自立生活サポートセンター・もやいとは?
2019年末から続く新生コロナウィルスの影響が長引くのに比例して、生活困窮者の数もじわじわと増え続けている。個人だけでなく、生活支援を行う団体もまた、非接触を余儀なくされ、これまでどおりの対応ができずに苦慮する場面が増えているという話もある。
そんななか、東京・新宿を拠点に活動する認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、オンライン上で行う支援サービス「支援検索ナビ」「生活保護申請書作成システムPASS(パス)」「HPチャットサービス」の3つの試みを2021年5月からスタートさせた。ありそうでなかったこれらのサービスについて、理事長の大西連さんにお話を伺った。
――まずはもやいの活動について具体的に教えてください。
今行っている事業は、大きく分けて「住まいの支援」「生活相談支援」「居場所の支援」です。
住まいの支援では保証人事業を行っています。これはもやいが設立されたとき最初にスタートした活動で、住まいがない方がアパートを借りる際の賃貸借契約の連帯保証人を引き受けています。保証会社が利用できる方向けには、緊急連絡先を提供しています。また、不動産仲介として生活困窮等で住まい探しが大変な方に住まいの相談支援や物件の仲介支援をする「もやい結び」という事業もあります。
生活相談支援は、面談、電話、メール等で行っていて、年間4,000件ほどのご相談があります。去年は5,000件ぐらいのご相談がありました。通常の相談活動にプラスして、今年度からは毎週土曜日に、新宿都庁前で食料提供と相談会を開催しています。
居場所の支援では、カフェサロンや農業、コーヒー焙煎などを通じて当事者同士の交流や地域社会との交流を図っています。これらは、居場所づくりや社会参加の機会をつくることを意識しています。ただ、現状コロナ禍で気軽に「おいで」と呼びかけることが難しくなってしまったので、苦慮しているところではありますね。現在はコロナ禍の影響で、相談支援系の活動のボリュームが増えています。
今回スタートさせた「支援検索ナビ」「PASS」「HPチャットサービス」の3つも、相談支援ツールの一環で、デジタル化を意識したものになります。
コロナ禍をきっかけに、ずっと抱き続けていた構想にチャレンジ
――今回スタートした3つのサービスについて聞かせてください。どんなきっかけで始めようと思われたのでしょうか。
もともと何年も前から構想はあったんです。ただ、アプリケーション開発に踏み切るタイミングがありませんでした。対面相談など通常業務が動いているなかで取組むにはコストもかかるので、結構な馬力が必要という事情もありました。
そんな折にコロナ禍になり、事務所へ相談に来られない方や、当事者の方やスタッフが感染リスクを避けられる方法を模索したときに、サービスをデジタル化することの必要性を感じ、優先順位が上がってきました。
次に、デジタル庁が創設されるなど、政府の動きのなかでデジタルツールを使おうという流れが出始めたことです。私たちのようなNPOだけが先駆的にデジタル化に動いていても、世間が追随する前に力尽きてしまいかねません。政策上の動きが追いついてきたことは優先順位が上がった理由になりますね。
そしてもっと大きな理由は、現在の当事者の方はITツールを使える人が多いということです。「面談や同行支援はいらないから、自分の都合のつく時間に相談だけしたい」という方や、支援情報をお伝えすれば自分で解決できる方もいます。ダブルワークをして、スマホを持っていて、SNSも普通に使っている。そういったツールを日常的に使っている人たちでも困窮しているという事態が、残念なことに今起こっています。そういった人たちにしてみると、電話や相談窓口に出向くことはハードルが高いんですね。
「情報だけ欲しい」という人はたくさんいますし、「人と対面でないほうが安心する」という人もいます。これまでは、そのような人への選択肢があまりありませんでした。
これらのデジタルツールを使ったサービスは、NPO法人ETIC.とJPモルガンとの中長期的共同事業という形で始まっています。今後この3つのプラットフォームを通じて、幅広い層の人たちや他の団体ともつながれたらと、期待しています。
質問に答えれば自分がどんな制度を利用できるのかがわかる「支援検索ナビ」
――それぞれのサービスの内容を教えてください。まずは「支援検索ナビ」についてお願いします。
11の設問に回答して自分の状況を入力することで、使える支援制度のリストが出てくるという試みです。現在のバージョンでは、公的支援を調べることができます。
――実際に使ってみたのですが、生活困窮者自立支援制度に相談しているような印象を受けました。
そうですね。もともとの問題として、制度の名称を知っていれば、こういったサービスは特に必要ではなくて、自分でネット検索をして内容を調べることができます。
国や自治体もパンフレットなどをつくってはいるのですが、制度の名前が分からないと検索できません。制度の一覧をみて全部を読み込むのは大変ですし、一つひとつ自分にあてはまるか要件を調べるのも大変です。ですから、逆に自分の状況を入力したら当てはまる制度が出てくる、という仕組みのほうが分かりやすいと思うんです。
たとえば、自分がコロナで失業したときに該当する支援制度を調べるのはとても難しいと思います。制度自体たくさんありますし、説明を読んでもいまひとつ要件などを理解できないことも多い。結果として、利用できる制度を使えていない人もいるはずです。
このナビを利用して自分が使える公的支援を見つけられる人が増えたら、たくさんの人が助かるのではないかなと期待しています。5年、もしくは10年かかるかもしれませんが、本来は公的にこういったサービスを作って運用されることが望ましいと思います。
複雑な生活保護申請書類を事前に用意できる。生活保護申請書作成システム「PASS(パス)」
――「PASS」はどんなサービスでしょうか?
生活保護申請時に使える書類の作成をサポートするサービスです。項目に入力すると、書類のPDFデータを作成できたり、コンビニなどで印刷したりすることができます。PCだけでなく、スマートフォンなど別のツールからでも利用できるのが特徴です。
本来生活保護は、制度の仕組みからすると、窓口でも口頭でも、FAXや郵送でも申請可能です。しかし実際には、資産や収入といったさまざまな情報を調査したうえで審査されるので、書類がたくさん必要になります。その書類を用意する過程で、嫌なことを思い返しながら書かないといけなくて、気持ちがくじけてしまう人が多いですね。窓口に行って3時間ぐらいかけて嫌な思いと向き合って、そのうえ初めて会う役所の人と家族すら知らないような情報を事細かくやりとりする…。そのハードルを少しでも下げたいという思いから生まれました。
――こちらも実際使わせてもらったのですが、例文が用意されているのでどんな文章にするかイメージしやすくなりますね。
必須事項であっても尋ね方の表現や回答の仕方を変えれば、書きやすくなることもありますよね。PASSではその配慮がされていて、たとえば性別欄に「その他」があったり、国の様式には項目があったとしても、制度上確認する必要のない情報は削除していたりしています。
また、当事者の中には家族に申請していることを知られたくない方が多いです。生活保護は申請を出すと「この人から生活保護申請が出ていますが、扶養できませんか?」という確認が家族に連絡される仕組みになっています。この仕組みがやっかいで、家族に知られたくない、知られるなら生活保護を申請できない、と思ってしまう方がすごく多いのです。これは、必要な方が生活保護を利用できなくなってしまうことにもつながります。
そうした事態を防ぐためにも、不必要な扶養照会はする必要がないということで、その部分を柔軟に対応しています。家族に連絡を取ってほしくない事情がある場合や10年以上連絡が取れていない場合、確認しなくていいことになっているんです。そのためPASSにも、連絡してほしくない旨を記載する欄をあえて設けるなど、細かい工夫をしています。
生活保護申請には、メインの申請書と付属書類の提出が求められるのですが、制度上、申請する段階ではメインの申請書しかなくても問題ありません。付属書類は必ずしも一緒に提出しないといけないわけではないんです。それを利用し、このサービスではメインの書類と付属書類と分けて作成できるようにしています。
窓口よりも気楽に相談できる「HPチャットサービス」
――3つ目のチャットサービスはどんな仕様になっているのでしょうか。
チャットサービスは基本無人のチャットbotです。もやいのHPの右下に常駐していて、相談者がもやいの提供するサポートにスムーズにアクセスできるようになっています。
また、よりこまやかな対応のために、金曜日の13-16時のみ有人で対応する時間を設けています。
コロナ禍で20~30代の相談が増えました。その年齢層の人たちは、電話で相談することへのハードルが高い印象なんですよね。
――窓口への相談は、そんなにハードルが高いものなのでしょうか。
高いと思います。面談に行くには勇気がいる、そもそも働いていて窓口が開いている時間に行けないなどという人が多いので、オンラインのほうが相談しやすいと考えています。
しかも、「全部自分でできる」「情報だけ欲しい」という人にとっては、人とのやり取りがなく情報にアクセスできます。
面談の相談のほうがいい方もいれば、電話がいい人、メールがいい人もいる。こういったチャット相談のほうがいい人もいる。相談のあり方も時代に合わせて変えていかないとならない、と思っています。
誰もが支援機関や公的機関につながることができるようなツールと選択肢を
――今後について聞かせください。大西さんの中で目指すものはありますか?
今回、オンラインツールを使って困っている方への情報提供などを行うことができるようになったわけですが、そういった取組みを他団体や公的機関が当たり前に整備するような社会にできたらいいなと思いますね。
――そのために、市民レベルでできることや必要なことはあるでしょうか。
市民社会として必要なことというと大きな話になりますが、困っている方が声を上げやすいように、貧困問題や生活困窮の問題への社会的な理解を進めていくことや、負のイメージを減らすことだと思います。
身近な人が困ったときに話を聞くだけでなく、誰もが支援機関や公的機関につなぐことができるようになれたらいいですね。
時の流れとともに暮らしについて相談する年代も層も変わってきている、という大西さんの話は、従来の生活困窮者のイメージを一新するものだった。
インタビューの中で話されていた、「苦しい状況のときに『助けて!』と声を上げるのは大変」「ハードルを越えるのに70%の力が必要だとしたら、それを10でも20でも軽くできれば、助けられる人が増えるはず」「何が正解かは人によって違う」など、弱者に寄り添い、見えない当事者を想う言葉が印象的だった。
「ツールを増やしていく必要がある」と、公的支援と人をつなぐ選択肢の1つとして開発されたこれらのサービスは、気軽に支援を覗けるプラットフォームでもある。当事者はもとより、生活困窮から遠い人が実際に使ってみることで、身近に「支援事業」や「制度理念」を感じられるのではないかと期待している。
お話を聞いた方
大西 連(おおにし・れん)
1987年生まれ、東京都出身。私立麻布中学・高等学校卒業。2010年より認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの活動に参加し、2011年には東日本大震災の困窮者支援のサポートにも尽力していた。2012年より、もやいに職員として入職、2014年理事長に就任。そのほか、社会福祉法人いのちの電話、新宿ごはんプラスの理事や、内閣官房 孤独・孤立対策の政策参与も務める。
▼認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
https://www.npomoyai.or.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2021年9月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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