20坪の木組みの家の住み心地
日本の伝統構法を用いた「木組みの家」を取材する第3回目。最後となる今回は、実際に「木組みの家」を訪ねて、オーナーの方にリアルな住み心地を取材してきた。
東京・高円寺の「K邸」は、約20坪の敷地に建てられた木組みの家。2012年の年末に完成し、60歳になるオーナーKさんが一人暮らしをされている。
子供の頃から木の家に憧れ、この家を建てたというKさんだが、住んでからますます木組みの家の魅力を実感しているという。
ランニングコストが驚くほどかからない燃費の良さや、この家に暮らし始めて感じる体調の変化など、そんなことまで住まいで変わってくるのかと驚くようなKさんのお話をご紹介しよう。
フケがでなくて、洋服の襟よごれもなくなる!?
こちらを訪れた日は、雨こそ降ってはいなかったが、梅雨の始まりの薄暗い空模様。玄関から招き入れていただいた途端、すがすがしい木の香りが迎えてくれた。通されたリビングの西側には、はめ殺しの窓が大きく開口部を広げ、緑が鮮やかなお庭が眺められる。筆者の自宅では、朝方も電灯をつけるほど暗かったのだが、ここでは自然光でも十分明るい。
「この家、明るいでしょう。南側にはアパートが隣接した狭小地ということで、暗さと狭さは覚悟していたのですが、とても明るく、広さを感じさせる空間に作っていただきました」(Kさん)
しかも、じめじめとした梅雨の気候だというのに、こちらのお宅に入ると妙に涼しい。そのことを口にすると、Kさんもそれが住んでみて実感した木組みの家の魅力だと説明してくれた。
「先日から、気温が上がって蒸し暑くなりましたよね。買い物にちょっと出て店に入るとクーラーがかかっていますが、人工的で居心地が悪くなる。でも、この家にいるとエアコンをかけなくとも、そんなに体感は暑くありません。温度は変わらなくても湿度が変われば過ごしやすく感じることを知っていましたが、この家に来てそれを実感しています。リビングには湿度計を置いていますが、快適指数といわれる40%~60%を大きく外れることがありません」(Kさん)
それは、この家が木と漆喰で作られているからだと、設計者の松井郁夫建築設計事務所の松井氏は言う。
「木と漆喰というのは、顕微鏡で覗くと表面に小さな孔が空いています。そのため、調温・調湿作用があります。湿度の高い梅雨や夏場には、空気中の水分を木と漆喰が吸収してくれて、乾燥する冬場には放出するというもの。ですから、夏場などはこの家にしばらくいると汗もひいてきますよ」(松井氏)
しかも、木と漆喰の自然素材の威力はそれだけではなく、ホコリがたたないすがすがしい空間にしてくれるとKさんは続ける。
「この家に越してきたころに、空気清浄機を買ったのですが、ぜんぜんフィルターにホコリがたまらないのです。機械の性能が悪いのだろうと捨ててしまったのですが、後で松井さんに聞いたら、無垢の木は湿気を帯びているから空気中のホコリを吸着して、舞わなくなるそうです。この家に住んで、洋服の襟汚れなども少なくなったと不思議に思っていたのですが、空気中にホコリが少ないから体も汚れないと聞いてびっくりしました」(Kさん)
それに、Kさんは、冬場になると乾燥からフケが出るのが気になっていたというが、この家ではそれが気にならなくなったそうだ。冬場も家の中は快適な湿度が保たれるため、体の乾燥も抑えられるという。
「女性はお肌の保湿を気にされますが、そういうのにも効果がありそうですよね」というKさん。なんと木組みの家の効果は美容にまで話が発展してしまった。
昨年の猛暑でも、エアコン稼働日はたったの3日
エアコンは、床を下げて床下を蓄熱層に(写真:右下)。地窓(写真右上)から入った空気は越屋根に向かって流れ対流がおきる。吹き抜けの天井に設置されたインテリアファン(写真:左)がさらに対流を大きくさせ、エアコンに頼らなくとも自然の風をうみだすさて、木組みの家の環境性能の高さは松井氏にうかがっていたが、実際のところどうなのだろうか? そんな質問をしてみると、Kさんはある月の電気料金の明細書を見せてくれた。4月のもので電気料金は「3855円」、そしてこちらには小型のソーラーシステムが入っているため、太陽光で作られた電力の販売価格が「3150円」。つまり、この月の電気代は実質約700円ということになる。
「冬場も夏場もほとんどエアコンを使わずに済むので、電気代は一年を通してだいたい3000円台です。昨年の猛暑でもエアコンを使ったのは、たった3日でした。熱帯夜で外に風が吹いていなくとも、不思議とこの家には風が通ります。2階の寝室にも吹き抜けのリビングから風が運ばれてきて涼しいですよ」(Kさん)
これは木組みの家が、古民家などから学び、窓の配置だけで自然風をもたらしてくれるからだ。具体的には、この家に設計された「地窓」「越屋根」「吹き抜け」が自然の風を作りだしてくれる。
地窓とは、文字通り床に近い部分に設けられた窓。そして越屋根とは屋根の上にもう一つ屋根をつけたような小さな開口部のこと。地窓と越屋根という上下に高低差のある開口部があることで空気の対流が起こる。そしてこの家ではリビングが吹き抜けになっていて、屋根にはインテリアファンがついている。それがさらに対流を大きくさせ、エアコンなどに頼らなくともリビングとつながる寝室にここちよい風を運んでくれるというわけだ。
「この家にはリビングに1機しかエアコンを配置していません。しかも置き場の床下を20cmほど下げて床下を蓄熱層として使っています。1階の床には、あちこちに穴をあけているので蓄熱層から暖気や冷気が出るしくみになっています。人工的なエアコンを使う場合も省エネができるように配慮しています」(松井氏)
冬場は、リビングの大きな窓から熱を入れて温かさを保つ。夏場は、この窓にはロールカーテンなどで遮熱を施し、地窓や越屋根のつくりで自然風を取り入れ快適さを保つ。なるべく自然の力を利用して、それでもエアコンを使う場合には、省エネが図れるように床下に蓄熱層を設ける。まさに、過去の知恵と近代の工夫を組み合わせながら「木組みの家」は環境性能を高めているのだ。
「どこからでも緑が見える家」に住む幸せ
このほかにもこの家には、随所に暮らしを楽しむ工夫がされている。Kさんが唯一この家をオーダーする際にこだわったのが「どこからでも庭の緑が眺められる」こと。そのため、この家の浴室はちょっとした旅館には負けないほどの情緒が感じられる。壁面は檜に囲まれ、床は伊豆石が敷き詰められた洗い場。そして浴槽からちょうど横に顔を向ければ、明り取りの窓から庭の緑が顔を出す。思わず月見酒をしたくなるような空間だ。
「この家に住んでいると、旅行にもそんなに行きたくなくなりますね。下手な旅館よりも、自慢の風呂場での時間は癒されますから」(Kさん)
2階の寝室には、造作のクローゼットが並んでいるが、その足元は床までぴったり作らず少し宙に浮いた形になっている。天井も高く、寝室と廊下は壁で仕切らずに透明のガラスで連続性を持たせている。どれも、空間を少しでも広く見せるための工夫だ。コンパクトながら広がりを感じる寝室でベッドに寝転べば、越屋根から月明かりが差し込み、自然光を感じながら優しい眠りに誘われる。
「眠るときは月明かりを楽しんだり、天井は梁がそのまま見えるので、それを見ているだけでも飽きません。なんとも味があります」(Kさん)
この家は、天井の梁はそのまま形をあらわにしているが、壁面は柱を白壁でわざと隠している。あまりにも柱が多く見えると社寺のような雰囲気になってしまうからという建築家としての松井氏の配慮だ。しかし、その柱もすべて壁に隠すのではなく、どこに柱があるのかはわかるように、白壁の外に細い縦のラインで柱の端が顔をのぞかせている。
「梁がどの柱に支えられているのか。それが見えないと人というのはなんだか不安になると思うのです。意識はしていなくとも無意識的に。ただし、柱がすべて見えてくるとデザイン的にうるさくなりますので、角のラインだけ少し残しているのです。家の中は安心できる場所でなくてはならないので、ちょっとしたことですが私なりのこだわりです」(松井氏)
毎日が、家に守られている
「この家に住むようになって、家に守られている気がする」というKさん。日課として散歩にでかけるそうだが、その道すがら、今日はどこを掃除しようかと考えるだけで毎日が楽しいという。
木は生き物。木という生き物に守られて、そしてそこに手をかけて暮らす日々。Kさんのお宅では、まさにそんな豊かな暮らしを垣間見せてもらえた気がする。
確かに、木組みとなるとプレカットなどに比べて総工費が高めになる。しかし、住んでからのランニングコストなどを考えて長い目で見れば、一考の価値があるだろう。そして何よりも木組みの家の魅力は、目に見えない五感で感じられるものの多さだ。
こちらのお宅では、お掃除が行き届いているせいなのかもしれないが、とても空気が清々しく感じられた。地窓のおかげなのだろうか、足元を通り抜ける風。庭の緑ともあいまって薫る木々の匂い。床に触れる無垢の感触。色々なものが感じられる。
世界の中でも感性が豊かとされる日本人だが、昔の人々は、住まい一つをとっても自然の力を生かし、家の中でも様々に五感を働かせていたのだろう。今の時代こそ、こうした感性を育てるような家が必要なのではないかと思う。





