「外国籍の人は部屋を借りづらい」一筋縄ではいかない当事者の体験とは
話をうかがった人……Aさん・両親ともにアメリカ国籍。日本で生まれ育つ。10歳のとき両親の帰国に伴い渡米。大学卒業後、来日し就職。その後、日本人男性と結婚して一児をもうけ、現在はワーキングマザーとして日本企業で働く。日本在住歴は通算30年以上。日本語も堪能在留者の数が年々増加している日本。2013年末におよそ206万人だったその数は、2023年末には322万人を超え、勢いはとどまるところを知らない。今後日本で働く外国籍の人材がより増えることを見越した政府は、2024年2月に技能実習に代わる新制度の方針案を提示。法整備に向けた審議も予定されている。
在留者は増え続けているにもかかわらず、外国籍の人たちを取り巻くさまざまな暮らしの課題は、なおも根強くある。中でも、在留の拠点ともいえる“住まいの確保”には当事者が悩みを抱えることが多く、特にその第一歩となる住まい探しで苦慮する人が少なくない。
LIFULLが過去3回行ってきた「住まいの実態調査」でも、外国籍の人の部屋探しの大変さは如実に表れている。最新の調査では、「『外国籍』であることを理由に、差別を受けた 不平等さを感じた」という当事者の回答は40.5%と、他の住宅弱者層から突出した数字となっていた。
では当事者の感じる“差別”や“不平等”とはどういったことなのか。また、外国籍の方が日本での住まい探し・暮らしでどういったところに困るのか。日本の暮らし、慣習、賃貸の仕組みに慣れた、日本人では計り知れない“見えない差”について、外国籍の方に体験談をうかがった。
トータルで4回の日本の転居体験。中には門前払いのような対応も
幼少期から日本で育ったAさんが、自身が世帯主となって日本に住んだのは大学卒業後。自立してからの日本での住まいの略歴を初めに伺った。
「大学卒業後、JETプログラム(※)で東北にある地方都市の国際交流員として働き始め、そのときは自治体が住まいを用意してくれました。本格的に自力で部屋探しをしたのは、4年後。都内の企業への転職で東京へ引越した際です。それから2年後、結婚に伴って転居。
その後、夫の海外赴任に付帯することになり日本を離れたのですが、子どもが4歳のときに日本へ帰国してしばらく賃貸で暮らすことになりました。そして今は2019年に購入した分譲マンションに住んでいます」
これまで国内では4回住み替えを経験したAさん。その中でも特に印象に残った“日本と外国”にまつわる困りごとを詳しく話してもらった。
「東北から東京への転居時の出来事は、お店の看板が今も脳裏に焼き付いているほど衝撃的でした。転職先が決まり、ウキウキで都内の不動産会社に入店したら、あからさまに不愉快そうな態度で『仕事はあるの?』『外国人はちょっとね…』と、物件どころか資料すら見せてもくれないのです。泣きそうになりながら、東北に戻るバスに乗り込み、また一から探すことになりました。
結果的に、同時期に同エリアで部屋探しをしていた日本人の友人からルームシェアを提案され、協力的な不動産会社の方の尽力もあって、連名で部屋を借りることが決まりました。
ただ、その際に各自保証人を立てる必要があり、別の大親友の日本人に保証人を頼んだら断られてしまって。当時の私は日本での保証人の重さを知らなかったので、友人も驚いたのだと思います。最終的には、幼少時にお世話になった方が保証人を引き受けてくださって、借りることができました」
結婚に合わせて行った2回目の部屋探し。しかしここでも、保証人の壁に当たる。
「不動産会社から伝えられたのは、“親族かつ日本人の保証人”という条件でした。義父に頼もうとしたのですが、年金暮らしではNGと言われてしまったのです。幸い、公務員として働いていた義姉に急遽お願いをして事なきを得ましたが、これは外国籍の人に限らず、高齢の両親をもつ一人っ子はどうするのだろうと感じました」
日本の上場企業に勤めており、安定した収入も社会的な信用もあるAさんだが、保証人、しかも“日本人であること”という条件は無理難題に近かったようだ。
Aさんは、友人に保証人を頼んだ際、「就職した際の身元引受人と同等のものだと思っていた」とのこと。“保証人”という言葉ひとつとっても、日本語と英語でニュアンスが異なってくるので難しい。
※JETプログラム……Japan Exchange and Teaching Programmeの略。諸外国の若者を地方公務員等として任用し、日本全国の小学校、中学校や高校で外国語やスポーツなどを教えたり、地方公共団体で国際交流のために働いたりする機会を提供する一般財団法人自治体国際化協会の事業。
夫が日本人でも入居できない!? “大家さんNG”に遭遇したことも
3回目の国内での引越しは、海外赴任先から帰国したタイミングだった。当時4歳だった子どもを連れて都内で部屋探しをしていたAさん。そこで遭遇したのは、思いも寄らぬ出来事だった。
「このときのお部屋探しが本当に大変でした…。子どもと一緒に不動産会社を訪れた際、営業担当の方が大家さんに電話で『とても大人しいお子さんで…』と私たちを紹介していました。どういった子どもなのかまで補足情報として伝えないといけないのかと、複雑な気持ちになりましたね。子どもが発する騒音を気にしてのことだと思うのですが、子どもがいることでさらに選択肢が狭まるのかと、ガッカリしました。
さらに、『妊娠したら退居するよう特記された物件もあるんですよ』と営業の方から言われて、絶句しました。今の日本は少子化にあるのに、ビックリです」
子どもがいることがネガティブな要因になることを、不動産会社の対応で知ったAさん。賃貸オーナーへの理解を示しつつも、子連れにまつわるカルチャーショックは隠しきれなかったそうだ。さらにAさんにとって印象深かった出来事が続く。
「また別の物件を内見したときのことです。私も夫もとても気に入ったのですが、営業担当の方に『早く出ましょう』と急かされてその場を後にしました。営業車に乗り込み、話を聞いたら、偶然居合わせた大家さんが『国際結婚はNG』と言うのを耳にしたのだそうです。それに憤慨してここはやめましょう、と。私はそういう経験に慣れていたので、『またか』といった感覚でしたが、夫に至っては『自国でこんな差別を受けるとは思わなかった!』と怒り心頭でしたね。
一緒になって怒ってくれたその不動産会社の担当の方が頑張ってくれて、最終的に納得のいく部屋探しができました」
賃貸オーナーも心情があってのことだろうが、一瞥した容姿だけで拒まれたことに対する、Aさんとご主人の落胆は計り知れない。営業担当者が憤慨したというのも、Aさんの人柄を知ってのことだとうなずける。
そのほかにも、インターネットで物件を問合せたが外国籍だとわかるや「ちょうどいま契約されてしまった」などと断られたこともあったそう。
またあわせて、入居時にコンロやカーテン、大型家電が備え付けでない、退去時に修繕費がかかる、といった、日本ならではの賃貸の慣習にAさんのみならず多くの外国籍の人たちが戸惑いを覚えることが多いとも共有してくれた。
住まい探しの大変さに変化はないが、保証会社の台頭でバリアが減った
Aさんの日本での生活は30年以上に及ぶ。この長い時の間で、部屋探し事情に変化はあったのだろうか?
「お部屋探しに関しては、あまり感じていません。ただ、保証人を立てるのではなく保証会社を利用するほうが主流になっているのはいいですね。大切な人に迷惑をかけたり、保証人は日本人じゃないといけなかったり、というバリアは減ったのではと思います」
国土交通省の調査では、賃貸借契約における家賃保証会社の利用率は2016年度には約6割だったのが、2020年度には約8割に増加。保証人を立てにくい立場だった少数派の人たちのためのものが、多くの人に広まっている好例だ。
部屋探しの最初の窓口である、不動産会社・不動産ポータルサイトは外国籍の人たちが感じる不利益をどう解消できるだろうか。
「不動産会社には、外国籍の人でも向き合って一緒に探してほしいと期待しています。一方で、大家さんが変わらないと変わらない部分も大きいのではという懸念もあります。
ビジネスとはいえ、“多様性に理解のない、差別的な大家さんは積極的に紹介しません”といった仕組みになればいいですよね。不動産ポータルサイトも同様に、企業として正しい不動産会社と取引することは大事だと思います」
“外国籍だから”という部分の難しさはなかなか表面化しにくい。日本の社会における暮らしの中の大変さに関してAさんはこう語る。
「外国籍が皆というわけではありませんが、日本に住んでいる外国籍の人たちは、自身がマイノリティであることもあり、外国籍の問題に限らず、日本にいる少数派の方々が直面する大変さに目が行くように感じます。自身も経験しているから、さらに想像しやすいのかもしれません。外国に住んだことのある日本人は『大変だよね』と、自分も経験があるのか理解を示してくれる方が多い印象です」
Aさんの話はさらに、子どもが生まれて初めて部屋探しが難しくなるのを知る人が少なくないこと、誰しもこの先高齢者になるのに高齢者への風向きが強いことなどにも及んだ。Aさんの視点に、“誰しも社会的弱者になり得る”のだと、改めて気づかされる。
言語や文化に慣れている自分でも苦慮する。さらに大変な思いをする人がいるはず
「またか」とあきらめに近い体験が幾度となく重なっていたAさんだったが、最終的にどの機会でも納得した部屋探しができていた。それを叶えたのは、彼女の立場に立って考えてくれる人たちがいたから、という印象を受ける。
それについてAさんに尋ねると、笑顔でこう語る。
「嫌な対応をする不動産会社にも会いましたが、中にはいい人もいるのだなと実感することはあります。借りる難しさに一緒に戦ってくれる・味方になってくれる人と出会えたのは幸いでした。日本人ではない人に対応すること自体が、時間も手間もかかってコストは割に合わないのに、『でも、頑張りましょう! 一緒にやります!』と活路を見いだしてくれたことは、本当にうれしかったですし、不動産のプロに出会えた気分でした。
先ほど話した『国際結婚NG』の理不尽に立ち向かってくれた担当者さんとの出来事は、当時から8年くらい経つけれど、忘れられません」
インタビューの最後に、Aさんはこのインタビューを快諾した理由を話してくれた。
「自分は日本育ちで、不自由なく日本語を話せるうえ、主人は日本人で永住権もあるのに、これだけの苦労を経験してきました。私ですらこれだけのことを受けてきたのですから、日本の中にある“外国籍へのバイアス”によって私以上に困っている外国籍の方はたくさんいるはずです。このことを知ってほしかったのです」
小売店や飲食店、あるいは街中でも日本の日常に溶け込んでいる外国籍の人が増えている今、個人を見る目を覆う“漠然とした偏見”を取り払うチャンスは増えてきているとも考えられる。
また、不動産に関する外国籍の人の借りづらさの問題を、SNSや国内のニュースで目にした人も多いのではないだろうか。日本の賃貸において、顧客として外国籍の人たちの比率が増えていくことは明らかとなっている今、改善の岐路に来ているのかもしれない。
このインタビューを機会に、自分の中にある外国籍の人たちへのイメージがバイアスを生んでいないか、今一度確かめてみてほしい。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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