シングルマザー向けシェアハウスの「暮らし」を聞く

シングルマザーは男性と比べて平均所得が低いことや子どもの騒音の問題から、一般賃貸では部屋を借りにくい傾向が強い(写真はイメージ)シングルマザーは男性と比べて平均所得が低いことや子どもの騒音の問題から、一般賃貸では部屋を借りにくい傾向が強い(写真はイメージ)

ひとり親、特にシングルマザーの住まいの選択肢として挙げられる、シングルマザーに特化したシェアハウス。和気あいあいとした子どもたちとの共同生活の場としてだけではなく、シェルターや自立に向けたエンパワーメントの場としての側面もあることが、前回の運営側のインタビューを通じて知ることができた。
では、実際の暮らしはどういったものなのだろう。今回は、シングルマザー向けシェアハウスに現在入居中の方へ当事者インタビューを行った。

お話を伺った方
Aさん……会社員として勤務する傍ら専門職のフリーランスとしても働く。シングルマザー向けシェアハウス居住歴6年半。元夫のDVにより別居後、友人宅やワンルームの賃貸を経て、子が未就学のときに入居。

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シングルマザー向けシェアハウスをどうやって見つけた?

インタビューはオンラインで行い、Aさんはシェアハウスの自室から対応いただいたインタビューはオンラインで行い、Aさんはシェアハウスの自室から対応いただいた

民間賃貸物件があまたある中、シェアハウス、しかもシングルマザーに特化したこの住まいにどのようにたどり着いたのか。Aさんに入居の経緯を伺った。

「今のこのシェアハウスに住むようになったのは、偶然にもその存在を知っていたからです。7年ほど前、人からの紹介で建設中だったシングルマザー向けシェアハウスの見学をさせてもらうことになりました。当時離婚の危機にあった彼女の一助になればと思って、個人的に子どもを連れて管理員さんや運営会社の代表の方の話を聞いたのです。そのときは『こういう取り組みをする人がいるんだ。これから始まる場所なんだな』と新鮮な印象を受けました」

結果、その友人はシェアハウスへ入居し、安泰な生活を送ることができた。しかし、時を置いて今度はAさんが住む場所を急遽探さなければならなくなってしまった。シングルマザー向けシェアハウスの存在を知っていたことが功を奏し、先の友人を介してシェアハウスの内情を踏まえて入居に踏み切った。
「見学時は他人事だった」と語っていたAさん。自身の入居に際して、シェアハウスの印象がまた違ったという。

「以前の見学時は建設中でこれから始まる場所だったというのもありますが、社会的弱者といわれるシングルマザーたちが、お互いに協力して楽しく生活をしている様子に、『ここに入れてほしいな』とワクワクするような想いが湧き上がりました。逃げるように住まいを求めていたのもあって、このシングルマザー向けシェアハウスには本当に助けられましたね」

DVの恐怖から子どもと自分を守る、まさに生きるための場所を求める人にとっては、ひとり親の大変さを共感できる人が集うシェアハウスは心強い存在に映るだろう。Aさんがシングルマザー向けシェアハウスの入居にあたり、期待していたことについてこう語る。

「入居当時はフリーランスの仕事に加えてパートタイムの仕事も掛け持ちしていたので、子どもが保育園退園後に安心して過ごせるかどうかが一番の問題でした。その点、シングルマザー向けシェアハウスであれば、常に大人の目があることで子どもを守れると思いました」

期待の実現。実際に住んでみてわかったこと

見学で現場を見たり運営スタッフから話を聞いたりしても、やはり住んでみないとわからないこともある(写真はイメージ)見学で現場を見たり運営スタッフから話を聞いたりしても、やはり住んでみないとわからないこともある(写真はイメージ)

母一人子一人の生活ではまかなえない見守りを期待して入居したAさん。実際に入居してからの印象を聞くと、「よかったのは子どもの食事のことですね」と話す。

「仕事柄、帰宅時間が不規則なので、子どもが決まった時間に夕食がとれて、しかも一人ではなく大勢で楽しく食べているという部分は非常に大きな利点でした。しかも、皆と一緒に食卓を囲むことで苦手な食べ物を克服できていた、生活のルールを皆と一緒に自然と学んでいたなど、周りの力というのは子どもに良い影響を与えるのだなと実感したことが何度もありました」

当初抱いていた、仕事で子どもに関われない時間帯に期待していたことが叶ったというAさん。元夫が突然現れて子どもを連れ去る不安からも解放された安堵は筆舌に尽くしがたいものだったはずだ。
そのうえ、シェアハウスが行う保育園へのお迎えのおかげで、仕事中に退園時間を気にしなくてもいいこと、同居するママさんと夕食後にお酒を交えて緩く語らえること、先輩ママからの育児のヒントなど、親としてうれしいこともあったそう。また、そうして親が安心して過ごせている様子が子どもの精神の安定にもつながり、親子共によかったと感じているという。

ただ、もちろん良いことばかりではない。

「ママたちは忙しいので、思うように子どもが動いてくれないと感情的に子どもに当たることもあります。そこを生活の中で目の当たりにするので、そういうときは『しんどいな』と感じることがありました。
また、子ども同士の『謝った』『謝らない』のいざこざが長引くこともあります。子どもによっては謝るのに時間がかかる子もいますよね。人間観の小さなズレがストレスになる場面もなくはなかったです。『楽しいだけではない』というのはわかってはいましたが、いざ直面するとこたえましたね。
あまりにも目に余る場合には、私から直接そのママに伝えるのではなくて、管理員さんや運営会社の代表の方からお話ししてもらう仕組みになっています。運営元の人から言われることで『気を付けなきゃ』という意識になるようです」

大人も子どもも入り交じるシェアハウス。だからこそ人との関わり方がさまざまな場面で肝となっているようだ。Aさんは「私の場合、ストレスがたまったら自室で思いきり甘いものを食べて発散していますね」と笑顔で話してくれた。

子どものこと。共同生活での子どもの変化は?

大きく環境が変わることで子どもに与える影響は親の心配事のひとつだ(写真はイメージ)大きく環境が変わることで子どもに与える影響は親の心配事のひとつだ(写真はイメージ)

親にとって子どもの反応も気になる問題だ。引越しが決まった時点でのお子さんの様子はどうだったのだろうか。

「先住の友人の子どもとは幼馴染だったので、同じ家に住むことを伝えたら『ずっと一緒に遊べるの!?』と大喜びでした。もともと人好きな性格だったのもあって、楽しみで仕方ない様子でした。シェアハウスにもそれほど問題なく溶け込めていましたね」

旧知の仲の友人と住むのは親子ともに新天地への期待が高まったであろう。ただ、環境の変化で影響を受ける子どもは少なくない。

「おもちゃの貸し借りや年上の子たちから邪険にされるなど、子ども同士のいざこざはあって少しいじけるようなこともありましたが、それは当たり前の光景ですし、一人っ子なのできょうだいげんかのように捉えていました」

Aさんの住むシェアハウスでは、子ども同士のやりとりに関して大げんかを回避するために、親の声かけの線引きをしつつ基本は見守っているそう。ただ、度がすぎた場合には、大人のフォローも欠かせない。

「中には大人子どもにかかわらず、ものすごく反抗してくる子がいて。現場で当人に『その振る舞いはいけないよ』と厳しめに言ったあと、その子の親にも出来事を伝えて、私・自分の子・当事者親子の4人で話し合ったこともありました」

親同士のコンセンサスが取りやすい、子どもたちとひざを突き合わせて直接語らえる、といった点も、シェアハウスならではの話だ。とはいえ、一筋縄ではいかなかったこともあったようだ。

「ただ、相手にもよりますね。話し合いやコミュニケーションが取れない方もいました。ある程度年齢を重ねてからになりましたが、そういったご家庭の子と衝突してしまった場合には、自分の子に対して『お母さんが味方になるから、思うことがあったら何でも言って。ただし、部屋の外では言わないで』と教えて、その場で抑えるように心砕いていました」

子どもの発達において他者意識は非常に重要なもののひとつ。シェアハウスは円滑な人間関係を構築するために必要な相手との距離感やアプローチの方法を、より実践的に学べる環境という印象を受ける。

シングルマザー向けシェアハウスでの生活で気を付けていることは?

複数の家庭・人がひとつ屋根の下で住まいを共有するからこそ、相手を慮る心は重要だ(写真はイメージ)複数の家庭・人がひとつ屋根の下で住まいを共有するからこそ、相手を慮る心は重要だ(写真はイメージ)

お話を聞く中でも、同じシングルマザーという境遇ではあるものの、入居者の価値観はそれぞれというのが伝わってくる。生活面において日々気を付けていることを尋ねると、「周りには迷惑をかけないようにというのは、特に気にしていますね」と答えが返ってきた。

「お風呂・トイレ・洗面所などの共用部分をお互いに気持ち良く使えるように、掃除をしたり、子どもにもきれいに使うように共同生活のルールを教えたりしています。大声を出したり、大きな音を立てたりしないよう気をつけてはいますが、もし出てしまった場合には周りに『ごめんね』と一言声をかけてもいます。普通のことではありますが、人によって不快に感じる人とそうでない人の差はありますから。なるべくコミュニケーションをとるように心がけています」

6年半のシェアハウス生活の経験から、さまざまな親子を見てきてなお、周りの方への配慮を大切にしている様子がAさんからうかがえる。他世帯との距離が近いシェアハウスだからこそ特に意識したい礼節なのかもしれない。

「ただ、あまり気にしすぎるのもストレスになりますし、あまり周囲に対してピリピリしている人や気にしすぎる人、“お互い様”という気持ちが持てない人は、シェアハウスの暮らしは難しいと思います」

これからお部屋探しをする人へアドバイス

シングルマザー向けシェアハウスは一般的なシェアハウスとは異なり、入居条件が設けられている場合もある(写真はイメージ)シングルマザー向けシェアハウスは一般的なシェアハウスとは異なり、入居条件が設けられている場合もある(写真はイメージ)

Aさんの場合、偶然にもシングルマザー向けシェアハウスを見学していたことで、子連れでの部屋探しにさほど苦労することはなかったという。けれども、身近なシングルマザーの経験談では、部屋が見つかるまでに半年を要したなど、契約までに非常に時間がかかる、物件探しに妥協せざるを得ない、不動産会社から子連れを理由に断られるなどしたケースもあったそうだ。
シングルマザーの部屋探しに、不動産会社やポータルサイトに期待することはあるだろうか。

「『シングルマザー向け物件検索』のようなサイトがあれば見るでしょうね。シングルマザー向けの中でも、『子どもの年齢』や『性別』といったチェックボックスがあるといいと思います。というのも、シェアハウスを何軒か見学した際、女性専用ということで男児を連れた入居は不可という物件があったのです。ジェンダーの問題もあり出しづらい情報なのかもしれませんが、そうした条件も事前にわかっていると、無駄足や情報の後出しでがっかりすることは減るかもしれません」

シングルマザー向けシェアハウスについて、改めてどんな場所なのかを尋ねると、Aさんは少し考えたあとにこう話した。

「シングルマザー向けシェアハウスに来る人たちは、傷ついたり悩んだりしたママたちが多いです。シェアハウスは、お互いを同志のように感じている入居者が、共に助け合い、それによって安心感を得られる場所だと、私は感じています」

同居人を“同志”と語り、シェアハウスから離れて独立した暮らしを送る人を“卒業生”とも呼ぶその間柄は、知り合いでもない親戚でもない、特別なつながりをもたらしているようにも感じられる。住まい探しに悩むシングルマザーでシェアハウスを視野に入れている人に向けて、経験者からのアドバイスを尋ねると、長年住んできたからこその言葉が紡がれた。

「他人が集まる場所ですから、ある程度の気遣いが必要です。中にはプライベートにズカズカ入ってきてもらいたくない人もいるので、程よい距離感で付き合っていく、というのが肝要だと思います。誰かと一緒に住むことがそもそも苦手な人は無理をする必要はありませんが、子どもが幼い間であれば、経験を積む意味でも、一度入ってみるのもいいでしょうね。
一人で抱え込むと視野が狭くなりますし、親自身が大人と接することのない生活は精神的にも生きづらくなるものです。体験宿泊で設備や空間だけでなく入居者の雰囲気を感じるのもいいかもしれません。契約更新も3ヶ月などスパンが短い物件もあるので、気軽に試してみるといいと思います」

この先の転居の予定を尋ねると、やわらかな表情で「子どもの成長にもよりますが、今はこの穏やかな生活を楽しみたい」と語るAさん。シングルマザー向けシェアハウスは、共同生活にまつわる長短はあるものの、シェアハウスというコミュニティで共に子を守り育てようとする環境が、女性に住居以上の安心感を与えてくれる居場所にもなっているようだ。
居住空間だけでなく、子どもの成長の喜びをもシェアできる――シングルマザー向けシェアハウスの魅力はそこにもあるのかもしれない。


■協力:シングルズキッズ株式会社
https://singleskids.jp/

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