対策が急がれる老朽不動産

老朽化した不動産への対策は喫緊の課題だ。耐震性の劣る建築物は大地震による倒壊や大破が懸念され、人命に関わるだけでなく避難路を塞ぐことによって甚大な二次災害も引き起こしかねない。省エネルギー性能の劣る建築物は、資源の無駄遣いにもなるだろう。さらに、老朽化して使われなくなった建築物が都市に点在することで、街の活性化を阻害するだけでなく、生活環境の悪化を招いたり治安の問題を生じたりすることもある。

しかし、立地条件などが良く採算の見込める不動産であれば、国が関与しなくても民間が積極的に活用するだろう。老朽化した建築物を再生したり、古くなった賃貸マンションや社宅などを1棟丸ごとリノベーションして販売したりする事例も年々増えている。課題が残るのは、事業を進めるにあたってリスクを伴う老朽不動産の場合だ。

そこで平成25年1月11日、緊急経済対策の一環として「良質な不動産形成のための官民ファンドの創設」が閣議決定された。それに基づいて国土交通省と環境省が取組みを始めたのが「耐震・環境不動産形成促進事業」であり、事業を円滑に進めるため「不動産特定共同事業法の一部改正」(平成25年3月29日閣議決定)も行われた。

民間の投資を待っていてはなかなか再生が進まない老朽不動産に対して、国がリスクマネーを供給することで民間投資の導入促進を図り、さらに民間のノウハウを活用することで建築物の耐震化や老朽不動産の再生を促すものだ。投資に適した優良不動産が供給されることで不動産市場を活性化させ、景気回復に貢献することも期待されている。

事業の対象となるのは、国勢調査の結果に基づく人口集中地区内にあり、原則として事業後の延床面積が2,000m2以上の建築物だ。これらについて、耐震改修事業、15%以上のエネルギー消費量削減効果が見込まれる省エネ改修または建替え・開発事業、建築環境総合性能評価システム(CASBEE)による評価がAランク以上となる改修または建替え・開発事業、都市の低炭素化の促進に関する法律に規定する低炭素建築物などのうち、いずれかを満たすものが対象となる。

老朽化が進む不動産への対策は急務老朽化が進む不動産への対策は急務

耐震・環境不動産形成促進事業のスキーム

耐震・環境不動産形成促進事業では、国が「耐震・環境不動産支援基金」として補助金を出す。この補助事業者(基金設置法人)として選ばれたのが、一般社団法人環境不動産普及促進機構(Re-Seed機構)だ。ちなみにこの機構は、建設経済研究所、建築環境・省エネルギー機構など一般財団法人、公益財団法人、一般社団法人、公益社団法人の12社が平成25年2月14日に設立している。

環境不動産普及促進機構は基金から投資事業有限責任組合(LPS)へ出資をし、さらにLPSから実際の事業に関わる特別目的会社など(専ら対象事業の施行を目的とする会社)へ出資をする。この出資と投資家からの資金や金融機関からの融資を基に特別目的会社などが事業を進め、Jリート、私募リート、企業、個人、年金などに売却する。この出資とは逆の流れで、それぞれ配当や売却益を得る仕組みだ。

また、それぞれの段階においてファンドマネージャー(不動産運用会社)やアセットマネージャーが関与し、事業の円滑な遂行を後押しすることになっているほか、各地域の金融機関との間で提携も進められている。

平成25年10月1日に国土交通省と環境不動産普及促進機構、155金融機関との間でパートナー協定が締結された。12月2日には新たに19金融機関との間で協定が締結され、現時点では合計174金融機関が参画する形となっている。金融機関は地元のデベロッパーなどから得た案件の情報を環境不動産普及促進機構へ紹介し、機構はその情報をファンドマネージャーへフィードバックしたうえで、デベロッパーによる事業化を支援する。また、金融機関は事業資金を提供するほか、事業のコーディネーター役に就くことにもなるのだ。

国土交通省「耐震・環境不動産形成促進事業について」添付資料「制度スキーム概要図」より引用国土交通省「耐震・環境不動産形成促進事業について」添付資料「制度スキーム概要図」より引用

不動産特定共同事業法の一部改正は投資家リスクの軽減

耐震・環境不動産形成促進事業の実施にあたり、不動産特定共同事業法が一部改正された。これは投資家保護を目的として平成7年に施行された「不動産特定共同事業法」による証券化スキームでは、対応が困難なケースも想定されるためだ。特例投資家(銀行、信託会社など不動産投資に関する専門的知識や経験を有する者など)を事業参加者とすることを要件とする代わりに、従来の不動産特定共同事業者(デベロッパーなど)の許可制から、特例事業者(特別目的会社など)の届出制に緩和された。

投資の対象がデベロッパーなど他の事業によって倒産するリスクのある相手から、投資対象不動産の事業だけに関わる特別目的会社になることで、投資家のリスクが軽減され、投資が促進されるものと期待されている。また、平成25年度の税制改正において、特別目的会社が取得する不動産に対する登録免許税や不動産取得税の軽減措置も導入されている。

耐震・環境不動産形成促進事業の効果は?

耐震・環境不動産形成促進事業および不動産特定共同事業法改正の目的は、「老朽・低未利用不動産の改修、建替えまたは開発を行い、耐震・環境性能を有する良質な不動産の形成を促進することで、地域再生・活性化に資するまちづくりおよび地球温暖化対策を推進すること」とされる一方で、事業を通して資産デフレから脱却すること、持続的な経済成長に資することなども掲げられている。

さらに国土交通省は、「不動産特定共同事業法の改正により、今後10年間で約5兆円の新たな投資、約8兆円の生産波及効果、約44万人の雇用誘発効果が見込まれる」としている。その試算が正しいかどうかはともかくとして、平成24年度補正予算に組込まれた耐震・環境不動産形成対策費補助金は350億円(国土交通省300億円・環境省50億円)だ。2014年1月10日時点のJ-REIT時価総額7兆4千億円あまりと比べてもかなり小振りな額に過ぎない。

あくまでも民間投資の呼び水としての位置付けだろうが、その効果が表れるのにはまだしばらく時間がかかる。建築物の耐震化、老朽不動産の再生、建築物の省エネ推進、低未利用不動産の建替えや開発、さらには地域再生、経済対策と数多くの理念を掲げていることで、焦点がぼやけがちな面も否めないだろう。

しかし、いずれにせよ次の大地震が懸念される我が国において建築物の耐震化を始めとした災害対策は急務であり、都市の老朽化した不動産ストックの再生や活用も大きな課題である。事業が円滑に進み、街の活性化や安全対策に寄与することを願いたい。