「物件鮮度」とは、不動産業界が抱える課題「おとり広告物件」対策のための尺度

インターネットを利用して住まい探しをするときに、「物件鮮度(ぶっけん せんど)」という言葉を聞いたことがないだろうか? インターネットによる住まい探しが当たり前になった今の時代において、物件鮮度は住まい探しをする上で非常に重要な尺度のひとつ。もし聞いたことがない場合、ぜひ物件鮮度について知っておいてほしい。

物件鮮度とは「不動産ポータルサイトに掲載されている賃貸物件を抽出し、調査時点で募集中である物件数が占める割合」を指す。「物件鮮度が高い」とはサイトの全掲載物件の中で、実際に募集されている物件が多数を占める状態である。

逆に「物件鮮度が低い」とは、掲載されている賃貸物件の中で、実際には募集が終了した物件が多い状態。たとえばポータルサイト上で気になる物件を見つけたので問い合わせたら、掲載企業から「すでに契約済になっている」「募集終了となった」と返答される場合などである。このような経験をした人も多いかもしれない。

不動産ポータルサイト等に「募集中」として掲載されている物件のうち、故意・過失に関係なく「存在しない物件」「存在するが取引対象にならない、あるいは取引の意思がない物件」は「おとり物件」などと呼ばれ、問題となっている。

2024年にLIFULL HOME'Sが行った「おとり物件の実態調査」では、以下に示す現状となっている。
参照:https://lifull.com/news/35064/

不動産ポータルサイト上に掲載された物件を問い合わせた際、申し込みができない旨の返答をされた経験がある人は約67.6%に上る(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)不動産ポータルサイト上に掲載された物件を問い合わせた際、申し込みができない旨の返答をされた経験がある人は約67.6%に上る(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)
不動産ポータルサイト上に掲載された物件を問い合わせた際、申し込みができない旨の返答をされた経験がある人は約67.6%に上る(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)見つけた物件が募集終了していると分かったのは、問い合わせをしたときだという人は81.6%。また17.1%の人は、不動産会社へ足を運んでから募集終了を知っている(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)

ポータルサイト上で「募集中」であれば、実際に募集がされているのが当たり前であるのだが、実は「募集中」と掲載されていても、実際は募集していない物件が存在することが調査結果からは伺える。おとり物件とは意図的に募集していない物件を「募集中」とする悪質なケースもあるが、担当者の入力ミスや確認不足、問い合わせの行き違いによるタイムラグによって発生するものも多い。

このようなおとり広告物件は消費者が住まい探しをする上で、不要な時間やコストがかかる可能性がある。物件を探したり問い合わせをしたりした時間・労力が無駄になるからだ。さらに、実際に不動産屋へ出向いた場合は、余計に時間や労力・交通費がかかってしまう。

しかし住まい探しをする消費者側からは、その物件がおとり広告物件なのか確認する方法もなく、見分けるのが難しいのが実状。それどころか、おとり広告物件というものの存在自体を知らないなど、知らず知らずのうちに被害にあっている人も多い。

そのためおとり広告物件は不動産業界で長きにわたり問題視されており、解決すべき課題となっている。そこで物件鮮度が、おとり広告物件の減少・撲滅のために重要な指標のひとつとなるのだ。

不動産ポータルサイト上に掲載された物件を問い合わせた際、申し込みができない旨の返答をされた経験がある人は約67.6%に上る(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)39.1%の人は「おとり物件」という言葉の意味を知らない(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)
不動産ポータルサイト上に掲載された物件を問い合わせた際、申し込みができない旨の返答をされた経験がある人は約67.6%に上る(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)不動産ポータルサイトを利用して住まい探しをする人のうち、情報の新しさやおとり物件の少なさを意識する人は、3割に満たない(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)

おとり広告物件の生まれる背景には、問合せを増加させたい意図がある

なぜ不動産業界ではおとり広告物件が多く掲載され、なかなか減少しないのだろうか? 物件の現状が速やかにキャッチアップできない、不動産業務の煩雑さ、人員不足など、いろいろな要因はあるが、少しでも問合せ件数を増やしたいことから意図的に行うケースもあるようだ。

問合せをしてきた人は実際に住まいを探しているので、良い物件があれば契約したいという意志を持っていることが多い。掲載企業は「ご希望の物件は契約済になったのですが、代わりにこのような物件がありますので、ご覧になってみてはいかがでしょうか」などと勧めることで、顧客の獲得につなげる意図があるのである。

そのため問合せ件数が多ければ、別の案件に誘導して顧客を獲得できる確率が高くなる。おとり広告物件は問い合わせを増やすための、まさに文字どおり「おとり」のための物件なのである。

おとり広告物件の生まれる背景には、問合せを増加させたい意図がある

おとり広告物件への対策のため、各種法令・規定なども定められている。

宅建業法の32条では「誇大広告の禁止」として、「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない」と定められている。

さらに景品表示法の第5条第3号の規定に基づく告示「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)でも「不当表示」として定められており、不当表示が認められた場合は消費者庁長官が措置命令などの措置を実施する。

また「表示規約(不動産の表示に関する公正競争規約)」21条でも、 以下のとおり禁止をしている。

(1)物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示
(2)物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示
(3)物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示

なお表示規約は不動産業界が自主的に定め、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の規定に基づいて公正取引委員会の認定を受けた規約である。

このように法令・規則などにより対策をされてはいるが、実際にはなかなかおとり広告物件が減少しないのが実状である。そのため不動産業界では、おとり広告物件を減少させるためのさまざまな取り組みが行われている。

※参考:
宅地建物取引業法 法令改正・解釈について|国土交通省
不動産のおとり広告に関する表示|消費者庁
公正競争規約の紹介|不動産公正取引協議会連合会

悪意のないヒューマンエラー等も問題に。AIなどによる自動化での対策も

さきほどポータルサイト上は「募集中」と掲載されていても実際は募集が終了している物件について、担当者の入力ミスや確認不足、問い合わせの行き違いによるタイムラグなどといった、悪意がないものもあると説明した。いわゆるヒューマンエラーによるものだが、消費者からしたら悪意の有無に関係なく、実状と異なる物件である点は同じである。

そのため悪意のないヒューマンエラーによるものも減少させるべきであろう。しかし人間が作業をする以上、一定数のヒューマンエラーが発生するのはやむを得ない。そこで、ヒューマンエラーによって掲載された実状と異なる物件情報を減少させるさまざまな工夫も行われている。

不動産ポータルサイトに成約済の物件を自動で削除する仕組みがある場合、83.4%の人が利用してみたいと答えた(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)不動産ポータルサイトに成約済の物件を自動で削除する仕組みがある場合、83.4%の人が利用してみたいと答えた(出典:LIFULL HOME'S「おとり物件の実態調査」)

LIFULL HOME'Sを運営する株式会社 LIFULLでは、情報審査チームを組織。「掲載110番」という仕組みによりユーザーから内容が募集事実と異なる掲載物件の情報を集め、掲載事業者へ是正の通達を行っている。またAIや、サイト運営から得たビッグデータを活用している。

不動産管理会社の成約・申し込み等の物件データを毎日受領し、サイト上の掲載物件情報と照合、掲載中の物件を自動で非掲載にする機能などを追加。効率的かつ性格で迅速な対策を実施している。さらに掲載中の物件から成約済みの可能性がある物件を検出して表示する機能も導入し、物件登録する不動産事業者の負担も軽減させた。

また複数の事業者から各種「物件コンバーター」も開発され、サービスを展開している。物件コンバーターとは複数の不動産ポータルサイトと連携でき、物件情報の入力・管理を一括して行えるもの。複数の不動産ポータルサイトにそれぞれ物件情報を登録すると、入力担当者の負担が大きくなり、ミスが起きやすくなる。物件コンバーターによって物件情報を一元管理することで、担当者の負担を減少させ、ヒューマンエラーの軽減につながるのである。

物件コンバーターの提供事業者のひとつである株式会社いえらぶGROUPは、「らくらく広告添削ロボ」を開発・導入した。自動で入力不備項目を洗い出し、その不備を簡単な操作で修正できるという機能である。

このように不動産業界では、ヒューマンエラーによる募集実状と異なる掲載物件の減少対策に力を入れている。

大手5社で構成される「ポータルサイト広告適正化部会」による対策も

悪意のあるおとり広告物件に対しても、各不動産事業者は対策をしている。2017年より公益社団法人 首都圏不動産公正取引協議会(公取協)は「不動産ポータルサイトが協力して“おとり広告”を撲滅する施策」を開始。不動産ポータルサイトを運営する5社による「ポータルサイト広告適正化部会」も始動している。

公取協は、悪質なおとり広告物件を掲載した不動産事業者に対し「厳重警告・違約金」の措置を実施。さらに厳重警告・違約金を受けた不動産事業者は、5社の運営サイトを含む主要不動産ポータルサイト上で原則1か月以上広告掲載を停止される。

1サイトだけの掲載停止だと、ほかのサイトでおとり広告物件が掲載されたままの状態となるため、主要ポータルサイトすべてで掲載停止となるのは有効な対策だろう。

※参考:
「おとり広告違反」で不動産ポータルサイトに掲載停止されないために | 全日本不動産協会 不動産保証協会 埼玉県本部

公取委や各不動産ポータルサイトが協力・連携し、おとり広告物件を撲滅する取り組みを行っている公取委や各不動産ポータルサイトが協力・連携し、おとり広告物件を撲滅する取り組みを行っている

不動産事業者の「おとり広告」「不当表示」を未然に防止するため、上記部会を構成する5社間でおとり広告・不当表示にあたる物件情報等を共有している。その物件が掲載されていた場合、削除等の措置を行い、各社の規定によってペナルティの実施をする場合がある。

ポータルサイト広告適正化部会によると、2023年度に共有された全国の違反物件数は1,275件であった。そのうちおとり広告にあたるのが313件。違反物件数は前年度よりも312件増加し、前年度比132%。おとり広告については187件の増加で、前年度比148%だった。(参照:https://www.sfkoutori.or.jp/portal_bukai/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2024/05/20240528_kyouyu.pdf

国交省が検討する「不動産ID」による仕組みづくり

そのほか、不動産ポータルサイトの仕組み上のおとり広告物件対策も見られる。ポータルサイトによっては、物件情報を1件掲載するごとに利用料が発生する掲載課金制という仕組みがある。その一方で、掲載した物件に問い合わせがあるごとに利用料金が発生する反響課金制という仕組みも存在する。

反響課金制の採用により、おとり広告物件の抑制につながると考えられている。むやみに物件を多く掲載すると、問い合わせ数が多くなり、結果として利用料金がかかってしまうためである。

反響課金制を採用することで、おとり広告物件を抑制するポータルサイトも。また国交省は「不動産ID」による対策を検討する反響課金制を採用することで、おとり広告物件を抑制するポータルサイトも。また国交省は「不動産ID」による対策を検討する

また対策に乗り出しているのは、民間事業者だけではない。国土交通省も対策に動き出している。国土交通省では「不動産ID」の実運用開始を検討しているのである。不動産IDとは、物件を特定する固有の番号だ。この不動産IDをデータベース化して不動産情報を一元管理し、効率的におとり広告物件の掲載を防げるのではないか、という考えである。

国土交通省は「不動産ID官民連携協議会」や「不動産IDルール検討会」を組織し、不動産IDによる仕組みづくりやルール制定に乗り出している。

※参考:
不動産市場整備:不動産ID|国土交通省
不動産市場整備:不動産IDルール検討会|国土交通省

おとり広告物件の被害は深刻。物件鮮度の高い不動産ポータルサイトを目指す

前述のとおり、LIFULL HOME'Sが実施した「おとり物件の実態調査」では、おとり物件、つまり申し込みできない物件に遭遇した人は、聞き取りした1,100人のうち67.6%。非常に高い割合といえよう。

さらに物件の募集終了を知ったのは、81.6%の人が「物件の問い合わせをした際」だったという。17.1%の人は「不動産会社に訪問した際 / 物件を内覧する際」だった。後者の場合は訪問時間や交通費などのコストもかかっており、より被害が大きいといえる。

2022年にLIFULLが利用者1,000人に対して実施した調査では、物件探しで実際に移動の手間をかけた人は約57%。57%のうち、かけた費用の平均金額は3,600円で、1万円以上の人は15.4%いた。また物件探しに費やした平均時間は、8時間だった。そしてLIFULLがこの結果を基にした人口ウェイトバックにて、おとり広告物件による被害総額を推計。すると、おとり広告物件による被害は国内全体で年間約30億円にも上ると算出されたのである。これは非常に深刻な状況だといえよう。

各種対策や「物件鮮度」という尺度の活用により、おとり広告物件のない、安心できる住まい探しを目指す各種対策や「物件鮮度」という尺度の活用により、おとり広告物件のない、安心できる住まい探しを目指す

おとり物件による被害を減らし、消費者がより住まい探しをしやすい環境を整えるのは不動産業界の大きな課題である。公取委や各不動産ポータルサイト運営事業者、不動産事業者、政府もさまざまな取り組みを行っており、“物件鮮度の高い"状態を目指している。加えて消費者側も「物件鮮度」という尺度を理解し、住まい探しの際に活用していきたい。

※参考:
新生活シーズンを前にLIFULL HOME'Sが「おとり物件」に対する不動産会社の対応実態調査&消費者への認識調査を発表|株式会社LIFULL
被害総額30億円!?消費者への影響から考える「おとり物件」の実情|LIFULL HOME’S 情報審査

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