賃貸住宅の退去時、原状回復のための修繕費用が予想以上に高額となり、驚いた経験がある人もいるのではないでしょうか。退去時の原状回復をめぐるトラブルは数多く発生しています。
しかし、どこからどこまでを実際に入居者(借主)が負担しなければならないのか、判断が難しいものです。そこで重要な指針となるのが、国土交通省が定める「原状回復ガイドライン」です。
この記事では賃貸住宅の契約に関する原状回復ガイドラインから、修繕の義務が生じるケースやトラブルを防止する方法について解説します。
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原状回復ガイドラインとは

原状回復ガイドラインは、賃貸住宅の退去時に発生するトラブルを予防するためのものです。
国民生活センターの統計によると、賃貸住宅の原状回復に関する相談件数は以下のように推移しています。
年度 | 2021 | 2022 | 2023 |
|---|---|---|---|
相談件数 | 1万4,112件 | 1万2,884件 | 1万3,247件 |
参考:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」
賃貸住宅を借りている人は、契約期間が終わると部屋を元の状態に戻して返さなければなりません。
しかし、どこまでが経年劣化や通常損耗にあたるのかの判断は難しいため、トラブルの原因になりやすいといえます。
そこで、トラブルを未然に防ぎ、円滑な手続きを進めるために国土交通省が作成したものが原状回復ガイドラインです。
以下では、ガイドラインに記載のある指針のうち、経年劣化について解説します。
通常の使用による経年劣化は対象外
原状回復と聞くと、「賃貸物件を借りたときの状態に戻すこと」と思われがちですが、通常の使用による経年劣化などは原状回復の対象外です。
経年劣化は、時間の経過によって自然に生じるものであり、原則として入居者が負担する必要はありません。
ガイドラインにおいて原状回復は、以下のように定義されています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
引用元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
たとえば、通常の生活によってクロスが多少変色してしまったり、家具を設置することでフローリングがへこんでしまったりしても通常損耗とされ、原状回復の対象外となります。
入居者の負担となる場合もある
入居者が通常の使用範囲を超えて物件に損傷を与えた場合は、その修繕費用を負担する義務があります。
どの程度の損傷が「通常の使用範囲を超えた損傷」なのかは判断が難しい場合がありますが、たとえば入居者が故意に傷をつけたものは入居者が原状回復の義務を負わなければいけません。
その他、原状回復の義務が生じるケースについては、次の章で具体的に解説します。
原状回復の義務が生じるケース

ここでは、原状回復の義務が生じるケースについて紹介します。
通常の使用を超える損耗
通常の使用による経年劣化は原状回復の対象外ですが、以下のような場合は入居者の負担となります。
- 室内での喫煙によるヤニ汚れ(通常のクリーニングで除去できない場合)
- ペット飼育による柱やクロスの損傷・臭い
- エアコンのフィルター清掃不足による故障、換気不足によるカビの発生
これらは通常の使用を超える損耗にあたり、入居者が修繕費用を負担しなければなりません。
故意・過失による損傷
故意(わざと)や過失(うっかり)による損傷は、原状回復の対象です。たとえば、以下のようなケースが挙げられます。
- 壁を殴って穴をあけた
- 家具を倒して床を傷つけてしまった
- 掃除を怠るなどの過失により損傷してしまった
水回りの掃除をずっと放置すると水あかなどが付着しますが、このような場合も、入居者に修繕費用の負担が求められることがあります。
善管注意義務違反による損傷
入居者は、物件で異常(雨漏りやガラスの亀裂など)を発見した際、速やかに貸主に通知する義務があります。これを「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」と呼び、民法400条に規定されています。
特定物の引渡しの場合の注意義務
「第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」
引用元:e-gov法令検索 民法
善管注意義務に関するガイドラインによる解説は以下のとおりです。
Q 賃借人の善管注意義務とはどういうことですか。
A 賃借人は、賃借人として社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用する義務が課されており、これを賃借人の善管注意義務といいます。
引用元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&A
たとえば、すでに紹介したタバコやペットによる汚れやキズについても、善管注意義務に違反していると判断されます。
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原状回復トラブルを防止するには?

原状回復トラブルを防止するには、どのような点に注意するとよいのでしょうか。
原状回復の対象や特約を確認する
賃貸借契約書には、どんな損傷が入居者の負担になるのかが記載されています。さらに、原状回復に関する特約が存在する場合があり、退去時にはこの特約に基づいて請求されることがあります。
たとえば、ハウスクリーニングや鍵の交換、台所やトイレの消毒費用など、それぞれの金額と共に入居者の負担とする旨が記載されているケースがあります。
こうした特約について、入居時には気に留めていなかったという人も多く、「退去時の修繕費用が思わぬ額になってしまった」といった事態も考えられるため、注意深く賃貸借契約書を確認しなければなりません。
入居時の状態を記録する
入居時にすでにキズがついていたのにもかかわらず、それが入居者の責任であると判断されることがあります。
入居者としても、入居から退去までの間に、どのキズが自分でつけたものか分からなくなることもあるかもしれません。
こうした退去時の原状回復トラブルを回避するために、これから新居に引越す場合は、入居時の状態を写真や動画に撮るなどしておくのがおすすめです。
証拠となる記録があれば、大家さんや管理会社が不当な請求をしてきた場合でも、退去時に「このキズは自分がつけたものではない」という事実を客観的に証明できます。
まとめ

賃貸物件の退去時に、入居者が修繕費をどこまで負担するべきか判断が難しい場合がありますが、国土交通省が定める原状回復ガイドラインを活用することで、ある程度の判断が可能になります。
もし、退去時に不動産会社から提示された修繕費用があまりに高額だと感じた際は、ガイドラインを根拠に「この部分は経年劣化なので、私の負担ではない」と正当な主張をすることが大切です。
その他、入居時に物件の状態を画像や動画で記録しておくことも重要な対策です。退去時にトラブルに発展してしまうことのないよう、事前に対策を取りましょう。
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