面に出すことはしない。ただ、どちらの場合も設計者を選んだ時点で本能的な好みは決まっていると思います」

――住宅をつくる時に注意していることは?
「施主が言葉で表現できるのは一部なので、その言葉の中にある本当の意味を読み込むことです。例えば壁をピンクにしたいという人がいて、その理由を読み解くと明るく暖かみのある空間にしたいという意味だったりする。であれば、壁色が白でも、その素材感をいかした採光のとり方や照明の工夫が必要だとわかる。住宅はそこに住む人のものだから、希望要件は唯一無二のものです。僕の今までの経験と知識を集結して希望を叶える設計をしますが、新しいやり方が必要な場合は、施主のヒアリングから吸収して新しいキーワードを探していきます」

建築家の「困った」を解決するのは、暮らす人自身

小林真人さんが手がけた住宅小林真人さんが手がけた住宅

――自分のこだわりを乗せるのではなく、そこに住む人からヒントを得ていく?
「そうです。僕は施主が漠然と抱いているイメージや抽象的なことも含めて施主と一緒に要件整理をして、プライオリティーの整理をしてから設計をスタートする。そこから先にある合理性・解決方法は自然に僕のカラーが出るもので、こだわりではない。僕の経験値で解決しないことは、施主の価値観の中にヒントがある。だいたいは、全体を見回し直したら出てきますね」

――建築家に依頼したい人がやっておくことはあるか。
「僕は施主と雑談をするところから始めますが、そこに新しい家のイメージや、どう住みたいかを家族それぞれが箇条書きして持ってきてもらうことにしています。矛盾したことが出てきても自分で解決・整理しなくて大丈夫。考え方によっては矛盾にならないことも多いんです。家への希望を“生の状態”でぶつけてくれたら、そこから読み取れることは多い」

たとえば小さな子どもがいる場合、夫婦が基本で一時的に子どもがいるという位置づけか、子どもが第一という考え方なのか。ある程度放任するなら一人の人間としてプライバシーを守る空間が必要だし、じっくり向き合って関わり続けるなら子どもがこもる空間はつくらない方が良い。雑談の内容が間取りや動線に落ちていく。

「家にライフスタイルを合わせる」か「ライフスタイルに合った家をつくる」か

左:眺望と採光のために大きく取った窓 右:子どものプライバシーを考えて中庭をブリッジで繋いだ設計左:眺望と採光のために大きく取った窓 右:子どものプライバシーを考えて中庭をブリッジで繋いだ設計

最近の小林さんの仕事で印象深いものがある。
南向き、多摩川・ベイブリッジ・富士山が見える好立地で、実現したいのは抜けの良い眺望と室内の明るさ。ただ、高さ制限のある地域なので、背の高い建物は建てられない。

「木造2階一戸建ての2階をリビングにして、ソファに座った目線の高さで眺望を確保できるように、隣家の屋根が視界に入らないぎりぎりまで大きな窓をつくりました。また、そこから入る光と白い内装で明るさを出しています。ご夫婦には常に子どもを見ていたいという希望があったのですが、子どもの立場からしたら一定のプライバシーは必要だと考えました。そこでリビングと子ども部屋を中庭で分けて、その上にブリッジをかけて視覚的には一体になりつつ、音や具体的なつながりは少し遠いという設計にしました」

30~40年後を見据えた設計は建売ではなかなか実現できないし、そこまで考えが及ばない家族も多い。建築家というプロの力を借りれば深い満足感のある住まいが実現するだろう。
では実際に建てる場合の価格はどうか。設計料の計算は以下3点のいずれか。
1)総工費の7~12%程度を設計料とする ※事務所によって%は変動
2)事務所によって取り決めた坪単価の設計料
3)人件費+特別経費+技術料+諸経費の合計金額 ※2009年国土交通省告示第15号に準拠した計算式
1・2についてはいわば業界慣例だが、分かりやすい料金体系のため採用している事務所が多い。

結論は、住宅を大量供給するハウスメーカー等と比べると金額は1~2割上がることが多いと言われる。ただ「予算内に収めるのも建築家の仕事」と小林さん。
「実現したいことすべてを盛り込むと金額が上がりますが、建築家の経験や工夫で金額を抑えられることもあります。コストコントロールを委ねられるのは建築家に依頼するメリットだと思います」

家を建てると決めた後にとる行動はなにか。まず浮かぶのは住宅展示場に行くこと。そこで見る住宅の安定した性能、一般的な間取り、大手ハウスメーカーのブランド力が安心感と感じる人はそれに決めるといいだろう。ただ、家への思いが強かったり明確な希望がある場合は、建築家という手段もありだ。
既製品の家に自分のライフスタイルを合わせるのか、家族のスタイルに合った家をつくるのか、絶対的な正解は無い。ただ、家を買うことに気を取られるのではなく、家族の将来を真剣に考えるきっかけになる点で建築家とつくる家は魅力だ。家をつくる過程で、家族のコミュニケーションも育てていくという考えはあってもいい。

取材協力:「株式会社 小林真人建築アトリエ」
 http://www2u.biglobe.ne.jp/~mahito/

※建築家を身近に感じてもらう活動の一環として、小林真人さんと建築家仲間で構成した「建築家31会」では模型展や相談会を行っている。
「建築家31会」 http://kenchikuka31.net/

2014年 11月02日 11時58分