自宅が被災、避難所からその先の住まいとなりうる「みなし仮設住宅」

被災下でないと体験しないため、賃貸型応急住宅、いわゆる「みなし仮設住宅」の制度運用に関して知られていないことが多い(画像はイメージ)被災下でないと体験しないため、賃貸型応急住宅、いわゆる「みなし仮設住宅」の制度運用に関して知られていないことが多い(画像はイメージ)

大地震や大規模火災、豪雨など、自然災害による被害が絶えない、近年の日本。自然の脅威に家屋が巻き込まれた際、被災経過の時期によって住まいの選択肢は移り変わる。

令和6年能登半島地震でも取り沙汰された「みなし仮設住宅」は、避難所を活用するような発災直後からおよそ2ヶ月後にあたる、応急救助期に利用される応急仮設住宅のひとつだ。平時に賃貸住宅として市場に供給されている空室物件を、所有者の承諾を得て被災地の自治体が借上げたうえで、被災者に仮住まいとして提供される住宅である。

みなし仮設住宅の多くは、被災者自身が不動産会社で物件を探し、手続きをする。しかし、緊急性が高い住宅確保にもかかわらず、制度そのものの周知の低さが影響して、漠然と部屋探しを続け不安を抱える場面も少なくない。

この記事では、万一の際にみなし仮設住宅を正しく活用できるよう、災害の住宅復興過程について研究を進めている国立研究開発法人 建築研究所 住宅・都市研究グループ 上席研究員の米野史健氏に、解説いただいた。

応急仮設の中核を担いつつある「みなし仮設住宅」の現状

みなし仮設住宅とは、民間の賃貸住宅を自治体が貸主から借り上げて応急仮設住宅として提供する制度だ(画像はイメージ)みなし仮設住宅とは、民間の賃貸住宅を自治体が貸主から借り上げて応急仮設住宅として提供する制度だ(画像はイメージ)

みなし仮設住宅の歩みを振り返ると、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災に139世帯が利用した記録が残されている。以降、平成24(2012)年に国土交通省及び厚生労働省から各都道府県等へみなし仮設住宅の活用について手引書が通知され、現在ではすべての都道府県において関係団体と協定が締結されている。
それ以降も日本国内でさまざまな災害が発生しているが、運用自体に変化はあったのだろうか。

「みなし仮設住宅の運用される数は増えているといえます。応急仮設住宅の総戸数(みなし仮設住宅+建設型仮設住宅)に占めるみなし仮設住宅の割合は、2011年の東日本大震災では岩手県で19.9%、宮城県で53.2%、福島県で59.8%でした。その後、2016年の熊本地震では77.6%、2018年の西日本豪雨の岡山県では総戸数の91.2%がみなし仮設住宅でした。このように近年では、みなし仮設住宅が供与の中心となっており、建設型仮設住宅が造られないような災害もみられます」

事実、年々「仮設住宅」より「みなし仮設住宅」の名を報道で耳にすることが増えているのではなかろうか。とはいえ、災害の種類や規模、被災した地方区分も東西南北にわたる。災害・被災地の違いによって、みなし仮設住宅の運用にも影響はあるはずだ。

「災害というよりは被災地の特性の違いによって、みなし仮設住宅の状況は変わります。賃貸アパートが少ない地方部や小さな町村などでは、そもそもみなし仮設住宅となりうる物件がないため、供与できる数がおのずと少なくなります。逆に大きな市や県内の中心都市などであれば、賃貸アパートが多いことから、みなし仮設住宅の利用は増えます。またそれに伴い、みなし仮設住宅を確保しようとアパートが少ない地方部や町村から人が移動してくることもあります」

これまでの災害では、道路の隆起やがけ崩れなどで交通手段が長期にわたって断絶されることも少なくない。小規模な自治体の住人の場合、みなし仮設住宅の確保のために被災地から離れて都市部へ赴くこと自体も、命がけであることは想像に難くない。

自治体と被災者、それぞれにあるみなし仮設住宅のメリット・デメリット

みなし仮設住宅は空室を活用する制度のため、被災者が物件を探し契約に至るまでの工程は平時と変わりない(画像はイメージ)みなし仮設住宅は空室を活用する制度のため、被災者が物件を探し契約に至るまでの工程は平時と変わりない(画像はイメージ)

建設型仮設住宅から取って代わるようになった、みなし仮設住宅。加速度的に広まっているには、その長所によるものだろう。被災者が得るメリットについて尋ねると、「入居のスピード」だという。

「既に建っている物件を使うので、建設型よりも早く入居ができる点でしょう。入居する物件は原則自分で探すので、条件に合った立地や間取りを選ぶことが可能です。反対に、被災者が受けるデメリットもあります。被災直後の混乱した状況の下に自力で不動産店を回るなどして物件を探すのはかなり大変です。
しかも、多くの被災者が同時期に物件を探すことになるので良い条件のものからどんどん埋まっていき、実際には条件に合った物件を見つけることは難しく、条件が悪くても空いているところで選ばざるを得なくなることもあります。元々暮らしていた地域の近くに物件がなければ、他の地域や他の市町村へと移らざるを得なくなることも短所といえるでしょう」

そもそも緊急性が高く切迫している状態で、空室がなくなっていくのは、心理的にもかなりこたえそうだ。制度を運用する側はどうだろう。仮設住宅の所管は各都道府県の担当部局が担っている。自治体がみなし仮設住宅を採用する際のメリット・デメリットについてはこう述べる。

「大きな利点は、建設型の仮設住宅を新たに建設しなくて済む点です。その一方で、借り上げのための契約手続きに手間がかかることは、難点といえます。被災者が個別の物件にバラバラに入居していくため、一箇所に入居者が集う建設型仮設と比べて、入居後の連絡や見守りが難しいこともデメリットとして挙げられます」

みなし仮設住宅は入居して終わりではなく、2年の契約期限もあり、自治体のフォローアップが欠かせない。自治体との連携が切れないよう、入居者側にも留意が必要そうだ。

入居前には探す大変さ、引越し後には慣れない環境が問題

物件を見つけるまでは一般的な部屋探しと工程は同じだが、部屋探しの経験のない人には条件の折り合いをつけるのも難しいだろう(画像はイメージ)物件を見つけるまでは一般的な部屋探しと工程は同じだが、部屋探しの経験のない人には条件の折り合いをつけるのも難しいだろう(画像はイメージ)

避難後の住宅の有力な選択肢となり得るみなし仮設住宅だが、当事者になったときに“どんなことに困るか”は知っておきたい予備知識だ。

「入居希望者で多い困りごとは、先述のデメリットのとおりで、条件に合う物件がみつからない、広い物件はなくなってしまって狭いものしか残っていない、空室自体が少なくなってしまい物件そのものが見つからない、といったことです。特に物件が少ない地域ではより大きな問題になります。加えて、地方都市で長年住まわれている人に多い傾向ですが、ずっと持ち家に住んでいてアパート探しなどをしたことがない人にとっては、物件探し自体がなかなか難しいと思います」

時間が経つほど入居のしづらさが増すという印象だが、初動以外にも、入居しやすい人・入居が難しくなる人の差はどこにあるのだろう。

「基本的には一般の物件探しと同様の状況になると考えられます。つまり、高齢者の一人暮らし、ペットがいると入れる物件が限られるなどの問題が生じると思われます。また、一般的なアパートは1~2人などの少人数用の物件が多いので、多人数の家族がまとまって入居するのは難しいともいえます」

仮設住宅の供給は「世帯」が単位となる。そのため、家族の人数が多ければ多いほど、規定の家賃に収まる部屋数の多い賃貸住宅を探すことになり、至難の業となるのだ。
そこで、令和6年能登半島地震では、6名以上の大家族世帯であれば、2戸の賃貸型応急みなし仮設住宅に入居できるよう柔軟な対応を取っている。無事に入居できた後でも、生活が復興するわけではない。

「東日本大震災のような被災地では、元々は広い一戸建ての持ち家に住んでいた人が被災して、アパートなどのみなし仮設住宅に入居することになります。となると、集合住宅に住んだ経験がないことに起因する問題が生じやすいようです。生活騒音が気になる、以前住んでいた住宅と比べると部屋が狭くて暮らしにくい、といったこと。借りられたみなし仮設住宅が古い物件の場合には、設備の古さなども気にかかるところでしょう」

入居後は住まいだけでなく、周辺環境による影響もあるそうだ。

「住み慣れた地域を離れて初めての場所で暮らすことになるので、生活環境の面でもさまざまな困りごとが起こります。生活環境が一変しかつこれまで一緒に過ごすことの多かったご近所さんもいなくなったので、『寂しい』『生活に張り合いがない』といった感情を覚える人も多いようです。このような生活環境の変化は、たとえば農漁村部から大都市など他地域のみなし仮設住宅へ移った場合により大きく、高齢者等では大きなストレスを感じて体調を崩してしまう人もいると聞きます。さらには、距離が離れた分、元々住んでいた地域からの情報が届かず、孤立感を強めるおそれもあります」

みなし仮設住宅とお金。上限額の地域差や入居手続きにかかる費用は?

みなし仮設住宅には上限があり、自治体の地価や世帯によって支給される額に開きがある(画像はイメージ)
みなし仮設住宅には上限があり、自治体の地価や世帯によって支給される額に開きがある(画像はイメージ)

みなし仮設住宅は、家賃・共益費・礼金・仲介手数料・火災保険料などは自治体が負担し、入居者は光熱費・水道費・駐車場料金・自治会費などを負担する。
自治体が負担する1人世帯対象の家賃をざっと見ただけでも、5~7万円と金額に開きがある。

「みなし仮設住宅に関しては、自治体、主に県で借り上げの目安となる家賃を示しているわけですが、これはその地域の一般的な家賃の相場に合わせて決めているかと思われます。ですので、各地域の家賃の相場の違いから、自治体による金額差が生じているのでしょう」

みなし仮設住宅において注意しなければいけないことが2点ある。一つは「規定額以内の物件でないといけない」、もう一つが「規定額以上の物件の差額の個人負担不可」というものだ。これは、“災害救助法”に基づいていることに起因している。

「みなし仮設住宅をはじめ、応急仮設住宅は『現物支給』という方針で供与されています。災害で家をなくしてしまい、代わりの家を自力では確保できない人に対して、行政が住宅を供与する形です。ですので、家賃補助のように被災者に補助を出すものではなく、行政が物件そのものを借り上げて被災者に提供する形にならざるを得ません。そのため、行政が借り上げると決めた規定額以内でなければならず、差額の個人負担もできないという運用になっています。この点に関してはいろいろと議論もありますが」

令和6年能登半島地震での石川県の対応も、標準的なみなし仮設住宅の手続きに則って進められている。

みなし仮設住宅には上限があり、自治体の地価や世帯によって支給される額に開きがある(画像はイメージ)
出典:石川県 賃貸型応急住宅の供与について(みなし仮設住宅)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/chintaigata.html

通常の賃貸借契約のように家主と被災者の二者契約を結んだ後、その住宅をみなし仮設住宅として契約日を遡って自治体も含めた三者契約に切り替えることができるが、その際もすべての金額が戻ってくるわけではない。
非常時に乗じたトラブルに巻き込まれないためにも、制度利用の流れを知っておいて損はないだろう。

みなし仮設住宅の課題と展望

平時での災害への備えは、住宅にまつわる知識も復興への強い味方となるはずだ(画像はイメージ)平時での災害への備えは、住宅にまつわる知識も復興への強い味方となるはずだ(画像はイメージ)

南海トラフ地震や首都圏直下型地震など、災害の危機は変わらず叫ばれている。応急仮設住宅の要を担うことになるであろうみなし仮設住宅について、今後の課題を聞いた。

「災害直後の混乱した状況の中で、とにかく早く物件を確保しないといけないことが大きな課題だと思います。そのため、立地があまり望ましくなかったり、広さや間取りが世帯の規模に合っていなかったり、建物や設備が古かったとしても、やむを得ずそこを選ぶしかない状況が生じるのかと考えます。そのような良質ではない住環境の下では、生活や住まいを復興しようという意欲にも欠けてしまうかもしれません。十分な住環境ではないみなし仮設住宅に入居した場合には、後からでも引越せる=部屋を変えられるようにすることが求められるのではないかと思います。
また、みなし仮設住宅は2年で退去することが決まっています。期限後は、自宅を再建したり、災害公営住宅に入ったりすることが挙げられますが、いずれにしても短いスパンで生活環境を何度も変えなければなりません。生活環境の変化は、被災者、特に高齢者にとっては大きなストレスにもなります。そのまま自分で契約してそこに住むという選択肢もあるように思います」

多くの人が、被災してからみなし仮設住宅の存在や手続きについて知ることが多い。みなし仮設住宅について、平常時に知っておくべきこと、備えておくべきことはあるだろうか。

「平常時からみなし仮設住宅の制度について知っておくことが望ましいでしょう。入居する物件は基本的には自分で探して行政に申請すること、行政が借り上げて提供するものであり家賃補助ではないこと、行政が定めた家賃等の条件を満たすものでなければならないことなど、基本的な部分を知っているだけでも違う気がします。万が一災害が起きてみなし仮設住宅を探すことになった場合に、どういう場所でどういった物件を探すのかを、あらかじめ家族等の間で考えておくことも、備えになるかもしれません。
また住宅を仲介する不動産会社も、被災した世帯に望ましく適切な住宅を提供できるよう、平時のうちから家主が物件をみなし仮設住宅として貸してくれるかどうか、相談しておくことが求められると思います。不動産管理会社も、生活面のサポートや高齢者の場合には暮らしの見守りといった役割を果たしてくれることに期待します」

みなし仮設住宅をめぐっては、行政・不動産会社・住人の三者ともに被災者になるケースがほとんどだ。現場は混乱を極める。防災は食べ物や避難については周知が広まってきているが、命をつなぐ場所である住まいに関しても備えておく必要がある。

「『事前復興』とよばれる概念があります。もしも災害が起きた時にその後どのように復興するのかを、災害が起きる前からあらかじめ検討しておこうという考え方です。行政単位で行われるものですが、世帯においても、もしも災害が起きたらどうするのかをあらかじめ考えておくことが大切でしょう」

今回お話を伺った方

米野 史健(めの・ふみたけ)
1998年東京工業大学博士課程修了。博士(工学)。専門は住宅政策・都市計画・災害復興。2011年の東日本大震災以降、大規模災害における住宅の復興の研究に従事する。現在は、国立研究開発法人 建築研究所 住宅・都市研究グループ 上席研究員として、様々な災害の住宅復興過程について研究を進めている。

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石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震により、被災された皆さま方に心からのお見舞いを申し上げます。被災者の救済と被災地の復興支援のために尽力されている方々に深く敬意を表すとともに一日も早い復興をお祈りしております。

LIFULL HOME'S PRESS編集部 ACTION FOR ALL編集部

■LIFULL HOME'S 【令和6年能登半島地震】住まいに関する支援情報は こちら
→ https://inquiry.homes.co.jp/r6-noto-peninsula-earthquake-support

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今回お話を伺った方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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