既に物件を購入していながら、新たに購入せざるを得ないことになった場合、家を売るという選択肢のほかに、既存の住宅ローンを払い続けながら、新たに購入した物件の住宅ローンも支払う、いわゆるダブルローン(二重借入)を組む方法があります。今回ご紹介するFさん(56歳男性)は、トリプルローン(三重借入)を組む経験をした1人です。

Fさんは大手企業の正社員で年収約1200万円。購入しようとしている家のほかに、マンションと一戸建て住宅を所有し、資産状況も問題ないと思われたのですが、都市銀行A社の審査に落ちてしまいました。ほぼ同時に審査に出した都市銀行B社の審査には通ったのですが、同じ条件で審査に出した2社でなぜ結果が違ってしまったのでしょう? そしてなぜ、物件を売らずに新たに住宅ローンを組んだのでしょうか。Fさんに詳しく聞いてみました。
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職業:機器メーカーの正社員
年収:約1200万円
家族構成:妻50歳(専業主婦)、長男17歳(高校2年生)、Fさんの父親80歳

 

【住宅ローン】
審査を依頼した金融機関:2社(都市銀行2社)
借りることができた金融機関:都市銀行
頭金:2000万円
借入金額:2000万円
金利タイプ:変動型
返済額(月):17万円
返済年数:10年

 

【購入した住まいについて】
エリア:東京都練馬区→東京都中野区
立地:最寄り駅から徒歩12分
購入した物件:中古マンション
築年数:購入時点で築25年
間取り:4LDK+納戸・114m2
物件の名義:Fさん
購入価格:4000万円
購入した時期:2013年4月

今回の体験談の対象となる家は、Fさんにとっては3軒めのマイホームです。

 

Fさんは大学を卒業して大手機器メーカーに就職して社員寮で暮らしていましたが、36歳で結婚して賃貸マンションへ。その後、長男誕生を機に40歳でマンションを購入。この1軒めのマイホームは、東京都豊島区にある中古マンションの3LDK(約70m2)でした。最寄り駅から徒歩3分の好立地で購入価格は3500万円。頭金で200万円を入れ、残りの3300万円に対して住宅ローンを組みました。月々12万円の返済で借入期間は20年。住宅ローンを借りた銀行は都市銀行のA社です。

 

でも、一戸建ての家をもつ夢を諦められずにいたFさん。43歳のときに夢を叶え、練馬区内に土地を買い、一戸建て住宅を建てたのでした。この2軒めのマイホームは最寄り駅から徒歩10分、35坪の敷地に建つ2階建て住宅で、延床面積は140m2。この家にかけたお金は、土地購入と建設費を合わせて8000万円。それに対し、Fさんは3000万円の自己資金を用意できましたが、残りの5000万円は住宅ローンを組みました。月々20万円の返済で借入期間は30年。住宅ローンを借りた金融機関は、当時の住宅金融公庫(2007年より住宅金融支援機構に改組)でした。

 

そうして練馬区に新築一戸建てが完成し、豊島区のマンションから一家3人が転居。このとき、Fさんは2つのマイホームの住宅ローンを抱えたことになりますが、「豊島区のマンションは賃貸に出し、すぐに借り手が見つかりました。家賃は18万円で、そのマンションのローン返済分(12万円)にプラスアルファの収入が得られるようになったのです」とFさん。

 

この練馬区の一戸建てに住むようになって10年後、Fさんが53歳のとき、またも転機が訪れました。人生で3軒めのマイホームを購入することになったのです。理由は、高齢の親との同居でした。

 

ひとり暮らしの父と同居することになったが・・・

ひとり暮らしの父と同居することになったが・・・

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「僕の母親が亡くなり、父親が一人暮らしになったんです。70代後半になって足腰が弱り、一人にしておけない状態でした。我が家に一緒に住むことになったものの、練馬の家は高齢の親と同居することを想定したつくりではありません。居室があるのは2階で、階段を上らないといけないから父親には無理です。妻とも話し合って出した結論が『階段を昇り降りする必要がないし、高齢者が住みやすいのはマンション』ということでした」。

 

3軒目のマイホームとして、マンションを購入する決意を固めたFさん。インターネットの住宅情報サイトで情報を集め、探し当てたのが中野区の住宅街に建つ中古マンションでした。築25年の2階建てマンションの1階で4LDK・納戸付き(114m2)。

 

購入価格は4000万円で、そのうち2000万円を頭金として用意し、残りの2000万円を住宅ローンで借りる計画でした。
さらなるローンを組むことになるのですが、資金面の不安はなかったといいます。
「練馬区の家のローンについては、最初に買った豊島区のマンションと同じように賃貸に出し、その家賃収入から返済していこうと考えていたのです。不動産会社に勤務する知人からも、『25万円ほどの家賃でもすぐに借り手が現れるはず』と言ってもらっていたことも大きいです」。

そうして3軒めになるマイホームである中古マンション購入に向け、住宅ローン審査に臨んだFさん。

 

当時、Fさんが抱えていた2軒の家の住宅ローンの残債は、次のようになります。

●東京都豊島区の中古マンション(40歳のときに購入)
・当時の住宅ローン残債 約500万円
※43歳のとき、練馬区に建てた一戸建て住宅へ転居。その後、賃貸に出し、月18万円の家賃収入が得られるように。その家賃収入などをローン返済に充て、繰上返済も実行していた。
※借りている金融機関 都市銀行A社

 

●東京都練馬区の一戸建て注文住宅(43歳のときに建築)
・当時の住宅ローン残債 約2300万円
※購入予定の中野区の中古マンションに転居後は25万円くらいの家賃設定で、賃貸に出す予定でいた。
※借りている金融機関 住宅金融公庫(2007年より住宅金融支援機構に改組)

3軒めの購入に際し、ローン審査の申し込み先としてFさんが選んだのは都市銀行のA社とB社の2社でした。A社は1軒めのマイホームである豊島区のマンションを購入する際、住宅ローンを組んだ銀行です。B社を選んだのは、Fさんが勤務する会社のメインバンクであることが理由でした。

 

この2社に対し、「借入希望額2000万円」でほぼ同時に審査の申し込みをしたFさん。両社ともにFさんとは浅からぬ縁のある銀行なので、「両方の審査に通って当たり前だと思っていたし、2社の金利やサービスを比較検討して決めようと考えていました」とFさん。しかし、そんな思惑がはずれてしまったのです。

 

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借入には金額の“枠”があるため、意向に添えないと言われたFさん(イメージ)

借入には金額の“枠”があるため、意向に添えないと言われたFさん(イメージ)

Fさんは、2社ともに店舗で住宅ローンの担当者に会い、審査を申し込みました。B社ではその場で『ご希望の2000万円をお貸しできると思います』と、好感触。審査も通りました。ところがA社からは『お貸しできる金額の“枠”の関係で、ご意向に沿えないかもしれません』と言われたのです。

 

「想定外のことで、驚きました。A社からは豊島区のマンションの住宅ローンを借りていて、遅延なく返済してきた実績があるのです。窓口で対応してくれた担当者は、僕が借りた当初とは変わっていて初めて会う人でしたが、それにしても冷たいなと。とりあえず、希望金額2000万円で審査に出しましたが、通りませんでした」。

 

B社の審査に通ったのに、A社ではNGという思いがけない結果になりました。FさんはA社の担当者に会い、理由を聞いてみましたが、「当行の融資枠を超えているので…」の一点張りでした。「1000万円までならお貸しできます」とも言われましたが、納得できないFさん。「僕の収入証明も出しているし、どこに問題があるんですか?」と担当者に詰め寄ってみたものの、明確な理由を聞くことができませんでした。「釈然としない気持ちでしたが、くいさがってみたところで結果はくつがえらないので、引き下がりました」と、Fさんは振り返ります。

それでもA社からのNG判定に、「悔しかった」と打ち明けるFさん。収入も1000万円以上あるし、健康面も良好。なぜ審査に通らなかったのでしょう?

 

Fさんは不動産会社に勤務する知人からも意見を聞き、審査落ちの理由を分析してみました。そうして行き着いたのは、A社の担当者がしきりに言っていた「枠」のこと。
「収入や他のローンの借入・返済状況に対して、この金額までなら融資可能というのが『枠』でしょう。その基準は金融機関によって違いがあるんだろうなと思いました」。
そして、思い当たることがありました。それはFさんのクレジットカードの保有枚数です。いつのまにか10枚以上にもなっていたのです。
「キャッシングで使ったことはありませんが、たくさん持っていることがマイナス評価になったのではないか、と気づいたんです」。

 

クレジットカードをたくさん持っているだけで審査に落ちることもある?

クレジットカードをたくさん持っているだけで審査に落ちることもある?

クレジットカードは買い物で利用できるほか、お金を借りることができるキャッシング契約などが付帯されています。そのキャッシングの利用枠として設定した金額が、住宅ローン審査では「借りている」とみなされる可能性があります。キャッシングを利用していなくても借金とみなされるケースがあるので、注意が必要なのです。

「カードのキャッシング枠は、基本的には希望する場合のみに設定されるものです。でも、申し込みのときは無意識に『キャッシング枠を利用する』としてカードを作ってしまいがち。僕の場合もそうでした。キャッシングを利用するつもりはないのに、カード1枚あたり50万円の利用枠にして申し込んでいました。そうすると、カードが10枚あれば500万円になります。つまり、500万円の借金があるとみなされるわけで、これがA社の審査に影響したのではないかと思っています」。

 

Fさんはカードのキャッシング枠のことは前々から知っていましたが、うっかりしていたと反省。すぐにカード会社に連絡を入れ、保有するすべてのカードのキャッシング枠をゼロにしてもらったそうです。

 

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Fさんが3軒目のマイホーム購入のために、都市銀行B社から借りている住宅ローンは、月々17万円の返済で、返済年数10年。金利タイプは変動型。

 

「1軒めのローンは完済し、2軒めの練馬区の一戸建てのローンは残り1000万円を切りました。この一戸建ては現在、月25万円の家賃で貸しているので、家賃収入からローンを支払っています。今回の3軒め購入のローンも含め、定年を迎える65歳前にはすべてのローンを払い終える予定です。繰上返済をして50代のうちに返し終えることも可能ですが、金利の低い今は、繰上返済は得策ではないでしょう。それよりも現金を多く手元におき、株式投資などで増やすほうがいいと思っています」。

 

この先、同居する父親にもしものことがあったり、息子さんの結婚といった変化があったとき、「4軒めのマイホーム購入」があるかもしれないと語るFさん。
「4軒めが僕ら夫婦の終の住まいになるでしょう。年齢のこともあるので、住宅ローンは組まずに貯金で購入できるようにしたいです」と、定年後を見据えるFさんでした。

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更新日: / 公開日:2016.12.05