東日本大震災や熊本地震、毎年のように発生する台風や豪雨など、大きな災害が続く災害大国・日本。今後も高い確率で大規模な自然災害が起こると予測されています。
災害に強い国土をつくるためには、政府・地方自治体・民間が協力して事業を進めていくことが不可欠です。そこで政府は、強くてしなやかな国土をつくるために「国土強靭化基本法」を制定しました。
この記事では、国土強靭化基本法とは具体的にどのような内容なのか、4つの基本理念や2023年(令和5年)の改正のポイント、地方自治体の役割や今後の課題について分かりやすく解説します。
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国土強靭化基本法は事前防災・減災を目指す法律
2011年の東日本大震災の教訓から制定され、「致命的な被害を負わない強さ」と「速やかに回復するしなやかさ」を持つ国づくりを目指しています。 詳しくは、「国土強靭化基本法とは? 概要と制定の背景」をご覧ください。
2023年の改正で中期計画の策定が義務化された
法改正により「国土強靱化実施中期計画」が法定化され、中長期的な視点で安定的・継続的に防災予算が確保される仕組みに変わりました。 詳しくは、「2023年(令和5年)に国土強靭化基本法が改正! 何が変わった?」をご覧ください。
地域特性に合わせた自治体の計画と住民参加が必須
国の方針に基づき、各自治体はハード対策とソフト対策を組み合わせた地域計画を立てますが、人材不足の解消や住民との合意形成が課題です。 詳しくは、「国土強靭化基本法の計画実施における地方自治体の役割」をご覧ください。
国土強靭化基本法とは? 概要と制定の背景
国土強靭化基本法(正式名称:強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法)とは、自然災害に強い国づくりを推進するために、政府が基本的な方針や計画を定めた法律です。
ここでは、法律が制定された背景と、掲げられている4つの基本理念について解説します。
法律が制定された目的と背景
国土強靭化基本法は、2011年に発生した東日本大震災の甚大な被害を教訓として、2013年(平成25年)に可決・成立しました。
東日本大震災では、地震や津波によって多くの人命が失われただけでなく、交通機関の麻痺、サプライチェーンの寸断、電力不足など、国家の機能や国民生活に深刻な影響を及ぼしました。この経験から、災害が起きてから対処する「事後対策」ではなく、あらかじめ災害に強い仕組みを構築しておく「事前防災・減災」の考え方が重要視されるようになりました。
相次ぐ大規模自然災害を受けて、「致命的な被害を負わない強さ」と「速やかに回復するしなやかさ」を持った国土をつくっていくことが、この法律の最大の目的です。
「強くしなやかな国土」を目指す4つの基本理念
国土強靭化基本法では、防災・減災の施策を進めるにあたって、以下の4つの基本理念を掲げています。
- 人命の保護が最大限図られること:どのような災害が発生しても、国民の命を守ることを最優先とします。
- 国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること:行政機関やインフラ(電気・水道・通信・交通など)の機能停止を防ぎ、社会を維持します。
- 国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化:国民の財産や生活基盤、経済活動への影響をできるだけ少なくします。
- 迅速な復旧復興:災害が発生した場合でも、スピード感を持って元の生活や経済活動を取り戻せる仕組みを作ります。
政府はこれらの基本理念に基づき「国土強靭化基本計画」を作成し、民間企業や地方自治体と連携しながらさまざまな取り組みを実施しています。
2023年(令和5年)に国土強靭化基本法が改正。何が変わった?
2023年(令和5年)6月、国土強靭化基本法の改正法が国会で成立しました。改正の最大のポイントは、政府が「国土強靱化実施中期計画」を定めることを法律上規定した。
改正の目玉「国土強靱化実施中期計画」の法定化
これまでの国土強靭化の取り組みは、「3か年緊急対策」(2018〜2020年度)や「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(2021〜2025年度)など、期間を区切った特例的な対策として進められてきました。
しかし、気候変動による水害の激甚化や、将来予測される大地震のリスクを考慮すると、5か年加速化対策が終了した後も対策の手を緩めるわけにはいきません。そこで、2023年の改正によって「国土強靱化実施中期計画」を定めることが法律で義務付けられました。
継続的・安定的な予算確保の重要性
中期計画が法定化されたことにより、これまでの「数年ごとの短期的な対策」から、「中長期的な視点に立った継続的な対策」へとシフトしました。
インフラの整備や老朽化対策、防災施設の建設には長い年月がかかります。法律で計画策定が義務付けられたことで、安定的かつ継続的に予算が確保されやすくなり、地方自治体や建設業界も中長期的な見通しを持って防災事業に取り組むことができるようになりました。
予測される大地震や自然災害のリスクと対策の急務
日本は地理的な条件から、常に自然災害のリスクと隣り合わせにあります。国土強靭化基本法に基づく対策は、待ったなしの状況です。
30年以内に高い確率で発生する大地震
政府の地震調査研究推進本部によると、南海トラフ地震は30年以内に高い確率(近年の評価では80%程度、または60~90%程度以上)で発生すると予測されています。
これらの大地震が発生した場合、建物の倒壊や津波による直接的な被害だけでなく、サプライチェーンの寸断や首都機能の喪失など、日本経済全体に計り知れないダメージを与えることが懸念されています。国土強靭化基本法と同時期に「南海トラフ地震対策特別措置法」や「首都直下地震対策特別措置法」の制度整備が進められてたことからも、対策の緊急性の高さがうかがえます。
激甚化・頻発化する水害や台風への備え
近年は地震だけでなく、地球温暖化に伴う気候変動の影響で、台風の大型化や局地的な豪雨(ゲリラ豪雨)、それに伴う河川の氾濫や土砂災害が毎年のように発生しています。
水害によって生活基盤が奪われ、災害以前の生活に戻ることができない人も大勢います。どのような自然災害が起こったとしても、国民の命と生活が守られるような仕組み作りが急務となっています。
国土強靭化基本法の計画実施における地方自治体の役割
国土強靭化の施策は、国が大きな方針を決めるだけでなく、現場を知る地方自治体が中心となって進めることが重要です。地域によって地形や気候、抱えている災害リスクは大きく異なるからです。
「国土強靭化地域計画」に基づく地域特性に合わせた対策
国土強靭化基本法では、地方自治体が地域の実情に合わせた「国土強靭化地域計画」を策定できると定めています。
たとえば、住宅が密集している都市部では「火災の延焼を防ぐための区画整理や建物の不燃化」、海岸沿いの地域では「津波に備えた防潮堤の整備や避難タワーの建設」、中山間地域では「土砂災害を防ぐための治山事業や避難経路の確保」など、それぞれの地域の弱点に応じた対策が求められます。南海トラフ地震や首都直下地震で大きな被害が想定される自治体では、特に計画策定と対策の実行が急がれています。
ハード対策とソフト対策の組み合わせ
地方自治体が進める具体的な対策は、大きく「ハード対策」と「ソフト対策」の2つに分けられます。
- ハード対策(施設整備):海岸防災林や海岸堤防の整備、老朽化した橋やトンネルの補修、公共施設・学校の耐震化、避難所の設備拡充など。
- ソフト対策(仕組み・意識づくり):ハザードマップの策定と住民への周知、実践的な防災訓練の実施、防災教育の推進、災害時の情報伝達システムの構築など。
災害の被害を完全にゼロにすることは難しいため、建物の補強などのハード対策だけでなく、住民一人ひとりの避難行動を促すソフト対策を組み合わせることが不可欠です。
自分たちが住んでいる街、あるいはこれから住もうと考えている街が、どのような災害リスクを抱えているかを把握することは、強靭な暮らしの第一歩です。各自治体の取り組みとともに、地域のハザード情報や住みやすさを事前に調べておきましょう。
国土強靭化基本法の課題と今後の展望
国土強靭化基本法は、国民の命と生活を守るために不可欠な法律ですが、計画を進める上での課題も指摘されています。
公共事業への多額の予算投下に対する検証
国土強靭化の名の下に、長期間にわたり多額の国家予算が公共事業に投じられることになります。そのため、「本当に必要な防災・減災事業に予算が使われているのか」「かつての無駄な公共事業の温床にならないか」といった厳しい見方もあります。
実施された事業がどの程度災害リスクの軽減に貢献しているのか、費用対効果を常に検証し、国民に対して透明性を持って説明していくことが求められます。
住民参加型の施策づくりと人材・資源の確保
東日本大震災の復興事業では、巨大な防潮堤の建設や高台移転をめぐって、行政と地域住民との間で意見の対立が生じ、計画が予定通りに進まないケースがありました。また、復興庁の発表によると、東日本大震災からの5年間で復興予算の一部で執行残や基金への積立が発生していました。これは、予算が配分されても、建設現場の人材不足や資材価格の高騰などにより、事業を消化しきれなかったことが大きな要因です。
現在の国土強靭化事業においても、建設業界の人手不足は深刻な課題です。それぞれの自治体は、限りある予算と人的資源を最大限に活かすために、地域住民と入念に話し合い、本当に優先すべき対策を絞り込んでいく必要があります。
まとめ:一人ひとりの防災意識と地域の協力が強靭な国をつくる
国土強靭化基本法は、大規模な自然災害から私たちの命と生活を守り、社会機能を維持するための重要な土台です。2023年の法改正により中長期的な計画策定が義務付けられたことで、より安定的かつ計画的な防災・減災対策が進むことが期待されます。
しかし、国や自治体による公共事業(公助)だけでは、災害の被害を完全に防ぐことはできません。私たち一人ひとりがハザードマップを確認し、家具の固定や非常持ち出し袋の準備を行う「自助」、そして地域コミュニティで協力して助け合う「共助」が組み合わさることで、初めて「強くしなやかな国」が実現します。
国土強靭化基本法の意義を理解し、日常的な防災意識を高めていきましょう。
【よくある質問(FAQ)】
Q.1 国土強靭化基本法とはどのような法律ですか?
A.1 大規模な自然災害が発生しても、国民の命を守り、国家や社会の重要な機能が致命的な障害を受けないよう、事前防災・減災の取り組みを推進するための法律です。東日本大震災の教訓をもとに2013年に制定されました。
Q.2 国土強靭化基本法が掲げる4つの基本理念とは何ですか?
A.2 「人命の保護が最大限図られること」「国家・社会の重要な機能が維持されること」「国民の財産や公共施設の被害を最小化すること」「迅速な復旧復興ができること」の4つです。
Q.3 2023年の国土強靭化基本法の改正で何が変わりましたか?
A.3 「国土強靱化実施中期計画」を定めることが義務付けられました。これにより、数年ごとの短期的な対策ではなく、中長期的な視点で安定的・継続的に防災予算を確保し、事業を進められるようになりました。
Q.4 地方自治体は国土強靭化においてどのような役割を担っていますか?
A.4 地域ごとの地形や災害リスクに合わせた「国土強靭化地域計画」を策定し、防波堤整備などのハード対策と、ハザードマップ周知や避難訓練などのソフト対策を組み合わせて実行する役割を担っています。
Q.5 国土強靭化を進める上での今後の課題は何ですか?
A.5 巨額の公共事業予算が本当に必要な対策に使われているかの検証や、建設現場の人材不足・資材高騰への対応、そして住民の理解を得ながら施策を進める合意形成などが課題として挙げられます。
更新日: / 公開日:2016.10.29










