エネルギー消費量ゼロの住まいを社会に、アジアに、を目的に開催
2014年1月末。東京ビッグサイト東雲臨時駐車場に5軒の妙な外観の家が並んだ。これは経済産業省資源エネルギー庁の事業のひとつとして行われたもので、「エネルギー」「ライフ」「アジア」をテーマに、2030年の家を提案するモデルハウス「エネマネハウス2014」。慶應義塾大学、芝浦工業大学、東京大学、千葉大学、早稲田大学の5校が複数の企業とも組んで建てたものだ。
3つのテーマのうち、もっとも大きな意味を持っているのは「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」。平成11年に改正された「次世代省エネ基準」は主に建物の断熱性能を評価していたが、平成25年の新しい省エネ基準はそこにさらに高性能設備機器と制御機構等を組み合わせ、年間に使う1次エネルギー消費量で評価することとなった。将来の住宅性能として大きく変化を求められているのは燃費というわけである。さらに、ZEHは、ネットで概ねゼロになる住宅を目指している。そのZEHを今後も多様化、高齢化の進む暮らしにどう適合させていくか、また、国内のみならず、アジアを中心とした海外に普及させていくにはどうすれば良いか、それが3つのテーマの意味だろうと思う。
つまり、エネルギー効率が良く、どの年代の暮らしにも快適で、アジアを始めとする世界にも受け入れられる住宅をというのが今回のモデルハウス建設のテーマ。5大学それぞれに個性のある住宅を提案していたが、ここではそのうち、ネット・ゼロ・エネルギーに加えて、住まいを建ててから数十年後に解体するまでのライフサイクルにわたる二酸化炭素排出量をゼロにする住宅(=ライフサイクルカーボンマイナス住宅)を提案した慶應義塾大学の「慶應型共進化住宅」を取り上げたい。
都市でも作れるエコハウスは意外に窓が小さかった
きれいに南に向いた他大学の建物に対し、慶應義塾大学のそれはなぜか、斜め。しかも、冬場の日射エネルギーを取り込むには南面の窓を大きくするのが定石で、どこも大きな窓が特徴的というのに、この家の南の窓は意外にコンパクト。
これについてプロジェクトリーダーの池田靖史大学院政策・メディア研究科教授は「周囲が建て込んだ都会では敷地の条件は様々。南面の条件が悪いこともありえます。そんな場合に安定して太陽エネルギーを取り込むとしたら、屋根を使うほうが多様な立地に対応可能。そこであえて南北の軸をずらしてあります」。
都市での暮らしを考えると、いくらエコでも、大きな窓にはプライバシーの問題も付きまとう。そんな実際の生活も考慮されているのだという。
家の作りを変えることで、社会とつながる住まいへ
また、断熱、熱効率を優先しているためか、他の建物では縁側を作る、二重構造にするなど、外に対して閉鎖的に見える作りが目立つのに対し、この建物では四方に窓があり、バルコニーがあるなど、一見普通の家。夏、冬以外の、気候の良い時期に家の四隅にある窓から自然の風を取り入れられるようになっているともいう。もちろん、太陽熱を利用したり、カーボン・オフセット証明書が発行され、製造段階のCO2排出ゼロのセルロースファイバー(簡単に言えば古新聞!)を断熱材にしたり、また、砕石を床下に入れて蓄熱材にしたりと省エネのための様々な工夫はあるわけだが、にしても開かれた家という印象がある。
これについて大学院政策・メディア研究科の高城冬悟さんは「今の戸建住宅は開口部が少なく、外と内を峻別、外に向けて自らを閉ざすことで、コミュニティを切り捨ててきたと思います。そこにオープンデッキを作ることで、社会との間に公共空間を作ることができないかというのが、この家です。単体の家というのではなく、社会の中の家として住宅を考え、家の作りを変えることで社会との関係も変えていく、そんなことを意図しています」と説明してくれた。
国産の杉利用の集成材でナチュラル、フレキシブルな空間を創出
外観はもちろん、室内の大きな特徴は全体が木で出来ていること。これはCLT(CrossLaminatedTimber)と言われる7層の集成材で、日本ではJASの認可が降りていないものの、海外では14階建てのマンションに使われたこともあるほど、強度の高い素材。年輪に近い部分や間伐材も利用できるため、木材を無駄なく使えるのも特徴だ。
「今回は国産杉を使い、今作れる最大サイズの2.7m×6mを利用、壁工法で作りました。プラモデルのように組み立てるだけなので、約70m2のこの家ならたった3日。また、木の色そのままだと色が強すぎるので化粧仕上げはしましたが、内装の必要がないのもメリット。その分、安く、すぐに建てられます」(前出・池田教授)。木材を使うことで、国内の林業振興にもつながりそうだ。ただ、木そのままでは防火面での不安がある。今後その点の研究は必要だろう。
2030年には個室を求めない暮らし方が主流に?
CLTを使うことで可能になった、柱、梁のない大空間も特徴。間取りは大きな風車型をしたワンルームのようなもので、中心にはキッチンのあるダイニング様の空間がある。その周辺に個室のようにも思えるが、壁では仕切られておらず、ルーバー状の輻射熱を利用した冷暖房機や段差などを使って、緩やかに区切られた空間が配置されている。これは2030年には個室中心ではない、集まって住む暮らしになっているのではないかという予測からこのような形になったという。
「今の住宅の問題点は住み方が決められているということじゃないかと思います。個室で一人ひとりが離れ離れになっている。でも、この家の間取りのようにどこをどう使ってもいい家であれば、家族間のコミュニケーションが図られ、引きこもりなどの問題も生じにくくなるのではないでしょうか」(大学院政策・メディア研究科・東慎也さん)。
各方向のバルコニーを出入り口と考えれば、どこから入って、どこをリビング、個室にしても可能という間取りなのである。また、今回の間取りをベースにライフスタイル、家族数など、暮らす人の事情に併せて拡張させていくことも可能だという。続いては自然素材を使い、ナチュラルに見えながら、実はコンピュータで統合制御された住宅という側面を見ていこう。







