兵庫県宝塚市に本社をおく株式会社ウィルは、不動産流通・開発・仲介を中心に事業を展開する不動産総合企業です。
地域密着型の営業力と、長年にわたり蓄積してきた取引データ・顧客データを強みに、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)とAIの活用を積極的に推進しています。
今回、同社は株式会社LIFULLと生成AIを基盤とした「成約価格推定AI」を共同開発。2025年5月20日(火)より「AIによる不動産価格査定サービス」の提供を開始しました。
不動産売却査定のAI活用はさまざまな企業でも取り組まれていますが、業界内でも画期的だというサービス内容と意義をウィルのデジタルマーケティンググループ部長の室薫(むろ・かおる)さんに聞いてきました。
室 薫さん

株式会社ウィル デジタルマーケティンググループ 部長
1996年、株式会社ウィル不動産販売(現・株式会社ウィル)に入社。不動産営業およびFileMakerを用いた社内システム開発に約15年間携わる。その後、ウェブチーム発足に伴い異動。以降約15年間、Webサイトのディレクションやデザイン業務などを担当し、同社のコーポレートサイトをはじめ、「マンション大全集」「まちっか」「イエナカ手帖」などのサービスの立ち上げに関わる。
不動産に積極的にテクノロジーを活用する訳とは

不動産業界は、他業界と比較してデジタル化・テクノロジー活用が遅れているといわれています。取引のさまざまな場面で対面や紙での書類が多く、営業活動も個人の経験に依存する構造があるからです。
ウィルはこうした業界構造そのものが、顧客にとっての分かりにくさや不安、業務の非効率を生んでいると考え、早くから“人の経験”を否定するのではなく、業務の補完と再現性を可能にする手段としてテクノロジーを積極的に活用してきました。
代表的な取り組みのひとつが、2021年から運用を開始した住まいの提案システム「AIウィルくんの『住まい提案サービス』」。
同システムでは、約12万人にのぼる顧客データをAIで分析し、性別や年収、ライフステージ、居住ニーズといった属性に基づいて、顧客一人ひとりに適した資金計画や街、物件を自動的に提案しています。
購入後の顧客満足度データを継続的に分析することで、その結果をまたロジックに組み込むことで精度を高めています。
また同社では、自社でも業務システムの内製化にも早くから取り組み、業務フローに即したシステムを構築することで、変化に柔軟に対応しながら業務効率化と独自サービスの開発を両立しているといいます。
顧客体験の向上を目的に対面接客に加えてリモート対応や各種手続きのデジタル化を進め、顧客ニーズに応じた提案スピードと柔軟性につなげているそうです。

次の取り組みとして、私たちは不動産の売却査定についてもデジタル化の検討を始めました。
理由のひとつは、現在広く利用されている不動産一括査定サイトでは、気軽な気持ちで問合せをしたにもかかわらず、複数の会社から電話やメールで営業連絡が入るケースが多いことです。
また、売却の依頼獲得を優先するあまり、実際の市場価格よりも高い査定価格が提示されるなど、利用者にとって分かりにくい点があることも課題だと感じています。そうした背景から、新たなサービスの必要性を認識しました。
不動産価格は、買う方にとっても売る方にとっても重要な判断材料です。だからこそ、価格の考え方や算出根拠をできるだけ明確にし、よりフェアで透明性のある仕組みを構築したいと考えたことが、今回の開発のきっかけです。
不動産売却価格はどのように提示されていたのか
いままでの不動産売却査定はどのように行われていたのでしょうか。

今までの不動産売却査定は、主に担当者の経験と判断に基づいて行われてきました。担当者が現地を訪問し、物件の立地や築年数、周辺の取引事例、相場動向などを総合的にみながら、売却可能と考えた価格を提示するのが一般的なものです。
こうした査定は、長年にわたり多くの取引を経験してきた担当者ほど精度が高まる一方で、査定結果が担当者の経験や土地勘や判断軸に左右される側面も持ち合わせています。
たとえば、同じ物件であっても、慎重な担当者は早期成約を意識して控えめな価格を提示し、逆に実績や集客を重視する担当者は高めの価格設定を提案するなど、価格にばらつきが生じることも少なくないのが実情でした。
また、訪問査定や対面でのやり取りが前提となるため、売主側には営業を受ける心理的な負担があり、不動産会社側にも説明や調整にかかる労力が発生する課題もありました。
それでもなお、人による査定は物件の状態や売主の事情をヒアリングしながら柔軟に考え、総合的に判断を下せる点で納得感が得られるという強みがあり、なかなかデジタル化が進まない要因となっており、計算が提示するロジカルな結果だけではこのあたりの信頼感や納得感を得られにくいというジレンマがありました。
人が行う査定は、担当者の経験や知識によって精度に差が出ることがあり、お客さまが求めるスピードに十分応えられないケースもあるそうです。
一方、近年のAI査定ではスピーディーに結果が出る半面、使用した成約事例は示されても、価格の考え方や算出プロセスは説明されません。また、市況が変動している局面では、最新の動きを十分に反映できず、価格にズレが生じる可能性もあるといいます。
そこで同社は、査定のスピードと価格根拠の分かりやすい説明、そして最新の市況への対応をさせることを目指し、生成AIを活用した新たな査定手法の開発に着手しました。

人の査定×AIの査定の良いところ、どちらも生かした売却査定サービスの開発
それでは、どのようなプロセスで開発を進めていったのでしょうか。

ウィルの生成AI売却査定は、人の査定とAI査定の長所を単純に組み合わせるのではなく、現場で担当者がどの情報をみてどの順番で考えどこで判断を切り替えているのか、という思考プロセスを洗い出すところから始まっています。
経験豊富な担当者ほど判断が感覚的になりがちなので、その暗黙知(経験や勘)を言語化し、AIが理解できる形に落とし込む作業はなかなか難しかったです。
価格精度を優先すれば機械的になり、説明を重視すれば処理が複雑になるという葛藤の中で、現場検証と修正を何度も繰り返し“なぜこの価格になるのか”を説明できる対話型の仕組みへとAIを鍛え上げていきました。
こうした試行錯誤の積み重ねによって、人の柔軟な判断力とAIの客観性を両立させた売却査定が出来上がったと思っています。
ウィルのAI売却査定が今までと違い画期的な理由
ウィルの生成AI売却査定は、単に過去データを基に計算して価格を算出するだけの仕組みではない点に特徴があるといいます。

先ほどもお話ししたように、長年、不動産売却に携わってきた担当者が、どのような視点で物件を見て、どの情報を重視し、どのような思考プロセスで価格判断に至るのか。そうした“人の考え方”や判断の流れをAIで再現することに大きな特徴があります。
その基盤となっているのが、長年にわたり蓄積してきた成約物件データです。こうした実績データをきちんとストックしてきたことが大きな強みになっています。さらに、その成約データを生成AIに読み込ませ、1,000回を超えるプロンプトの調整を重ねることで、担当者が納得できる出力が得られる水準まで精度を高めてきました。
だからこそ、「なぜこの価格になるのか」「どの条件が価格にどう影響しているのか」といった背景まで、言葉で説明することができます。
また、このAIは、売り主さまから提供されるリフォームの有無、物件のアピールポイント、希望価格などの情報に基づき、最適な査定価格の提示やアドバイスを行うことが可能です。
AIが持つデータ分析力と客観性に、人が培ってきた経験と判断の文脈を組み合わせることで、属人性だけにも機械的判断だけにも偏らない、精度の高い売却査定を実現している点が、このサービスの違いだといえます。
■ウィルAI売却査定
「AIによる不動産価格査定サービス」の主な特徴
・対話型売却査定
物件情報や売却検討状況を対話形式で入力しながら進められるため、一方的に結果を提示されるのではなく、相談しながら査定を行うことができる。
・売却価格の目安提示(価格帯・シナリオ表示)
単一の価格ではなく、条件に応じた価格帯や複数の売却シナリオを提示し、検討の幅を持たせる。
・「なぜこの価格か」を言語で説明
立地、築年数、市場動向、取引事例など、価格算出に影響した要素を言葉で解説し、査定根拠を理解できる。
・条件変更によるシミュレーション
売却時期や重視する条件(価格重視・スピード重視など)を変えながら、想定価格や方針の違いを確認できる。
・個別事情の反映を前提とした設計
物件状態や売主の意向といった数値化しにくい要素も、対話を通じて整理し、査定検討に反映できる。
まだ売らない人にも意義がある売却査定サービス、実務の担当者も納得の結果になった
ウィルが提供する生成AI売却査定は、売却を急かすためのツールではなく、不動産に関する意思決定の質そのものを高めることを目的としたサービスだといいます。

価格を提示すること自体をゴールとせず「なぜこの価格になるのか」「どのような選択肢が考えられるのか」を理解するための材料を提示しているのは、売主さまが納得感を持ち判断できる状態をつくることを重視しているからです。
そのため、このサービスは今すぐ売却を検討している人だけでなく現在の資産価値を把握したい人や、将来の売却に備えて知識や準備を進めたい人にとってもよいサービスとなると考えます。
生成AIを活用することで、市場データや条件変化による価格の考え方を整理しながら対話形式で確認できるため、売却ありきではない冷静な検討が可能になります。
開発に携わった現場社員からは、次のような声が上がっています。
- 「売却を前提にしなくても相談できる点がこれまでの査定と大きく違う」
- 「価格の理由を言葉で説明できるようになり、お客さまとの対話の質が高まった」
- 「AIでありながら人の判断を整理し、誰でも同じレベルで説明できるようになったことに価値を感じている」
こうした声からも、人とAIが協働する新しい不動産売却査定の形が、現場からも着実に評価されつつあるといいます。

今後はさらなるAI売却査定の進化に期待
現在提供している「AIによる不動産価格査定サービス」は、まだまだ進化していくといいます。
ウィルは実際の利用を通じて得られる顧客の声や現場の知見を反映しながら、説明の分かりやすさや対話性、個別事情への対応力をさらに高めていくことを目指しているそうです。

ウィルのAI査定は、これで完成だとは考えていません。実際の利用を通じて得られるお客様の声や、現場の不動産エージェントからのフィードバックを反映し、査定精度や提案内容のさらなる向上を進めてまいります。
また、現在のAI査定は「取引事例比較法」をベースとしています。これは近隣の類似物件の成約価格を基準にするもっともポピュラーな手法ですが、その不動産が本来持つポテンシャルに関わらず、直近の成約事例に価格が強く左右されてしまうという弱点もあります。
今後は、事例だけに頼らない査定にも挑戦したいと考えています。たとえば、都心からの距離や生活利便性、自然環境や地勢、その土地が持つブランド価値といった要素を定量化(数値化)して査定ロジックに組み込む。それにより、これまでの手法では見落とされていた「物件本来の価値」を正しく価格に反映させる、一歩先を行くAI査定の実現を目指しています。
不動産売却は、大切な資産の活用であり、人生の中でも大きな決断のひとつ。だからこそ、信頼のできるデータを理解したうえで、幾度のやり取りもでき、納得し選べるものであってほしいですね。
ウィルは、生成AIという新しい技術を通じて、不動産売却のあり方を大きく変えていきたいと考えています。
これまでの「分からないもの」「急がされるもの」から、「納得したうえで選択できるもの」へ。β版のその先へ、挑戦はすでに始まっています。

「AIによる不動産価格査定サービス」を共同開発した株式会社LIFULLおよび開発メンバーの方々と
| 会社名 | 株式会社ウィル |
|---|---|
| ホームページ | https://www.wills.co.jp/ |
| 所在地 | 〒665-0035 兵庫県宝塚市逆瀬川1-14-39 |
| 事業内容 | 流通事業 / リフォーム・リノベーション事業 / 家具事業 / 開発分譲事業 / 賃貸事業 / 受託販売事業 不動産取引派生事業:ファイナンシャルプランニング業務、紹介業務など その他の事業:広告代理業務、コンサルティング業務 |
公開日:














