「場づくり」を目指した結果がシェアオフィス

都会では、珍しくなくなってきたシェアオフィス。スピードの速いビジネスの流れにあわせ、事業規模を拡大・縮小できるスペースとして、ベンチャー企業などを中心にその利用は定着してきました。しかし、こうしたシェアオフィスが、地価の高い都市部ではなく、地方の山間部に誕生しているのは驚きです。その狙いは、都市部のそれとは少し異なるのかもしれません。

豊かな自然の残る、雲南市木次町三日市のシェアオフィス「三日市ラボ」は、「人と人の化学反応を生み出す場」として形成されたと、このラボ誕生に携わった雲南市市役所 松村 優主幹は当時を振り返ります。

「米国の有名IT企業の創業は、数人の仲間が集まってガレージでレストランのナプキンに書いた構想がきっかけだった――」そんな逸話が残っていますが、この「三日市ラボ」の誕生も数人のキーマンたちの雑談から始まったプロジェクトだったといいます。

雲南市では、次世代育成事業として「幸雲南塾~地域プロデューサー育成講座~」を展開していますが、その講師として参加をしていた株式会社スマートデザインアソシエーション須賀大介代表、雲南市役所の職員などが中心となって立ちあげたのが三日市ラボのプロジェクト。スマートデザインアソシエーションではWebデザイン企業ですが、シェアオフィス事業も展開しています。そのバックボーンを駆使しながら、「場づくり」というコンセプトが立ち上がったのです。

「このシェアオフィスのある三日市は、かつて鍛冶屋街として栄えた街並み。ここで地域資源を残しつつも何か田舎の強みを形にできないかと考えたときに“場づくり”というコンセプトが浮かびあがりました。人と人が出会い化学反応をおこし、地域を生かした新しいビジネスが生まれ、結果として移住などにつながる場所にできないだろうか。それがシェアオフィスを誕生させた思いでした」(松村さん)

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三日市ラボの2階スペースのシェアオフィス

デザイン・改修監修には錚々たるメンバーが参加

三日市ラボは、もともとは鍛冶屋の古民家、時代を経て家電屋として使われていた町屋建築の建物をリノベーションし、1階をスポット利用のコアワーキングスペース(12席)、2階をシェアオフィス(10席)として生まれ変わらせました。

外観は、瓦屋根の古い住宅の風情を残しているものの、中に入ると木の温かみを感じられるカフェのようなおしゃれな空間。大き目の木のテーブルに椅子が並び、フリースペースで12席。同じスペースについた人と自然と会話が生まれる「場」がつくられています。壁面一面の黒板ボードには、ここで生まれた新しいアイデアやメッセージが残されています。

奥に隠れた木造の階段を上ると、2階は古材で造った木造の机が10席残るシェアオフィス。小学校の木造のロッカーを再利用した荷物スペースがアクセントにもなっています。

リノベーションに際しては、公募で募った参加者総勢90名ほどが全5回にわたってセルフリノベを実施。プロと一緒に解体をし、壁打ち、しっくい塗り、床板うちなどを手掛けてつくりあげています。しかも贅沢なのは、改修や空間デザインの監修者に錚々たるメンバーが参加していること。デザイン監修には、リノベーション事業で名高い株式会社リビタの小野 司建築家。1階の改修監修には、古民家改修で人気の高い松崎氏。2階の改修監修には田舎の文化をデザインで発展させ世界からも注目を集める「Design Office SUKIMONO」の平下茂親氏が手掛けています。

都会の喧騒を離れて豊な自然の中でクリエイティブを発揮するスペースは「余白を大切に」という小野建築家の意向の通り、洗練されながらも温かみを感じさせる「場」として存在しています。

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1階のコワーキングスペース。1時間300円/人から利用が可能、しかも1日の上限は1,000円
差し替え②
希望者によるセルフリノベのワークショップも行われました

二地域居住での活用例も

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2階のシェアオフィスで使われている
ランプシェードと机は古材で作られた
味のあるもの

木造の温かみを生かした空間の「三日市ラボ」ですが、とはいえ設備としては充実しています。コピー、シュレッダー、FAXのほか、光回線が引かれているのは当然のこと。2階のシェアオフィスでは、「法人登記」が可能なうえ、「郵便受取」もできるため、アイデアを形にする拠点としてすぐに利用できます。

2階のシェアオフィスは1か月の利用料が20,000円/1席。こちらを契約すれば1階のコワーキングスペースを自由に利用できるため、「誰かと会話がしたいときには1階に、集中して仕事をしたい時には2階に籠る」そんな使いわけをしている利用者もいるのだとか。

現在、どんな方々がこのシェアオフィスを利用しているのかというと、教育系IT企業がサテライトオフィスとして利用していたり、Webデザイナーのフリーランスの方や、婚活事業を展開する事業者。さらには東京―雲南の二地域居住をする医療系コンサルタントの方が雲南でのオフィスとして利用しているといいます。

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ロッカーも、小学校の木造ロッカーを再利用したもの

よりいっそう化学反応を生み出す実験場に

「三日市ラボ」を運営するNPO法人おっちラボの場づくりコーディネーターの上野奈苗さんは「2015年5月にオープンしたこの場所は、まだまだこれから色々な化学反応が起こせるはず。そのためのイベントづくりなどに力を入れていきたい」と話します。

イベントもビジネス寄りのものだけではなく、地域の方が「三日市ラボ」に親しんでもらえる工夫も必要。そんな思いから、現在は子供たちにもおじいちゃん・おあばあちゃんたちにも参加をしてもらえるように「消しゴムはんこワークショップ」や「ウォーキングイベント」などを行っているといいます。

また、上野さんは実は二地域居住の実践者。実家のある広島ではラジオのパーソナリティのお仕事もされているため、広島のご実家と雲南市を行き来する日々だとか。地域に根ざした活用に興味のある上野さん曰く、雲南市は「地域に根ざした活動をする中間支援団体の活用や市との協力体制が先進的。この場所で色々と学び実験をしていきたい」と語ってくれました。

「実際に、この三日市ラボのセルフリノベに参加した人たちが別の街で交流拠点としての古民家再生をセルフリノベで行っていたりします。この場所は、単純に収益を追うビジネス創出、成果主義を求める場ではないと思います。数値化できないつながりを生むことが未来の働き方や地域のあり方を創造していくのではないでしょうか」(村松主幹)

オフィスの賃貸料を安く済ませるという名目ではなく、人と人のつながりを大切にする里山地域のシェアオフィス。移住希望者(特にフリーランス業?)にとってはますます移住への思いが膨らむ「場」ではないでしょうか。

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島根県雲南市の松村 優主幹(右)、同じく雲南市 奥田 清課長(真ん中)、そしてNPO法人おっちラボの上野奈苗さん(左)

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