ひとり親世帯の住まいにはどんな種類があるか

子どもを抱えて離婚を考えているけれど、その先の住まいをどうすればいいのか。新たな生活を再建していくためには欠かせない住まいだが、持ち家でない場合、子育てや収入のことを考えて部屋探しに不安を抱く人も多いのではないか。特にシングルマザーは、シングルファザーと比べると所得が低い傾向にあり、その不安を強く感じるかもしれない。

子どもを連れた賃貸の部屋探しは、一人暮らしの場合とは探し方が変わる。また、ひとり親世帯向けの住まいは一般的な賃貸住宅だけではない。
今回は、ひとり親世帯の住まいの選択肢にはどんなものがあるのか。そしてそれらのメリットやデメリットなどの特徴や、入居までの手順と検討する際の部屋探しのポイントを紹介する。

子どもの年齢や収入と家賃のバランスが重要になる一般の賃貸住宅

最初に紹介するのは、一般の賃貸住宅への入居だ。厚生労働省の2016年度の「全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、持ち家でないひとり親の居住比率は、賃貸住宅が最も高いと発表されている。
一般の賃貸住宅への入居審査は家賃の未払いを懸念して、安定した収入があることを重視するケースが多いようだ。

子どもの年齢や収入と家賃のバランスが重要になる一般の賃貸住宅

一般賃貸住宅のメリット
・物件の種類や立地の選択肢が多い

一般賃貸住宅のデメリット
・敷金・礼金・手数料がかかるため、初期費用が高くなりやすい。
・入居審査があり、勤務先や前年度の収入あるいは貯蓄額の提示、連帯保証人を明示しなければならない。
・子どもが幼い場合、騒音問題が懸念されて審査が厳しくなるケースもある。

入居までの手順
① 不動産会社店頭・住宅情報誌・住宅情報サイトで検索
② 内見→申し込み
③ 審査
④ (審査が通過できたら)契約

部屋探しのポイント
一般的に、月々に支払う家賃の目安は「手取りの3分の1以下」といわれている。無理なく生活を続けていくためにも、検索条件として家賃額の上限を決めておこう。
また、間取り選びでは子どもの成長によって個室が必要になるなど、お部屋探しの条件が変わってくる。乳幼児期なら1LDKでも十分だが、子どもが何歳までこの物件に住み続けるのかを想定して間取りを選びたい。

公営住宅は安い賃料が魅力

公営住宅とは、各地方の住宅供給公社が建設・運営する、低所得者向けに割安な賃料設定で提供される賃貸住宅のことである。団地型が多いが、自治体によっては一戸建てや低層集合住宅を提供していることもある。ここでいう低所得者とは世帯年収500万円以下の人を指しており、その要件を満たす人が入居できる。

公営住宅は安い賃料が魅力

公営住宅のメリット
・家賃が安い
・職についていなくても入居できる
・礼金、仲介手数料、更新料がないため、長く住みやすい

公営住宅のデメリット
・約9割の自治体では保証人が必要になる
・申込者が多い場合は抽選になるため、必ず入居できるとは限らない
・建物が古いことが多い
・5階以上の建物にもかかわらずエレベーターがない物件もある

入居までの手順
公営住宅の場合、入居までの手順は一律で定められているわけではなく、運営する住宅供給公社によって異なっている。地域差があるので、自治体の住宅供給公社に問合せが必要だ。
たとえば、東京都住宅供給公社の場合は次のような流れになっている。

① 募集期間内に郵送で申し込み
② 抽選で当選する
③ 入居資格審査に合格する
④ 入居説明会・入居手続き

部屋探しのポイント
公営住宅は、収入面に不安がある人や生活保護利用者に向いている。ただし入居は抽選で、すぐに入居できるとは限らないので注意が必要だ。また、公営団地は入居申し込みの日程が決まっている。入居したい自治体の住宅供給公社が発表するスケジュールを把握するようにしよう。

礼金・更新料・手数料無料・保証人なしで「子育て割」のあるUR賃貸住宅

公営住宅と混同されがちだが、UR賃貸住宅は独立行政法人都市再生機構が管理する賃貸住宅である。一部物件を除き、抽選なしの先着順受け付けで入居の申し込みができる。

礼金・更新料・手数料無料・保証人なしで「子育て割」のあるUR賃貸住宅

UR賃貸住宅のメリット
・礼金・更新料・手数料が無料のため、初期費用を抑えつつ長く住むのに適している
・保証人が不要
・世帯の1ヶ月の所得が25万9,000円以下の場合、賃料が最大2万5,000円減額される(子どもが18歳まで;通称・子育て割)
・団地タイプでは敷地内に公園があるなど、子育て環境がよい

UR賃貸住宅のデメリット
・申込できる対象者の平均月収額が設定されている(賃料8万2,500円未満の場合、家賃額の4倍)
・戸数や立地が限られている

入居までの手順
① UR賃貸住宅のウェブサイトまたは店舗で物件検索
② 申し込み資格の確認
③ 申し込み(仮申し込み)
④ 物件の内覧
⑤ 本申し込み
⑥ 契約

部屋探しのポイント
URの部屋探しは、スケジュール管理が重要だ。
基本的に内覧できるのは1回だけで、仮申し込みから1週間以内に行う必要がある。そして、本申し込みは内覧期間の最終日の翌日から1週間以内に完了しなければならない。
また、決められた入居開始日から1ヶ月以内にすることが要件になる。スピードを重視したい人には適しているが、ゆとりを持って考えたい人は入居希望時期から逆算して計画を立てよう。

コミュニティで暮らす。ひとり親向けシェアハウス/母子ハウス

シェアハウスは一戸建ての住居を活用し、リビングやキッチン、浴室などを共有(シェア)し、各住人の個室をプライベート空間とする共同生活が基本になる。20代から30代の単身者の間で人気の居住スタイルだが、ひとり親専用として運営されている物件もある。

▼参考:シングルマザー向けシェアハウス入居者体験談「住居以上の安心感」と「多家族生活」のリアル

コミュニティで暮らす。ひとり親向けシェアハウス/母子ハウス

ひとり親シェアハウスのメリット
・家賃が一般の賃貸住宅と比べて安い
・電気代・水道代・ガス代が共益費に含まれるため、一般の賃貸住宅より生活費を抑えられる
・大型家電や家具を購入する必要がない
・共同生活によって人との交流が図りやすく、助け合える環境になりやすい
・子どもが家で一人きりになる時間を減らせる

ひとり親シェアハウスのデメリット
・互いの生活音が騒音になる場合がある
・価値観の相違で人間関係にストレスがたまる可能性がある
・プライベートな空間が子と共有する個室のみのため、一人だけの時間をつくりにくい

入居までの手順
① ひとり親向けシェアハウスのポータルサイト「マザーポート」などを利用し、該当するシェアハウスを検索
② 問い合せ
③ 内見/顔合わせ
④ 申し込み
⑤ 審査
⑥ 契約

部屋探しのポイント
共同生活になるため、同居人への配慮やシェアハウスのルールを遵守することが大切だ。
共同住宅といっても、アパートタイプや一戸建てタイプなど、さまざまな規模のシェアハウスがある。
また、ひとり親家庭の支援団体が協力している物件では、入居者や地域の家族との交流の場として定期的な催し物を行っている。「仕事が忙しくて子どもを一人にするのが心配」「地域に知人がいない」という人にとって好ましい選択肢ではないだろうか。

DVなど緊急の場合に頼れる母子生活支援施設やシェルター

DV被害や生活が立ち行かなくなって住まいを失ってしまい、心身の危機にさらされてしまった。そんな時の緊急の身の置き場所として、母子生活支援施設や女性シェルターがある。一時的に身の安全を確保できる場所に避難し、状況が落ち着いてから腰を据えて住まいを選ぶ、という方法もある。

▼参考:命の駆け込み寺「民間シェルター」。さまざまな役割と施設をめぐる課題

DVなど緊急の場合に頼れる母子生活支援施設やシェルター

入居までの手順
DVの場合は内閣府が運営する「DV相談+(プラス)」へ相談しよう。そのほか、各市区町村の役所の子どもや家庭に関する窓口に相談をすることで、必要な支援と保護をしてもらえる。

ポイント
施設によっては、入所者の所得に応じて入居に関する負担額が発生することがある。また、セキュリティーの観点から来訪者の制限があったり、集団生活になるため門限があったりなど、施設のルールがある。お互いの身の安全のためにも、ルールを守って心と体を立て直すことに注力しよう。

“したい暮らし”をかなえるために

住まいの選択の幅が広がることは、「こんなふうに暮らしたい」「こんな子育てがしたい」という理想をかなえやすくし、前向きになる原動力にもつながるだろう。ひとり親という環境でできないことに目を向けるのではなく、ひとり親だからこその住まい選びが、自分と子どもとの“したい暮らし”のポジティブなイメージにつなげられたらと願っている。

※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年11月掲載当時のものです。

“したい暮らし”をかなえるために

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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