沿線住民の利便性を変え得るダイヤ改正

鉄道各社のダイヤ改正は一般的に、利用者のニーズに対応しながら、混雑緩和や所要時間の短縮などの利便性向上を目的に実施される。首都圏ではハイブリッドワークの拡大(※1)などを背景に、コロナ禍以降に鉄道の通勤定期利用が減少したものの、各社の乗降人員は上昇傾向にあり、近年もライフスタイルの変化や利用者の増減にあわせたダイヤ改正が実施されている。2022~2024年に首都圏で実施されたダイヤ改正で利便性が大きく変わった駅として、2024年3月に新たに快速列車の停車駅となったつくばエクスプレスの「八潮」、2024年3月のJR京葉線快速列車の大幅な削減により東京都心部への所要時間が伸びたJR内房線・JR外房線の各駅、2022年11月の改正で日中時間帯の乗車機会が倍増した京急本線「青物横丁」「平和島」などが挙げられる。今回は、これらの駅周辺の賃貸物件への問合せ数や家賃相場がダイヤ改正前後でどのように変化したかを調査した。

※1 国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査」による

つくばエクスプレス「八潮」は、ダイヤ改正後に問合せ数が約20%増加

つくばエクスプレスで「秋葉原」から8番目の駅が、埼玉県八潮市にある「八潮」だ。2024年3月のダイヤ改正で新たに快速列車の停車駅となり、運行するすべての列車を利用できるようになった。「八潮」周辺の賃貸物件への問合せ数を前年と比較すると、ダイヤ改正後の2024年4~6月は前年同期比120.6%、7~9月は同119.5%と、ダイヤ改正後に問合せ数が増加している。なお、「八潮」で快速列車と普通列車が接続することにより周辺駅の利便性も向上した。また家賃相場は、2024年4~6月は8万5,925円(前年同期比105.2%)、7~9月は8万3,085円(同104.7%)と、前年から4~5%上昇している。
2025年3月15日に実施されるダイヤ改正では、八潮始発秋葉原行きの普通列車が1本増発される予定で、利便性の向上とともにさらなる問合せの増加も期待される。

つくばエクスプレス「八潮」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移つくばエクスプレス「八潮」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移

JR内房線・JR外房線は、ダイヤ改正直後に問合せ数が減少

2024年3月に実施されたダイヤ改正では、JR京葉線の通勤快速が廃止になったほか、快速列車の本数も大幅に削減された。その結果「内房・外房地域」居住者の通勤・通学時間が20分増加(※2)するなど、京葉線に直通するJR内房線・JR外房線の利便性が大きく変化。その後、沿線自治体の要望や住民の声を受け、同年9月に一部の普通列車が快速列車へ変更されるなど、異例となるダイヤの変更が行われた。

※2 千葉市「京葉線ダイヤ改正の影響等に関するアンケート」による

▼JR内房線:ダイヤ改正直後は6駅すべてで問合せが減少

JR内房線の各駅のうち、一定以上の問合せがあった「蘇我」「浜野」「八幡宿」「五井」「姉ヶ崎」「木更津」周辺の賃貸物件への問合せ数は、ダイヤ改正直後の2024年4~6月に「蘇我」で前年同期比89.6%、「浜野」で同67.2%、「八幡宿」で同88.0%、「五井」で同89.1%、「姉ヶ崎」で同97.8%、「木更津」で同87.9%と、全6駅で前年より減少した。なお、その後追加のダイヤ変更(2024年9月)が行われた同年7~9月には、「八幡宿」(前年同期比109.7%)と「五井」(同113.7%)で問合せが回復。一方で「蘇我」「浜野」「姉ヶ崎」「木更津」の4駅は前年水準を下回ったままとなっている。

JR内房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移JR内房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移
JR内房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移JR内房線各駅周辺の賃貸物件の家賃相場の推移

▼JR外房線:ダイヤ改正直後は4駅中3駅で問合せが減少

JR外房線の各駅のうち、一定以上の問合せがあった「蘇我」「鎌取」「大網」「茂原」周辺の賃貸物件への問合せ数は、ダイヤ改正直後の2024年4~6月に「蘇我」で前年同期比89.6%、「鎌取」で同114.4%、「大網」で同87.3%、「茂原」で同69.2%と、全4駅中3駅で前年より減少した。追加のダイヤ変更(2024年9月)が実施された2024年7~9月には「鎌取」「大網」の2駅で前年よりも問合せが増加したが、「茂原」では前年同期比88.0%となるなど、問合せ数の減少が継続している。

JR内房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移JR外房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移
JR内房線各駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数の推移JR外房線各駅周辺の賃貸物件の家賃相場の推移

京急本線「青物横丁」「平和島」は、問合せ数も家賃相場もじわじわ上昇

京急本線は2022年11月に一部の「快特」を「特急」に変更し、「快特」と「特急」が日中10分間隔で交互に運転されるダイヤとなった。この改正によって快特通過・特急停車駅の「青物横丁」「平和島」は、停車本数が拡大し、乗車機会が増加、利便性が向上した。両駅周辺の賃貸物件への問合せ数は、「青物横丁」ではダイヤ改正時の2022年10~12月は前年同月比85.9%だったが、改正後の2023年1~3月には同144.7%に、「平和島」では改正時が同104.8%だったが、改正後は同130.2%に、それぞれダイヤ改正を境に問合せ数が前年から大きく伸長している。なお、2024年に入ってからは、「青物横丁」の賃料相場が12万1,132円(1~3月)から13万5,389円(9~12月)へと11.8%上昇、「平和島」の賃料相場が9万4,798円(1~3月)から10万7,541円(9~12月)へと13.4%上昇しており、これらは両駅の所在地である品川区(3.4%上昇)と大田区(8.8%上昇)の上昇率を大きく上回っている。

京急本線「青物横丁」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移京急本線「青物横丁」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移
京急本線「青物横丁」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移京急本線「平和島」駅周辺の賃貸物件の前年比問合せ数・家賃相場の推移

住まい選びにおいて「通勤時間」は重要な要素のひとつ

住まい選びにおいて「通勤時間」は重要な要素のひとつだ。前述のとおり、2024年春のダイヤ改正で実施されたJR京葉線の通勤快速廃止と快速の大幅削減は、混雑の平準化や快速通過駅の利便性向上といった効果があった一方で、内房・外房地域の利用者の通勤・通学時間が平均20分増加するなど、一部の利用者には大きな影響があった。忙しい朝に家を出る時間が20分早まることは生活者にとっては大きな負担の増加といえ、通勤時間の増加は住まい探しユーザーから居住地として選ばれにくくなることを意味する(LIFULL「『理想の住宅立地』に関する調査」より)。特に移動に占める鉄道の分担率が高い東京圏では、その利便性が住まい選びに大きな影響を与えることになる。住まい探しをしている人は、予定されているダイヤ改正があれば改正後の利便性もチェックしてみてはいかがだろうか。今年(2025年)のダイヤ改正は、3月15日に予定されている。

2025年3月15日のダイヤ改正では、かつて運行されていた小田急多摩線から東京メトロ千代田線に直通する急行が7年ぶりに復活することになる(画像:PIXTA)2025年3月15日のダイヤ改正では、かつて運行されていた小田急多摩線から東京メトロ千代田線に直通する急行が7年ぶりに復活することになる(画像:PIXTA)

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