世界に誇るスマートシティをめざして・・・
地域活性化総合特区『柏の葉キャンパス』の挑戦

千葉県柏市北部に位置する地域活性化総合特区『柏の葉キャンパス』の街づくりには、未来の日本の各都市が目指すべきアイデアがたくさん詰まっている。総合特区として指定されるまでの歩みについては前回のレポートでご紹介した通りだが、レポート2回目の今回は、『柏の葉キャンパス』が“次世代型のスマートシティ”を目指して積極的に取り組んでいるエリアマネジメントへの挑戦についてご紹介しよう。

※前回記事/【日本の“未来都市”はどうなる?!①】次世代型のスマートシティ~柏市の街づくり~

▲つくばエクスプレス『柏の葉キャンパス』駅前では、<br />月に1~2度の割合で『柏の葉マルシェコロール』という駅前マルシェが開催されている。<br />ヨーロッパの朝市のような洒落た雰囲気のマルシェは、すっかり市民の間でも定着したイベントとなっており、<br />地元・柏の葉で採れたハチミツや新鮮な朝摘み野菜の販売など地産地消への取り組みも好評だ▲つくばエクスプレス『柏の葉キャンパス』駅前では、
月に1~2度の割合で『柏の葉マルシェコロール』という駅前マルシェが開催されている。
ヨーロッパの朝市のような洒落た雰囲気のマルシェは、すっかり市民の間でも定着したイベントとなっており、
地元・柏の葉で採れたハチミツや新鮮な朝摘み野菜の販売など地産地消への取り組みも好評だ

使わない電力を街のなかで融通し合う
AEMS(エリアエネルギー管理システム)の確立

▲AEMSの中核となるのが『柏の葉スマートセンター』(写真はイメージ/柏の葉スマートシティミュージアム内の展示)。タウン内の建物別に電力の使用状況や消費量のピークタイム等がパネルに表示されるため、“余っている電力を他の建物へ送る”という電力融通の最適化をコントロールすることができる。この画面は、スマートセンターだけでなく、各家庭のパソコンやタウン内の各所に設置されたデジタルサイネージでも確認できるため、“電力の見える化・見せる化”をおこなうことによって、地域住民の省エネへの関心の高まりを後押ししている▲AEMSの中核となるのが『柏の葉スマートセンター』(写真はイメージ/柏の葉スマートシティミュージアム内の展示)。タウン内の建物別に電力の使用状況や消費量のピークタイム等がパネルに表示されるため、“余っている電力を他の建物へ送る”という電力融通の最適化をコントロールすることができる。この画面は、スマートセンターだけでなく、各家庭のパソコンやタウン内の各所に設置されたデジタルサイネージでも確認できるため、“電力の見える化・見せる化”をおこなうことによって、地域住民の省エネへの関心の高まりを後押ししている

柏市の担当者として『柏の葉キャンパス』の街づくりを担っている石名坂さんによると“自律した都市経営”を目指す上で最も調整が困難だったのが『街区を超えた電力融通』だったという。

「商業施設やオフィスと一般家庭での電力使用量のピークはまったく時間帯が異なります。そのため、夜間に閉店後の商業施設で使わない電力を、家族団欒時の一般住宅へ融通すれば、エネルギーの効率的な利用が実現して省エネにつながるのではないかとわたしたちは考えました。

しかし、現在の電気事業法では、同じ町内であっても公道を1本隔てた場所に建っている建物間では、電力融通ができないルールになっているため、当初はそれが認められなかったのです。街区を越えた電力融通を総合特区の特例として認めてもらうために霞が関へ日参し、ようやく経済産業省からの認可が下りたのが2013年5月のことでした」(石名坂さん談)。

2011年3月の東日本大震災発生時には、停電の影響でマンションのエレベーターが停止してしまったり、唯一の情報源だった携帯電話の充電が困難だったりと様々な問題が浮上したが、『柏の葉キャンパス』のAEMS(エリアエネルギー管理システム)を活用すれば“防災に強い街づくり”も実現可能だ。

現在、『柏の葉キャンパス』では、街区を越えてエネルギーの融通がおこなえるようにと、駅前にある『ららぽーと柏の葉』の屋上に、一般家庭の年間電気使用量に換算して約100世帯分の発電を担う『ハーフメガソーラー』と呼ばれる太陽光発電システムを設置。ハーフメガソーラーから集められた太陽光エネルギーは3800kWhの充電に対応する大型蓄電池にストックされ、周辺のマンション・住宅・オフィス・病院・商業施設等へバランスよく配電される仕組みになっている。また、災害等による停電時には、蓄電池からの自家発電によってタウン内の最低限の電力を3日間分確保できる計算だという。

CO2排出量の削減を目標に“車を持たなくても便利な街”づくりを目指して

▲『マルチ交通シェアリング』の試みとして設置されている自動車・バイクポートは5か所、サイクルポートが10か所。携帯電話やスマートフォンの画面からの予約が可能で、カギやバイク用ヘルメットの受け渡しは、ポートの横に設置されているロッカーでおこなう。自動車利用料は15分300円、バイク利用料は15分100円、自転車利用料は1時間100円。事前に『柏の葉キャンパスカード』への登録(発行無料)をおこなっておけば、地元住民だけでなく大学や企業の関係者など部外者も利用可能だ▲『マルチ交通シェアリング』の試みとして設置されている自動車・バイクポートは5か所、サイクルポートが10か所。携帯電話やスマートフォンの画面からの予約が可能で、カギやバイク用ヘルメットの受け渡しは、ポートの横に設置されているロッカーでおこなう。自動車利用料は15分300円、バイク利用料は15分100円、自転車利用料は1時間100円。事前に『柏の葉キャンパスカード』への登録(発行無料)をおこなっておけば、地元住民だけでなく大学や企業の関係者など部外者も利用可能だ

加えて、万一の災害時に『移動型非常用電源』として活躍してくれるのが『マルチ交通シェアリング』で使用されている電気自動車だ。

「一般的に、災害用に用意されている非常用大型電源というのはかなりの重量があるため、大人の男性が数人で動かそうとしても、なかなか簡単には移動できないのですが、電気自動車を“非常用電源”として使えば、スムーズに移動して車内に蓄電された電力を必要な場所で供給することが可能になります。

そこで『柏の葉キャンパス』では、エリア内2カ所に『防災エネルギーボックス』を設置し、非常時に電気自動車をつなぐと携帯電話やテレビの非常用電源として使用できる仕組みになっています。今後はこうした防災拠点をはじめ、シェアリングによる電気自動車の数も増やしていく予定です」(石名坂さん談)

“乗り物を街のみんなで共有し合う”ことを目的とした『マルチ交通シェアリング』では、自動車だけでなく、バイクや自転車もシェアリングできるよう試験的な取り組みをおこなっている。従来のシェアリングサービスでは“借りた場所へ返す”のが一般的だったが『柏の葉キャンパス』では、シェアリングポート間の移動なら“そのまま乗り捨て”もOKだ。

「民間企業がすでに実施しているサービスを、さらに便利にすることができないか?を考えるのも私たちの役目です。今後車輛やポート数を増やしていくことによって市民のシェア意識が高まり、利用頻度が高まれば“車を持たなくても快便利に生活できる街”になります。自動車所有台数を減らすことは、交通渋滞の緩和やCO2排出量削減にもつながりますから、環境共生都市としての使命をひとつ果たすことができるような気がしますね」(石名坂さん談)。

住民の睡眠時間や体重の変化など健康データも“見える化”?
病気になりにくい生活サイクルを提案して健康長寿都市へ! 

▲柏市役所『環境未来都市総合特区』の担当リーダー・石名坂賢一さん。石名坂さんが手にしているのが“健康データの見える化”の秘密兵器となるリストバンド型の活動量計。この小さな機械で活動量を測定することにより、起きているか、眠っているかも分析できるのだという▲柏市役所『環境未来都市総合特区』の担当リーダー・石名坂賢一さん。石名坂さんが手にしているのが“健康データの見える化”の秘密兵器となるリストバンド型の活動量計。この小さな機械で活動量を測定することにより、起きているか、眠っているかも分析できるのだという

『柏の葉キャンパス』の様々な取り組みの中でも、特にユニークなのは『健康長寿都市』を目標とした“健康データの見える化”だ。

「これから超高齢化社会を迎えるにあたり、医療費の増加による財政圧迫を回避することは、我々地方行政にとっての大きな課題となっています。そこで『柏の葉キャンパス』では、高齢者が健康で元気に暮らせる街を目指して『柏の葉スマートヘルス』というプロジェクトを立ち上げ、“健康データの見える化”を実施することにしたんです」(石名坂さん談)

試験的に参画する市民には、リストバンド型の活動量計が配布され、それを常時装着することによって『起床時間・就寝時間の管理、呼吸・心拍数の計測、体重・体組成の変化』などなどが個人健康データとして分析サーバに蓄積される。その分析結果は個人のパソコンや携帯電話等で確認することができるため、現在の健康状態をリアルに把握することで、各自の健康増進や疾病予防のための意識改善へとつながっていく、というのが目論見だ。

「実際に活動量計を装着して個人健康データを管理している専業主婦の方が『主人から“お前はいいなぁ。俺が働いている間にいつも昼寝ばっかりして”と言われたので、昼間どれだけ忙しく動いているかを活動量データで見せたら“意外と頑張ってるんだね”と、主人が優しくなりました』といった感想もいただきました。こんな風にデータを“見える化”することで健康管理への興味を促し、そこから健康長寿へ向けての意識改革ができたら、この取り組みは成功したと言えますね」(石名坂さん談)。

2014年春には、駅前に完成するゲートスクエア内に栄養ケアや疾病予防・介護予防サービスを提供する『トータルヘルスケアステーション』を新設。こうした『柏の葉キャンパス』独自の取り組みが、市民の健康長寿にどのような効果を発揮するのか…その研究過程は、地方行政だけでなく医療業界からも大きな注目を集めている。

スポーツジムに通う感覚で、会社帰りに農業ができる街
それが『柏の葉キャンパス』

▲柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)に隣接する『オークヴィレッジ柏の葉』内では、バーベキュースペースや農業体験スペースが用意されている。このオークファームは、個人会員なら1区画(10㎡)あたり月額1万5750円で利用可能だ。※別途入会保証金1区画3万円が必要▲柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)に隣接する『オークヴィレッジ柏の葉』内では、バーベキュースペースや農業体験スペースが用意されている。このオークファームは、個人会員なら1区画(10㎡)あたり月額1万5750円で利用可能だ。※別途入会保証金1区画3万円が必要

このように『柏の葉キャンパス』で現在試験的に進められているプロジェクトは実に多彩だが、最後に筆者が個人的に興味を惹かれた“農業への取り組み”をご紹介しよう。

『柏の葉キャンパス』駅の東口にある『オークビレッジ柏の葉』内には、レストランやカフェに併設して、体験型農園の『オークファーム』が広がっている。ファームの中には、まるでスポーツジムのようにロッカーやシャワールームが完備され“会社帰りに農業を”というキャッチフレーズで、土と触れあう時間の楽しさを広く市民に提案しているのだ。

「従来の街づくりでは、駅前の一等地にはオフィスビルや大型商業施設が建ち並ぶものでしたが、『柏の葉キャンパス』駅の東口には約3000坪の農園が広がっています。もともと柏市北部一帯は、田園風景が広がり農業もさかんなエリアでしたから、この街に暮らす人たちには“食”に直結する“農”のことをもっと身近に考えていただき、“自然共生の意識を高めてほしい”という想いをこめています」(石名坂さん談)。


『柏の葉キャンパス』が目指す次世代型の街づくりは、わたしたちが子どもの頃にアニメの世界で想像していた“空を突き抜けるほどの高層ビルが建ち並び、ロボットたちが活躍する未来都市”とはかなり違っているようだ。次々と新しいアイデアを採り入れながら成熟していく『柏の葉キャンパス』の30年後が楽しみである。

■取材協力
・柏市役所企画部企画調整課
・柏の葉スマートシティミュージアム
オークビレッジ柏の葉
三井不動産レジデンシャル パークシティ柏の葉キャンパス二番街