
歴史と日常が、
自然に調和する街
川越(埼玉)
kawagoe
残してきたから、変わり続けられる。
川越という街のかたち
「川越」と聞けば、蔵造りの町並みや時の鐘を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが川越駅に降り立ち北側に向かって街を歩くと、最初に心を動かされたのは、歴史的な建物ではなく、クレアモールを行き交う人の多さでした。買い物袋を下げた人、学生、ベビーカーを押す家族、その日常の向こうに、観光客が目指す「小江戸」の町並みが続いています。
川越は、昔の姿をただ保存してきた街ではありません。江戸と結ばれた城下町の骨格を受け継ぎながら、交通、商業、行政、子育て支援を重ね、暮らしに合わせて更新してきた街です。なぜ川越では、歴史と日常が自然に調和できるのでしょうか。一級建築士の満山堅太郎が、川越の街を紹介します。

Town’s Guide
満山 堅太郎
一級建築士・建築基準適合判定資格者・宅地建物取引士など
1985年生まれ。千葉大学工学部卒。国土交通省、いわき市役所勤務を経て2022年に起業。前職では、港湾・空港整備、都市計画・まちづくり、公共交通行政の他、建築審査・指導等を経験。 株式会社UrbanPoleShift (https://iwaki-poleshift.jp) 代表。
INDEX
歩いて知る 歩いて知る、川越の5つの視点
まとめ 残してきたから、変わり続けられる
歩いて知る
歩いて知る、川越の5つの視点
駅前の再開発、3駅3路線の交通、蔵造りの町並み、そして駅前の複合施設。川越の「今」を形づくる場所を、歩きながらたどります。
本川越駅|次の百年をつくる、小江戸の玄関口

守られてきた歴史と変化する暮らし。その二つが交わる場所で現在、新たな開発が検討されています。本川越駅直結の西武本川越ペペは、1991年の開業から約34年を経て、2026年1月13日に営業を終了しました。所有者である西武不動産は「住みたいまち、訪れたいまち」を掲げて開発を検討中としていますが、確認できた公式資料では、用途、規模、工程は2026年8月末時点で未公表です。
ただし、周辺では2016年に西口開設と約2,000m²の駅前広場、アクセス道路が開通し、川越市駅との乗り換えは約11分から約5分へ短縮されています。実際、歩いてみると動線が明確になり、乗り換えの利便性が向上したことが分かるでしょう。こうした整備を踏まえると、次の開発では、3駅、クレアモール、歴史地区を結ぶ歩行動線と、通勤、買い物、子育て、観光が無理なく重なる場所の設計が焦点になると考えられます。
1階部分が通りや広場に開かれ、立ち寄りたくなる場所をつくれるか。新しい本川越駅前が街に何を開くのかによって、川越の20年、30年先が決まっていくでしょう。

満山 堅太郎さん
注目したいのは、建物の用途や規模だけではなく、駅の東西をつなぐ動線や、地域に開かれた広場などが生まれるか、クレアモールから歴史地区へ歩きたくなる動線がつくられるかです。
観光客の回遊を促しながら、通勤や買い物をする市民の動線を妨げない工夫も欠かせません。通勤、買い物、子育てで日々使う人の居場所となれば、この開発は川越の「暮らしと観光をつなぐ新しい玄関口」となる可能性があります。
川越駅・川越市駅・本川越駅|異なる方向へ開く3駅3路線

川越市駅を少し離れると、駅前のにぎわいから落ち着いた住宅地へと景色が切り替わります。中心市街地の活気と穏やかな住環境が徒歩圏に収まっていることも、川越の暮らしやすさを支える要素です。
川越駅から北へ続くクレアモールには、大型店の間に個性豊かな商店が並び、市民と観光客の流れが重なります。観光客の動線でありながら、日々の買い物や待ち合わせを受け止める生活の通りでもあります。
このにぎわいを支えるのが、中心市街地の徒歩圏にある3駅3路線です。地図上で川越駅と池袋駅を結ぶと、直線距離は約28km。東武東上線で池袋方面、JR川越線で大宮方面、西武新宿線で西武新宿方面へつながります。東武東上線の川越特急であれば池袋まで最速約26分、西武線の特急レッドアロー「小江戸」なら、本川越―西武新宿を最短44分で結びます(ただし、乗車券のほかに特急券が必要)。
行き先や運行状況に合わせて駅を使い分けられます。複数の行き先と別ルートを持つ特殊性こそ、川越の交通利便性を支える強みです。

満山 堅太郎さん
蔵造りの一番街や大正浪漫夢通りを思い浮かべて歩き始めましたが、クレアモールの人の多さと生活感が印象的でした。旧宿場を軸に日常の商いが続く板橋の商店街にも似た活気があります。一つの駅に機能を集中させず、3駅の個性を店や広場でつなぐことが川越の強みといえます。
時の鐘と蔵造り|「残す」から「使い続ける」へ

蔵造りの商家の多くは、現在も店舗や住まいとして使われています。時の鐘が地域に時を告げるのは、今も1日4回(午前6時、正午、午後3時、午後6時)。老舗と新しい店が隣り合い、歴史が日常の中に息づいています。
駅前に今の暮らしが息づく一方、その街の骨格をたどると、江戸との深い結びつきに行き着きます。1893年の川越大火後、当時の商人たちは防火性の高い蔵造りで店を再建しました。ただし、現在の景観が残ったのは建物が丈夫だったからだけではありません。
1971年の旧万文取り壊し反対運動から、川越蔵の会、町並み委員会、自主ルール「町づくり規範」へと、市民・商店主が守り方を育ててきました。1999年には約7.8ヘクタールが国の重要伝統的建造物群保存地区(いわゆる伝建地区)に選定されています。川越が守ってきたのは、古い外観ではなく、歴史を使い続ける暮らしそのものなのです。

満山 堅太郎さん
全国に複数ある伝建地区の中でも東京に近くかつ、土地利用の更新が早い中心市街地に残る川越の景色は珍しいです。景観保全は外観を昔風にそろえることではありません。所有者が修理して使い続け、町並み委員会が一件ずつ協議してきた運用こそ川越の資産ともいえます。ルールと対話があるから、生活のある景観が残ります。
私自身、約10年ぶりに訪れましたが、新しい店舗が増え、魅力的な建築物の連続性が広がっていると感じました。何度訪れても飽きない街です。
大正浪漫夢通り|時代の継ぎ目が見える道

石畳の大正浪漫夢通りには、大正から昭和初期の建物が点在し、カフェなどに利用されています。クレアモールから一番街(小江戸川越一番街商店街)へ向かう途中で、当時の建物を見ながら買い物や食事を楽しめる商店街です。
かつて「銀座商店街」と呼ばれ、アーケードのある買い物の場として親しまれていました。1995年のアーケード撤去を機に、商店街全体で大正浪漫をテーマとする街づくりが本格化したのです。町屋造りや洋風看板建築を生かし、御影石の舗装や電線の地中化も進めました。現在の見通しのよい街並みは、昔の建物を残すとともに、通りを整備してきた結果となっています。
蔵造りが並ぶ一番街と比べると、和風の町屋と洋風の店構えが混在しているのが特徴です。窓の形や軒先、建物正面の装飾を見比べると、建てられた時代や店ごとの違いにも気づきます。同じ川越の中心部でも、通りによって異なる建築を身近に見ることができるのです。
江戸時代から続く店舗や、何代にもわたり受け継がれてきた店舗もあります。日用品や土産物を扱う店、飲食店が並び、市民も観光客も利用する場所です。観光で気になった店に、暮らし始めてから普段の買い物や食事で通うこともできるでしょう。歴史的な街並みを散歩しながら、なじみの店を見つける楽しみも待っています。

満山 堅太郎さん
趣のある建物に新しい用途が重なり、街の記憶が今の暮らしにつながっています。歩く速度で時代の変化を感じられるのが川越らしさです。加えて、建物単体を保存するのみならず、魅力的な物販店や飲食店に活用し続けることで、日常的な手入れが行き届くとともに、人の往来が生まれます。
一番街とクレアモールの間に位置するこの通りは、異なる時代の町並みを結びつけ、観光客の回遊と市民の日常を重ねる接点になっていると感じました。
U_PLACE|駅前に日常の用事を重ねる

川越駅西口からペデストリアンデッキにより接続しているU_PLACEは、行政サービス施設や福祉・子育ての相談窓口、店舗、オフィスなどが入る複合施設です。駅前で手続きや相談、買い物をまとめて済ませられます。
3階にあるのは川越市民サービスステーションです。川越駅西口連絡所では住民票などの証明書発行や転入・転居の届出を扱い、福祉総合相談窓口や川越しごと支援センターでは、暮らしや仕事に関する相談ができます。引っ越してきた人にとっても、駅前にこうした窓口があるのは大変便利なポイントです。交流スペースのほか、キッズルームや授乳室も備えています。
館内には飲食店や日用品を扱う店、銀行もあり、5階には年金事務所、6階には医療機関が集まるメディカルモールが入居しているのも特徴です。引っ越しの届出に合わせて生活用品を買ったり、通院の前後に食事をしたりと、一度の外出で複数の用事を済ませやすくなっています。それぞれの施設を移動する手間が少なく、用事の合間に休憩を取ることも可能です。
また、ホテルやオフィスも入るため、地域の住民のほか、ビジネス客や観光客にも利用されています。このように、川越駅東口には買い物や食事を楽しめる商店街があり、西口のU_PLACEには行政・医療などのサービスがそろう環境です。駅の両側に目的に応じて利用できる施設があることも、川越で暮らす便利さの一つとなっています。

満山 堅太郎さん
行政、子育て、商業、仕事を駅前に集めると、目的の異なる人が一日を通して行き交います。子どもや高齢者の移動負担も抑えられることが、複合施設の強みといえます。そうみると、U_PLACEは川越駅西口のペデストリアンデッキに直接接続しており屋根もあって、非常に利便性が高いです。
加えて、人口増加が緩やかな一方で世帯数が大きく増えている川越では、単身者、子育て世帯、高齢者など、多様な世帯が短時間で用事を済ませられる拠点の重要性が高まると考えられます。
駅前に行政サービスと民間サービスを集め、拠点性の高い公共交通から雨天時にも移動しやすく分かりやすい人の動線は、今後の駅前整備を考えるうえでも参考になると感じました。
ほかにも知っておきたい4地点
クレアモール
川越駅から本川越駅へ延び、日常の買い物と観光動線が重なる商店街。大型店と個人商店が共存し、歩いて暮らせる中心市街地の軸になっています。
すくすくかわごえ
保育ステーションや子育て支援センターが、親子の交流と相談を支えています。
児童センターこどもの城
遊戯室、図書室、プラネタリウムなどを備えた、天候に左右されにくい居場所です。
伊佐沼公園
大型遊具と水辺の自然を一緒に楽しめる、郊外側の伸びやかな公園です。
by LIFULL HOME’S 川越地域
なぜ今、川越が選ばれるのか。過去5年の価格推移と、今後の再開発計画から、川越エリアの資産価値の伸びしろを探ります。
数字で知る:川越地域
幅広い年代が流入する街。データで見る川越の“今”

歴史があるだけで、街が今も選ばれ続けるわけではありません。現在の川越市を人口統計で見ると、人口の総量だけでは見えない変化が浮かびます。2015年1月1日から2026年9月1日までに、川越市の人口は34万9,378人から35万3,196人へ1.1%増にとどまる一方、世帯数は14万9,861世帯から17万3,753世帯へ15.9%増えました。1世帯当たりは約2.33人から約2.03人へ縮小し、世帯の小規模化がうかがえます。
2025年の国内の市区町村間移動では1,418人の転入超過で、0〜14歳177人、15〜64歳1,139人、65歳以上102人と3区分すべてでプラスでした。人口1,000人当たりの転入超過は約4.0人で、埼玉県全体の約3.0人を上回ります。川越と隣接11市町を合わせた12市町では、転入超過数はさいたま市、上尾市に次ぐ3位、人口1,000人当たりでは6位です。
周辺で突出しているわけではありませんが、幅広い年代の流入と世帯の小規模化が同時に進んでいます。この動きは、子育て世帯に加え、単身者や高齢者など多様な暮らしを受け止める住宅と生活サービスの必要性を示唆しています。
数字で知る:川越地域
右肩上がりの価格推移が示す、川越エリアの安定した資産価値

過去5年間、川越駅周辺の中古マンション平均掲載価格は、期間全体では上昇傾向にあります。一時的な高騰ではなく、継続的な右肩上がりである点が、このエリアの需要の底堅さを物語る材料といえるでしょう。
子育て世帯にとっては、暮らしやすさに加えて、将来にわたり資産価値が目減りしにくいという安心材料にもなります。
数字で知る:川越地域
駅前再開発が切り拓く、本川越エリアの未来の資産価値

本川越駅前では、「西武本川越ペペ」跡地の建て替えを含む大規模な再開発が計画されており、観光拠点としての魅力向上と交通利便性の改善が見込まれています。
本図は、本川越と似た観光拠点としての特徴を持ち、駅前再開発が近年完了した他エリア(小田原、鎌倉、飯能)の2018年から2025年までの中古マンション平均平米単価の推移を比較したものです。価格指数は2018年を100として算出しています。
小田原や鎌倉のように、再開発を機に資産価値が大きく飛躍した先行事例と同様に、本川越でも利便性と環境の整備が今後さらに進むことで、資産価値の安定的な向上が期待できるといえます。
まとめ
残してきたから、変わり続けられる

川越が歩んできた物語は、古いものを残した街の話ではありません。江戸とのつながりから生まれた町を、商人が大火後に建て直し、市民と行政が守り方を育て、今の暮らしに合わせて使い続けてきた物語です。
東武、西武およびJRの3駅3路線の選択肢、日常の商いが続くクレアモール、歴史を今に伝える町並み、幅広い年代の転入。その一つひとつが、川越を観光地であると同時に「暮らす街」にしています。
だからこそ、本川越駅で検討されている再開発も、過去を消して新しくするのではなく、歴史地区、商店街、3駅を結び直す計画であってほしいと思います。これまで、先人たちが残してきたからこそ、変わり続けられる。そこに川越の魅力があると考えられます。

満山 堅太郎さん
実際に川越の中心市街地を歩くと、川越駅西口のU_PLACEには行政サービスや子育て支援、商業・業務機能が集まり、東口から延びるクレアモールでは日常の買い物と観光客の流れが交わっています。さらに、本川越駅から大正浪漫夢通り、蔵造りの町並みへ進むにつれ、建築の年代や通りの表情が少しずつ移り変わっていきます。
川越駅・川越市駅・本川越駅の3駅はいずれも、単なる地図上の点ではなく、こうした一続きの生活空間を支える結節点として感じられました。
建築士として、また行政の立場から都市計画に携わってきた者として歴史的な街を見るとき、私は個々の建物の新しさや古さだけでなく、その間を人がどう歩き、どこで立ち止まり、日常の用事を重ねられるかが気になります。川越の強みは、歴史的景観を観光の背景として保存するのみならず、商いや行政、子育て支援など現在の暮らしと調和させながら使い続けていることです。
本川越駅周辺の再開発でも、建物単体の新しさだけを求めるのではなく、3駅、商店街、歴史地区を歩いて結び、市民の日常と観光客の回遊が無理なく共存する歩行空間や居場所を育てていくことが、川越らしさを次の世代へ受け継ぐ鍵になると思います。そして、歴史を身近に感じながら日々の暮らしを営めることこそ、川越で暮らす魅力なのでしょう。
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