耐震性不足、社会的老化に無管理状態が築30年超マンション劣化の要因

現時点でのマンションのストックは589万戸超。年々増え続けており、老朽化したマンションも当然、それにつれて増えていく現時点でのマンションのストックは589万戸超。年々増え続けており、老朽化したマンションも当然、それにつれて増えていく

平成24年末現在、日本全国にあるマンションは589万7000戸。そのうち、築年数が30年を越す、昭和58年までに建てられたマンションは128万7000戸。新耐震基準施行は昭和56年だが、マンションの場合、建設に時間がかかることから、同年くらいまでは旧耐震の建物が混じっていると考えると、全体の2割ほどの建物は古く、耐震性に疑念がある可能性が高いことになる。

こうした建物では耐震性の懸念に加え、インフラの老朽化など構造的な老化に加え、狭い、使い勝手が悪いなどの問題も生じてくる。たとえば、住宅が不足していた昭和30年代に供給されたマンションは2DK50m2がスタンダードだったし、和室が中心で洗濯機置場が室内にない、水回りが狭く、洗面所がない、電気の容量が少ないなど、現在の暮らしには快適とは言い難い。

そして、もうひとつ、問題なのは管理。「国交省がマンションの管理に関する指針であるマンション標準管理規約(当時は中高層共同住宅標準管理規約)を出したのは昭和58年。それ以前は管理、メンテナンスに対する意識が低く、何も手入れしないままに10年、20年が経過してしまったマンションもあると思われます。つまり、築30年超のマンションでは耐震性不足、社会的老化、管理されないままの経年変化とトリプルで問題を抱えている可能性があるというわけです」(旭化成不動産レジデンスマンション建て替え研究所・大木祐悟さん)。

高齢化が進むマンションでは合意形成が難事業

当然、そうしたマンションでは暮らしにくい。東日本大震災後、耐震性を気にする人も増えた。その結果、建替えを考える例も増えてはいるが、実際に建替えが行われたのは平成25年4月1日時点でわずかに218件(阪神・淡路大震災による被災マンションの建替えは含まず)。建替えを希望しても実現しない例のほうが多いのである。

その要因として考えられるのは大きく2つ。ひとつは合意形成の難しさである。区分所有法は建替え決議にあたっては区分所有者及び議決権の各5分の4以上の議決を求めているが(敷地内に複数棟がある場合にはこれに加えて各棟要件がプラスされ、難易度はさらに上がる)、この議決に辿り着くまでが至難の技。建物の老朽化が進んだマンションでは住民も高齢化しており、管理組合がまともに機能していなかったり、面倒を嫌う、建替えに伴う費用を負担できないなどのケースが多々あるのである。

また、長年暮らしていると、住民間に感情的なもつれがある場合もあり、あの人が賛成するなら私は反対などという、外から見るとなんとも始末に困る話を聞いたこともある。

余剰容積率がないと、持ち出し無しの建て替えは不可能

現在建替え工事が進む世田谷区の物件。従前125戸が建替えで205戸になる予定現在建替え工事が進む世田谷区の物件。従前125戸が建替えで205戸になる予定

もうひとつの、より大きな問題が建替え費用である。現在ある建物を取り壊し、新しいものを建てるためには、それなりの費用がかかる。これまでに行われた建替えでは従前よりも大きな建物を作り、増えた部分を売却することで建築費用を賄うというやり方が行われてきた。たとえば、旭化成不動産レジデンスがこれまでに手がけた建替え事例17件はすべて従前建物よりも面積が増えている。中には3倍、4倍という例もあり、こうした場合なら、住民は持ち出しなしに建替えできることも少なくない。

だが、余剰の容積率がない場合にはこの手は使えない。1960~1970年くらいまでに建てられたマンションであれば、敷地をゆったり使い、余剰がある場合もあるが、それ以降に建設された物件では、すでに容積率を使い切ってしまっており、建替えても現状と同じ大きさにしかならないものや、あるいは法律の改正等の事由によって建替えると今より小さくなってしまうものもある。とすると、建替えには持ち出しが必要となり、それが合意形成を妨げる大きな要因にもなるわけだ。

しかも、容積率に余剰がある場合でも、それが高度経済成長期に建てられたような、都心から1時間半、2時間、あるいは最寄駅から徒歩20分などという立地では、建替え事業費に充てようと、余剰容積を利用してマンションを作っても、思う通りの価格では売れない、作った戸数を売り切ることができないなどの問題が生じる可能性がある。マンションがダメなら一戸建てにするという手がないではないが、その場合、集合住宅では必要のなかった道路等に充てる土地が必要になるため、ある程度まとまった土地を売却しても、建替え事業費の一部にしか充当できないかもしれない……。簡単にはいかないのである。

加えて、物件によっては接道や管理規約などが適法でないその他、様々に異なる問題を抱えていることもあり、スムーズに建替えが決まる例はほぼゼロ。前述の旭化成不動産レジデンスの例でも平均すると、築後35年の時点で建替えの検討を始め、建物の解体に着手できたのはそれから9年後(!)。最終的な発意から意思決定まででも2~3年程度はかかっている。

中古マンション購入時には修繕履歴、土地持分、建替え計画の有無を確認

渋谷公園通りにある建替え事例(写真左奥)。こうした好立地であれば、建替え後のニーズも高く、成功しやすい渋谷公園通りにある建替え事例(写真左奥)。こうした好立地であれば、建替え後のニーズも高く、成功しやすい

上記の問題点を踏まえ、これから中古マンションを買う場合にはどうすれば良いか。大木さんに教えていただいた。

「まず、購入しようとするマンションの修繕計画、修繕履歴、修繕積立金の額を確認、これまできちんと手入れされてきたかを見てください。建物の劣化は適切な管理で遅らせられることができますし、計画的に行動してきた管理組合であれば建替え問題にも対処できると思われます。また、中古の場合には修繕などで不測の出費がある場合に備え、余裕のある資金計画にしておくことも大事でしょう」。

新耐震であるかどうかはもちろん、「昭和58年以前のマンションであれば、土地持分の確認も必要です。というのはこの年に区分所有法が改正されるまで、土地と建物を別々に所有し、処分することもできるようになっていたためで、極端な例では住民とは全く別の第三者が土地を所有していたこともあります。また、専有面積の大小に関わらず、土地持分が同一であったり、特定の人の持分が多いなど不公平が生じていることもあるので、必ずチェックしてください」。

もうひとつ、建替え計画の有無も要確認事項。「最近はリノベーション前提で中古を購入する人が増えていますが、リノベーション後に建替えが決まった場合、かけた費用が無駄になりますし、せっかくリノベしたのだからと建替えに反対し、計画が進まなくなる例も。そうなると、互いに不幸。購入前に確認しておきましょう」。

個人的には現在の建物がどの程度容積率を消化しているのか、建替えても売れるような立地であるのかもポイントではないかと思う。実際、同社で建替えた案件は都心あるいは郊外でも人気のある自治体に立地、足回りの利便性が高い。増床部分がさほど多くなくても、高値で売れる立地であれば事業として成り立つ可能性は有りえる。そう考えると、建替えにあたっても立地は大きなポイントと言えるはずだ。

容積率一杯に建てられている新築マンションの将来はどうなる?

ところで、今は新築でも時間が経てば老朽化する。まして、最近の新築物件では容積率を一杯まで使って建てられている例がほとんどだ。その場合、将来はどうなるのだろう。

「現在のマンションはかつてに比べ、スペックがいいので、50年で建替えが必要になるとは思えません。適切な管理をすれば、もっと持つでしょう。ただ、良い建物で、かつ十分な管理をしたとしても、いずれは建物の耐用年数がきます。そうした場合を考えると、築20年から25年くらいになったら、将来の建物の解体に備えて解体積立金を考える必要があるのかもしれません。あるいは、長い時間をかけて建替え費用に充当すべく、建替え積立金を考えるという選択肢もあるでしょう。すでにある仕組みでも、定期借地のマンションでは将来の土地返還時に建物を解体、更地に返す必要があり、そこで解体積立金が必要になります。今後は所有権でも同じような考え方をしないと、建替えも解体もできないマンションが出てきてしまうかもしれませんね」。

幸い、今のところ、日本では海外のようにスラム化、廃墟化したマンションはまだ、ほとんど見られていない。しかし、建替えその他の対策を立てられないまま、住民が高齢化していけば、そうした事案が出てこないとは限らない。建替えその他の有効活用を阻む現行法令を見直すと同時に、マンションの持つ社会的な意味、管理の重要性、建物の長寿命化など、再考すべき点も多いのではないだろうか。

2013年 11月29日 09時53分