念願のひとり暮らし、すてきな部屋が見つかって、さあインテリアを考えようとしたとき、「壁に絵をかけてもいいのかな」「カレンダーならいいかも」「トイレに鏡はどうしよう」などと迷うことはありませんか。

契約書(賃貸借契約書)や説明書(重要事項説明書)を読み返すと、「退去時は入居時の状態に戻す(原状回復)義務がある」と書いてあるものの、具体的に「してもいいこと」「弁償を求められること」がよく分からない場合が多いのではないでしょうか。

そこで、不動産アドバイザーで「安全で快適な暮らし」をモットーに多種の住宅の仲介を行う穂積啓子さんに、事例別に詳しく尋ねてみました。

Q1

絵やカレンダー、写真、ポストカードを壁に飾りたいのですが、ピンや画びょう、フックを壁に刺していいのでしょうか? 壁紙が変色した場合は弁償?

壁にポスターを張る

穂積さん

まず結論から言いますと、それらを壁に留めるピンや画びょう、フックでできた穴や傷、またはがしたときの壁紙の自然な変色は、退去時に修復や弁償をする義務はありません。

 

なぜなら、「通常の生活の範囲での活動」によって生じた自然な傷であるからです。これを不動産用語では、「自然損耗(そんもう)」あるいは「通常損耗」と呼び、修復代は貸主(オーナー。家主)が負担します。安心して活用しましょう。

 

ただし、たとえばひとりで抱えきれないような、大きくて重い額縁の絵画を壁にかけて生じたくぎ穴やねじ穴による傷は、別の判断をすることが多くなります。このケースでの判断基準は、「留め具が壁紙の下の『下地ボード』を損傷して張り替えが必要かどうか」です。必要な場合は自然損耗とは言えず、借主による特別な事情で生じた「特別損耗」として、借主が修復、つまり弁償することになります。修復の範囲は後述します(Q3)。

 

いずれにせよ、大きな金具やピクチャーレール、ワイヤーなどで取り付ける場合は、入居前でも入居中でも、事前に貸主や管理会社に「OKかどうか」と、「原状回復をする必要はあるか」を尋ねてください。そしてその回答を、日付や先方の氏名とともに正確に記録し、退去の際の精算時まで保管しておきましょう。あらかじめの相談こそ、退去時のトラブルや誤解を防ぐ手立てになるでしょう。

 

なお、最近は、ポスターや写真、カレンダーなど500グラムぐらいまでのものなら、壁に貼ってきれいにはがせるシートが市販されています。穴を開ける必要がないので、利用してみてもいいでしょう。

 

Q2

コレクションを飾るための、小さめのディスプレイ棚を壁に取り付けてもいいでしょうか? いくつでも問題ないですか?

壁のディスプレイ棚

穂積さん

Q1と同じく、棚を取り付けるための留め具がどの程度の大きさの穴を開けるかによります。「コレクションを飾る」程度の大きさの棚の場合は下地ボードの張り替えが必要ないと考えられるため、一般には3つぐらいまでなら、自然損耗でしょう。トイレの壁に鏡を取り付ける場合も、小ぶりのタイプをひとつなら同様です。

 

ただし、たとえば8畳のワンルームマンションの壁面に棚をいくつも取り付ける、また棚が大きくて耐荷重が10キログラムを超える、全身タイプの鏡などの場合は金具による穴の数が多いか、大きくなると想定できます。よって、「特別損耗」と判断されることが多いでしょう。これも事前に貸主に相談してください。

 

 

Q3

うっかり、フローリングにノートパソコンを落として、へこみと傷ができてしまいました。弁償でしょうか?

床のへこみ

穂積さん

借主の不注意のため、修復代は借主の負担となります。フローリングやビニールクロス、畳、壁、キッチンや洗面所、バスルーム、トイレとも、大きな物を落とす、ぶつける、家具を引きずって設備のカーペットやクロスを損傷した場合や、引越し作業中に生じた傷も同じです。

 

修復の範囲は、原則、フローリングやクロスを全面張り替えるのではなく、破損させた部分の最小単位(1m2が基本単位)を負担します。ただし、扉など部分修復が困難な設備は、全面の修復が必要でしょう。

 

Q4

遊びに来た兄とふざけて相撲をとっていて、壁を蹴ると穴がぼこっと開いてしまいました。弁償ですよね……。

穂積さん 

はい、弁償してください。誰かとケンカした、イライラして壁や扉を殴って穴を開けたという実例はたくさんあります。こういった「故意」の場合はもちろん、修復代は借主の負担となります。「ちょっとこぶしが当たっただけ」と言う人もいますが、下地がボードの壁はこぶしの圧力でもへこみますから注意しましょう。

では、借主が弁償する場合、いつどのタイミングで支払うのでしょうか。穂積さんはこう説明します。

 

「退去するときに精算します。入居の際に、家賃とは別に敷金か保証金を支払っているでしょう。退去時にはそれが全額、あるいは一部が返金されるのですが、設備に破損があるとその分の修復代を差し引かれることになります」

 

精算には、借主と貸主の間でトラブルが多いという話をよく耳にします。それを予防する方法として、穂積さんは次のようにアドバイスをします。

 

自然損耗であるにもかかわらず、一方的に差し引かれる、または借主がこうした情報を知らないままに自分の始末や責任だと思い込んで払ってしまっているケースが実際に多く見受けられます

 

Q1でも伝えましたが、入居時の状態や、設備を取り付けたい場合、また入居後に何か損傷があった場合は写真を撮影し、日付と状態、貸主や管理会社へ報告した経緯などを記録しておきましょう。

 

実際に、退去時の精算に関するトラブルは後を絶ちません。そこで、国土交通省が『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を作成し、ウエブ上で無料で公開しています。また、東京都や大阪府をはじめ各地の自治体も、これに準じて同様のガイドラインを策定しています。損傷の状態ごとに自然損耗かどうかや、トラブルの裁判例、また相談窓口も記されています。このガイドラインの存在をぜひ知っておいてください。参考にしながら、賢明な判断で対処をしましょう」

 

 

普通に楽しく暮らすうえで生じた自然な損傷は、弁償する必要がないとのことで安心しました。一方で、借主が「うっかり」や「わざと」で破損した場合は弁償になるということです。ドリルや金づちで壁に大きな穴を開ける、床に重い物を落とす、壁や扉を蹴って穴をあけるなど、部屋にダメージが大きいことをするのは弁償のもとだと覚えておき、日々快適に暮らしたいものです。

 

構成・取材・文 品川 緑/ユンブル

公開日: / 更新日: