家族を頼れない若者が抱える住まいの問題
部屋を借りる際の緊急連絡先や保証人についてインターネットで調べると、“2親等以内の関係の近い親族を記載すると認められやすい”と記述されていることが多い。特に10代後半や20代の世代が提出する書類では、たとえ社会人であっても、親や祖父母、近しい親戚を保証人にすることが多いのではないだろうか。
しかし、世の中には親を含めた家族に頼れず、課題を抱える若者がいる。18歳を超えると児童福祉法による支援の対象から外れるため、公的な支援にたどり着きづらいうえに、住居の確保にも困難があるという若者たちだ。
そこで、若者の居住支援を行う特定非営利活動法人サンカクシャ代表の荒井佑介さんに、親を頼れない若者が直面する住まいの問題とそれに対するサンカクシャの取組みについて話を伺った。
ニーズに応えることで増えていった支援活動
――サンカクシャの立ち上げについて教えてください。
最初は、企業で新規事業開発の仕事をしていたときに知り合った仲間と立ち上げたNPOから私が独立したことがサンカクシャの始まりです。かつて私が池袋で小中学生の学習支援を行う団体に関わっていたときのご縁から、豊島区に拠点を置いています。
立ち上げ当初は義務教育以降の公的支援が手薄だったことから15~25歳前後の若者を対象にしていました。近年では高校生への支援も増えてきていることから、現在はより手薄な高校卒業後の18歳以降~20代前半の若者支援が中心となってきています。
この年代の若者へ支援する必要性の認知度が低いこと、実践している人が少ないことから、そこにこそ手を差し伸べるべきだと思い、活動しています。
――簡単にサンカクシャの活動の遍歴を教えてください。
2019年に立ち上げて、最初に始めた活動は週3回の居場所づくりでした。協賛してくださっている不動産会社オーナーのご実家を格安でお借りし、一軒家を丸ごと若者たちが集まることのできる場所として開放したのがスタートです。その後、必要な支援をしているうちに取組みが増えていきました。
居場所づくりの次に始めたのが、アルバイトのサポートです。親から食費をもらえなくて食事ができなかったり、学校への通学費を工面できなかったり、といった相談が増えてきたことがきっかけでした。
アルバイトをしないと生活ができないけれど、知らない大人と話すことが苦手な子たちが多く、面接で落ちてしまうことや働くことへの苦手意識を克服するためのサポートを始めました。
具体的には、面接の練習や賛助企業からチラシの封入といった簡易作業を先述した居場所の中で行います。その後は別の仕事へステップアップしていく子もいます。
外に出ることに慣れると、サンカクシャのスタッフが同行の元、イベントの警備業務をする子も出てきました。サンカクシャを知ってお仕事を依頼してくださる企業もあり、非常にありがたいです。
その後、2020年に入りコロナ禍によって居場所に集まることができなくなってしまいました。そこで、居場所へ来ていた子どもたちとのオンラインゲームをきっかけに、オンラインで若者と交流する取組みを始めました。そのなかで、アルバイト、特に飲食系の仕事に就いていた子たちが雇い止めに遭い、働けなくなってしまったと聞くことが増えました。
中でも2020年夏、住み込みで働いていた子から届いた「住むところがなくなるかも」との相談をきっかけに居住支援に踏み切り、シェアハウスを運営するに至ります。
きっかけはホストクラブ勤めの子のSOSから コロナ禍によって始まったシェアハウス事業
――居住支援について掘り下げてお伺いします。2020年の夏にあった出来事がきっかけになったとのことですが、さらに詳しく聞かせていただけますか?
2020年の7月のある深夜、ホストをしていたある男の子から電話がかかってきました。「仕事をクビになりそうで、寮を追い出されてしまう。そうなると住むところが…」と言うので、翌日その子のいる八王子まで行きました。
ちょうどその頃、居場所を提供してくださっている不動産会社から、民泊から撤退した物件をサンカクシャで使わないかという打診があったのです。急ぎ手付金を支払い、彼をそこに住まわせることにしました。
不動産会社から「新しい居場所にどうか」と勧められていた物件が、建物の造りも宿泊向けだったので決断することができました。
それからしばらくして、また別の少年から「親と不仲で実家を出たい。サンカクシャに住める場所があるなら、そこに住みたい」と相談を受けたり、「一人暮らしをしたいからお金を貯める間住まわせてほしい」とお願いされたり、他機関から「この子を保護してくれないか」と要請があったりしたことで、あっという間に部屋が埋まりました。
結果的に居場所づくりをするスペースがなくなり、シェアハウスとして運用していくことになったのが、居住支援としてシェアハウスを始めたあらましです。
――入居を希望する若者たちの傾向はありますか。
実家を追い出されて自立生活をしようと試みたものの、失敗してネットカフェにいたり、路上生活をしていたりという子がほとんどです。彼らは“住まい探し”の概念がない子が多い印象です。お金がないので部屋が借りられない、探し方がわからない、親を頼れなかったり多重債務の経験があったりで保証会社の利用も難しい、という子どもたちが入居しています。
なかには、路上生活者をターゲットにした貧困ビジネスの被害に遭い、あてがわれた狭小の部屋から逃げてきたケースもありました。
――どれくらいの規模で運営されていますか?
立ち上げ時は1拠点で定員5人だったのが、2021年4月に拠点数を増やして、2023年2月現在で男性用2拠点、女性用1拠点の3拠点18部屋を管理しています。年齢分布は、10代が3~4名、20代前半が12名程度、25歳以上が2名といった感じで、入居希望の連絡がひっきりなしに入り、常に満室です。
家賃設定は、どの拠点も統一して家賃3万円、水道光熱費8千円。1年半後には退去して自立した生活を送ることを目標に掲げています。
――入居条件などはあるのでしょうか。
住む家がある、家賃を払えている、行政の支援を受けられる、自力で一人暮らしができる、といった条件に当てはまらない子を受け入れています。一般的なシェアハウスとは真逆ですね。相談を受けたタイミングで役所につなげられる子は公的支援を受けるように促しているため、公的支援の枠組みでは難しい子が優先的に入居するようになっています。
肝となるのは“半年” 居場所事業とは異なるシェアハウス運営のマインド
――シェアハウスを運営していくうえで、大変だと感じることはありますか?
運営を始めた当初は、共用品の紛失や私物の盗み、暴力沙汰、ご近所トラブル、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)など、トラブル続きで「とんでもない蓋を開けてしまった!」とも思っていました。ですが、いろいろな境遇の子たちが集まると何かしら起こるよなと、今は大変さも飲み込んで取り組んでいます。
――家族を頼れないとのことで、入居に際してもご苦労がありそうです。
18歳未満の子は親の承諾が必要になるため、行政や専門職の方々と連携して親の同意がなくても入居できるような手はずをとっています。もし成人年齢が20歳のままだったら、携帯電話の契約をはじめ、いろいろと大変だったと思います。
――シェルターではなくシェアハウスとして運営するには、家賃の徴収も大事かと思います。
1拠点だけだった頃は、20人住んで家賃を納めていたのが1人だったこともありました。ですが最近は18人中6人が生活保護を利用していて、家賃の回収率も75%まで上がっています。
運営を続けてきて分かったのが、入居して半年ほどすると生活が安定して仕事にも通えるようになるため、半年を過ぎると家賃を納められるようになり回収率が上がる傾向にあることです。
入居時は無一文で入ってくる子も多く、生活が昼夜逆転していたり、生活保護の利用を拒んだりするケースもあって、家賃の徴収は正直厳しいです。ただ、生活が安定するまでのこの半年が大事だなと感じています。
そのために、私たちも彼らに“見守る大人を増やす”“関わり続ける”という取組みを行っています。たとえば、彼らのバイト先に顔を出して店長と顔見知りになったり、一緒になってゲームをプレイしたり、時にはダメな自分を見せたり。
そうした素の自分を見せて一人の人間として関わり、距離を縮めることで、彼らが抱えている困りごとが手遅れになる前に共有できるようになればと思っています。
――縦関係ではなく、同じ目線に立つことで信頼感も生まれそうです。
支援をする側は高い視点から真っ当なことを言いがちですが、彼らのフィールドに下りていくことが大事だと、私は思っています。
私の場合は、友達になりにいくスタンスでいます。時には夜通しゲームをして、朝日を見ながら「朝だね…」なんて一緒にしみじみすることもあります。
かといって、あまり下手に出すぎると、こちらからの言葉が彼らに刺さらなくなることもあるので、シェアハウスでは“北風と太陽”方式で臨んでいます。一緒に遊んで打ち解ける役の太陽を私が担って、北風を他のスタッフや業務委託の方にお任せして、家賃回収をお願いしたり厳しいことを言ってもらったりしています。
週3日だけ開かれる居場所に関しては太陽役のスタッフだけでもいいのですが、シェアハウスは自立に向かうための場所でもありますから、厳しさも時に必要です。
シェアハウスの活動を通じて、関わりすぎない支援も必要なんだなと学びました。入居から半年間は安心を与える場として立ち回り、半年経過後からは自立を促すように背中を押しています。彼らもあたたかく見守ってもらえる半年間を通じて「お世話になった」と感じ、家賃の支払いや自立に向けて奮起してくれているようです。
――シェアハウスを退去する若者たちは、どういった暮らしを選択しているのでしょうか。
一番多いのは、アルバイトを続けてお金を貯めて、一般的な賃貸物件での一人暮らしを始めるパターンです。
ほかにも、シェアハウス入居時に生活保護を利用して生活を立て直してから賃貸物件へ引越し、その後に職を得て生活保護利用を終えるといった子もいました。
精神的な医療ケアが必要な子の場合だと集団生活だとなかなか落ち着けないため、生活保護を利用した状態で引越し、治療につなげることもあります。
また、一定期間親と離れて暮らしたことで関係が改善し、実家に戻って仕事を続けて、将来的には貯めたお金を基に実家を出ようとしている子もいます。寮付きの仕事に就いて引越しをする、という方法もありますね。
「うちのシェアハウスは、家賃が払えない・保証人や緊急連絡先のない子が入居できるんですよ。一般的なシェアハウスの条件とは真逆ですよね」と荒井さんは笑顔で語っていた。
親や家族を頼れない若者からの住まいの相談は後を絶たず、常に満室というシェアハウスの状況から鑑みても、ピンポイントな支援の少なさがうかがい知ることができる。
後編では、若者の居住支援を通じて直面する課題、サンカクシャという支援団体が描く未来像を伝える。
お話を聞いた方
荒井佑介(あらい・ゆうすけ)
1989年12月生まれ、埼玉県出身。2008年から路上支援に携わり、貧困問題の背景を考え始めたことを契機に2010年頃から小中学生対象の学習支援に参加する。支援現場で、高校進学後に、中退、妊娠・出産、進路就職でつまずく子どもたちを多く見たことから、15~25歳の若者を対象とした支援を行うNPO法人サンカクシャを2019年立ち上げ、居場所のない若者の自立のため団体運営と現場支援の双方に尽力する。
▼サンカクシャ
https://www.sankakusha.or.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年4月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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