LGBTQの方に対する接客講座
不動産情報を扱うLIFULL HOME'Sでは、セクシュアルマイノリティにまつわる住まいの問題に注目し、よりよい部屋探しのためにさまざまな活動を行っている。
なかでも「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」は住まい選び・家づくりの無料相談ができる場所だ。相談を請け負うハウジングアドバイザーは、住宅購入の相談の中でお客様のライフプランに直接触れることがある。そこで住まいの窓口では、研修のひとつとしてLGBTQの方に対する接客講座を行っている。
どのような内容になっているのか。今回は、その研修に同席したレポートを伝える。
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※LIFULLでは、セクシュアルマイノリティを表す総称としてLGBTQを用いているが、本文内では講座内容に則って一部の表記をLGBTsとしている。
「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」とは?
今回研修が実施された「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」は、LIFULL HOME'Sが運営する、住宅の建築や購入にまつわる「何から始めたらいいか分からない」「情報を集めたい」といった、悩みに応えるための無料相談窓口だ。
住まい選びに詳しいハウジングアドバイザーがお客様の相談内容に対し、中立的な立場からアドバイスを行う。希望されるお客様には条件に合った建築会社、不動産会社を紹介し、スムーズな住み替えをサポートしている。
安心して話を伺い、情報を伝えるために、相談はマンツーマンで行うことを基本としている。集中してじっくり相談できる店舗相談や、自宅から相談できるビデオ電話相談など、相談方法はお客様の都合で選ぶことができる。
ハウジングアドバイザーの学びの場 LGBTQ研修編
LIFULL HOME’S 住まいの窓口では、ハウジングアドバイザーの知識や接客技術の向上のための研修を定期的に行っている。今回取り上げたLGBTQ研修もこの一環だ。
相談に来るお客様は、それぞれのライフスタイルやライフプランに合わせた理想の家、それに必要な金銭面に不安がある。相談中はパーソナルな情報にも触れることもある。気持ちのよい解決に至るためには、ハウジングアドバイザーの住宅情報知識だけでなく接客のあり方が非常に大切である。
今回の研修では、株式会社IRISの石野さんを講師に招いて「LGBTsフレンドリー対応セミナー」として開催した。
株式会社IRISは、性的マイノリティ当事者の不動産仲介をはじめとしたライフプラン支援を多く手がけていて、以前の記事でインタビューにご協力いただいている。社員である石野さんも当事者であるという。
このセミナーはLIFULL HOME'S 住まいの窓口事業に特化した内容になっている。
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LGBTQをめぐる現状とセクシュアルマイノリティ対応の必要性
研修前半は、今回の研修の趣旨説明とLGBTQの概論、セクシュアルマイノリティ対応の必要性について説明があった。
石野さんの挨拶からセミナーはスタートした。
今回のセミナーの目的は、「当事者と不動産会社の間にある大きなギャップを埋めること」だ。石野さんがこのセミナーのゴールに掲げていたものが、「自分の当たり前の行動を客観的に見てみる」「分からないことも理解しようとする姿勢をもつ」ことができるようになることだった。
LGBTQの方々を理解した接客をするには、この2点がポイントになるのだという。
そして講座の冒頭では、LGBTQの基礎知識の説明がされた。
LGBTQのL(レズビアン)、G(ゲイ)は、性的指向(恋愛対象がどこに向くのか)が同性に向く人、B(バイセクシュアル)は男女両方に向かう人のことだ。T(トランスジェンダー)は性自認(自分の性をどのように認識しているか)が身体的な性別と一致しない人を指す。Qは、Questioning(クエスチョニング)ないしQueer(クィア)を意味し、性的指向や性自認が定まっていない人、男女という性や異性愛を前提としない個人の主体性に価値基準を置く概念である。
最近では性的指向と性自認のそれぞれのアルファベットの頭文字を取った、SOGIという言葉も登場している。これは特定のマイノリティを示すものではなく、異性愛者も含めたすべての人が持っている「人の属性を表すもの」を指すものだ。性的指向も性自認もグラデーションで、性にはいろいろな形があることを知っていくことが必要なのだという。
次に、住宅不動産の現場で起きていることについて、オンラインツールの投票機能を使い参加者の認識と擦り合わせながら、共有された。
特に印象的だったのが、今日本にいるLGBTの人たちは人口の約10%といわれており、換算すると左利きの人の数とほぼ一緒という統計が出ている点だ。
日常生活の中で、左利きの人に接したことのない人はほとんどいないだろう。確率でいえば、それと同じくらいLGBTQ当事者は身近にいるということだ。しかし、LGBTの方たちを左利きの人ほどあまり身近に感じられていないのは、日本では積極的にカミングアウトしづらい背景があるから、という解説には目から鱗が落ちる思いだった。
また、ある調査では約95%の方が性的マイノリティの方に対して理解を示しているというデータがあるにもかかわらず、不動産業界においては当事者の方々が不快に感じる事例が絶えないという。そうした状況が、IRISのお客様のインタビュー動画の視聴を通して共有された。
その中で当事者が語っていたのは、不動産会社スタッフの対応の善し悪しについてだった。「約95%には差別意識がない」というデータがあるにもかかわらず、不動産会社スタッフによって不快な体験をしている理由、偶然にもその担当者が残りの5%の人(当事者への差別や偏見を持っている人)だったからというではない、と石野さんは言う。
LGBTQの方々を「知っていること」と、当事者の方々に対して「適切な対応ができること」は異なるということがわかる。
接客の面において、心理的安全を感じてもらうには、当事者に対する最低限の理解が必要だ。「この会社を選んでよかった」と思ってもらうためには当事者への適切な対応が不可欠であり、そこを目指すことが重要であると語った。
接客面で具体的に留意すること
セミナー後半では、「普通を疑う姿勢を持つ」「LGBTsフレンドリー対応の必要性」「不動産接客のケーススタディ」「ワーク」の4つを軸にして話が進んだ。
1つめの「普通を疑う姿勢を持つ」というテーマでは、人は日常にある「普通」という名の小さな固定観念にとらわれている話が挙げられた。
本人にとっての当たり前をつい「普通」という言葉で表しがちだが、いつ・どこで・誰にでも通用する「普通」は存在せず、それはジェンダーやセクシュアリティにおいても言えるということだ。自分の中にある普通を疑い、まっさらな気持ちで人に向き合うことを勧められた。
「LGBTsフレンドリー対応の必要性」では、自治体のパートナーシップ制度の普及や社会的な流れ、マーケティングの観点からもLGBTQの対応が求められている状況が説明された。
それをふまえて、不動産業務で起こり得るトラブルとその原因を、具体的な例を挙げながら解説された。
特にLIFULL HOME’S 住まいの窓口で重視したいポイントとして挙がったのが、本人が意図しないのに第三者に性自認を公表してしまう「アウティング」を避けることである。石野さんは、知り得た情報を誰にまで伝えていいのか事前に必ず確認をとるようにすることの重要性を強調した。
「不動産接客のケーススタディ」では、IRISがこれまでに担当した事例を、レズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、それぞれのGOODケースとBADケースを挙げて紹介された。
ここで重要な点といわれたのは、当事者の方々の関係性を正しく理解することだ。例えば、賃貸物件契約時にレズビアンカップルにお子さんが1人という3人の世帯に対して、関係性をぼかさず「家族」と明記したことにより、借主・貸主代理人ともに良好に契約へと進められたことがあるそうだ。
一方、BADケースでは担当者がフレンドリーさをはき違えて不適切な発言をしたため、その不動産会を二度と使うことがなかった例や、担当者が「同性パートナーには部屋を貸せない」と明言したことで信用毀損問題が訴訟寸前まで発展した例などが挙げられた。
接客の受け方で家探しを諦めそうになるケースもあるそうだ。不動産会社スタッフに限らず、接客対応する人の意識レベルを上げることは非常に重要だと実感させられる事例だった。
最後は、ここまでの講話を通じたワークがあった。
「この研修を通じて得た知識や気づき」と「今日から変えていく行動」を参加者が記載し、各々がハウジングアドバイザーとして活かせる部分を見つけていく作業を行った。
ワーク内容を発表することで、ハウジングアドバイザーそれぞれが感じたことを共有でき、知識だけではない気づきを得られた。
研修を受けたハウジングアドバイザーの声
充実した研修を終えて、参加したハウジングアドバイザーの感想を聞いてみた。
「我々ハウジングアドバイザーは住宅周りの知識だけでなく、お客様がネックに感じている属性に対して知見を得ることも大切であり、『絶対に傷つけない』と気持ちを新たにしました。接客時の表情一つとっても、理解のある人だと感じていただけるようになりたいと思いました」
「非常にためになりました。知見や理解の不足・無自覚により不愉快に思わせてしまうことで住まい探しを諦めてしまうことになるだけでなく、大きく言えば当事者の方々の人生をも左右してしまうことにつながりかねないと再認識しました。かしこまらず、柔軟に自分の固定観念と普通を点検しながら、対応を心がけていきたいと思います」
「『お客様のためになにかできることはないか?』『もっとできることはないか?』というスタンスを大切にするからこそ、どのような状況であっても変わらず良いサービスを心がけていますが、それには知識が必要であることを学びました。視点を広く持って対応できるだけの知識をインプットしていきたいです」
「LGBTsの勉強になった以上に、LGBTs当事者以外のどんな方にも自分の『普通」は当てはまらないと思いながら接客しようと思いました。関係性も個人のセクシュアリティ・ジェンダーも皆さまそれぞれ異なりますよね」
といった、前向きな意見が集まった。
認識をアップデートし、よりよい家づくりに役立てたい―というハウジングアドバイザーの熱意がさらに高まっている様子がうかがた。
不動産業務は、時にセンシティブな情報を扱う。LGBTQ当事者の方が相談以外のことで不安になるのは、もはや理想の家づくりどころの話ではない。また、当事者の方々の中にも「同性カップルやトランスジェンダーは家を持てない」といった先入観があると聞く。
どんな人にも前向きに、理想の家づくりをしてもらいたい。その気持ちで一人ひとりのお客様に向き合い、今まで見えにくかった当事者のニーズを汲み取れれば、より多くの人々の住まいの選択肢が広がるのではないかと思える研修だった。
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登壇者プロフィール
石野 大地(いしの・だいち)
1990年、広島県生まれ。大学在学中からグラフィックデザイナーとして、企業向け・アーティスト向けのデザインを手掛ける。通信インフラ会社でWEBマーケティングを担当、その後、大手広告会社にて人材領域・不動産領域の事業推進などを経て、2015年よりIRISの中心メンバーとして活動。2016年法人化後は、COOとして財務・法務・経営企画・事業推進をはじめとしてIRIS全体のプロモーションを担当している。
▼株式会社IRIS https://iris-lgbt.com/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年5月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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